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3,5話 フォルの仕事

ー/ー




 エレシェフィールはフォルの睡眠魔法でぐっすりと眠っている。しばらくは何があっても起きないだろう。
 眠っているエレシェフィールを割れものを扱うように大事に抱き上げる。

「さて、この子も眠った事だ。そろそろ僕も仕事をするか」

 フォルの翠色に瞳が黄金に変わる。エレシェフィールに見せていた穏やかな表情はそこにはない。

「いくつもあるけどまずは……リブス件か」

 感情が乗っていない声。フォルは見せつけるように王冠を被る男に視線を向けた。
 王冠を被る男は、服に宝石をあしらいいかにも金持ちと言わんばかりの格好をしている。

「何度か会った事があるな。元リブス王国宰相」

「……黄金に緑系の髪……まさか……お、黄金蝶様」

 王冠を被る男が青ざめた顔をしている。腰が抜けたのか、這いつくばって会場から出ようとする王冠を被る男。他の貴族達も逃げようとしている。
 だが、会場の外に出る事ができる場所は全て氷で塞がれている。ゼーシェリオンが氷魔法で会場から逃げられなくしていた。

 目に見える場所以外にも一見気づかないような隠し通路まで全て。

 ゼーシェリオンが役目を終えてフォルの元へくる。フォルはエレシェフィールをゼーシェリオンに渡した。

「大事にしてよ。僕の大事なお姫様なんだから」

 フォルは愛おしげにエレシェフィールを見つめながらゼーシェリオンにそう言った。

「わかってる」

「それなら良いよ」

 フォルはエレシェフィールから視線を外す。

「リブス国王の不在を良い事に好き勝手していたのはたっぷりと主様に話してもらう。それと、あの本が関わっているとはいえ、これは流石にやりすぎだ。ここまでしているなら本を言い訳にはできない」

 フォルはその言葉に魔法を使った。会場の貴族達が白い息を吐く。ぶるぶると震えている。

「禁止指定魔法の使用に管理者管轄の書庫から本を盗んだ件は優しいギュシェルの方に任せてあげる。もう一個の方は僕が直接罰するけど」

 真っ青に凍えている貴族達。フォルは無表情で貴族達を見る。

 エレシェフィールが起きていた時は威勢が良かった女も、わけがわからないと言いたげな表情で震えている。

「魔力異常体質による発作。あれはちゃんとした治療をしないとまともに動く事すらできなくなる。そのくらいの知識はあったはずだ。なのに、あの子を監禁して治療をせず金儲けの道具としていた。発作を起こしても放置して、この場で牢に閉じ込めて本の複製だけをさせようとしていた」

 フォルがエレシェフィールにも見せた報告書。そこにはエレシェフィールに希望を持たせて本の複製をさせる。その後は婚約破棄に冤罪をかけて牢で自由を奪い、金儲けの道具として使おうとしている。そんな内容があった。

 エレシェフィールがもしこの国の待遇に希望を抱いていれば深い傷を心に負わせていただろう。

 フォルは変わらず無表情で貴族達を見ているがその目にはわずかに怒りが込められている。

「そうだな……貴族身分の剥奪に全財産没収。エクランダ帝国統合。可哀想だからこのくらいにしてやるか」

 フォルは淡々とそう告げる。
 当然貴族達は猛反対だ。だが、誰も声には出さない。声を発する事すらできなくなっている。

「ゼロ、帰るよ」

「あ、ああ」

 ゼーシェリオンが何かを言いたげに貴族達を見た。
 フォルはぶるぶると震えている貴族達を放って転移魔法を使った。


 仕事の書類と資料で机だけが散らかっている部屋にフォル達は転移した。ゼーシェリオンがエレシェフィールをベッドの上に寝かせている。
 その間にフォルは棚の上にあるエレシェフィールのぬいぐるみをクローゼットの中に隠した。

