【2】②
ー/ー
◇ ◇ ◇
「ひとりで帰んの? 私は若松と約束してるけど」
放課後の人気のない昇降口付近。
今日は若松が部活のミーティングで、すぐに終わるというので図書室に寄って時間調整していたのだ。
靴箱を目指して廊下を歩いていた杏美は、正面から、……つまり靴箱方面からやって来た久理子と行き会った瞬間、彼女を見ることもせずに呟く。
聞き咎めてキッと鋭い目を向けて来たクラスメイトに、杏美はスクールバッグを故意にゆっくりと肩に掛け直した。焦らすかのように。
「私、あんな奴別にどうでもいいの。あんたが好きな男だっていうから、告白されてちょっと付き合ってやってもいいか、ってだけ。まあ優しいし、一緒にいて気分悪いわけじゃないから向こうが別れたいって言わなきゃこのままでいいわ」
薄笑いを浮かべて歌うような調子で語る杏美に、言質を取ったとでも勘違いしたのだろうか。
「あ、あんたがそんな女だって若松にバレたら──」
久理子が引き攣った醜い顔で口にした「切り札」を一蹴する。
「知ってるに決まってるでしょ。若松はそういうの全部わかった上で私が好きなんだって〜。どんなに媚びてへつらっても相手にもされない、……愛想笑いするのも面倒がられるあんたとは違うのよ」
いくら不遜な久理子でも、常に彼から不快そうな顔を向けられていた事実は認めざるを得ないだろう。
それでも諦めずに愚直なアタックを繰り返す能のなさには失笑しかなかったが。
「影で私にコソコソくだらないことしてんのも、若松は知ってるよ? 私が止めて『あげてる』だけ。『余計なこと言ってもっとヒドイことされたら面倒だから』って」
そのまま数歩先の靴箱の前に立ち、自分の靴の上に置かれたものを摘まみ出した。
「あ、あたしがやった証拠なんかないわ! 変な言い掛かりつけないでよ!」
この言葉を待っていた、と自然口角が上がるのがわかる。
「あるよ、証拠。あんたが私の靴箱にすっごい卑しい顔でゴミ突っ込んでるところ、宗が動画撮ってたんだけど気づかなかった? 今の、っていうかあいつのスマホのカメラ高性能で、遠目でもズームでバッチリあんただってわかるやつ」
杏美が放った銃弾に、久理子は面白いほどに動揺を表した。
「全然おとなしくもないし、可愛げあるわけでもない私がショック受けてる、って若松すごい怒ってたよ。ねえ、それこそ私が『もう無理、なんとかして』って言ったら、あんたどうなると思う?」
必死で笑いを噛み殺しながら、目の前を飛ぶ羽虫の如き邪魔な女をじわじわと追い詰める。
「あたし、そんなつもりじゃなくて、……杏美、ホントに」
「私が『虐められて辛い、久理子の顔見たくない』って言えば、あいつらあの動画の上映会するんじゃない? あんたが学校やめるまでずっと、ずっと、あちこちで何度でも! 全部あんたがやったことの結果だからどうしようもないよね。まあさすがにネットには、──うーん、宗ならどうかなあ?」
この場に至っても口先だけの謝罪さえする気のない、自分の立場を理解できていないらしい女にもわかるように、と微に入り細を穿った説明をした。
「なんであんたなのよ! それにあたしは別にそこまで悪いことなんてしてない! ちょっとしたイタズラじゃない!」
突然開き直ったかのような久理子を、どうすれば完膚なきまでに叩きのめすことができるだろうか。
「だったら別に構わなくない? 『ちょっとした悪戯』で全然悪いことでもないんならさ、全世界に公開されたって困ることないよねえ!?」
「そん、……それ、は」
言うまでもなく、事実だとしても何の問題もないでは通らない。しかし、その程度は承知の上で杏美は白々しく言葉を繋いだ。
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「ひとりで帰んの? 私は若松と約束してるけど」
放課後の人気のない昇降口付近。
今日は若松が部活のミーティングで、すぐに終わるというので図書室に寄って時間調整していたのだ。
靴箱を目指して廊下を歩いていた杏美は、正面から、……つまり《《靴箱方面から》》やって来た久理子と行き会った瞬間、彼女を見ることもせずに呟く。
聞き咎めてキッと鋭い目を向けて来たクラスメイトに、杏美はスクールバッグを故意にゆっくりと肩に掛け直した。焦らすかのように。
「私、あんな奴別にどうでもいいの。あんたが好きな男だっていうから、告白されてちょっと付き合ってやってもいいか、ってだけ。まあ優しいし、一緒にいて気分悪いわけじゃないから向こうが別れたいって言わなきゃこのままでいいわ」
薄笑いを浮かべて歌うような調子で語る杏美に、言質を取ったとでも勘違いしたのだろうか。
「あ、あんたがそんな女だって若松にバレたら──」
久理子が引き攣った醜い顔で口にした「切り札」を一蹴する。
「知ってるに決まってるでしょ。若松はそういうの全部わかった上で《《私が》》好きなんだって〜。どんなに媚びてへつらっても相手にもされない、……愛想笑いするのも面倒がられるあんたとは違うのよ」
いくら不遜な久理子でも、常に彼から不快そうな顔を向けられていた事実は認めざるを得ないだろう。
それでも諦めずに愚直なアタックを繰り返す能のなさには失笑しかなかったが。
「影で私にコソコソくだらないことしてんのも、若松は知ってるよ? 私が止めて『あげてる』だけ。『余計なこと言ってもっとヒドイことされたら面倒だから』って」
そのまま数歩先の靴箱の前に立ち、自分の靴の上に置かれたものを摘まみ出した。
「あ、あたしがやった証拠なんかないわ! 変な言い掛かりつけないでよ!」
この言葉を待っていた、と自然口角が上がるのがわかる。
「あるよ、証拠。あんたが私の靴箱にすっごい卑しい顔でゴミ突っ込んでるところ、宗が動画撮ってたんだけど気づかなかった? 今の、っていうかあいつのスマホのカメラ高性能で、遠目でもズームでバッチリあんただってわかるやつ」
杏美が放った銃弾に、久理子は面白いほどに動揺を表した。
「全然おとなしくもないし、可愛げあるわけでもない私がショック受けてる、って若松すごい怒ってたよ。ねえ、それこそ私が『もう無理、なんとかして』って言ったら、あんたどうなると思う?」
必死で笑いを噛み殺しながら、目の前を飛ぶ羽虫の如き邪魔な女をじわじわと追い詰める。
「あたし、そんなつもりじゃなくて、……杏美、ホントに」
「私が『虐められて辛い、久理子の顔見たくない』って言えば、あいつらあの動画の上映会するんじゃない? あんたが学校やめるまでずっと、ずっと、あちこちで何度でも! 全部あんたがやったことの結果だからどうしようもないよね。まあさすがにネットには、──うーん、宗ならどうかなあ?」
この場に至っても口先だけの謝罪さえする気のない、自分の立場を理解できていないらしい女にもわかるように、と微に入り細を穿った説明をした。
「なんであんたなのよ! それにあたしは別にそこまで悪いことなんてしてない! ちょっとしたイタズラじゃない!」
突然開き直ったかのような久理子を、どうすれば完膚なきまでに叩きのめすことができるだろうか。
「だったら別に構わなくない? 『ちょっとした悪戯』で全然悪いことでもないんならさ、全世界に公開されたって困ることないよねえ!?」
「そん、……それ、は」
言うまでもなく、事実だとしても何の問題もないでは通らない。しかし、その程度は承知の上で杏美は白々しく言葉を繋いだ。