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61-①.再臨する異形、戯れの果てに

ー/ー



 王都に攻め入った魔物の群れよりも、その壁は薄く、配置された冒険者達が村や町を比較的守りやすい状況。それに不満を口にしたのはファインだった。

「確かにさあ?本丸は王都かも知れないけど、もう少し歯ごたえがないとボクが頑張って運んだ兵器も泣いちゃうヨ!」
「ふふ、そう騒がないでファイン?そんなに退屈なら、場所を変えたらいいわ?」
「でもゼンがここにいろって…………クロエちゃんに任せちゃえば良いってことだネ?!」
「あら……それでも、少しの散歩だけですよファイン?ゼンにバレたら、大変」

 笑顔をむずむずさせながら、クロエと守ることになっている範囲から少し離れることを決めたファインは、ウィンクで返事をし、魔法で素早くその場から移動した。

「どうなるかしら……ふふ」

 パッとファインが転移して現れた先。
 そこから見えたのは、魔物の群れ……新生魔族なのは間違いは無い。ただそれは、見覚えのある魔力を放つ異形。

「あはは!ずいぶん増えちゃったんだ……ゾッとするじゃん?」

 グリゼルダが地上に喚びこんだ新生魔族の少し後方から、ムカデの群れが追いかけるように向かってきている。

「ごめんネ、ゼン……まだ、楽しんでもいいデショ?」

 臆するなんて言葉は、ファインには無い。
 鼻歌を歌いながら、ムカデの群れに飛び込んで行った。

「ドーーン!!あははははは!!」

 赤い閃光を地を走らせ、ムカデの異形達を空に打ち上げ粉々にして笑う。何度か繰り返し、その数を確実に減らしていく。

「ほらほらほら!大事な大事な子どもたちが死んでるヨ〜??出てこないとまずいんじゃないの〜〜?」

 魔法での攻撃と、煽る言葉を叫びながら母体を引きずり出そうとしている。

 まんまと……という言葉が相応しい。知能を得たとしても、本能には逆らえないようだ。

「あの時の魔王のなんとか……?ゼンはどこだ、ゼンをだせ……ンンッ!!」
「むむ!ちゃんとボクのこと覚えて貰えてない?って………うわ、変態ちゃんになってるジャン……」

 群れの中から盛り上がった大きな個体の中から現れたのはタオゼント。自分の数倍はある、オスの異形に包まれた状態で運ばれながら、延々と交尾をし、受胎と出産を繰り返している。

「ゼンもビックリじゃないかな?こんな方向に進化しちゃうとは……」
「フース……フース……あぁぁ……!」
「あらら…………壊れてんだ」

 タオゼントに知能は重すぎたのかも知れない。理解する力が脳を支配し、新生魔族に植え付けられた本能に共鳴し、愛する心を強くさせ過ぎたことで、精神をおかしくさせていた。

「よく見ればそのデカいのフースに似てるもんね……ゾワゾワする〜〜!」
「お前……うるさい、邪魔ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「?!」

 タオゼントの雄叫びと同時に、複数方向からファインに向かって、あの時浴びせられた閃光が襲いかかる。
 もちろん、わざわざ避ける必要が無いファインはそのまま全身にそれを受け、姿を消された。

「うるさいなんて、ひどいこというんだネ?」
「ひっ?!」
「あの程度煽られたくらいで怒るなんて、まだまだ低脳……そりゃ選ぶのは快楽になるはずだよ」
「あ……え……お腹……無い……?」

 タオゼントの真横で姿を戻したファインは、耳元で囁きながら腹を焼き消した。

「大事なものを、奪ってみたヨ?どんな気分?」
「だ、ダメ……ダメダメダメダメダメダメダメダメ!!」
「あれ、再生しないの〜?ボクの勝ち?」

 ぼとぼとと、血と残った内臓の一部が地面に落ち、自ら産み落とした愛しい者にそっくりな生殖本能だけの巨大な異形が踏み潰しながら前に前にとタオゼントの叫びを無視して進んでいく。

 その姿があまりにも滑稽で、ファインは笑いこけていた。

「あっははははは!!なにしてるの?守られてすらないじゃん!単細胞すぎ!」
「あ〜〜〜………うう……」

 急にだらんと、体から力が抜けたタオゼント。知能を得る前と同じような声を上げて動かなくなった。

「……あれ」

 ピタリと……前進が止まった。

「やば……っ!!」

 捕食が始まった。

 飛び立とうとしたファインは間に合わず、巻き込まれ、タオゼントに群がる前進していたはずのムカデたちの捕食の対象になりかける。急いで転移魔法を使い、上空へ逃げ出した。

