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SCENE168 スピアのこと

ー/ー



 衣織お姉さんやダンジョン管理局の人は帰っていったんだけど、どういうわけかスピアさんはダンジョンに滞在し続けていた。

「なんで残っているんですかね」

 僕はきょとんとしながら、スピアさんに尋ねてしまう。まあ、いい方はちょっと悪い感じなんだけどね。
 だけど、スピアさんは気にしない感じで僕の方へと寄ってくる。

「ダンジョンのことをよく知りたいわ。だから、ちょっと今夜はここで泊まらせてもらってもいいかしら。もちろん、攻撃はしないから」

 僕に近付くと、スピアさんはものすごく頼み込んできた。
 まあ、ここのダンジョンマスターは僕だから、頼む相手としては間違ってないんだけどね。
 でも、どうしたものかなぁ……。
 僕はちらりとバトラーの方を見る。
 ところが、僕が目を向けてもバトラーは黙っているし、反応をまったく示さない。これは、僕の判断に任せるっていうことでいいのかな。

「分かったよ。ダンジョンの中で一泊っていうのはないとは限らないもんね。僕たちに危害を加えない、これが絶対条件だからね」

「もちろん、分かっているわ。二度とあんな目に遭いたくないもの……」

 僕が条件を言い渡すと、スピアさんはバトラーの方を見ながら震えていた。
 そっか。初めて来た日に、バトラーに顔面をボコボコに殴られてたもんね。回復させようと思った見た時には、鼻の骨は折れていたし、もうどれだけ強い力で殴ったのかがよく分かる状態だったもの。
 いや、バトラーって女性相手でも遠慮ないんだなって思った瞬間だったよ。

「プリンセスに害をなすものは、たとえ子どもでも遠慮はしませんぞ。しかし、あれだけ我が本気で殴ったのに、気絶くらいで済んだのは、正直言って驚きですけれどな」

「頑丈だけが取り柄なのよ」

 バトラーに言われて、スピアさんは右手に力こぶを作っていた。
 いや、頑丈をアピールするのに、そのポーズをするの? 思わぬ行動に、僕はどう反応していいのか困っちゃったよ。

「それはそうとして、僕はどうしてスピアさんの言葉が分かるようになったんだろ」

「それは、モンスターの特性というやつですぞ、プリンセス」

「どういうこと?」

 ふと思い出してつぶやくと、バトラーが説明してくれた。
 上位のモンスターはあらゆる相手とコミュケーションが取れるようにと、マナを使って言語翻訳ができるらしい。なにそれ、すごく便利な能力じゃないか。
 と、思ったんだけど、そういえばダンジョンの配信も翻訳ができるようになっていたね。同じような仕組みなのかなぁ。
 結局、ダンジョンについては謎が深まるばかりだったよ。

「それはそうと、スピア殿」

「な、なによ……」

 バトラーがスピアさんに話しかける。手加減なしに殴られた経験があるからか、スピアさんはつい身構えてしまう。

「我らの感知が追いつかない動作は、一体どうやって行ったのですかな。この我が後れを取るなど、まず普通に考えられぬことですからな」

「あ、それは気になる。どういうことなのかな」

「わたくしもですね」

「あたくしもですわ」

 バトラーの質問に、僕だけじゃなくてラティナさんとアルカナさんも便乗している。
 正直言って、あのボウガンはラティナさんの護石がなければやばかった。当たりどころが悪ければ死んでいたのは間違いない。

「あれは……」

 僕たちの圧に負けて、スピアさんはたじろぎながら話し始めている。その言葉に、僕たちはごくりと息をのんでいる。

「私の特有のスキルを使ったの。加速(ブースト)っていうユニークスキルよ」

「ほう……。我らの鑑定をすり抜けるようなスキル、とても興味がございますね」

 絶対話すようにと、バトラーがものすごい圧をかけている。殺されかかったわけだから、スピアさんにとって、ものすごいプレッシャーになっているのは間違いないよ。
 ほら見てよ。スピアさんが冷や汗を流しながら、がたがたと震えてるんだもの。

