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第11話:不審者

ー/ー



11話_表紙

 俺は途中までだけど、甘露樹さんを家まで送ることにした。

「あ、あの先輩」

「うん?」

「あまね、あまりこういう話できる人いないので、また、お話してくれるとうれしいです」

「……営業トーク?」

「ち、ちがいます! ほんとうです! それに――」

 甘露樹さんは俺の耳元に近づいて、ボソッと『怒ったときの先輩、ちょっとカッコよかったですよ』そう呟いた。

「じゃあ、またです!」

 そうといって、甘露樹さんは走っていった。

 ……おや?
 これは、やはりモテ期か……?

「――あ! 一つ言い忘れてました!」

 そう言って走っていったはずの甘露樹さんが戻ってきた。

「ん? どうしたの?」

「あまねが超常現象だって思っている根拠の一つを言い忘れていました」

 ……その話の続きをいまをするのか?
 よほど喋るのが好きなのか、本当に喋れる相手がいないんだな……。

「当時、体育館の屋根の崩壊に駆け付けた職員の方に話を聞くことができたんです」

「へぇ……すごいじゃないか」

 つまり事件の第一発見者、みたいなものか。

「ええ! その人、聖央から口止めされていたんですが、コッチも弱みに付け込んで、強引に聞き出してやりましたよ! 本当は極秘なんですが、先輩はこれからビジネスパートナーになるので、特別に教えてあげますね!」

 いつの間にかビジネスパートナーにされていた。
 まあ、教えてくれるっていうなら聞いておこう。

「屋根が落ちたとき、その、体育館の周りの色とか、空の色がグチャグチャになってたらしいです。まるで『終末のように感じた』そうですよ」

「……それこそ『縁』とはかけ離れていないか? もう人と人との縁だとか、関係なさそうだけど」

「そうなんですよね……。それか、もっと別の力なのかも」

 甘露樹さんはさながら探偵もののように、顎に指をあてて考え込んでしまった。

「――あ。そうだ。甘露樹さん」

 俺も彼女に一つ聞き忘れていたことがあったのを、思い出した。

「はい! なんでしょう」

「俺に聞いてきたってことは、如月さんや絢瀬さんは口が堅くて聞けなかったんだよね?」

「そうなんですよぉ! あんなにお店に通ってるのに! 赤字ですよ!」

「喫茶店。あそこには如月さんと絢瀬さん以外に、もう一つ雛琶さん。雛琶まみみさんって人がいるんだろう? 俺もまだ会ったことはないんだけど、その人には聞けなかったのか?」

 それを聞いて、今度はあまねちゃんがゾクッとした顔をしていた。

「なに……いってるんですか? 先輩。 あまねが調べた限り、あそこにそんな人、いないですよ……?」


「――え?」


* * *

――ピピピピピ。ピッ


――ピピピピピ。ピッ


――ピピ。ピッ

 スマホのアラームが鳴る。
 そろそろ夕飯の時間らしい。随分時間が経ってしまった。
 俺はアレから色々考えてしまって、喫茶店に戻りづらくなっていた。

 しかし、そうしていてもどうにもならないので、観念して喫茶店に戻るところだった。
 夜風が気持ちいい。
 空気も澄んでいる気がして、吸うたびに心のモヤモヤが体外に出ていくような気がした。

 ……そんな時だった。
 反対側の土手で、見慣れた後ろ姿と、見慣れない顔が話しているのが見て取れた。

 珍しい。柚月さんが喫茶店の外に出ている。
 相手の男は、俺の知らない顔だった。
 いや、正確には話しているのかもわからないし、どちらかが一方的に絡んでいるだけかもしれない。
 ついでに言えば、相手の顔も見えているわけではない。何故なら帽子を深く被っていたからだ。

 俺は、その変質者に見覚えがあった。


* * *


「柚月さん。こんなところでどうしたの?」

 ビクッとして、柚月さんはこちらを振り向いた。

「あ……、マミヤくん」

 俺が柚月さんと話し始めると、その不審者はその場から立ち去ろうとしていた。
 ただ、すれ違ったときに一言いわれた。

「……リミットはもうそこまで来ている。束の間の幸せを楽しむといい」

 俺は横目でその人物が去っていくのを見届けた。
 前回と言い、アイツは一体何者なのだろうか。そろそろ警察に突き出すことを考えるべきなのかもしれない。
 しかし、とにもかくにも。

「もう暗いですし、帰りましょうか」

 俺はそう言って、柚月さんに声をかける。

「あ――あのね! マミヤくん!」

「ん? なんですか?」

「……ううん。なんでも、ない。……帰ろ」

 俺たちは喫茶店に向かって、並んで歩き出した。

「……ねえ。マミヤくん」

「今度はなんですか?」

「明日。デート、しよっか」

 俺が初めてデートに誘われた瞬間だった。
 真宮孝一。本日二度目のモテ期確認!


