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第2話:青髪少女と赤髪少女と

ー/ー



2話_表紙
「……とっても、美味しいです」

 胃の中心から底にかけて『じわぁっ……』と、温かいが沈んでいく。

「……あそ。そいつはよかった」

 猫とじゃれ合いながら、ぶっきらぼうにメイドさんが短く返事をする。

 俺は恩を仇で返す様に、半ば愚痴混じりにこれまでのことを話した。

「いまどき住み込みで働かせてくれるところもなくて……人生、上手くいかないものですね……。はははっ……」

 俺はカラ元気でそう答えた。

「お前。なんかできるのか?」

「え。……そ、そうですね。機械とかちょっと得意ですね。パソコンの修理とか」

「ふぅん。さて――と」

 メイドさんがベンチから立ち上がる。
 俺もつられて立ち上がって、彼女に頭を下げた。

「あ……。 どうも! ありがとうございました。おかげで何とかなりそうです」

 何とかなるわけもないが、これ以外の答えが他ない。
 メイドさんがこちらに視線を向ける。

「あ? まだ腹減ってんだろ。行くぞ」

「え。え……?」

「ショージキ、無視すりゃよかったと思ってる。めんどくせえし」

「うっ……」

「だけど、アタシにはアタシのそうしないといけない理由がある。だから勘違いすんなよ」

 踵を返して、メイドさんはスタスタと歩いて行ってしまった。
 これが令和の、勘違いしないでよね! の形なのだろうか。

 途中。
 メイドさんは自分の手をお腹に当てながら、ボソッとなにかを呟いていた。

 いまの俺は行く当てもない。
 この機会を逃したら、もう次はないだろう。

 俺は急いでメイドさんのところまで走った。

「……ああ、でも。タダじゃねえぞ。客としてもてなすが、食った分はあとで請求するからな」

「はい。もちろんです。ちゃんとお支払いします」

「ああ、あと。機械が得意だって言ったよな?」

「は、はい。一応……」

「壊れてても直せんのか?」

「うーん……壊れ方によるかと思いますけど、おそらく……」

「ふぅん……あそ。ま、決めんのはオーナーだ。とりあえず……案内してやるよ。うちの店『喫茶らぶろあ』に」

 赤髪のメイドさんに誘われて、俺は公園を後にした。

* * *

――ガチャリ

 音を立てて、お店の裏手のドアが開く。

「――ただいま。すまーん。雪華ぁー、いま戻ったー」

 メイドさんは階段下から二階に向かって、誰かに呼びかけていたが反応はなかった。
 俺はメイドさんの後に続き、従業員用の通路から喫茶店のホールに出た。

「とりあえずそこ座ってろ」

「あ、はい。すみません……」

 俺は流されるまま、テーブル席に座った。

 周りを見る。
 お店は古ぼけた木造建築で、昭和レトロな雰囲気を醸している。

「さっちゃぁああん……。おそいよぉぉお……。なにしてたのぉおおお」

 ほどなくして、うめき声のようなものが聞こえる。
 黒い影がふらふらとした足取りで、従業員用の通路から近づいてくるのがわかった。

「すまん。予定外の出来事があってな、遅くなった」

 予定外……って、完全に俺のことだよな……。
 なんか、すみません……。

「もうお腹空き過ぎて胃液が……うっぷ」

 そう言いながら、青髪の子は俺の隣の席に座り、机にぐったりと倒れた。
 黄色いパーカーから胸元が覗いていて、下に何か履いているのかわからないくらい太ももが露出していた。

「あぁ、わかったわかった。すぐ作るからもうちょい待っててくれ」

 メイドさんはカウンター席の奥のキッチンへと消えていった。

「はやくしてねぇえええん……」

 赤髪の次は青髪の子が現れた。
 昨今の若者は、髪色をカラフルに染めるのが流行っているのだろうか。

「せっちゃんも、お腹空いたよねぇ」

 青髪の子が話しかけてくる。
 ……念のため言っておくが、俺はせっちゃんではない。

「ねーえぇ。せっちゃん聞いて――」

「…………」

――シーン

 青髪の子と目が合い、時が沈黙する。
 途端『えっ!?』という困惑の顔をして、体を上げる。

 その後、キッチンで料理をしているメイドさんと俺を見比べた後、考え込み始めた。

「――あー、すまん雪華。言うの忘れてた」

 メイドさんが料理を一品ずつ運んでくる。

「さっちゃん」

「……あん?」

「わたし、霊能力に目覚めたかも……。しかもいま、突然」

 青髪の子は困惑していた。
 しかし、自身に芽生えたであろう能力のことを、まっすぐに、そして俺のことを見ながら、力強く言い放った。

 ……いや。
 熟考した結果が、本当にそれでいいのか……?

