表示設定
表示設定
目次 目次




60.夢の終わり、希望の終わり

ー/ー



「う……ふっ……うぅ……ぐぅっ」

 もはや、戦場にすらならないほどの蹂躙だった。

 初撃とも言える王都内部への直接攻撃、それは後退をさせることを許さないもの。地を埋め尽くして行進する魔物に押され、押し込まれる。その先に出たとしても、魔物が空から振り注ぎその身を呈して人間の命を押し潰す。

 更にこの状態を加速させていたのは、セリハ。
 彼女の力は神の祝福とも言える守護の力。その力が正常に機能しなくなっていることを、彼女は隠していた。そんな事をしていたのなら、悪い方へと状況が動くのは決まっていた。

 騎士団員も、決して弱くはない。各地の魔物討伐を軽々出来るくらいには、実力者が集まっている。その者たちを、弱くさせたのは鼓舞。

 勇者であり、異名を持ち、先頭に立つ、輝かしい象徴。

 不意を突かれたとはいえ、その身を奮って騎士団を率いようとして奮闘していたものの、突如その姿を彼らの前から消してしまった。

 騎士団の仲間たちが必死に戦い、傷ついていく中……姿はおろか、声も聞こえなくなり……象徴はどこに?なにを?まさか?

 逃げたのか……?我々を置いて……?

 倒しても倒しても減ることがない魔物……押し付けられたのだと。ひとりふたりと……そう思いはじめてしまえば終わりはすぐ。

 闘志は消え去り、戦線は崩れ、魔物の流入を許し、王都は壊滅した。

 そんな状況になっていたことなど、目の前のことに心乱されているソウゴには……気付く余地もなかったのだから。


 数時間前――。

「……っ!!やめろ!どこに連れて行くんだ!!」
「死体を皆に見せて回るのだが?なにか悪いことでも?」
「はなせ!!死んでない!まだ!!セリハは生きてる!!」

 ゆらゆらと歪む視界の端から消えていこうとするセリハの体を咄嗟に掴み、止める。

 交えた事で、グリゼルダの力の強さを知っているソウゴは負けじと力を入れ、自分のもとに引き戻そうとする。

 だが、それがいけなかった。

「…………え」
「おや……酷いことをするんだねソウゴ」

 フォンゼルが綺麗に治した左腕を握っていたソウゴ。肩の辺りの治療が甘かったのだろう、ブチブチブチッと音を立てながら、焼けて脆くなったセリハの体と左腕の肉が引き千切られ、分かたれた。

「ちが……そんなつもりは……なんで……どうし……」

 軽くなったセリハ。床の血の海に落ちた白く美しい、可愛らしく華奢な腕……握った手から少しずつ温かみが、柔らかさが、失われていく。

「形見分けというわけか。仕方あるまい、それくらいは許すとしよう……こんな女でも、お前は愛したのだろうからな?」

 不細工になったセリハの体をぶら下げながら、グリゼルダは飛び立った。

「さて、僕も行くとするよソウゴ……はは?聞く気もない?まぁいいさ……」

 打ちひしがれているソウゴは、ティオの声を声として理解できない状態だ。だが、ティオは心配することなどするはずもなく。少しの間世話になっていた、という表面上の事実と、現実に対して、礼をした。

「王都での生活はなかなか悪くなかった……かな?一般市民にはできない体験もさせてもらえたからね?あとは、そうだね…………本当の僕にしてくれたこと……感謝するよ?じゃあね」

