第35話【魔王編】〝世界の電源が切れる日〟――愛も正義も強制終了(シャットダウン)
ー/ー第35話【魔王編】〝世界の電源が切れる日〟――愛も正義も強制終了(シャットダウン)
「……テラ、そしてアレス。よくここまで辿り着いた」
視界を焼き尽くす白光が収まったとき、テラとアレスは、奇妙な静寂に包まれた広大な円形の間に立っていた。
そこは魔王城の最深部――歴代の〝悪〟が物言わぬ残骸として陳列される〝人形の間〟だった。
壁一面の棚に並んでいたのは、精巧に作られた等身大の歴代魔王の人形。
数百年分の悪の象徴たちが、虚ろな瞳で二人を見下ろしている。
「……なんだ、この不気味なコレクションは」
「それは、役目を終えた〝残骸〟だ」
部屋の奥、巨大な玉座に座っていたのは、魔王ユピテルだった。
だが、その肌は白く硬質化し、指先からは既に生気が失われ始めている。
「……この世界は、政府が管理する巨大な劇場型シミュレーターだ。国民の不満、税金への怒り……それらすべてを逸らすために〝共通の敵〟が必要だった。それが我ら魔王軍だ」
冷酷な真実が、魔王の口から零れ落ちる。
「私はその劇の座長に過ぎない。魔王が強大であればあるほど、政府は防衛予算を搾り取り、国民を恐怖で統治できるというカラクリだ」
「……嘘だ!僕が信じた剣も、正義も……すべては国民を騙すための舞台装置だったというんですか!?」
「そうだ、アレス。お前を〝闇の勇者〟として引き抜いたのは、政府の目論見からお前を隠すためだった。お前の持つ純粋な〝光〟は、政府にとって都合の悪い、本物の英雄の資質だったからな」
魔王は、重い鉛のようになっていく腕を動かし、アレスを指し示した。
「……私はお前を、政府の汚い台本(シナリオ)に染めさせたくなかったのだ」
「魔王様……」
その時、部屋全体の空間に強烈なデジタルノイズが走り、鼓膜を突き刺すような警告音が鳴り響いた。
【ERROR:不正なデータアクセスを検知】
【管理者権限による初期化(フォーマット)を実行します】
魔王ユピテルは自嘲気味に笑い、空を仰いだ。
「……ついに始まったか。……〝強制終了(シャットダウン)〟が」
その言葉が、残酷な終わりの合図だった。黄金の光を放っていたガイアセイバーの輝きが、急激に色褪せていく。
『……あ、あれ?相棒……?なんだか、急に眠気が……。おい、身体が……ただの鉄に戻っていくみたいだ……』
「おい、ガイアセイバー!?何言ってやがる、しっかりしろ!いつもの軽口はどうしたんだよ!」
『……ああ、アレス様……。闇が、消えていく……。〝光る君〟……どこにいるの?貴方の温もりが……わからないわ……』
「サタンブレイド!嘘だろ、返事をしてくれ!僕の魔力を流し込む、だから消えないでくれ!」
アレスは必死に魔力を注ぎ込むが、剣はそれを拒絶するように冷たくなっていく。
セレネも、震える手で二つの剣に触れた。
「嫌です……!ガイアセイバーさん、サタンブレイドさん!私、まだお二人の惚気話を聞き足りないんです!二人で結婚式を挙げるって、さっき戦いながら言ってたじゃないですか!!」
『……はは、そうだったな。……〝紫の上〟……。最後に、一つだけ……言わせてくれ……。お前と戦った……あのステンドグラス……最高の……バージンロードだったぜ……』
『……ええ、〝光る君〟……。私も、貴方の……その眩しさが……愛、おしく、て……』
――カラン……
乾いた金属音が響いた。黄金の装飾はただの鉄の色に変わり、禍々しい紫の輝きはただの鉛の色へと沈んだ。
意志も、愛も、熱も消えた〝ただの鉄の塊〟が、そこにあった。
「……おい。起きろよ。……飲み比べ、まだ終わってねえだろうが!!ガイア!!返事しろよおぉぉ!!」
テラが喉を枯らして叫び、動かなくなった剣を何度も揺さぶる。
「嫌だ……行かないでくれ……サタン!!誰もいない僕に、最初に言葉をくれたのは君だったんだ……!僕を置いていかないでくれッ!」