「……そ、そうか」

 メイドさんも困惑していた。
 俺も困惑している。ここにまともなのは誰一人いなかった。

「あのね。驚かないで聞いてね? さっちゃんの隣にね、男の人の幽霊が見える。……しかも薄汚れた感じの」

「そうか」

「たぶん……貧乏神かも。見るからに倖薄そうな感じだし……。薄汚れてるし……」

 やめろやめろ。
 俺は良いとして、神を愚弄するな。

「なんか……、すみません」

 俺が喋ったとたん、青髪の子が目を見開いた。

「ささ、ささささっちゃんっ!!」

「……おう。どした」

「貧乏神様が! 喋ったよ!!」

「……そうか」

「悔恨の念を述べてるよ……。貧乏神でも自責の念に駆られることってあるんだね……」

 メイドさんは頭を掻きながら、青髪の子にため息交じりで答えた。

「……雪華。ファビュラスな能力に目覚めているとこ申し訳ないが、後ろのコイツはただの人間だ」

「ど、どうも……」

 その言葉を聞いて、再び青髪の子は驚きと困惑の色を含んだ顔をしながら、固まってしまった。

――ガチャ

「紗姫、帰ったのか。私も腹がへ――うん?」

 店の奥から現れた長身の女性は、固まる俺達を見て、やはり困惑していた。
 でも良かった、今度は黒髪だった。


 ――こうして、平凡だったはずの俺の生活は、
 この青髪の少女『柚月雪華』を中心とした不可思議な現象に巻き込まれていくことになる。



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「……とっても、美味しいです」
 胃の中心から底にかけて『じわぁっ……』と、温かいが沈んでいく。
「……あそ。そいつはよかった」
 猫とじゃれ合いながら、ぶっきらぼうにメイドさんが短く返事をする。
 俺は恩を仇で返す様に、半ば愚痴混じりにこれまでのことを話した。
「いまどき住み込みで働かせてくれるところもなくて……人生、上手くいかないものですね……。はははっ……」
 俺はカラ元気でそう答えた。
「お前。なんかできるのか?」
「え。……そ、そうですね。機械とかちょっと得意ですね。パソコンの修理とか」
「ふぅん。さて――と」
 メイドさんがベンチから立ち上がる。
 俺もつられて立ち上がって、彼女に頭を下げた。
「あ……。 どうも! ありがとうございました。おかげで何とかなりそうです」
 何とかなるわけもないが、これ以外の答えが他ない。
 メイドさんがこちらに視線を向ける。
「あ? まだ腹減ってんだろ。行くぞ」
「え。え……?」
「ショージキ、無視すりゃよかったと思ってる。めんどくせえし」
「うっ……」
「だけど、アタシにはアタシのそうしないといけない理由がある。だから勘違いすんなよ」
 踵を返して、メイドさんはスタスタと歩いて行ってしまった。
 これが令和の、勘違いしないでよね! の形なのだろうか。
 途中。
 メイドさんは自分の手をお腹に当てながら、ボソッとなにかを呟いていた。
 いまの俺は行く当てもない。
 この機会を逃したら、もう次はないだろう。
 俺は急いでメイドさんのところまで走った。
「……ああ、でも。タダじゃねえぞ。客としてもてなすが、食った分はあとで請求するからな」
「はい。もちろんです。ちゃんとお支払いします」
「ああ、あと。機械が得意だって言ったよな?」
「は、はい。一応……」
「壊れてても直せんのか?」
「うーん……壊れ方によるかと思いますけど、おそらく……」
「ふぅん……あそ。ま、決めんのはオーナーだ。とりあえず……案内してやるよ。うちの店『喫茶らぶろあ』に」
 赤髪のメイドさんに誘われて、俺は公園を後にした。
* * *
