【2】①
ー/ー
「……あー」
若松と連れ立って帰るために辿り着いた昇降口。
杏美の靴箱は紙くずや菓子の包装ごみで溢れていた。
「なっ! なんだよこれ。葛西、そんな平気な顔で……。もしかしてずっとこんなことされてたのか!?」
「毎日じゃないけどね」
事実をそのまま告げる。
こういうことは誇張しない方がかえって効果的だ。杏美の自作自演だとでもいうのならともかく、間違いなく久理子の仕業だろう。
教室でのあからさまな態度は鳴りを潜め、入れ替わるように陰湿な顔を見せない嫌がらせが始まっていた。
いま杏美に「直接」なにかすれば、若松が黙っていないのは明白だからだ。同様に、佳映に対する理不尽な仕打ちもない。
「なんで言わないんだよ! こんな、卑怯だろ!」
「汚れ物じゃないし、捨てればいいから。たいしたことないわ」
万が一にも笑みが漏れないよう俯いたのを、彼は傷ついているせいだと捉えたらしい。
基本何にも動じない、気が強くはっきりした杏美の普段にない様子に、若松の方が怒りを抑えられないようだった。
「──なあ、これ綾野だよな? 葛西、ずっとイジメられてたじゃん!」
「わかんないわ。誰がやったのか見たことないし。他に心当たりなんてないけど、勝手に決めつけるの嫌だよ」
明言はしないものの「久理子の仕業だと思っている」というのは伝わった筈だ。
「だからってさあ! 俺、こういうの許せねえ! ガツンと言ってやんねえと……」
「あのさ、『もし』そうだったらまたエスカレートしたら困るから。若松も今までのこと知ってるでしょ? 私はどうでもいいけど、佳映に向いたらどうしてくれんの? 証拠でもあるならともかく」
黙り込んで考えを巡らせているらしい若松に、どうやらいい方向に行きそうだ、と杏美は顔には出さずに笑った。
嫌な奴だとしか感じてはいなかった。
この一週間共に過ごす時間が増えてはいても、特別な感情などはまだない。それでも彼が、二人でいるときに杏美の意向を確かめつつ楽しませようと努めているのは伝わっていた。
もっと独善的で「黙って言いなりになっていればいい」というタイプに見えていたのに。
思ったよりも「いい男」らしい暫定恋人。
「なあ、葛西。今日は寄り道できる? お家の方は?」
「あー、今日は何も言って来てないから。明日ならお茶くらい大丈夫だよ」
杏美の言葉に、彼はまるで飼い主に尻尾を振る犬のように満面の笑みで「だったら明日はカフェ行こう!」と明るい声を上げた。
きっと若松は、このまま見過ごすことはしないだろう。
どちらにしても、久理子の末路を見届けられればそれでよかった。
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杏美の靴箱は紙くずや菓子の包装ごみで溢れていた。
「なっ! なんだよこれ。葛西、そんな平気な顔で……。もしかしてずっとこんなことされてたのか!?」
「毎日じゃないけどね」
事実をそのまま告げる。
こういうことは誇張しない方がかえって効果的だ。杏美の自作自演だとでもいうのならともかく、間違いなく久理子の仕業だろう。
教室でのあからさまな態度は鳴りを潜め、入れ替わるように陰湿な顔を見せない嫌がらせが始まっていた。
いま杏美に「直接」なにかすれば、若松が黙っていないのは明白だからだ。同様に、佳映に対する理不尽な仕打ちもない。
「なんで言わないんだよ! こんな、卑怯だろ!」
「汚れ物じゃないし、捨てればいいから。たいしたことないわ」
万が一にも笑みが漏れないよう俯いたのを、彼は傷ついているせいだと捉えたらしい。
基本何にも動じない、気が強くはっきりした杏美の普段にない様子に、若松の方が怒りを抑えられないようだった。
「──なあ、これ綾野だよな? 葛西、ずっとイジメられてたじゃん!」
「わかんないわ。誰がやったのか見たことないし。他に心当たりなんてないけど、勝手に決めつけるの嫌だよ」
明言はしないものの「久理子の仕業だと思っている」というのは伝わった筈だ。
「だからってさあ! 俺、こういうの許せねえ! ガツンと言ってやんねえと……」
「あのさ、『もし』そうだったらまたエスカレートしたら困るから。若松も今までのこと知ってるでしょ? 私はどうでもいいけど、佳映に向いたらどうしてくれんの? 証拠でもあるならともかく」
黙り込んで考えを巡らせているらしい若松に、どうやらいい方向に行きそうだ、と杏美は顔には出さずに笑った。
嫌な奴だとしか感じてはいなかった。
この一週間共に過ごす時間が増えてはいても、特別な感情などはまだない。それでも彼が、二人でいるときに杏美の意向を確かめつつ楽しませようと努めているのは伝わっていた。
もっと独善的で「黙って言いなりになっていればいい」というタイプに見えていたのに。
思ったよりも「いい男」らしい暫定恋人。
「なあ、葛西。今日は寄り道できる? お家の方は?」
「あー、今日は何も言って来てないから。明日ならお茶くらい大丈夫だよ」
杏美の言葉に、彼はまるで飼い主に尻尾を振る犬のように満面の笑みで「だったら明日はカフェ行こう!」と明るい声を上げた。
きっと若松は、このまま見過ごすことはしないだろう。
どちらにしても、久理子の末路を見届けられればそれでよかった。