表示設定
表示設定
目次 目次




第10話:世界で一番のお姫様

ー/ー



10話_表紙

 少し過去の話になる。
 いまから二年前の春、聖北学園にある青い髪の少女が入学した。

 青い髪の少女は持ち前の明るさと人懐っこさで、すぐに周りと打ち解けていったそうだ。
 当時、すでに聖北学園が共学化を推進していたこともあり、男子学生からの人気も高かった。

 ただ、そんな光景を面白くなく思った女子学園生がいた。
 ある日、その女子学園生は青髪の少女を体育館に呼び出した。

 そして、数人がかりで少女に乱暴――

――ドンッ!

 俺は甘露樹がすべて話すのを待たずに、気づいたら目を見開きながら机を叩いていた。
 ここまで怒ったのは、自分でも初めてだった。


 否、違う。
 これは怒りではない。――憎悪だ。


「せ、先輩! 落ち着いて、他の人も見てますから!」

「……甘露樹さん。そいつらの住所を教えてくれないか。新聞部として、この事件を追ってるんだろ」

 俺は理不尽とか、そう言った類のことが大嫌いだ。
 彼女が一体何をしたって言うんだ。ただの被害者じゃねえか。

 俺の中の正義が、そいつらを悪だと断定している。断罪されるべき、悪だと。

「知っていても言いませんよ。いまの先輩、その様子だとなにするかわからないし……」

 甘露樹さんはジュースをチューチューしながら言う。

「…………」

「はぁ……。それに、ちゃんと話を最後まで聞いてください。先輩がしなくても、その人たちには一応、天罰は下ってるんですよ」

「……どういうことだ?」

「乱暴されそうになったとき、体育館の屋根が壊れて落ちたんです」

「屋根が……落ちた?」

「落ちた。というか……まるで意図的に、何か鋭利な刃物で切断されたような断面だったらしいです。なんにせよ、それで『青髪の少女以外』は、みんな重傷を負っています」

「そう……だったのか」

 良くはない。
 良くはないけど……良かった。本当に。

「そ、そうだ。髪の毛が青いってだけで、それが柚月さんだとは限らないだろ?」

「……先輩」

 甘露樹さんが呆れた。と言わんばかりの目でコチラを見てくる。

「な、なんだよ」

「髪の毛の青い人が、この世にそうポンポンいるとでも思ってるんですか?」

 俺は初めて柚月さんを見たときの感想を思い出していた。
 ……でも、自分だって、クリーム色の髪した琥珀眼じゃないか。

「ん……。でも、それが一体どうしたっていうんだ? 結局、甘露樹さんは、一体俺に何の話をしたいんだ?」

 いまのところ、俺は感情を逆撫でされただけだった。

「あまねが調査したところ、確かに体育館の屋根は老朽化していて、近々業者が入る予定だったそうです」

「そうなんだ。やっぱり神様ってやつはいるのかもしれないな……って話?」

「いえ。ただ、そんな簡単に壊れるはずがなかったそうです。そこまで老朽化していたなら立ち入り禁止にもなっていてもいいはずなのに、当時はそんなことにもなっていなかったようです」

「学園側の不手際じゃないのか?」

「まあ……、それを言われてしまうと、その可能性もなくはないと思うんですけど……」

「うん」

「でも、この件。聖北で起きた事件のはずなのに、なぜか聖央が火消しを行っているんです! 怪しくないですか!?」

「聖央か……あそこには執行部もあるしそんなもんじゃないのか……?」

「うーん。そうなんですけどぉ」

「それでごめん。もっかいいうね? 甘露樹さんが何の話をしたいのかさっぱりわからない。何の話したいんだ?」

 甘露樹さんは飲んでいたジュースを置いて、真剣な顔で俺に言った。

「……じゃあ聞きますね。先輩は、青髪の人……柚月さんと一緒にいて、なにか変わったことありませんでしたか?」

「変わったこと? ……あ」

 彼女にかかわっていると、なぜか事態が好転することがよくある。

 ……いや、わかっている。
 そうじゃないと、本当はわかっている。
 引っかかっていたけど、考えないようにしていた。
 でも、こうやって他人から突き付けられてしまっては、もう考えずにはいられない。