「なぁ、良かったのか? 本の回収しなくて」

「主様がやってくれるよ。僕はリブイン王国を実質的解体に追いやる事が役目だからね」

 フォルはそう言って机の上から本を取った。本の表紙には私が主人公と書かれている。
 フォルは本をゼーシェリオンに渡した。

「一冊は持っているんだ。読んでいいよ」

「読んでいいって……お前これ危険だって言わなかったか? お前と違って俺は精神魔法無効とかねぇんだよ」

 ゼーシェリオンが本を開こうとしない。フォルはゼーシェリオンに笑顔を見せた。

「大丈夫だよ。僕、フィルほどじゃないけど解呪魔法使えるから」

 フォルが笑顔を見せているからか、ゼーシェリオンはかなり警戒しているようだ。本をフォルに返そうとする。だが、フォルは本を受け取らずに笑みを浮かべていた。

 フォルがずっと本を受け取らないでいると、諦めたのかゼーシェリオンが本を開いた。

 フォルも本を手に入れた時に読んだ事があるが、本の内容はどこにでもある恋愛小説だ。内容に不審な点はどこにもない。

 簡単に読んだゼーシェリオンは本の影響を受けず、フォルに返した。

「これ、最初に読んだ相手以外には今のとこ何ともないんだ。ギュシェルの方で何人か読んだけど全員影響を受けなかった。体制があるからだけなのかもしれないけど。というか、ほんとに危険ならあの場で回収してたよ」

 フォルはそう言って本を受け取った。
 本を棚の中に入れて机の上の書類を机の下に隠す。

「……それ見えるだろ」

「エレは僕が教育したから机の下は見ないんだ。ほんとに素直で疑う事知らないよ」

 机の下に入りきらない書類は本棚に入れる。エレシェフィールが本と勘違いするように。
 離れて本棚を見ると本に見える。
 書類をあの手この手で隠し終えるとフォルはエレシェフィールの側で座った。

 エレシェフィールの額に触れる。触れた手にいつも以上に熱を感じる。

「むりさせすぎたかな……しばらくはゆっくりさせておくか」

 フォルはゼーシェリオンにタオルを冷やしてもらう。エレシェフィールの額の上にタオルを乗せた。
「んーみゅー」と声を出してエレシェフィールが身じろぎをした。

「あっ、落ちた」

 フォルはエレシェフィールの額から落ちてタオルを拾い額に置き直した。

「……ほんとにかわいい」

「……そんなに大事ならよりを戻せよ」

 ゼーシェリオンがフォルの隣に座る。

「……できるわけないって知ってるでしょ。エレのためにも、僕は好きになっちゃだめなんだ。君だって知ってるでしょ? 僕がエレを愛した結末を」

 エレシェフィールがフォルの手を握る。力が弱く、フォルがその気ならすぐに離せる。だが、フォルは手を離す事なくエレシェフィールの好きにさせている。

「そうだな。エレが理解しねぇ限りは変わんねぇからな……エレにそれを教えるよりお前が諦める方が楽だろうな。なんでも抗い続けるより、諦めた方が楽なんだ」

「……それで諦めきれていたら、どれだけ楽なんだろうね。全部、諦めてしまえば楽なんだって、諦められたら。でも、できないんだよ。どれだけ諦めようとしても、自分に嘘をついても……おかしいよね。失う事なら簡単に諦められるのに、失わないため……失ったもののためなら諦められないって」

 フォルが恋人になればエレシェフィールは喜んでくれる。笑顔を見せて幸せだと言ってくれる。それを知っているからフォルは簡単にこの想いを手放せない。
 その恋心がエレシェフィールを傷つけるだけなら簡単に諦められたのに。

「おかしくねぇよ。だからみんなお前のために動くんだろ。お前が……お前らが一緒に笑ってくれるためにって貴重な誓いも使うんだ。まあ、あれはエレへの負担を考えながらになるが」

