【2】
ー/ー
舞が、……他にどうしようもなく都会に残してきた恋人が突然会いたいと連絡を寄越したのは数日前のこと。
もちろん快諾して、約束の今日を迎えたわけだ。
本当にずっと一緒にいたから、離れて何か月も経ったわけではないのに長いこと顔を合わせていなかったような気がする。
この年になってからの再スタートでいろいろな意味で余裕もなくて、こちらからは何とか電話やメッセージを切らさないようにするのが精一杯だった。
だから正直、こんなに早く機会が巡って来るとは思ってもいなかったんだ。
しかし考えてみれば。
心理的にはもちろん、物理的な距離も途轍もなく遠いようにも感じるが、実際には東京から仙台なんて最短で二時間も掛からず移動できるんだからな。
そうだよ、会いたければ会えばいいんだ。
さすがに、同じ街で暮らしていた以前みたいに思い立ったらいつでもとは行かない。
けれど、本当に『会う』だけならそこまでハードルは高くないのだ、と俺は今回のことで再認識することができた。
我ながら高揚した気分で出迎えた俺の前に現れた彼女は、何故か浮かない顔を隠そうともしていなかった。
元々表情豊かなタイプではないが、俺の前では他に対するのとは別人のように笑顔を見せてくれていたのに。
向こうで何かあったんだろうか。突然足を運んで来たのも、そのため……?
男の一人暮らしの割には、片付いているという自信がある家。彼女を部屋に通して声を交わすうち、事情はすぐに飲み込めた。
「さよなら、彰人さん。あなたのことなんて、わたし本当は好きじゃなかったんです」
どうやらこの恋人は、俺に別れを突き付けるために遥々やって来たらしい。
「だからもう、わたしのことは忘れてください。これでようやく解放されますよ」
「嘘吐き」
似合わない薄ら笑いを浮かべて淡々と冷たい声を発する恋人に、俺も声を荒げることなく告げる。
「……なんでわたしが嘘なんて吐かなきゃならないんですか? あなたって、随分と自信過剰なんですね」
平静を装った声で、彼女の口から紡がれる言葉。
「自分は誰もに好かれて当然だとでも思ってるなら、ちょっと改めた方がいいんじゃないですか?」
「だったらもっとはっきり言ってみてくれよ。俺の目を見て、あんたなんか大嫌いだって」
そうしたら、俺も信じるしかないかもしれない。
今のお前の台詞が本心だったのなら、それくらい平気なはずだよな?
これからはもう、こんな風にわざわざお膳立てでもしない限りは会うこともない。職場で毎日、嫌でも仕方なく顔を合わせる必要なんかなくなる。同僚だった今までみたいには。
「最後に思いっきり全部、俺にぶつけて行けよ。今まで好きじゃなかったのに我慢して付き合ってくれてたんなら、言いたいことも山ほどあるんだろ?」
俺の言葉に動揺は伺えないものの、彼女は口を噤んでしまった。
「なぁ、舞。……お前にそういうのは無理だ」
なんでいきなりそんなこと言い出したんだよ。
会いたいときにすぐ会えなかったら意味ないとか、傍にいてくれない俺なんかもうどうでもいいとか。
離れたら自然消滅してしまうような、その程度の関係だったのか? だから、そうなる前に自分から切ってやろうとでも?
──違うだろう。
それが俺のためだと思ったんだよな? 俺が心機一転、ひとりでゼロから出直せるように。お前は本当は優しい子だから。
だけど……。
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|舞《まい》が、……他にどうしようもなく都会に残してきた恋人が突然会いたいと連絡を寄越したのは数日前のこと。
もちろん快諾して、約束の今日を迎えたわけだ。
本当にずっと一緒にいたから、離れて何か月も経ったわけではないのに長いこと顔を合わせていなかったような気がする。
この年になってからの再スタートでいろいろな意味で余裕もなくて、こちらからは何とか電話やメッセージを切らさないようにするのが精一杯だった。
だから正直、こんなに早く機会が巡って来るとは思ってもいなかったんだ。
しかし考えてみれば。
心理的にはもちろん、物理的な距離も|途轍《とてつ》もなく遠いようにも感じるが、実際には東京から仙台なんて最短で二時間も掛からず移動できるんだからな。
そうだよ、会いたければ会えばいいんだ。
さすがに、同じ街で暮らしていた以前みたいに思い立ったらいつでもとは行かない。
けれど、本当に『会う』だけならそこまでハードルは高くないのだ、と俺は今回のことで再認識することができた。
我ながら高揚した気分で出迎えた俺の前に現れた彼女は、何故か浮かない顔を隠そうともしていなかった。
元々表情豊かなタイプではないが、俺の前では他に対するのとは別人のように笑顔を見せてくれていたのに。
向こうで何かあったんだろうか。突然足を運んで来たのも、そのため……?
男の一人暮らしの割には、片付いているという自信がある家。彼女を部屋に通して声を交わすうち、事情はすぐに飲み込めた。
「さよなら、|彰人《あきひと》さん。あなたのことなんて、わたし本当は好きじゃなかったんです」
どうやらこの恋人は、俺に別れを突き付けるために遥々やって来たらしい。
「だからもう、わたしのことは忘れてください。これでようやく解放されますよ」
「|嘘吐《うそつ》き」
似合わない薄ら笑いを浮かべて淡々と冷たい声を発する恋人に、俺も声を荒げることなく告げる。
「……なんでわたしが嘘なんて吐かなきゃならないんですか? あなたって、随分と自信過剰なんですね」
平静を装った声で、彼女の口から|紡《つむ》がれる言葉。
「自分は誰もに好かれて当然だとでも思ってるなら、ちょっと改めた方がいいんじゃないですか?」
「だったらもっとはっきり言ってみてくれよ。俺の目を見て、あんたなんか大嫌いだって」
そうしたら、俺も信じるしかないかもしれない。
今のお前の台詞が本心だったのなら、それくらい平気なはずだよな?
これからはもう、こんな風にわざわざお膳立てでもしない限りは会うこともない。職場で毎日、嫌でも仕方なく顔を合わせる必要なんかなくなる。同僚だった今までみたいには。
「最後に思いっきり全部、俺にぶつけて行けよ。今まで《《好きじゃなかった》》のに我慢して付き合ってくれてたんなら、言いたいことも山ほどあるんだろ?」
俺の言葉に動揺は伺えないものの、彼女は口を噤んでしまった。
「なぁ、舞。……お前にそういうのは無理だ」
なんでいきなりそんなこと言い出したんだよ。
会いたいときにすぐ会えなかったら意味ないとか、傍にいてくれない俺なんかもうどうでもいいとか。
離れたら自然消滅してしまうような、その程度の関係だったのか? だから、そうなる前に自分から切ってやろうとでも?
──違うだろう。
それが俺のためだと思ったんだよな? 俺が心機一転、ひとりでゼロから出直せるように。お前は本当は優しい子だから。
だけど……。