「はい、バトラー、ストップ」

「プリンセス、なぜ止めるのですか?」

「これ以上プレッシャーをかけたら、スピアさんが気絶しちゃうからだよ。間違いなくバトラーのことがトラウマになってるんだからね」

「はあ、仕方ありませんな」

 僕がストップをかけたことで、バトラーはスピアさんから距離を取っている。スピアさんは胸に手を当てて、大きく息を吐いている。よっぽど怖かったんだろうなぁ。
 バトラーを少し遠ざけたことで、スピアさんの状態は少し落ち着いた。何度か深呼吸をしたと、スピアさんはようやくユニークスキルについて話してくれた。
 スピアさんのユニークスキルは、一秒間を六倍から六十倍の間で、好きに引き延ばすことができる能力らしい。つまり、他の人にとっての一秒間で、六秒から一分間の行動ができるというものらしい。
 ただ、自分の体への負担が大きいから、あんまり連続使用はできないということなんだとか。なんでも、呼吸ができなくなるらしい。実は、便利なようで怖いスキルだった。

「呼吸できないっていうのが難点でね。だから、複雑な動きができないの」

「便利だと思ったけど、そんなペナルティみたいなのがあるなんて、怖いスキルだなぁ」

「なるほど。我が動きを追えなかったのも納得できますな」

 いろいろと謎が解けたことで、僕たちはなんともすっきりした気分だった。
 その後は、ラティナさんとアルカナさんが中心となってスピアさんといろいろと話をしていた。世界が違っても、女性同士だといろいろと話が弾むみたいだ。
 僕は元々男だから、ちょっと話には混ざれないな。
 時間が経過して、夕食の時間が近くなってきたことで、僕とバトラーで食事の準備を始める。
 初めて出会った時の殺伐とした空気はどこへやら。その日の僕たちは、とても楽しそうな雰囲気で過ごすことができたよ。