 ゼーシェリオンがエレシェフィールの手に触れる。

「悪かったな。あの時の誓いに神聖力を込めてなくて。貴重な誓いだと騙して」

 エレシェフィールの手に触れているゼーシェリオンの手が空色に光る。光がエレシェフィールに吸収される。

「……俺らの力が少しでもエレを守るだろ」

「……ありがと、ゼロ」


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 エレシェフィールはフォルの睡眠魔法でぐっすりと眠っている。しばらくは何があっても起きないだろう。
 眠っているエレシェフィールを割れものを扱うように大事に抱き上げる。
「さて、この子も眠った事だ。そろそろ僕も仕事をするか」
 フォルの翠色に瞳が黄金に変わる。エレシェフィールに見せていた穏やかな表情はそこにはない。
「いくつもあるけどまずは……リブス件か」
 感情が乗っていない声。フォルは見せつけるように王冠を被る男に視線を向けた。
 王冠を被る男は、服に宝石をあしらいいかにも金持ちと言わんばかりの格好をしている。
「何度か会った事があるな。元リブス王国宰相」
「……黄金に緑系の髪……まさか……お、黄金蝶様」
 王冠を被る男が青ざめた顔をしている。腰が抜けたのか、這いつくばって会場から出ようとする王冠を被る男。他の貴族達も逃げようとしている。
 だが、会場の外に出る事ができる場所は全て氷で塞がれている。ゼーシェリオンが氷魔法で会場から逃げられなくしていた。
 目に見える場所以外にも一見気づかないような隠し通路まで全て。
 ゼーシェリオンが役目を終えてフォルの元へくる。フォルはエレシェフィールをゼーシェリオンに渡した。
「大事にしてよ。僕の大事なお姫様なんだから」
 フォルは愛おしげにエレシェフィールを見つめながらゼーシェリオンにそう言った。
「わかってる」
「それなら良いよ」
 フォルはエレシェフィールから視線を外す。
「リブス国王の不在を良い事に好き勝手していたのはたっぷりと主様に話してもらう。それと、あの本が関わっているとはいえ、これは流石にやりすぎだ。ここまでしているなら本を言い訳にはできない」
 フォルはその言葉に魔法を使った。会場の貴族達が白い息を吐く。ぶるぶると震えている。
「禁止指定魔法の使用に管理者管轄の書庫から本を盗んだ件は優しいギュシェルの方に任せてあげる。もう一個の方は僕が直接罰するけど」
 真っ青に凍えている貴族達。フォルは無表情で貴族達を見る。
 エレシェフィールが起きていた時は威勢が良かった女も、わけがわからないと言いたげな表情で震えている。
「魔力異常体質による発作。あれはちゃんとした治療をしないとまともに動く事すらできなくなる。そのくらいの知識はあったはずだ。なのに、あの子を監禁して治療をせず金儲けの道具としていた。発作を起こしても放置して、この場で牢に閉じ込めて本の複製だけをさせようとしていた」
 フォルがエレシェフィールにも見せた報告書。そこにはエレシェフィールに希望を持たせて本の複製をさせる。その後は婚約破棄に冤罪をかけて牢で自由を奪い、金儲けの道具として使おうとしている。そんな内容があった。
 エレシェフィールがもしこの国の待遇に希望を抱いていれば深い傷を心に負わせていただろう。
 フォルは変わらず無表情で貴族達を見ているがその目にはわずかに怒りが込められている。
「そうだな……貴族身分の剥奪に全財産没収。エクランダ帝国統合。可哀想だからこのくらいにしてやるか」
 フォルは淡々とそう告げる。
 当然貴族達は猛反対だ。だが、誰も声には出さない。声を発する事すらできなくなっている。
「ゼロ、帰るよ」
「あ、ああ」
 ゼーシェリオンが何かを言いたげに貴族達を見た。
 フォルはぶるぶると震えている貴族達を放って転移魔法を使った。
 仕事の書類と資料で机だけが散らかっている部屋にフォル達は転移した。ゼーシェリオンがエレシェフィールをベッドの上に寝かせている。
 その間にフォルは棚の上にあるエレシェフィールのぬいぐるみをクローゼットの中に隠した。