 ティオの『見える』力は、自分の持っていない魔法の構築式をも見せてくれた。それを使い、飛行魔法を身に着け、優雅に空へと舞い上がっていった。

「…………ぁ」

 遠くからの戦闘音で、やっと意識が戻ってきたソウゴ。

「あそこ……あそこにいる……」

 ボトリとフォンゼルだったものを落とし立ち上がり、改めて掴んだのはセリハの左腕。

「あ……そうだ、これ」

 ポーチから小さな指輪を取り出し、セリハの薬指にそっとはめる。

「ほら、かわいいだろう?アマリリスの花の彫刻をしてもらったんだ……セリハ、似合ってるよ……」

 指にキスをして、手を繋ぎ、ソウゴは歩き始めた。

「大丈夫……僕が……幸せにする……心配ないよ………待ってて……終わらせたら……僕もすぐに――から……」

 散々祀り上げた勇者は、女の為に、簡単に【王都ケーニヒ】を見捨て壊滅……あっさりと、その繁栄に終わりを告げた。

 本当に、呆気なく。

 真っ当な正義は、この世界では簡単に『破壊』されるだけだと言うことを、教えているようでもあった。

 *

 *

 *

 *

「さて……どこに……いや、どこで……」

 明確な目的地を持っているといえば持っている。ただそれはまだ、『見させ』てはくれない。

 グリゼルダの後を追う事も考えたが、魔族とこれ以上つるむ理由はない。いちばん近しい場所、面識があることを考える。

「ファインさん……ははっ!結局魔族になってしまうね」

 フッと背中に熱を感じ、ティオは空中で静止した。

「ちょうどいい、俺もアイツに用事がある」
「……っ……ゼクス……ああ、会いたかった……」
「げっ……抱きつくなよ気持ちわりぃな」
「これは友情の証しだよゼクス!用事があるとの事だけれど、僕が同行しても問題ないのかい?」

 並んで飛びながら、ティオは楽しそうに笑って、ゼンと言葉を交わす幸せを感じていた。

「言わなくても『見えて』そうだがな?」
「さすがにゼクスに……ゼクスの仲間の方をこっそり覗き『見る』ほど礼儀を捨ててはいないつもりだよ?」
「はっ!あんなことしといてよく言えるもんだな?ま、いい。どこにいるのか『見せ』ろ」
「ふふ、任せたまえ」

 くるりと一回転したティオ。ゼンの望みを叶え、ファインの居場所をゼンに『見せた』。

「あん?あのバカどこ行ってんだ」
「問題発生なのかい?」
「すべて思い通りに動くとは思っちゃいねぇが、どうすっかな」

 悩むゼンをニコニコしながら見ているティオ。

「見てもなんも出ねぇぞ」
「出すのは僕だろうからね?」
「そんなに俺に使われてぇのか?」
「それこそ僕の、残されたの時間を満たす最高の瞬間で、幸せなのだからね!……おっと」
「さっき覗き『見る』事はしねぇって言って無かったか?」

 ギッと鋭く睨まれ、失言に少しだけ焦り言葉を返すティオ。

「違うよゼクス!ハーフェンでファインさんに少しだけ聞いてね?それでそれが今で……それも今の僕にしてくれた一部でもあってだね?!」
「はっ!余計なこと聞かされたわけかよ」
「と、とりあえずその時のお礼を僕はしたくてだね?!」
「わかったわかった、そこまで疑っちゃいねぇから」

 クッと笑うゼンにホッとして、ティオは前を向き、『見える』様になったファインのいる場所に近づいていいく。

「待て、ティオ」
「とっ……まだ考えているのかい?」

 魔物の群れを倒して楽しそうにしている様子がギリギリ見える位置でふたりは止まった。

「ファインは特異な体質でな、魔族の中でも特別なんだよ。だから、俺に、『破壊』されることを望んでる」

 頭を弾き飛ばされようが、全身を塵にされようが、どんなにひどいダメージを受けてもその体は元に戻る。
 その体質のおかげで魔王としてこの世界に存在することになり、その体質のおかげで特殊な性癖が身についた。

「アイツに『破壊』の一端を見せたことで、俺に付いて行くことを選んだんだ」
「本来元に戻るはずの体の一部の再生を『破壊』して見せたってところかい?それを見せて喜ぶなんて……ファインさんはもしかして……」

 果てのある空を見て、ゼンは答えた。

「あんなおちゃらけて、俺に合わせて楽しむことを楽しんじゃいるが、絶対に死ぬ事のないアイツが望む『破壊』は完全なる死以外無い、はずだ」

 死の恐怖が無い、死を望む元魔王ファイン・ゾンダーリング。
『破壊』に魅せられ、人を知り、共に歩んだ時間を持ってしまったこと。それは、ファインになにを刻ませたのかを考えてしまったゼン。

