第37話【反逆編】鉄と煙はコーヒーの味『綺麗なウソ』より『泥臭いリアル』
ー/ー第37話【反逆編】鉄と煙はコーヒーの味『綺麗なウソ』より『泥臭いリアル』
「……おい、メルクリア。ここがゴールか?」
脱出ポッドは、追っ手の魔導艇を振り切り、政府の地図から抹消された未踏の地〝鉄と錆の渓谷〟へと突っ込んだ。
そこには、巨大な滝の裏側に隠された、秘密の工房があった。
魔法の気配が一切ない、オイルの匂いと金属のぶつかり合う音だけが支配する場所だ。
脱出ポッドが泥を跳ね上げながら停止したのは、巨大なダムの排出口に隠された、メルクリアの秘密工房〝ジャンクヤード・ヘルメス〟だった。
――ギギギギギギ
ポッドのハッチが軋んだ音を立てて開く。
「……冗談じゃねえ、ただのガラクタ置き場じゃねえか」
テラが真っ先に見たのは、天を突くようなスクラップの山。
クレーンに吊るされた巨大な歯車、そして魔法の輝きが一切ない、重苦しい〝灰色の空〟だった。
「失礼だなぁ。ここはボク以外家族も知らない〝聖域〟だよ。ほら、ぼさっとしないで。少女たちを医務室へ」
※※※
その夜、一行は工房の中央で焚き火を囲んでいた。
メルクリアが振る舞ったのは、魔法で出した豪華な料理ではなく、古びた缶詰を熱しただけの代物と、焦げた香りのする安物のコーヒーだった。
「……うえっ、苦ぇ……。なんだよこれ、泥水か?」
「それが〝リアル〟だよ。魔法で作った完璧な味に慣れすぎたんだ。苦味も、熱さで自分の喉を焼く感覚も、全部自分の神経で感じなよ」
「……でも、温かい。魔法の灯りじゃない、本当の火の温かさだ……」
アレスは震える手でカップを持ち、一口すする。セレネは黙々と、逃げてきた少女たちの汚れを拭いてやっていた。
「……テラ様。見てください。彼女たちの怯えた顔」
「……」
「これこそが、政府が〝消去〟しようとした、この世界の生きた傷跡です。私たちはこれを守らなければなりません」
テラは、自分の横に立てかけたガイアセイバーをじっと見つめる。
ただの重い鉄の塊。
かつて世界を揺るがした聖剣は、今や漬物石ほどの役にも立たない。
「……なぁメルクリア、お前の言う〝物理〟ってので、こいつをもう少しマシにできねえのか」
「できるよ。でも、魔法みたいな〝奇跡〟は期待しないで。物理の基本は〝等価交換〟。時間が必要だ。数日はここで大人しくしてなよ。政府の連中も、まさかボクたちがこんなゴミ溜めに潜んでるなんて思わない」
翌朝、テラは、かつて経験したことのない〝全身の重み〟で目を覚ました。
魔法の加護があれば、疲労など一瞬で霧散していた。
だが今は、ボロい毛布から這い出すだけで節々が悲鳴を上げる。
「……いてて。おい、メルクリア。この寝床、床より硬いんじゃねえか?」
「贅沢言わないの。ほら、起きたならこれ。ボイラーの火種を切らさないように石炭を放り込んで。それが今の君の〝修行〟だよ」
それから数日間、テラは重い鉄板を運んだり、真っ黒な石炭の袋を担いだり、ボイラーのスス掃除をしたりした。
「……あーあ。勇者様がススまみれで掃除かよ。笑えねぇな」
「ふふ、でもテラ様。今のあなたのほうが、あの着飾っていた頃よりずっと〝生きている〟顔をしていますよ」
一方、アレスは工房の隅で、巨大な手回し式の発電機と格闘していた。
「もっと早く!回転が安定しないと、蓄電器が止まっちゃうよ!」
「……くっ、ああぁぁ!」
アレスの手のひらは、ハンドルの摩擦ですでに豆がつぶれ、血が滲んでいた。
〝闇の勇者〟として、指先一つで雷を操っていた彼が、今はたった数ボルトの電気を生むために、全身の筋肉を震わせ、汗を流しながらハンドルを回し続けている。
セレネは救い出した少女たちと共に、メルクリアの散らかった図面を整理したり、スクラップの中から使える布や部品を選別していた。
「……テラ様は、不器用ですね。石炭を放り込むだけで顔まで真っ黒です」
「でも、あのお姉ちゃんが頑張ってるから……私たち、怖くないよ」
少女たちは、テラやアレスが泥まみれで働く姿を見て、少しずつ笑顔を取り戻していた。
政府の〝綺麗なウソ〟よりも、目の前の〝泥臭いリアル〟の方が、彼女たちには温かく感じられた。