 ……なのに。
 どういうわけか、デートに誘ってきた当の本人はどこか寂しそうだった。



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 俺は途中までだけど、甘露樹さんを家まで送ることにした。
「あ、あの先輩」
「うん?」
「あまね、あまりこういう話できる人いないので、また、お話してくれるとうれしいです」
「……営業トーク?」
「ち、ちがいます! ほんとうです! それに――」
 甘露樹さんは俺の耳元に近づいて、ボソッと『怒ったときの先輩、ちょっとカッコよかったですよ』そう呟いた。
「じゃあ、またです!」
 そうといって、甘露樹さんは走っていった。
 ……おや?
 これは、やはりモテ期か……?
「――あ! 一つ言い忘れてました!」
 そう言って走っていったはずの甘露樹さんが戻ってきた。
「ん? どうしたの?」
「あまねが超常現象だって思っている根拠の一つを言い忘れていました」
 ……その話の続きをいまをするのか?
 よほど喋るのが好きなのか、本当に喋れる相手がいないんだな……。
「当時、体育館の屋根の崩壊に駆け付けた職員の方に話を聞くことができたんです」
「へぇ……すごいじゃないか」
 つまり事件の第一発見者、みたいなものか。
「ええ! その人、聖央から口止めされていたんですが、コッチも弱みに付け込んで、強引に聞き出してやりましたよ! 本当は極秘なんですが、先輩はこれからビジネスパートナーになるので、特別に教えてあげますね!」
 いつの間にかビジネスパートナーにされていた。
 まあ、教えてくれるっていうなら聞いておこう。
「屋根が落ちたとき、その、体育館の周りの色とか、空の色がグチャグチャになってたらしいです。まるで『終末のように感じた』そうですよ」
「……それこそ『縁』とはかけ離れていないか? もう人と人との縁だとか、関係なさそうだけど」
「そうなんですよね……。それか、もっと別の力なのかも」
 甘露樹さんはさながら探偵もののように、顎に指をあてて考え込んでしまった。
「――あ。そうだ。甘露樹さん」
 俺も彼女に一つ聞き忘れていたことがあったのを、思い出した。
「はい! なんでしょう」
「俺に聞いてきたってことは、如月さんや絢瀬さんは口が堅くて聞けなかったんだよね?」
「そうなんですよぉ! あんなにお店に通ってるのに! 赤字ですよ!」
「喫茶店。あそこには如月さんと絢瀬さん以外に、もう一つ雛琶さん。雛琶まみみさんって人がいるんだろう? 俺もまだ会ったことはないんだけど、その人には聞けなかったのか?」
 それを聞いて、今度はあまねちゃんがゾクッとした顔をしていた。
「なに……いってるんですか? 先輩。 あまねが調べた限り、あそこにそんな人、いないですよ……?」
「――え?」
* * *
――ピピピピピ。ピッ
――ピピピピピ。ピッ
――ピピ。ピッ
 スマホのアラームが鳴る。
 そろそろ夕飯の時間らしい。随分時間が経ってしまった。
 俺はアレから色々考えてしまって、喫茶店に戻りづらくなっていた。
 しかし、そうしていてもどうにもならないので、観念して喫茶店に戻るところだった。
 夜風が気持ちいい。
 空気も澄んでいる気がして、吸うたびに心のモヤモヤが体外に出ていくような気がした。
 ……そんな時だった。
 反対側の土手で、見慣れた後ろ姿と、見慣れない顔が話しているのが見て取れた。
 珍しい。柚月さんが喫茶店の外に出ている。
 相手の男は、俺の知らない顔だった。
 いや、正確には話しているのかもわからないし、どちらかが一方的に絡んでいるだけかもしれない。
 ついでに言えば、相手の顔も見えているわけではない。何故なら帽子を深く被っていたからだ。
 俺は、その変質者に見覚えがあった。
* * *
「柚月さん。こんなところでどうしたの?」
 ビクッとして、柚月さんはこちらを振り向いた。
「あ……、マミヤくん」
 俺が柚月さんと話し始めると、その不審者はその場から立ち去ろうとしていた。
 ただ、すれ違ったときに一言いわれた。
「……リミットはもうそこまで来ている。束の間の幸せを楽しむといい」
 俺は横目でその人物が去っていくのを見届けた。
 前回と言い、アイツは一体何者なのだろうか。そろそろ警察に突き出すことを考えるべきなのかもしれない。
 しかし、とにもかくにも。
「もう暗いですし、帰りましょうか」
 俺はそう言って、柚月さんに声をかける。
「あ――あのね! マミヤくん!」
「ん? なんですか?」
「……ううん。なんでも、ない。……帰ろ」
 俺たちは喫茶店に向かって、並んで歩き出した。
「……ねえ。マミヤくん」
「今度はなんですか?」
「明日。デート、しよっか」
 俺が初めてデートに誘われた瞬間だった。
 真宮孝一。本日二度目のモテ期確認!
 ……なのに。
 どういうわけか、デートに誘ってきた当の本人はどこか寂しそうだった。