アレスは絶望に染まった瞳でサタンブレイドを抱きしめ、額を冷たい剣身に押し当てた。
「くっそぉぉぉ!魔王!お前がこれを、やってんのか!?」
変化は魔王にも及ぶ。
「……いや、政府の仕業だ。不都合な真実に触れた道具は、今ここで消去される」
ユピテルの指先が完全に硬直し、瞳がガラス玉のように固まっていく。
「……アレス、テラ。人形になる前に……これだけは言っておく」
途切れ途切れになる意識の中で、ユピテルは最期の言葉を絞り出す。
「この世界を壊せ。……〝人形〟ではなく、〝人〟として……生きてみせ……ろ……」
その声を最後に、魔王ユピテルは完全な沈黙を守る〝人形〟へと成り果てた。
「……魔王様?魔王様ッ!!」
アレスの絶叫が響き渡る。
「う、あああぁぁぁ!!嘘だ!!嘘だっ!!嘘だぁぁぁ!!」
子供のように声を上げ、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら叫ぶアレス。
「僕を救ってくれた貴方まで、こんな……こんな物言わぬ人形になるなんて!!魔王様ぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁぁ!!」
彼の正義も、居場所も、そして愛した者たちも、すべてが〝無機質なガラクタ〟へと書き換えられていく。
部屋の外、空の向こう側から、巨大なノイズが世界を飲み込み始める。世界の端がドット単位で崩れ、虚無の白が迫ってくる。
テラは、動かなくなったガイアセイバーを握りしめ、号泣するアレスの肩を強く掴んで引き寄せた。
だが、その赤い瞳の奥には、悲しみを焼き尽くすほどの、燃え盛る炎のような激しさが宿っていた。
「……シャットダウンだか何だか知らねえが、勝手に電源切って逃げられると思うなよ、ネプチューン……!私がこの世界をぶん殴って〝再起動〟させてやる!!」
そして――魔王城のすべてが虚無へと吸い込まれていった。
「……テラ、そしてアレス。よくここまで辿り着いた」
視界を焼き尽くす白光が収まったとき、テラとアレスは、奇妙な静寂に包まれた広大な円形の間に立っていた。
そこは魔王城の最深部――歴代の〝悪〟が物言わぬ残骸として陳列される〝人形の間〟だった。
壁一面の棚に並んでいたのは、精巧に作られた等身大の歴代魔王の人形。
数百年分の悪の象徴たちが、虚ろな瞳で二人を見下ろしている。
「……なんだ、この不気味なコレクションは」
「それは、役目を終えた〝残骸〟だ」
部屋の奥、巨大な玉座に座っていたのは、魔王ユピテルだった。
だが、その肌は白く硬質化し、指先からは既に生気が失われ始めている。
「……この世界は、政府が管理する巨大な劇場型シミュレーターだ。国民の不満、税金への怒り……それらすべてを逸らすために〝共通の敵〟が必要だった。それが我ら魔王軍だ」
冷酷な真実が、魔王の口から零れ落ちる。
「私はその劇の座長に過ぎない。魔王が強大であればあるほど、政府は防衛予算を搾り取り、国民を恐怖で統治できるというカラクリだ」
「……嘘だ!僕が信じた剣も、正義も……すべては国民を騙すための舞台装置だったというんですか!?」
「そうだ、アレス。お前を〝闇の勇者〟として引き抜いたのは、政府の目論見からお前を隠すためだった。お前の持つ純粋な〝光〟は、政府にとって都合の悪い、本物の英雄の資質だったからな」
魔王は、重い鉛のようになっていく腕を動かし、アレスを指し示した。
「……私はお前を、政府の汚い台本(シナリオ)に染めさせたくなかったのだ」
「魔王様……」
その時、部屋全体の空間に強烈なデジタルノイズが走り、鼓膜を突き刺すような警告音が鳴り響いた。
【ERROR:不正なデータアクセスを検知】
【管理者権限による初期化(フォーマット)を実行します】
魔王ユピテルは自嘲気味に笑い、空を仰いだ。
