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10.

ー/ー



床に座って食べている私を見下ろして、レオが蔑むように笑った。

「ハッ。床に座って皿もフォークもなしで食べるなんて、さぞかしみじめでしょう。そんな姿をオルブライトに見られたら、見向きもされなくなって、ゴミのように捨てられるかもしれませんね。」

私はレオの口上を聞きながら、もぐもぐと咀嚼し続けた。
ハード系のパンはしっかり噛まないと、喉につまるからね。お口が空になったところで、もう一口。そうして無言で食べ続ける様子は、この男には屈辱に耐えている姿に見えてるんだろう。
そもそもオルブライトさんにはもっとひどい姿を見られているし、解雇されたら困るけどゴミのように捨てられる分にはかまわないんだけどな。

ようやく食べ終わると、私はグラスの水を一気飲みして反論のために立ち上がった。言いたいことは山ほどあった。異世界にきてキレちらかしていたヤマダもきっとこんな気持ちだったに違いない。
やりたい放題言いたい放題、いい加減本当にふざけるなよ。私の怒りは今、ヤマダと完全にシンクロしていた。

「床に座って食事するなんていつも家でやってること。そもそも、洗い物を極限まで減らす戦いにおいてパンごときに皿とフォークを使うなんて愚の骨頂。作業工程やアクションをどれだけそぎ落とすかによって休日の真価は問われるというのに、貴様それでも悪党か。水なんて品よくデキャンタとコップをお盆に乗せてもってくるなっ。デキャンタ渡してくれればそのまま飲むってば。」

「は…戦い?真価?一体何を言っている。」

正直、自分でも何を言ってるのか分からなくなってきたけど、もうなにもかもがどうでもよくて、こうなったらただの勢いだった。

「私は伝説の戦士ヤマダの意志を受け継ぐものにして生粋のズボラ―。全然丁寧じゃない異世界人。言いたいことはただ一つ、さっさとここから出せっつーの!」

ちょっと中二病っぽく叫んでみたけど、相手は意味が分からなさ過ぎて圧倒されている。まあ私もわからないよ。

「ちなみにオルブライトさんは職場の上司というだけで、その他は一切なんの関係もありませんから!誘拐した意味なんもないですよ。」

「黙れ…貴様にその気がなかったとしても、オルブライトにとって大切な存在に違いない。帰してくださいといって帰れると思うなよ。」

お、ちょっと悪党っぽくなってきたじゃない。なんて場違いなことを思っていると、ふいに警笛の音が鋭く響いた。どうやら外で何かあったらしい。レオが窓際に走り寄って外を確認すると、盛大に舌打ちをした。次の瞬間、二人の使用人が部屋に駆け込んできた。

「レオポルド様、敷地内に侵入者です。現在護衛が対処していますがたった一人相手に押されている状況です。マントで顔を隠していますが相当の手練れかと。」

「私が出る。護衛を総動員させ拘束具を用意しておくように。」

バタバタと部屋を出て行ったけど、慌てていたのか部屋のドアは開けられたままだ。私は入り口からそっと顔を出すと廊下の様子をうかがった。さっきの騒動のおかげで、人気がない。
私はきちんとしまっておいたメイドキャップと白いエプロンを身に着けると、慎重に廊下へ出て階段を降りた。
私の顔を知っているのはごく一部の使用人だけだ。堂々と歩いていれば大丈夫。そう言い聞かせて、屋敷の緊急事態に慌てるメイドを演じて使用人勝手口を目指す。

「ちょっとあんた!」
ふいに背後から声をかけられて、私はビクっと体をこわばらせた。
そっと振り向くと、そこには見たことのない顔のおばちゃんメイドが立っていた。

「見ない顔だね。新入りかい?」
「はい。 厨房に行くよう言われているんですが迷ってしまって。」
「全くバカだねぇ。ここは使用人が歩いていいところじゃないよ。ほら、そこの裏から回っていきな。」
「ありがとうございます!」

