【1】②
ー/ー
「葛西、今日昼メシ一緒に食わねえ?」
「ごめん、昼は先約あるんだ」
告白を受け入れた翌日、登校した杏美を待ち構えていた若松に誘いを掛けられた。
「あ、そっか。いやいいよ。急に言った俺が悪いんだし」
食い下がられたら面倒だな、と眉を顰めそうになった杏美は理由を問い質すこともなく引く彼に驚きつつも安心する。
「杏美ちゃん、あの、……若松くんと……?」
「ああ、まあね。『付き合ってくれ』って言われたから。私のどこがいいのかわかんないけど」
佳映の問いに答えながら、同時に露骨に聞き耳を立てているのがわかる久理子へも確実に届けるために、声を抑えることもしなかった。
「クーコ……!」
誰かが椅子を蹴倒す勢いで走り去る音と気配を背中に感じながら、杏美はそちらを振り返ることさえせずに佳映との会話を続ける。
「そうなんだ、全然知らなかったからびっくりしちゃった。杏美ちゃんはそういうの興味ないと思ってたし」
「私も一応は女子高生の端くれだしね。あ、佳映。お昼は今まで通り一緒に食べよ! それでさ、昨日話してたあれ──」
実際に興味などないのだが、わざわざここで口にすることではないと話題を変えた。
「若松、ちょっといい?」
「え!? 何?」
食事を終えた昼休み、杏美は佳映に断って若松を誘い教室を出た。
「私が佳映と仲良いの知ってるよね? 昼もいつも二人で食べてるから、もし私が若松と食べたらあの子一人になっちゃう。まあそれは気にしないと思うけど、……佳映にとばっちり行ったら困るの。意味わかる?」
無言で彼を先導して歩き、人気のない廊下の端で足を止めて切り出す。
「ああ、そういうことか。わかる。綾野だろ」
杏美が久理子に執拗に悪意を向けられていることは周知の事実だ。
当の杏美が平然としているため誰も間に入ろうとはしないが、不快感を覚えているクラスメイトは多いのだろうか。
「……佳映は中学の時ちょっと虐められてた時期あったみたいなんだ。陰でやりやがるから私も知らなかった。もう二度とそんな目に合わせたくない。だから絶対巻き込みたくないんだよ!」
思わず声に力を込めた杏美に、目の前の彼は真剣な面持ちになった。
「俺も宗とか河野に気ィつけてもらうように言っとく!」
「余計なことはしなくていいからね。もしものときはせめて私に教えてくれたら助かる」
杏美に頼られたことが嬉しいのか、若松は「任しとけ!」と胸を張った。
「葛西、友達思いだよな」
「普通よ、こんなの。若松は違うの?」
真顔の杏美に、彼は納得したように「違わねえ」と返して来る。
「なあ、今日一緒に帰れる……? 駅まででいいから」
「うん。でも若松、部活は?」
「今日はオフ! 練習ない日だけでも一緒に帰ろ?」
いいよ、と返した杏美に、若松は嬉しそうに頷いた。
久理子に「若松が杏美と付き合い出した」ことを知らせ、唯一の不安である佳映の安全にも一応は備えた。
あとは向こうの出方待ちか。
結局、その日のうちに早速行動に出た久理子に、杏美は餌に引かれて罠に掛かる獲物を重ねていた。
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「葛西、今日昼メシ一緒に食わねえ?」
「ごめん、昼は先約あるんだ」
告白を受け入れた翌日、登校した杏美を待ち構えていた若松に誘いを掛けられた。
「あ、そっか。いやいいよ。急に言った俺が悪いんだし」
食い下がられたら面倒だな、と眉を顰めそうになった杏美は理由を問い質すこともなく引く彼に驚きつつも安心する。
「杏美ちゃん、あの、……若松くんと……?」
「ああ、まあね。『付き合ってくれ』って言われたから。私のどこがいいのかわかんないけど」
佳映の問いに答えながら、同時に露骨に聞き耳を立てているのがわかる久理子へも確実に届けるために、声を抑えることもしなかった。
「クーコ……!」
《《誰か》》が椅子を蹴倒す勢いで走り去る音と気配を背中に感じながら、杏美はそちらを振り返ることさえせずに佳映との会話を続ける。
「そうなんだ、全然知らなかったからびっくりしちゃった。杏美ちゃんはそういうの興味ないと思ってたし」
「私も一応は女子高生の端くれだしね。あ、佳映。お昼は今まで通り一緒に食べよ! それでさ、昨日話してたあれ──」
実際に興味などないのだが、わざわざここで口にすることではないと話題を変えた。
「若松、ちょっといい?」
「え!? 何?」
食事を終えた昼休み、杏美は佳映に断って若松を誘い教室を出た。
「私が佳映と仲良いの知ってるよね? 昼もいつも二人で食べてるから、もし私が若松と食べたらあの子一人になっちゃう。まあそれは気にしないと思うけど、……佳映にとばっちり行ったら困るの。意味わかる?」
無言で彼を先導して歩き、人気のない廊下の端で足を止めて切り出す。
「ああ、そういうことか。わかる。綾野だろ」
杏美が久理子に執拗に悪意を向けられていることは周知の事実だ。
当の杏美が平然としているため誰も間に入ろうとはしないが、不快感を覚えているクラスメイトは多いのだろうか。
「……佳映は中学の時ちょっと虐められてた時期あったみたいなんだ。陰でやりやがるから私も知らなかった。もう二度とそんな目に合わせたくない。だから絶対巻き込みたくないんだよ!」
思わず声に力を込めた杏美に、目の前の彼は真剣な面持ちになった。
「俺も宗とか|河野《かわの》に気ィつけてもらうように言っとく!」
「余計なことはしなくていいからね。もしものときはせめて私に教えてくれたら助かる」
杏美に頼られたことが嬉しいのか、若松は「任しとけ!」と胸を張った。
「葛西、友達思いだよな」
「普通よ、こんなの。若松は違うの?」
真顔の杏美に、彼は納得したように「違わねえ」と返して来る。
「なあ、今日一緒に帰れる……? 駅まででいいから」
「うん。でも若松、部活は?」
「今日はオフ! 練習ない日だけでも一緒に帰ろ?」
いいよ、と返した杏美に、若松は嬉しそうに頷いた。
久理子に「|若松《片想い相手》が杏美と付き合い出した」ことを知らせ、唯一の不安である佳映の安全にも一応は備えた。
あとは向こうの出方待ちか。
結局、その日のうちに早速行動に出た久理子に、杏美は餌に引かれて罠に掛かる獲物を重ねていた。