 『ことがある』なんてレベルじゃない『必ず良くなる』だ。
 それは、ここ数日――いや、俺が『この街にきてからずっと』だった。

 ……俺が、あの喫茶店に初めて行った日。
 貧乏神と間違われたとき。俺は聞いていた。


 ――偶然。うん、偶然。


 彼女が自分にそう言い聞かせながら、うんうんと考え込んでしまう姿を、俺は目撃していた。


「…………」

「あるんですね。心当たりが」

「……ある。といっても大抵はほんの些細な、それこそラッキーみたいなもんだよ」

「やっぱりですか……。実は、先輩以外にもそう言った体験をされている方が数人いたんです」

「そう、なのか……?」

「あまねは、柚月さんはそう言う人と人との『縁』みたいなものを操れる力を持ってるんじゃないかと思ってるんです」

 縁……。
 どこかで、最近聞いたような気がする。一体、誰が言っていたんだっけ……。

「自分は何もしないけど、思うだけで周りがなんか、良い感じにしてくれるってことか……? でも、それと屋根が落ちたのは関係なくないか?」

「あまねもどんなトリックがあったのかはわかりません。でも、もし、その力で起こった事故だったとしたら?」

「……甘露樹ちゃん。君は、柚月さんが、故意に屋根を落として、故意に人に重傷を負わせたって、そう言いたいのか?」

「……ごめんなさい。こういう、推測とか議論とかするの好きだから、ちょっと熱くなってしまいました」

「いや、いいよ。いや、よくないけど。俺もわかるから」


 それから俺たちは軽く食事をして、ファミレスを後にした。



 ”世界でいちばんおひめさま
 ちゃんと見ててよね
 どこかに行っちゃうよ?”

 ファミレスの外に出ると、数年前に流行った歌声合成技術のキャラが歌っている曲が流れていた。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第11話:不審者