ドッドッ…と心臓がうるさく跳ねていた。切り抜けた。よしっ!あとは使用人出入り口から外に出れば。
普段の地味さが功を奏したのか、私は誰にも怪しまれることなく裏庭へ出た。

運のいいことに、庭いっぱいにシーツやクロスが干されていた。私はその陰に隠れるようにして庭を進んでいく。ふと、人の気配がしてそっと様子を伺ってみると、そこには数人の護衛が倒れていた。おそらくさっき言ってた侵入者にやられたんだろう。
おつかい感覚で異世界人を誘拐してくるくらいだ。あちこちから恨みをかっているのかもしれない。

マントの男の気配はかなり近い。やばい。見つかったら私も手打ちにされるかも。気配を殺してじっと身をひそめながら、少しだけのぞいてみる。
護衛を追ってきた侵入者は、使用人の出入り口へ向かって勢いよく歩いていく。

良かった。彼が屋敷の中に入ったら、残りの護衛も屋敷に入っていくだろう。そうなれば、あとは全速力で屋敷の外まで走るだけだ。私は男が中に入るのをじっと待っていた。
その時、強い風がふいて洗濯物が大きくはためいた。私が身を隠していたシーツも風にあおられてしまった。バタバタと音がしたせいでマントの男がこちらを振り返り、そうして私は彼の視界にばっちりと入ってしまった。

相当にヤバげな感じだけど、まだ終わってない。今の私はメイドの恰好をしているから、侵入者に怯えている無力な使用人として見逃してもらえるかもしれない。
私はなるべく怖がっているふりをして、じりじりと後ろに下がった。男は屋敷の出入り口を気にしている。よし、丸腰の女一人なんて、きっと見逃すに違いない。
いつでも走り出せるようにつま先に力をこめていると、侵入者はマントを取り払った。バサリ、と大きな音がしてマントが風にとばされていく。