「『見せ』ることも……できるよ」

 ティオの言葉に、ゼンはピクリと小さく反応をした。だが、頷くことなく、首を横に振る。

「ここ最近、頻繁に『破壊』してくれと口にしてたんだよな。それだけありゃいいんだ、それだけ、あればな」

 ゼンには必要のない動作。
 金色に光って『見える』ファインを示す光に手を伸ばし拾い、望みを叶える言葉を口にする。

「『ファイン・ゾンダーリングの身体、魂、魔力の完全再生の特異体質を破壊し、命潰える時、魔族としての死すらも破壊する』」


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 61-①.再臨する異形、戯れの果てに


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「う……ふっ……うぅ……ぐぅっ」
 もはや、戦場にすらならないほどの蹂躙だった。
 初撃とも言える王都内部への直接攻撃、それは後退をさせることを許さないもの。地を埋め尽くして行進する魔物に押され、押し込まれる。その先に出たとしても、魔物が空から振り注ぎその身を呈して人間の命を押し潰す。
 更にこの状態を加速させていたのは、セリハ。
 彼女の力は神の祝福とも言える守護の力。その力が正常に機能しなくなっていることを、彼女は隠していた。そんな事をしていたのなら、悪い方へと状況が動くのは決まっていた。
 騎士団員も、決して弱くはない。各地の魔物討伐を軽々出来るくらいには、実力者が集まっている。その者たちを、弱くさせたのは鼓舞。
 勇者であり、異名を持ち、先頭に立つ、輝かしい象徴。
 不意を突かれたとはいえ、その身を奮って騎士団を率いようとして奮闘していたものの、突如その姿を彼らの前から消してしまった。
 騎士団の仲間たちが必死に戦い、傷ついていく中……姿はおろか、声も聞こえなくなり……象徴はどこに?なにを?まさか?
 逃げたのか……?我々を置いて……?
 倒しても倒しても減ることがない魔物……押し付けられたのだと。ひとりふたりと……そう思いはじめてしまえば終わりはすぐ。
 闘志は消え去り、戦線は崩れ、魔物の流入を許し、王都は壊滅した。
 そんな状況になっていたことなど、目の前のことに心乱されているソウゴには……気付く余地もなかったのだから。
 数時間前――。
「……っ!!やめろ!どこに連れて行くんだ!!」
「死体を皆に見せて回るのだが?なにか悪いことでも?」
「はなせ!!死んでない!まだ!!セリハは生きてる!!」
 ゆらゆらと歪む視界の端から消えていこうとするセリハの体を咄嗟に掴み、止める。
 交えた事で、グリゼルダの力の強さを知っているソウゴは負けじと力を入れ、自分のもとに引き戻そうとする。
 だが、それがいけなかった。
「…………え」
「おや……酷いことをするんだねソウゴ」
 フォンゼルが綺麗に治した左腕を握っていたソウゴ。肩の辺りの治療が甘かったのだろう、ブチブチブチッと音を立てながら、焼けて脆くなったセリハの体と左腕の肉が引き千切られ、分かたれた。
「ちが……そんなつもりは……なんで……どうし……」
 軽くなったセリハ。床の血の海に落ちた白く美しい、可愛らしく華奢な腕……握った手から少しずつ温かみが、柔らかさが、失われていく。
「形見分けというわけか。仕方あるまい、それくらいは許すとしよう……こんな女でも、お前は愛したのだろうからな?」
 不細工になったセリハの体をぶら下げながら、グリゼルダは飛び立った。
「さて、僕も行くとするよソウゴ……はは?聞く気もない?まぁいいさ……」
 打ちひしがれているソウゴは、ティオの声を声として理解できない状態だ。だが、ティオは心配することなどするはずもなく。少しの間世話になっていた、という表面上の事実と、現実に対して、礼をした。
「王都での生活はなかなか悪くなかった……かな?一般市民にはできない体験もさせてもらえたからね?あとは、そうだね…………本当の僕にしてくれたこと……感謝するよ?じゃあね」
 ティオの『見える』力は、自分の持っていない魔法の構築式をも見せてくれた。それを使い、飛行魔法を身に着け、優雅に空へと舞い上がっていった。
「…………ぁ」
 遠くからの戦闘音で、やっと意識が戻ってきたソウゴ。
「あそこ……あそこにいる……」
 ボトリとフォンゼルだったものを落とし立ち上がり、改めて掴んだのはセリハの左腕。
「あ……そうだ、これ」
 ポーチから小さな指輪を取り出し、セリハの薬指にそっとはめる。