「あは…………」

 タオゼントを食い尽くしたムカデ達は、次に、生き残りをかけた共食いを始める。勝敗など明らかではあった。生き残ったのは、タオゼントを抱いていた巨大な異形。

 ピキピキと音を立て、脱皮するかのように割れる表皮……

「よくやったタオゼント……」

 自身の記憶を残し潜ませ……更に力を蓄えるのを待って、再臨した。

「最初からそのつもりだったとか……やるじゃん」

 血を這うムカデの群れはもういない。

 残ったのは、種族最後の生き残りにして、最強の個体となったフース。

「ほう?貴様どうした?」

 その体に、ポタポタと雫が落ちている。

「ちょっと……遊びすぎちゃっただけだけど?」
「ははは!それで片腕をもぎ取られたのか?得意の再生はどうした?散々煽っていただろう?」
「……」

 弾ける痛みには耐えることができる。むしろ、それは喜びだと感じていたくらいだった。だが、今、ファインの脳にジンジンと伝わるのは懐かしい、鈍痛。

 捕食に巻き添えを食らった。腕を喰らわれた。

「事情が変わったみたい……ね?逃げるけどいい?」
「……逃げる?」

 痛みに耐え、苦痛にゆがむ表情、少し震えさえも見える。以前目にしたファインの姿と違うこと……フースは笑い、勝ちを確信する。

「目的はゼン、勝手にしたらいい」
「話がわかるね!じゃ!」
「などと簡単にぃっ!許すわけがないだろう!!」

 ひと蹴りし、ファインとの距離を一瞬で詰める。その素早さと、筋力は進化している……まるで瞬間移動したかのように動きが見えなかった。

「嘘つきダ?!」
「嘘もなにもないわ!ここで逃がすバカはいない!」

 フースの拳が光る。それは、タオゼントの閃光と同じ。ファインのみぞおちに向かって大きく殴り込み、物理と魔法が融合した一撃を放つ。

 爆発音が轟く。

「……その身変わりても、戦い方は変わらずか?」
「そんな、わけないデショ……防護魔法二重にしてんだけど?!」
「なるほど。守る一手が増えたのだな?」
「なにその顔……腹立つ」