「……おい、メルクリア。ここがゴールか?」
脱出ポッドは、追っ手の魔導艇を振り切り、政府の地図から抹消された未踏の地〝鉄と錆の渓谷〟へと突っ込んだ。
そこには、巨大な滝の裏側に隠された、秘密の工房があった。
魔法の気配が一切ない、オイルの匂いと金属のぶつかり合う音だけが支配する場所だ。
脱出ポッドが泥を跳ね上げながら停止したのは、巨大なダムの排出口に隠された、メルクリアの秘密工房〝ジャンクヤード・ヘルメス〟だった。
――ギギギギギギ
ポッドのハッチが軋んだ音を立てて開く。
「……冗談じゃねえ、ただのガラクタ置き場じゃねえか」
テラが真っ先に見たのは、天を突くようなスクラップの山。
クレーンに吊るされた巨大な歯車、そして魔法の輝きが一切ない、重苦しい〝灰色の空〟だった。
「失礼だなぁ。ここはボク以外家族も知らない〝聖域〟だよ。ほら、ぼさっとしないで。少女たちを医務室へ」
※※※
その夜、一行は工房の中央で焚き火を囲んでいた。
メルクリアが振る舞ったのは、魔法で出した豪華な料理ではなく、古びた缶詰を熱しただけの代物と、焦げた香りのする安物のコーヒーだった。
「……うえっ、苦ぇ……。なんだよこれ、泥水か?」
「それが〝リアル〟だよ。魔法で作った完璧な味に慣れすぎたんだ。苦味も、熱さで自分の喉を焼く感覚も、全部自分の神経で感じなよ」
「……でも、温かい。魔法の灯りじゃない、本当の火の温かさだ……」
アレスは震える手でカップを持ち、一口すする。セレネは黙々と、逃げてきた少女たちの汚れを拭いてやっていた。
「……テラ様。見てください。彼女たちの怯えた顔」
「……」
「これこそが、政府が〝消去〟しようとした、この世界の生きた傷跡です。私たちはこれを守らなければなりません」
テラは、自分の横に立てかけたガイアセイバーをじっと見つめる。
ただの重い鉄の塊。
かつて世界を揺るがした聖剣は、今や漬物石ほどの役にも立たない。
「……なぁメルクリア、お前の言う〝物理〟ってので、こいつをもう少しマシにできねえのか」
「できるよ。でも、魔法みたいな〝奇跡〟は期待しないで。物理の基本は〝等価交換〟。時間が必要だ。数日はここで大人しくしてなよ。政府の連中も、まさかボクたちがこんなゴミ溜めに潜んでるなんて思わない」
翌朝、テラは、かつて経験したことのない〝全身の重み〟で目を覚ました。
魔法の加護があれば、疲労など一瞬で霧散していた。
だが今は、ボロい毛布から這い出すだけで節々が悲鳴を上げる。
「……いてて。おい、メルクリア。この寝床、床より硬いんじゃねえか?」
「贅沢言わないの。ほら、起きたならこれ。ボイラーの火種を切らさないように石炭を放り込んで。それが今の君の〝修行〟だよ」
それから数日間、テラは重い鉄板を運んだり、真っ黒な石炭の袋を担いだり、ボイラーのスス掃除をしたりした。
「……あーあ。勇者様がススまみれで掃除かよ。笑えねぇな」
「ふふ、でもテラ様。今のあなたのほうが、あの着飾っていた頃よりずっと〝生きている〟顔をしていますよ」
一方、アレスは工房の隅で、巨大な手回し式の発電機と格闘していた。
「もっと早く!回転が安定しないと、蓄電器が止まっちゃうよ!」
「……くっ、ああぁぁ!」
アレスの手のひらは、ハンドルの摩擦ですでに豆がつぶれ、血が滲んでいた。
〝闇の勇者〟として、指先一つで雷を操っていた彼が、今はたった数ボルトの電気を生むために、全身の筋肉を震わせ、汗を流しながらハンドルを回し続けている。
セレネは救い出した少女たちと共に、メルクリアの散らかった図面を整理したり、スクラップの中から使える布や部品を選別していた。
「……テラ様は、不器用ですね。石炭を放り込むだけで顔まで真っ黒です」
「でも、あのお姉ちゃんが頑張ってるから……私たち、怖くないよ」
少女たちは、テラやアレスが泥まみれで働く姿を見て、少しずつ笑顔を取り戻していた。
政府の〝綺麗なウソ〟よりも、目の前の〝泥臭いリアル〟の方が、彼女たちには温かく感じられた。
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