――ガチャリ
 音を立てて、お店の裏手のドアが開く。
「――ただいま。すまーん。雪華ぁー、いま戻ったー」
 メイドさんは階段下から二階に向かって、誰かに呼びかけていたが反応はなかった。
 俺はメイドさんの後に続き、従業員用の通路から喫茶店のホールに出た。
「とりあえずそこ座ってろ」
「あ、はい。すみません……」
 俺は流されるまま、テーブル席に座った。
 周りを見る。
 お店は古ぼけた木造建築で、昭和レトロな雰囲気を醸している。
「さっちゃぁああん……。おそいよぉぉお……。なにしてたのぉおおお」
 ほどなくして、うめき声のようなものが聞こえる。
 黒い影がふらふらとした足取りで、従業員用の通路から近づいてくるのがわかった。
「すまん。予定外の出来事があってな、遅くなった」
 予定外……って、完全に俺のことだよな……。
 なんか、すみません……。
「もうお腹空き過ぎて胃液が……うっぷ」
 そう言いながら、青髪の子は俺の隣の席に座り、机にぐったりと倒れた。
 黄色いパーカーから胸元が覗いていて、下に何か履いているのかわからないくらい太ももが露出していた。
「あぁ、わかったわかった。すぐ作るからもうちょい待っててくれ」
 メイドさんはカウンター席の奥のキッチンへと消えていった。
「はやくしてねぇえええん……」
 赤髪の次は青髪の子が現れた。
 昨今の若者は、髪色をカラフルに染めるのが流行っているのだろうか。
「せっちゃんも、お腹空いたよねぇ」
 青髪の子が話しかけてくる。
 ……念のため言っておくが、俺はせっちゃんではない。
「ねーえぇ。せっちゃん聞いて――」
「…………」
――シーン
 青髪の子と目が合い、時が沈黙する。
 途端『えっ!?』という困惑の顔をして、体を上げる。
 その後、キッチンで料理をしているメイドさんと俺を見比べた後、考え込み始めた。
「――あー、すまん雪華。言うの忘れてた」
 メイドさんが料理を一品ずつ運んでくる。
「さっちゃん」
「……あん?」
「わたし、霊能力に目覚めたかも……。しかもいま、突然」
 青髪の子は困惑していた。
 しかし、自身に芽生えたであろう能力のことを、まっすぐに、そして俺のことを見ながら、力強く言い放った。
 ……いや。
 熟考した結果が、本当にそれでいいのか……?
「……そ、そうか」
 メイドさんも困惑していた。
 俺も困惑している。ここにまともなのは誰一人いなかった。
「あのね。驚かないで聞いてね? さっちゃんの隣にね、男の人の幽霊が見える。……しかも薄汚れた感じの」
「そうか」
「たぶん……貧乏神かも。見るからに倖薄そうな感じだし……。薄汚れてるし……」
 やめろやめろ。
 俺は良いとして、神を愚弄するな。
「なんか……、すみません」
 俺が喋ったとたん、青髪の子が目を見開いた。
「ささ、ささささっちゃんっ!!」
「……おう。どした」
「貧乏神様が! 喋ったよ!!」
「……そうか」
「悔恨の念を述べてるよ……。貧乏神でも自責の念に駆られることってあるんだね……」
 メイドさんは頭を掻きながら、青髪の子にため息交じりで答えた。
「……雪華。ファビュラスな能力に目覚めているとこ申し訳ないが、後ろのコイツはただの人間だ」
「ど、どうも……」
 その言葉を聞いて、再び青髪の子は驚きと困惑の色を含んだ顔をしながら、固まってしまった。
――ガチャ
「紗姫、帰ったのか。私も腹がへ――うん?」
 店の奥から現れた長身の女性は、固まる俺達を見て、やはり困惑していた。
 でも良かった、今度は黒髪だった。
 ――こうして、平凡だったはずの俺の生活は、
 この青髪の少女『柚月雪華』を中心とした不可思議な現象に巻き込まれていくことになる。