「スミレちゃん…っ!」
「えっ!?」

駆け寄ってきたのは、手練れの侵入者ではなくて、ノエル・オルブライトその人だった。


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床に座って食べている私を見下ろして、レオが蔑むように笑った。
「ハッ。床に座って皿もフォークもなしで食べるなんて、さぞかしみじめでしょう。そんな姿をオルブライトに見られたら、見向きもされなくなって、ゴミのように捨てられるかもしれませんね。」
私はレオの口上を聞きながら、もぐもぐと咀嚼し続けた。
ハード系のパンはしっかり噛まないと、喉につまるからね。お口が空になったところで、もう一口。そうして無言で食べ続ける様子は、この男には屈辱に耐えている姿に見えてるんだろう。
そもそもオルブライトさんにはもっとひどい姿を見られているし、解雇されたら困るけどゴミのように捨てられる分にはかまわないんだけどな。
ようやく食べ終わると、私はグラスの水を一気飲みして反論のために立ち上がった。言いたいことは山ほどあった。異世界にきてキレちらかしていたヤマダもきっとこんな気持ちだったに違いない。
やりたい放題言いたい放題、いい加減本当にふざけるなよ。私の怒りは今、ヤマダと完全にシンクロしていた。
「床に座って食事するなんていつも家でやってること。そもそも、洗い物を極限まで減らす戦いにおいてパンごときに皿とフォークを使うなんて愚の骨頂。作業工程やアクションをどれだけそぎ落とすかによって休日の真価は問われるというのに、貴様それでも悪党か。水なんて品よくデキャンタとコップをお盆に乗せてもってくるなっ。デキャンタ渡してくれればそのまま飲むってば。」
「は…戦い?真価?一体何を言っている。」
正直、自分でも何を言ってるのか分からなくなってきたけど、もうなにもかもがどうでもよくて、こうなったらただの勢いだった。
「私は伝説の戦士ヤマダの意志を受け継ぐものにして生粋のズボラ―。全然丁寧じゃない異世界人。言いたいことはただ一つ、さっさとここから出せっつーの!」
ちょっと中二病っぽく叫んでみたけど、相手は意味が分からなさ過ぎて圧倒されている。まあ私もわからないよ。
「ちなみにオルブライトさんは職場の上司というだけで、その他は一切なんの関係もありませんから!誘拐した意味なんもないですよ。」
「黙れ…貴様にその気がなかったとしても、オルブライトにとって大切な存在に違いない。帰してくださいといって帰れると思うなよ。」
お、ちょっと悪党っぽくなってきたじゃない。なんて場違いなことを思っていると、ふいに警笛の音が鋭く響いた。どうやら外で何かあったらしい。レオが窓際に走り寄って外を確認すると、盛大に舌打ちをした。次の瞬間、二人の使用人が部屋に駆け込んできた。
「レオポルド様、敷地内に侵入者です。現在護衛が対処していますがたった一人相手に押されている状況です。マントで顔を隠していますが相当の手練れかと。」
「私が出る。護衛を総動員させ拘束具を用意しておくように。」
バタバタと部屋を出て行ったけど、慌てていたのか部屋のドアは開けられたままだ。私は入り口からそっと顔を出すと廊下の様子をうかがった。さっきの騒動のおかげで、人気がない。
私はきちんとしまっておいたメイドキャップと白いエプロンを身に着けると、慎重に廊下へ出て階段を降りた。
私の顔を知っているのはごく一部の使用人だけだ。堂々と歩いていれば大丈夫。そう言い聞かせて、屋敷の緊急事態に慌てるメイドを演じて使用人勝手口を目指す。
「ちょっとあんた!」
ふいに背後から声をかけられて、私はビクっと体をこわばらせた。
そっと振り向くと、そこには見たことのない顔のおばちゃんメイドが立っていた。
「見ない顔だね。新入りかい?」
「はい。 厨房に行くよう言われているんですが迷ってしまって。」
「全くバカだねぇ。ここは使用人が歩いていいところじゃないよ。ほら、そこの裏から回っていきな。」
「ありがとうございます!」
ドッドッ…と心臓がうるさく跳ねていた。切り抜けた。よしっ!あとは使用人出入り口から外に出れば。
普段の地味さが功を奏したのか、私は誰にも怪しまれることなく裏庭へ出た。
運のいいことに、庭いっぱいにシーツやクロスが干されていた。私はその陰に隠れるようにして庭を進んでいく。ふと、人の気配がしてそっと様子を伺ってみると、そこには数人の護衛が倒れていた。おそらくさっき言ってた侵入者にやられたんだろう。
おつかい感覚で異世界人を誘拐してくるくらいだ。あちこちから恨みをかっているのかもしれない。
マントの男の気配はかなり近い。やばい。見つかったら私も手打ちにされるかも。気配を殺してじっと身をひそめながら、少しだけのぞいてみる。
護衛を追ってきた侵入者は、使用人の出入り口へ向かって勢いよく歩いていく。
良かった。彼が屋敷の中に入ったら、残りの護衛も屋敷に入っていくだろう。そうなれば、あとは全速力で屋敷の外まで走るだけだ。私は男が中に入るのをじっと待っていた。
その時、強い風がふいて洗濯物が大きくはためいた。私が身を隠していたシーツも風にあおられてしまった。バタバタと音がしたせいでマントの男がこちらを振り返り、そうして私は彼の視界にばっちりと入ってしまった。
相当にヤバげな感じだけど、まだ終わってない。今の私はメイドの恰好をしているから、侵入者に怯えている無力な使用人として見逃してもらえるかもしれない。
私はなるべく怖がっているふりをして、じりじりと後ろに下がった。男は屋敷の出入り口を気にしている。よし、丸腰の女一人なんて、きっと見逃すに違いない。
いつでも走り出せるようにつま先に力をこめていると、侵入者はマントを取り払った。バサリ、と大きな音がしてマントが風にとばされていく。
「スミレちゃん…っ!」
「えっ!?」
駆け寄ってきたのは、手練れの侵入者ではなくて、ノエル・オルブライトその人だった。