「なぁ、良かったのか? 本の回収しなくて」
「主様がやってくれるよ。僕はリブイン王国を実質的解体に追いやる事が役目だからね」
 フォルはそう言って机の上から本を取った。本の表紙には私が主人公と書かれている。
 フォルは本をゼーシェリオンに渡した。
「一冊は持っているんだ。読んでいいよ」
「読んでいいって……お前これ危険だって言わなかったか? お前と違って俺は精神魔法無効とかねぇんだよ」
 ゼーシェリオンが本を開こうとしない。フォルはゼーシェリオンに笑顔を見せた。
「大丈夫だよ。僕、フィルほどじゃないけど解呪魔法使えるから」
 フォルが笑顔を見せているからか、ゼーシェリオンはかなり警戒しているようだ。本をフォルに返そうとする。だが、フォルは本を受け取らずに笑みを浮かべていた。
 フォルがずっと本を受け取らないでいると、諦めたのかゼーシェリオンが本を開いた。
 フォルも本を手に入れた時に読んだ事があるが、本の内容はどこにでもある恋愛小説だ。内容に不審な点はどこにもない。
 簡単に読んだゼーシェリオンは本の影響を受けず、フォルに返した。
「これ、最初に読んだ相手以外には今のとこ何ともないんだ。ギュシェルの方で何人か読んだけど全員影響を受けなかった。体制があるからだけなのかもしれないけど。というか、ほんとに危険ならあの場で回収してたよ」
 フォルはそう言って本を受け取った。
 本を棚の中に入れて机の上の書類を机の下に隠す。
「……それ見えるだろ」
「エレは僕が教育したから机の下は見ないんだ。ほんとに素直で疑う事知らないよ」
 机の下に入りきらない書類は本棚に入れる。エレシェフィールが本と勘違いするように。
 離れて本棚を見ると本に見える。
 書類をあの手この手で隠し終えるとフォルはエレシェフィールの側で座った。
 エレシェフィールの額に触れる。触れた手にいつも以上に熱を感じる。
「むりさせすぎたかな……しばらくはゆっくりさせておくか」
 フォルはゼーシェリオンにタオルを冷やしてもらう。エレシェフィールの額の上にタオルを乗せた。
「んーみゅー」と声を出してエレシェフィールが身じろぎをした。
「あっ、落ちた」
 フォルはエレシェフィールの額から落ちてタオルを拾い額に置き直した。
「……ほんとにかわいい」
「……そんなに大事ならよりを戻せよ」
 ゼーシェリオンがフォルの隣に座る。
「……できるわけないって知ってるでしょ。エレのためにも、僕は好きになっちゃだめなんだ。君だって知ってるでしょ? 僕がエレを愛した結末を」
 エレシェフィールがフォルの手を握る。力が弱く、フォルがその気ならすぐに離せる。だが、フォルは手を離す事なくエレシェフィールの好きにさせている。
「そうだな。エレが理解しねぇ限りは変わんねぇからな……エレにそれを教えるよりお前が諦める方が楽だろうな。なんでも抗い続けるより、諦めた方が楽なんだ」
「……それで諦めきれていたら、どれだけ楽なんだろうね。全部、諦めてしまえば楽なんだって、諦められたら。でも、できないんだよ。どれだけ諦めようとしても、自分に嘘をついても……おかしいよね。失う事なら簡単に諦められるのに、失わないため……失ったもののためなら諦められないって」
 フォルが恋人になればエレシェフィールは喜んでくれる。笑顔を見せて幸せだと言ってくれる。それを知っているからフォルは簡単にこの想いを手放せない。
 その恋心がエレシェフィールを傷つけるだけなら簡単に諦められたのに。
「おかしくねぇよ。だからみんなお前のために動くんだろ。お前が……お前らが一緒に笑ってくれるためにって貴重な誓いも使うんだ。まあ、あれはエレへの負担を考えながらになるが」
 ゼーシェリオンがエレシェフィールの手に触れる。
「悪かったな。あの時の誓いに神聖力を込めてなくて。貴重な誓いだと騙して」
 エレシェフィールの手に触れているゼーシェリオンの手が空色に光る。光がエレシェフィールに吸収される。
「……俺らの力が少しでもエレを守るだろ」
「……ありがと、ゼロ」