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 少し過去の話になる。
 いまから二年前の春、聖北学園にある青い髪の少女が入学した。
 青い髪の少女は持ち前の明るさと人懐っこさで、すぐに周りと打ち解けていったそうだ。
 当時、すでに聖北学園が共学化を推進していたこともあり、男子学生からの人気も高かった。
 ただ、そんな光景を面白くなく思った女子学園生がいた。
 ある日、その女子学園生は青髪の少女を体育館に呼び出した。
 そして、数人がかりで少女に乱暴――
――ドンッ!
 俺は甘露樹がすべて話すのを待たずに、気づいたら目を見開きながら机を叩いていた。
 ここまで怒ったのは、自分でも初めてだった。
 否、違う。
 これは怒りではない。――憎悪だ。
「せ、先輩! 落ち着いて、他の人も見てますから!」
「……甘露樹さん。そいつらの住所を教えてくれないか。新聞部として、この事件を追ってるんだろ」
 俺は理不尽とか、そう言った類のことが大嫌いだ。
 彼女が一体何をしたって言うんだ。ただの被害者じゃねえか。
 俺の中の正義が、そいつらを悪だと断定している。断罪されるべき、悪だと。
「知っていても言いませんよ。いまの先輩、その様子だとなにするかわからないし……」
 甘露樹さんはジュースをチューチューしながら言う。
「…………」
「はぁ……。それに、ちゃんと話を最後まで聞いてください。先輩がしなくても、その人たちには一応、天罰は下ってるんですよ」
「……どういうことだ?」
「乱暴されそうになったとき、体育館の屋根が壊れて落ちたんです」
「屋根が……落ちた?」
「落ちた。というか……まるで意図的に、何か鋭利な刃物で切断されたような断面だったらしいです。なんにせよ、それで『青髪の少女以外』は、みんな重傷を負っています」
「そう……だったのか」
 良くはない。
 良くはないけど……良かった。本当に。
「そ、そうだ。髪の毛が青いってだけで、それが柚月さんだとは限らないだろ?」
「……先輩」
 甘露樹さんが呆れた。と言わんばかりの目でコチラを見てくる。
「な、なんだよ」
「髪の毛の青い人が、この世にそうポンポンいるとでも思ってるんですか?」
 俺は初めて柚月さんを見たときの感想を思い出していた。
 ……でも、自分だって、クリーム色の髪した琥珀眼じゃないか。
「ん……。でも、それが一体どうしたっていうんだ? 結局、甘露樹さんは、一体俺に何の話をしたいんだ?」
 いまのところ、俺は感情を逆撫でされただけだった。
「あまねが調査したところ、確かに体育館の屋根は老朽化していて、近々業者が入る予定だったそうです」
「そうなんだ。やっぱり神様ってやつはいるのかもしれないな……って話?」
「いえ。ただ、そんな簡単に壊れるはずがなかったそうです。そこまで老朽化していたなら立ち入り禁止にもなっていてもいいはずなのに、当時はそんなことにもなっていなかったようです」
「学園側の不手際じゃないのか?」
「まあ……、それを言われてしまうと、その可能性もなくはないと思うんですけど……」
「うん」
「でも、この件。聖北で起きた事件のはずなのに、なぜか聖央が火消しを行っているんです! 怪しくないですか!?」
「聖央か……あそこには執行部もあるしそんなもんじゃないのか……?」
「うーん。そうなんですけどぉ」
「それでごめん。もっかいいうね? 甘露樹さんが何の話をしたいのかさっぱりわからない。何の話したいんだ?」
 甘露樹さんは飲んでいたジュースを置いて、真剣な顔で俺に言った。
「……じゃあ聞きますね。先輩は、青髪の人……柚月さんと一緒にいて、なにか変わったことありませんでしたか?」
「変わったこと? ……あ」
 彼女にかかわっていると、なぜか事態が好転することがよくある。
 ……いや、わかっている。
 そうじゃないと、本当はわかっている。
 引っかかっていたけど、考えないようにしていた。
 でも、こうやって他人から突き付けられてしまっては、もう考えずにはいられない。
 『ことがある』なんてレベルじゃない『必ず良くなる』だ。
 それは、ここ数日――いや、俺が『この街にきてからずっと』だった。
 ……俺が、あの喫茶店に初めて行った日。
 貧乏神と間違われたとき。俺は聞いていた。
 ――偶然。うん、偶然。
 彼女が自分にそう言い聞かせながら、うんうんと考え込んでしまう姿を、俺は目撃していた。
「…………」
「あるんですね。心当たりが」
「……ある。といっても大抵はほんの些細な、それこそラッキーみたいなもんだよ」
「やっぱりですか……。実は、先輩以外にもそう言った体験をされている方が数人いたんです」
「そう、なのか……?」
「あまねは、柚月さんはそう言う人と人との『縁』みたいなものを操れる力を持ってるんじゃないかと思ってるんです」
 縁……。
 どこかで、最近聞いたような気がする。一体、誰が言っていたんだっけ……。
「自分は何もしないけど、思うだけで周りがなんか、良い感じにしてくれるってことか……? でも、それと屋根が落ちたのは関係なくないか?」
「あまねもどんなトリックがあったのかはわかりません。でも、もし、その力で起こった事故だったとしたら?」
「……甘露樹ちゃん。君は、柚月さんが、故意に屋根を落として、故意に人に重傷を負わせたって、そう言いたいのか?」
「……ごめんなさい。こういう、推測とか議論とかするの好きだから、ちょっと熱くなってしまいました」
「いや、いいよ。いや、よくないけど。俺もわかるから」
 それから俺たちは軽く食事をして、ファミレスを後にした。
 ”世界でいちばんおひめさま
 ちゃんと見ててよね
 どこかに行っちゃうよ?”
 ファミレスの外に出ると、数年前に流行った歌声合成技術のキャラが歌っている曲が流れていた。