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 衣織お姉さんやダンジョン管理局の人は帰っていったんだけど、どういうわけかスピアさんはダンジョンに滞在し続けていた。
「なんで残っているんですかね」
 僕はきょとんとしながら、スピアさんに尋ねてしまう。まあ、いい方はちょっと悪い感じなんだけどね。
 だけど、スピアさんは気にしない感じで僕の方へと寄ってくる。
「ダンジョンのことをよく知りたいわ。だから、ちょっと今夜はここで泊まらせてもらってもいいかしら。もちろん、攻撃はしないから」
 僕に近付くと、スピアさんはものすごく頼み込んできた。
 まあ、ここのダンジョンマスターは僕だから、頼む相手としては間違ってないんだけどね。
 でも、どうしたものかなぁ……。
 僕はちらりとバトラーの方を見る。
 ところが、僕が目を向けてもバトラーは黙っているし、反応をまったく示さない。これは、僕の判断に任せるっていうことでいいのかな。
「分かったよ。ダンジョンの中で一泊っていうのはないとは限らないもんね。僕たちに危害を加えない、これが絶対条件だからね」
「もちろん、分かっているわ。二度とあんな目に遭いたくないもの……」
 僕が条件を言い渡すと、スピアさんはバトラーの方を見ながら震えていた。
 そっか。初めて来た日に、バトラーに顔面をボコボコに殴られてたもんね。回復させようと思った見た時には、鼻の骨は折れていたし、もうどれだけ強い力で殴ったのかがよく分かる状態だったもの。
 いや、バトラーって女性相手でも遠慮ないんだなって思った瞬間だったよ。
「プリンセスに害をなすものは、たとえ子どもでも遠慮はしませんぞ。しかし、あれだけ我が本気で殴ったのに、気絶くらいで済んだのは、正直言って驚きですけれどな」
「頑丈だけが取り柄なのよ」
 バトラーに言われて、スピアさんは右手に力こぶを作っていた。
 いや、頑丈をアピールするのに、そのポーズをするの? 思わぬ行動に、僕はどう反応していいのか困っちゃったよ。
「それはそうとして、僕はどうしてスピアさんの言葉が分かるようになったんだろ」
「それは、モンスターの特性というやつですぞ、プリンセス」
「どういうこと?」
 ふと思い出してつぶやくと、バトラーが説明してくれた。
 上位のモンスターはあらゆる相手とコミュケーションが取れるようにと、マナを使って言語翻訳ができるらしい。なにそれ、すごく便利な能力じゃないか。
 と、思ったんだけど、そういえばダンジョンの配信も翻訳ができるようになっていたね。同じような仕組みなのかなぁ。
 結局、ダンジョンについては謎が深まるばかりだったよ。
「それはそうと、スピア殿」
「な、なによ……」
 バトラーがスピアさんに話しかける。手加減なしに殴られた経験があるからか、スピアさんはつい身構えてしまう。
「我らの感知が追いつかない動作は、一体どうやって行ったのですかな。この我が後れを取るなど、まず普通に考えられぬことですからな」
「あ、それは気になる。どういうことなのかな」
「わたくしもですね」
「あたくしもですわ」
 バトラーの質問に、僕だけじゃなくてラティナさんとアルカナさんも便乗している。
 正直言って、あのボウガンはラティナさんの護石がなければやばかった。当たりどころが悪ければ死んでいたのは間違いない。
「あれは……」
 僕たちの圧に負けて、スピアさんはたじろぎながら話し始めている。その言葉に、僕たちはごくりと息をのんでいる。
「私の特有のスキルを使ったの。|加速《ブースト》っていうユニークスキルよ」
「ほう……。我らの鑑定をすり抜けるようなスキル、とても興味がございますね」
 絶対話すようにと、バトラーがものすごい圧をかけている。殺されかかったわけだから、スピアさんにとって、ものすごいプレッシャーになっているのは間違いないよ。
 ほら見てよ。スピアさんが冷や汗を流しながら、がたがたと震えてるんだもの。
「はい、バトラー、ストップ」
「プリンセス、なぜ止めるのですか?」
「これ以上プレッシャーをかけたら、スピアさんが気絶しちゃうからだよ。間違いなくバトラーのことがトラウマになってるんだからね」
「はあ、仕方ありませんな」
 僕がストップをかけたことで、バトラーはスピアさんから距離を取っている。スピアさんは胸に手を当てて、大きく息を吐いている。よっぽど怖かったんだろうなぁ。
 バトラーを少し遠ざけたことで、スピアさんの状態は少し落ち着いた。何度か深呼吸をしたと、スピアさんはようやくユニークスキルについて話してくれた。
 スピアさんのユニークスキルは、一秒間を六倍から六十倍の間で、好きに引き延ばすことができる能力らしい。つまり、他の人にとっての一秒間で、六秒から一分間の行動ができるというものらしい。
 ただ、自分の体への負担が大きいから、あんまり連続使用はできないということなんだとか。なんでも、呼吸ができなくなるらしい。実は、便利なようで怖いスキルだった。
「呼吸できないっていうのが難点でね。だから、複雑な動きができないの」
「便利だと思ったけど、そんなペナルティみたいなのがあるなんて、怖いスキルだなぁ」
「なるほど。我が動きを追えなかったのも納得できますな」
 いろいろと謎が解けたことで、僕たちはなんともすっきりした気分だった。
 その後は、ラティナさんとアルカナさんが中心となってスピアさんといろいろと話をしていた。世界が違っても、女性同士だといろいろと話が弾むみたいだ。
 僕は元々男だから、ちょっと話には混ざれないな。
 時間が経過して、夕食の時間が近くなってきたことで、僕とバトラーで食事の準備を始める。
 初めて出会った時の殺伐とした空気はどこへやら。その日の僕たちは、とても楽しそうな雰囲気で過ごすことができたよ。