 ニヤッと笑うフースに、ファインは苛立ち……落ち込む。

「(ゼン……どっかで見てるのかなぁ……勝手に遊んでるとこ見て……怒ったのかなぁ)」

 考えながら、風魔法を放ち、距離を取るついでにフースに食らわせたファイン。以前と同じなら、フースは滞空することは出来ず地に落ちていたはず。

「ムカデならさぁ……大人しく地面這っててヨ!」
「はははは!持てる力を使わずしてなんの進化か!!」
「持てる、力……」

 タオゼントも、成した子供も、全て己のものとしたフースは、その力に心酔しいきり立っている。それなのに、隙がない。

 自分の体の変化……それは、ファインにも同じように起こっていること。明確に違うのは、ファインは大きく、その持てる力を失っているということ。

 けれど、この遊びを楽しもうと仕掛けたのは自分。まだ、力は残っている……なら、どうにかするしかない……なのに、どうしたらいいかわからない。

「どうした、震えているぞ」
「そうだね……怖いんだと思うヨ」
「ほう?正直に言うのだな?」
「嘘は付かない……だって、ゼンは……正直者が好きだから」

 スーーッと大きく息を吸うファイン。
 フースはその動作を、攻撃の前動作と判断し構える。

 だが、違った。

「ゼーーーン!謝るから!助けてーーー!!ごめんなさーーーい!!」

 ファインのまさかの行動に、口をあんぐりと開け驚くフース。

「はっ……恥はないのか?!」
「なにいってんの!困ったら助けてほしいって言うのは恥ずかしくなんかないんだヨ!」

 困惑しながらも、警戒を強めるフース……。

「……見捨てられたか、届かなかった、ようだな?」

 遠くから、世界を襲う新生魔族の暴れる音が聞こえるだけ。

 ファインは静かに待っている。

「はははは!そうだ!貴様を倒し、ゼンを待てばいい…………いざっ!」

 先ほどと同じ、閃光を込めた拳を握りしめながら、ファインに突っ込んでいくフース。

 そらでも、ファインは、動かない。

 炸裂する拳……。

「ガッァ?!」

 爆発音と共にダメージを負ったのは、フースの拳だった。

「なぁにが、たすけて~だ?テメェの始末はテメェでしろ」
「〜〜〜〜っ!!なぁんて言って!助けてくれるのが〜ゼンなんだよネ〜!…………ごめんなさい」

 見上げた果てのある空……嬉しさでニマニマするファインを、呆れて見下ろすゼンが、そこにいた。


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「確かにさあ?本丸は王都かも知れないけど、もう少し歯ごたえがないとボクが頑張って運んだ兵器も泣いちゃうヨ!」
「ふふ、そう騒がないでファイン?そんなに退屈なら、場所を変えたらいいわ?」
「でもゼンがここにいろって…………クロエちゃんに任せちゃえば良いってことだネ?!」
「あら……それでも、少しの散歩だけですよファイン?ゼンにバレたら、大変」
 笑顔をむずむずさせながら、クロエと守ることになっている範囲から少し離れることを決めたファインは、ウィンクで返事をし、魔法で素早くその場から移動した。
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 パッとファインが転移して現れた先。
 そこから見えたのは、魔物の群れ……新生魔族なのは間違いは無い。ただそれは、見覚えのある魔力を放つ異形。
「あはは!ずいぶん増えちゃったんだ……ゾッとするじゃん?」
 グリゼルダが地上に喚びこんだ新生魔族の少し後方から、ムカデの群れが追いかけるように向かってきている。
「ごめんネ、ゼン……まだ、楽しんでもいいデショ?」
 臆するなんて言葉は、ファインには無い。
 鼻歌を歌いながら、ムカデの群れに飛び込んで行った。
「ドーーン!!あははははは!!」
 赤い閃光を地を走らせ、ムカデの異形達を空に打ち上げ粉々にして笑う。何度か繰り返し、その数を確実に減らしていく。
「ほらほらほら!大事な大事な子どもたちが死んでるヨ〜??出てこないとまずいんじゃないの〜〜?」
 魔法での攻撃と、煽る言葉を叫びながら母体を引きずり出そうとしている。
 まんまと……という言葉が相応しい。知能を得たとしても、本能には逆らえないようだ。
「あの時の魔王のなんとか……?ゼンはどこだ、ゼンをだせ……ンンッ!!」
「むむ!ちゃんとボクのこと覚えて貰えてない?って………うわ、変態ちゃんになってるジャン……」
 群れの中から盛り上がった大きな個体の中から現れたのはタオゼント。自分の数倍はある、オスの異形に包まれた状態で運ばれながら、延々と交尾をし、受胎と出産を繰り返している。
「ゼンもビックリじゃないかな?こんな方向に進化しちゃうとは……」
「フース……フース……あぁぁ……!」
「あらら…………壊れてんだ」
 タオゼントに知能は重すぎたのかも知れない。理解する力が脳を支配し、新生魔族に植え付けられた本能に共鳴し、愛する心を強くさせ過ぎたことで、精神をおかしくさせていた。
「よく見ればそのデカいのフースに似てるもんね……ゾワゾワする〜〜!」
「お前……うるさい、邪魔ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「?!」
 タオゼントの雄叫びと同時に、複数方向からファインに向かって、あの時浴びせられた閃光が襲いかかる。
 もちろん、わざわざ避ける必要が無いファインはそのまま全身にそれを受け、姿を消された。
「うるさいなんて、ひどいこというんだネ?」
「ひっ?!」
