第1話:伝承のはじまり
ー/ー
縁。
そんなものは錯覚だ。
触れてみろよ。油でベタ付くだけだ。
俺のは緑じゃなくて赤だって? それはお前の生命線だよ。おめでとう。
人と人との関係なんて、切れるときは驚くほどすぐ切れるのに、切れない時は地面に吐かれたガムそのものだ。
でも、もしそれを無自覚で無作為に無責任のまま結びつけているヤツがいたら。どうだろうか。
――これは、そういう物語だ。
* * * * * * *
第一章 せっかりょうらん(上)
* * * * * * *
「――は?」
不動産屋のカウンター越し、綺麗な女性の口から出た言葉に、俺の頭はついていけなかった。
「ですので……、そちらのお部屋については、すでに別の方が入居されておりまして……」
「え? いやいや……、え、だって俺、契約しましたよね……? お金も振り込んでますよね……?」
春休み明けから私立聖北学園に転籍するため、新居となる部屋のカギを不動産屋に受け取りに来ただけのはずだった。
「はい。そちらについてはこちらでも確認ができております。ですが……、その……、こちらの手違いで、二重契約となってしまっておりまして……」
「二重……? え、つまり俺、今日から住めないってことですか?」
「今日からといいますか……、まあ、はい。そう……なりますね」
「え、えぇー……」
「あ! でもこちらの物件なんかもおススメでして」
「えぇー……」
* * *
実家を威勢よく飛び出してきた時は、足取りも軽かった。
しかし、いまの気持ちは雲の上から地面に叩きつけられたようなものだった。
俺は、上京初日にして今日……いや、今後の生活拠点を失ってしまった。
「……いや、そもそも得てすらいないか。この場合はなんていうんだろうなぁ」
見知らぬ住宅街、小さな公園のベンチにもたれながら俺は天を仰いだ。
いまから空き部屋の契約をしようとしても、今日の寝床がない問題は解決しない。
なにより、敷金が返ってこなければ新しく契約する金もない。
―――グゥウウ
叱られた犬のような情けない音がする。
「腹減った……家で何か食ってから出てくればよかった。」
季節は春。
目に見える穏やかで暖かな光は、俺にはまだ届いていないようで、肌寒い風を感じていた。
* * *
――ビュウビュウ
夜。公園に身を置いて、どれくらい経っただろうか。
とりあえず住み込みで働けるようなところを探して街を徘徊していたが、このご時世そんな求人は無かった。
そうして俺は、結局、公園に戻ってきていた。
「はぁ……寒いなぁ」
その時だった。
風に乗って、いい匂いがしてきた。
匂いの方を見ると、メイド服を着た赤髪の少女が猫に餌をやろうとしていた。
「……アイツはいま、人間の俺よりも良い待遇を受けているんだな」
猫は良いよなぁ。
可愛いってだけで、あんな美少女メイドからご飯をもらえるんだから。
―――グゥウウウウウウ
再び、情けない音が静かな公園に響いた。
おそらく公園の端まで聞こえただろう。いままでで一番大きい音だった。
「腹、減ったなぁ……」
俺は地面を見てうな垂れた。
家もない。金も無い。飯も食えない。仕事もない。
無いものだけがたくさんあった。
途端、腹の音以上に情けなくなって、地面が霞んだ。
「……ぉい。……て」
「うぇえ……?」
自分で思っていたよりも顔はぐしゃぐしゃだったようだ。
赤髪のメイドさんは若干引いた感じになっていた。
「……お、おう。やべえ顔してるな」
赤髪のメイドさんは、その手にスープとパンを持っていた。
猫は取り返そうと執拗に絡んでいたが、スープの雫は落ちることなく皿の中で踊るだけだった。
最近のメイドさんは一芸に秀でてないとやっていけないのかもしれない。
とりあえず、俺はその姿に拍手を送ることにした。
そんなものは錯覚だ。
触れてみろよ。油でベタ付くだけだ。
俺のは緑じゃなくて赤だって? それはお前の生命線だよ。おめでとう。
人と人との関係なんて、切れるときは驚くほどすぐ切れるのに、切れない時は地面に吐かれたガムそのものだ。
でも、もしそれを無自覚で無作為に無責任のまま結びつけているヤツがいたら。どうだろうか。
――これは、そういう物語だ。
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第一章 せっかりょうらん(上)
* * * * * * *
「――は?」
不動産屋のカウンター越し、綺麗な女性の口から出た言葉に、俺の頭はついていけなかった。
「ですので……、そちらのお部屋については、すでに別の方が入居されておりまして……」
「え? いやいや……、え、だって俺、契約しましたよね……? お金も振り込んでますよね……?」
春休み明けから私立聖北学園に転籍するため、新居となる部屋のカギを不動産屋に受け取りに来ただけのはずだった。
「はい。そちらについてはこちらでも確認ができております。ですが……、その……、こちらの手違いで、二重契約となってしまっておりまして……」
「二重……? え、つまり俺、今日から住めないってことですか?」
「今日からといいますか……、まあ、はい。そう……なりますね」
「え、えぇー……」
「あ! でもこちらの物件なんかもおススメでして」
「えぇー……」
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実家を威勢よく飛び出してきた時は、足取りも軽かった。
しかし、いまの気持ちは雲の上から地面に叩きつけられたようなものだった。
俺は、上京初日にして今日……いや、今後の生活拠点を失ってしまった。
「……いや、そもそも得てすらいないか。この場合はなんていうんだろうなぁ」
見知らぬ住宅街、小さな公園のベンチにもたれながら俺は天を仰いだ。
いまから空き部屋の契約をしようとしても、今日の寝床がない問題は解決しない。
なにより、敷金が返ってこなければ新しく契約する金もない。
―――グゥウウ
叱られた犬のような情けない音がする。
「腹減った……家で何か食ってから出てくればよかった。」
季節は春。
目に見える穏やかで暖かな光は、俺にはまだ届いていないようで、肌寒い風を感じていた。
* * *
――ビュウビュウ
夜。公園に身を置いて、どれくらい経っただろうか。
とりあえず住み込みで働けるようなところを探して街を徘徊していたが、このご時世そんな求人は無かった。
そうして俺は、結局、公園に戻ってきていた。
「はぁ……寒いなぁ」
その時だった。
風に乗って、いい匂いがしてきた。
匂いの方を見ると、メイド服を着た赤髪の少女が猫に餌をやろうとしていた。
「……アイツはいま、人間の俺よりも良い待遇を受けているんだな」
猫は良いよなぁ。
可愛いってだけで、あんな美少女メイドからご飯をもらえるんだから。
―――グゥウウウウウウ
再び、情けない音が静かな公園に響いた。
おそらく公園の端まで聞こえただろう。いままでで一番大きい音だった。
「腹、減ったなぁ……」
俺は地面を見てうな垂れた。
家もない。金も無い。飯も食えない。仕事もない。
無いものだけがたくさんあった。
途端、腹の音以上に情けなくなって、地面が霞んだ。
「……ぉい。……て」
「うぇえ……?」
自分で思っていたよりも顔はぐしゃぐしゃだったようだ。
赤髪のメイドさんは若干引いた感じになっていた。
「……お、おう。やべえ顔してるな」
赤髪のメイドさんは、その手にスープとパンを持っていた。
猫は取り返そうと執拗に絡んでいたが、スープの雫は落ちることなく皿の中で踊るだけだった。
最近のメイドさんは一芸に秀でてないとやっていけないのかもしれない。
とりあえず、俺はその姿に拍手を送ることにした。
■あとがき
柚月雪華
如月紗姫

絢瀬せつな

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