「……ついに始まったか。……〝強制終了(シャットダウン)〟が」
その言葉が、残酷な終わりの合図だった。黄金の光を放っていたガイアセイバーの輝きが、急激に色褪せていく。
『……あ、あれ?相棒……?なんだか、急に眠気が……。おい、身体が……ただの鉄に戻っていくみたいだ……』
「おい、ガイアセイバー!?何言ってやがる、しっかりしろ!いつもの軽口はどうしたんだよ!」
『……ああ、アレス様……。闇が、消えていく……。〝光る君〟……どこにいるの?貴方の温もりが……わからないわ……』
「サタンブレイド!嘘だろ、返事をしてくれ!僕の魔力を流し込む、だから消えないでくれ!」
アレスは必死に魔力を注ぎ込むが、剣はそれを拒絶するように冷たくなっていく。
セレネも、震える手で二つの剣に触れた。
「嫌です……!ガイアセイバーさん、サタンブレイドさん!私、まだお二人の惚気話を聞き足りないんです!二人で結婚式を挙げるって、さっき戦いながら言ってたじゃないですか!!」
『……はは、そうだったな。……〝紫の上〟……。最後に、一つだけ……言わせてくれ……。お前と戦った……あのステンドグラス……最高の……バージンロードだったぜ……』
『……ええ、〝光る君〟……。私も、貴方の……その眩しさが……愛、おしく、て……』
――カラン……
乾いた金属音が響いた。黄金の装飾はただの鉄の色に変わり、禍々しい紫の輝きはただの鉛の色へと沈んだ。
意志も、愛も、熱も消えた〝ただの鉄の塊〟が、そこにあった。
「……おい。起きろよ。……飲み比べ、まだ終わってねえだろうが!!ガイア!!返事しろよおぉぉ!!」
テラが喉を枯らして叫び、動かなくなった剣を何度も揺さぶる。
「嫌だ……行かないでくれ……サタン!!誰もいない僕に、最初に言葉をくれたのは君だったんだ……!僕を置いていかないでくれッ!」
アレスは絶望に染まった瞳でサタンブレイドを抱きしめ、額を冷たい剣身に押し当てた。
「くっそぉぉぉ!魔王!お前がこれを、やってんのか!?」
変化は魔王にも及ぶ。
「……いや、政府の仕業だ。不都合な真実に触れた道具は、今ここで消去される」
ユピテルの指先が完全に硬直し、瞳がガラス玉のように固まっていく。
「……アレス、テラ。人形になる前に……これだけは言っておく」
途切れ途切れになる意識の中で、ユピテルは最期の言葉を絞り出す。
「この世界を壊せ。……〝人形〟ではなく、〝人〟として……生きてみせ……ろ……」
その声を最後に、魔王ユピテルは完全な沈黙を守る〝人形〟へと成り果てた。
「……魔王様?魔王様ッ!!」
アレスの絶叫が響き渡る。
「う、あああぁぁぁ!!嘘だ!!嘘だっ!!嘘だぁぁぁ!!」
子供のように声を上げ、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら叫ぶアレス。
「僕を救ってくれた貴方まで、こんな……こんな物言わぬ人形になるなんて!!魔王様ぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁぁ!!」
彼の正義も、居場所も、そして愛した者たちも、すべてが〝無機質なガラクタ〟へと書き換えられていく。
部屋の外、空の向こう側から、巨大なノイズが世界を飲み込み始める。世界の端がドット単位で崩れ、虚無の白が迫ってくる。
テラは、動かなくなったガイアセイバーを握りしめ、号泣するアレスの肩を強く掴んで引き寄せた。
だが、その赤い瞳の奥には、悲しみを焼き尽くすほどの、燃え盛る炎のような激しさが宿っていた。
「……シャットダウンだか何だか知らねえが、勝手に電源切って逃げられると思うなよ、ネプチューン……!私がこの世界をぶん殴って〝再起動〟させてやる!!」
そして――魔王城のすべてが虚無へと吸い込まれていった。
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