「あの程度煽られたくらいで怒るなんて、まだまだ低脳……そりゃ選ぶのは快楽になるはずだよ」
「あ……え……お腹……無い……?」
 タオゼントの真横で姿を戻したファインは、耳元で囁きながら腹を焼き消した。
「大事なものを、奪ってみたヨ?どんな気分?」
「だ、ダメ……ダメダメダメダメダメダメダメダメ!!」
「あれ、再生しないの〜?ボクの勝ち?」
 ぼとぼとと、血と残った内臓の一部が地面に落ち、自ら産み落とした愛しい者にそっくりな生殖本能だけの巨大な異形が踏み潰しながら前に前にとタオゼントの叫びを無視して進んでいく。
 その姿があまりにも滑稽で、ファインは笑いこけていた。
「あっははははは!!なにしてるの?守られてすらないじゃん!単細胞すぎ!」
「あ〜〜〜………うう……」
 急にだらんと、体から力が抜けたタオゼント。知能を得る前と同じような声を上げて動かなくなった。
「……あれ」
 ピタリと……前進が止まった。
「やば……っ!!」
 捕食が始まった。
 飛び立とうとしたファインは間に合わず、巻き込まれ、タオゼントに群がる前進していたはずのムカデたちの捕食の対象になりかける。急いで転移魔法を使い、上空へ逃げ出した。
「あは…………」
 タオゼントを食い尽くしたムカデ達は、次に、生き残りをかけた共食いを始める。勝敗など明らかではあった。生き残ったのは、タオゼントを抱いていた巨大な異形。
 ピキピキと音を立て、脱皮するかのように割れる表皮……
「よくやったタオゼント……」
 自身の記憶を残し潜ませ……更に力を蓄えるのを待って、再臨した。
「最初からそのつもりだったとか……やるじゃん」
 血を這うムカデの群れはもういない。
 残ったのは、種族最後の生き残りにして、最強の個体となったフース。
「ほう?貴様どうした?」
 その体に、ポタポタと雫が落ちている。
「ちょっと……遊びすぎちゃっただけだけど?」
「ははは!それで片腕をもぎ取られたのか?得意の再生はどうした?散々煽っていただろう?」
「……」
 弾ける痛みには耐えることができる。むしろ、それは喜びだと感じていたくらいだった。だが、今、ファインの脳にジンジンと伝わるのは懐かしい、鈍痛。
 捕食に巻き添えを食らった。腕を喰らわれた。
「事情が変わったみたい……ね?逃げるけどいい?」
「……逃げる?」
 痛みに耐え、苦痛にゆがむ表情、少し震えさえも見える。以前目にしたファインの姿と違うこと……フースは笑い、勝ちを確信する。
「目的はゼン、勝手にしたらいい」
「話がわかるね!じゃ!」
「などと簡単にぃっ!許すわけがないだろう!!」
 ひと蹴りし、ファインとの距離を一瞬で詰める。その素早さと、筋力は進化している……まるで瞬間移動したかのように動きが見えなかった。
「嘘つきダ?!」
「嘘もなにもないわ!ここで逃がすバカはいない!」
 フースの拳が光る。それは、タオゼントの閃光と同じ。ファインのみぞおちに向かって大きく殴り込み、物理と魔法が融合した一撃を放つ。
 爆発音が轟く。
「……その身変わりても、戦い方は変わらずか?」
「そんな、わけないデショ……防護魔法二重にしてんだけど?!」
「なるほど。守る一手が増えたのだな?」
「なにその顔……腹立つ」
 ニヤッと笑うフースに、ファインは苛立ち……落ち込む。
「(ゼン……どっかで見てるのかなぁ……勝手に遊んでるとこ見て……怒ったのかなぁ)」
 考えながら、風魔法を放ち、距離を取るついでにフースに食らわせたファイン。以前と同じなら、フースは滞空することは出来ず地に落ちていたはず。
「ムカデならさぁ……大人しく地面這っててヨ!」
「はははは!持てる力を使わずしてなんの進化か!!」
「持てる、力……」
 タオゼントも、成した子供も、全て己のものとしたフースは、その力に心酔しいきり立っている。それなのに、隙がない。
 自分の体の変化……それは、ファインにも同じように起こっていること。明確に違うのは、ファインは大きく、その持てる力を失っているということ。
 けれど、この遊びを楽しもうと仕掛けたのは自分。まだ、力は残っている……なら、どうにかするしかない……なのに、どうしたらいいかわからない。
「どうした、震えているぞ」
「そうだね……怖いんだと思うヨ」
「ほう?正直に言うのだな?」
「嘘は付かない……だって、ゼンは……正直者が好きだから」
 スーーッと大きく息を吸うファイン。
 フースはその動作を、攻撃の前動作と判断し構える。
 だが、違った。
「ゼーーーン!謝るから!助けてーーー!!ごめんなさーーーい!!」
 ファインのまさかの行動に、口をあんぐりと開け驚くフース。
「はっ……恥はないのか?!」
「なにいってんの!困ったら助けてほしいって言うのは恥ずかしくなんかないんだヨ!」
 困惑しながらも、警戒を強めるフース……。
「……見捨てられたか、届かなかった、ようだな?」
 遠くから、世界を襲う新生魔族の暴れる音が聞こえるだけ。
 ファインは静かに待っている。
「はははは!そうだ!貴様を倒し、ゼンを待てばいい…………いざっ!」
 先ほどと同じ、閃光を込めた拳を握りしめながら、ファインに突っ込んでいくフース。
 そらでも、ファインは、動かない。
 炸裂する拳……。
「ガッァ?!」
 爆発音と共にダメージを負ったのは、フースの拳だった。
「なぁにが、たすけて~だ?テメェの始末はテメェでしろ」
「〜〜〜〜っ!!なぁんて言って!助けてくれるのが〜ゼンなんだよネ〜!…………ごめんなさい」
 見上げた果てのある空……嬉しさでニマニマするファインを、呆れて見下ろすゼンが、そこにいた。