「ほら、かわいいだろう?アマリリスの花の彫刻をしてもらったんだ……セリハ、似合ってるよ……」
 指にキスをして、手を繋ぎ、ソウゴは歩き始めた。
「大丈夫……僕が……幸せにする……心配ないよ………待ってて……終わらせたら……僕もすぐに――から……」
 散々祀り上げた勇者は、女の為に、簡単に【王都ケーニヒ】を見捨て壊滅……あっさりと、その繁栄に終わりを告げた。
 本当に、呆気なく。
 真っ当な正義は、この世界では簡単に『破壊』されるだけだと言うことを、教えているようでもあった。
 *
 *
 *
 *
「さて……どこに……いや、どこで……」
 明確な目的地を持っているといえば持っている。ただそれはまだ、『見させ』てはくれない。
 グリゼルダの後を追う事も考えたが、魔族とこれ以上つるむ理由はない。いちばん近しい場所、面識があることを考える。
「ファインさん……ははっ!結局魔族になってしまうね」
 フッと背中に熱を感じ、ティオは空中で静止した。
「ちょうどいい、俺もアイツに用事がある」
「……っ……ゼクス……ああ、会いたかった……」
「げっ……抱きつくなよ気持ちわりぃな」
「これは友情の証しだよゼクス!用事があるとの事だけれど、僕が同行しても問題ないのかい?」
 並んで飛びながら、ティオは楽しそうに笑って、ゼンと言葉を交わす幸せを感じていた。
「言わなくても『見えて』そうだがな?」
「さすがにゼクスに……ゼクスの仲間の方をこっそり覗き『見る』ほど礼儀を捨ててはいないつもりだよ?」
「はっ!あんなことしといてよく言えるもんだな?ま、いい。どこにいるのか『見せ』ろ」
「ふふ、任せたまえ」
 くるりと一回転したティオ。ゼンの望みを叶え、ファインの居場所をゼンに『見せた』。
「あん?あのバカどこ行ってんだ」
「問題発生なのかい?」
「すべて思い通りに動くとは思っちゃいねぇが、どうすっかな」
 悩むゼンをニコニコしながら見ているティオ。
「見てもなんも出ねぇぞ」
「出すのは僕だろうからね?」
「そんなに俺に使われてぇのか?」
「それこそ僕の、残されたの時間を満たす最高の瞬間で、幸せなのだからね!……おっと」
「さっき覗き『見る』事はしねぇって言って無かったか?」
 ギッと鋭く睨まれ、失言に少しだけ焦り言葉を返すティオ。
「違うよゼクス!ハーフェンでファインさんに少しだけ聞いてね?それでそれが今で……それも今の僕にしてくれた一部でもあってだね?!」
「はっ!余計なこと聞かされたわけかよ」
「と、とりあえずその時のお礼を僕はしたくてだね?!」
「わかったわかった、そこまで疑っちゃいねぇから」
 クッと笑うゼンにホッとして、ティオは前を向き、『見える』様になったファインのいる場所に近づいていいく。
「待て、ティオ」
「とっ……まだ考えているのかい?」
 魔物の群れを倒して楽しそうにしている様子がギリギリ見える位置でふたりは止まった。
「ファインは特異な体質でな、魔族の中でも特別なんだよ。だから、俺に、『破壊』されることを望んでる」
 頭を弾き飛ばされようが、全身を塵にされようが、どんなにひどいダメージを受けてもその体は元に戻る。
 その体質のおかげで魔王としてこの世界に存在することになり、その体質のおかげで特殊な性癖が身についた。
「アイツに『破壊』の一端を見せたことで、俺に付いて行くことを選んだんだ」
「本来元に戻るはずの体の一部の再生を『破壊』して見せたってところかい?それを見せて喜ぶなんて……ファインさんはもしかして……」
 果てのある空を見て、ゼンは答えた。
「あんなおちゃらけて、俺に合わせて楽しむことを楽しんじゃいるが、絶対に死ぬ事のないアイツが望む『破壊』は完全なる死以外無い、はずだ」
 死の恐怖が無い、死を望む元魔王ファイン・ゾンダーリング。
『破壊』に魅せられ、人を知り、共に歩んだ時間を持ってしまったこと。それは、ファインになにを刻ませたのかを考えてしまったゼン。
「『見せ』ることも……できるよ」
 ティオの言葉に、ゼンはピクリと小さく反応をした。だが、頷くことなく、首を横に振る。
「ここ最近、頻繁に『破壊』してくれと口にしてたんだよな。それだけありゃいいんだ、それだけ、あればな」
 ゼンには必要のない動作。
 金色に光って『見える』ファインを示す光に手を伸ばし拾い、望みを叶える言葉を口にする。
「『ファイン・ゾンダーリングの身体、魂、魔力の完全再生の特異体質を破壊し、命潰える時、魔族としての死すらも破壊する』」