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第34話【魔王編】〝悲劇のヒロイン〟はお仕事?!正しい世界の回し方

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第34話【魔王編】〝悲劇のヒロイン〟はお仕事?!正しい世界の回し方


「……なんだここは。どういうことだ……」

​地下のティータイムは、あまりにも静かで、あまりにも贅沢だった。
瓦礫の山から這い出したアレスは、剣を杖代わりに立ち上がったが、目の前の光景にその端正な顔を驚愕に歪ませた。

「少女たちが、なぜこんな場所で……?」

「おいアレス、お前幹部だろ!自分の城の地下で何が行われてるか知らねえのかよ!」

「知るわけがない!僕は……僕はただ、強き者と剣を交えることこそが魔王軍の使命だと信じて……!」

​二人が困惑していると、一人の少女がスコーンを頬張りながら、事も無げに口を開いた。

「あら、新しいお姉さん?勇者様かしら。意外とガサツそうなのね」

「本当。もっとキラキラしたドレスで来るかと思ってた。ねえ、紅茶飲む?ここのダージリン、政府の官邸で出されるやつより高級なんですって」

「……おい、お前ら。さらわれて怖くねえのかよ。魔王に食われそうになったりとか……」

「食われる?冗談。魔王様は滅多にここに来ないわよ」

「お姉さんたちも〝政府〟の人?心配しなくても、ちゃんと約束は守ってるわよ」

「政府……?ネプチューンの奴らか?約束ってのは、一体なんのことだ?」

「だって、私たちは政府の人に言われたんだもの。〝勇者が魔王を倒すその日まで、ここから一歩も出てはいけない。その代わり、誰にも邪魔されない不自由のない生活を保証する〟って」

「おかげで勉強もしなくていいし、毎日最高のお菓子が食べられるのよ」

「……魔王を倒すまで出られない……?それでは、まるで……」

「……まるで、最初から〝魔王にさらわれた〟って既成事実を作るために、ここに放り込まれたみたいじゃねぇか。魔王を倒す〝劇〟を盛り上げるための小道具としてよぉ!」

​アレスの剣が、カタカタと震える。魔王軍とは、世界の悪意の象徴ではなかったのか。自分たちが戦ってきた〝正義〟とは、仕組まれたマッチポンプだったのか。

「お父様とお母様には、政府からたっぷり協力金が出てるから、むしろ親孝行よ」

「協力金……?それじゃ、誘拐じゃなくて……」

「そう、お仕事よ。〝悲劇のヒロイン〟っていうお仕事」

「私たちがここで豪華な生活をすればするほど、地上の人たちは〝魔王はなんて贅沢をしてるんだ!〟って怒って、政府への支持率が上がるんだって」

「……ケッ、反吐が出るぜ。お前ら、外の奴らがどんな顔して魔王軍を恨んでるか知らねえのか」

「知ってるわよ。でも、それが〝正しい世界の回し方〟なんでしょ?」

「私たちが帰ったら、また政府の厳しい管理と税金生活に戻るだけ。だったら、魔王様が倒されるまで、ここで永遠にティータイムしてた方がマシだわ」

「……ねえ、勇者様。お願いだから、まだ魔王様を倒さないでね?私、まだ新作のタルト食べてないんだから」

​魔王は、政府の失政への不満をそらすための〝仮想敵〟であり、その権威を守るための〝必要悪〟として、政府によって管理・運営されていた存在に過ぎなかった。

『……嫌な予感はしてたけど、これじゃ私たちの愛のぶつかり合いも、ただの営業スマイルと変わらないじゃない……』

『おいおい、笑えない冗談だ……。私たちが命削って火花散らしてたのは、ただの見世物だったってのか?』

​その時、鍾乳洞の空間全体が、震えるような重低音に包まれた。

『――ようやく、舞台の裏側に辿り着いたか』

​重厚で、どこか悲哀を感じさせる声。地下宮殿の床に、巨大な魔法陣が不気味な紫の光で浮かび上がる。

「……魔王か。そこにいんのか!」

『ここを見たなら話が早い。勇者テラ、そして我が騎士アレスよ。お前たちが握るその剣が、誰の手のひらで踊らされていたのか……直接教えてやろう』

​魔法陣の光が爆発的に膨れ上がり、テラとアレスの視界を真っ白に染め上げた。

「待って魔王様、まだ話は終わって――」

「……ケッ、上等だ。シナリオの書き手ごと、そのツラぶん殴ってやるよ!!」

​二人の体が粒子となって消える直前、少女たちは相変わらず優雅に紅茶を啜りながら、去りゆく勇者に手を振っていた。
その光景は、どんな魔物よりも不気味で、世界の歪みを象徴していた。







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第34話【魔王編】〝悲劇のヒロイン〟はお仕事?!正しい世界の回し方
「……なんだここは。どういうことだ……」
​地下のティータイムは、あまりにも静かで、あまりにも贅沢だった。
瓦礫の山から這い出したアレスは、剣を杖代わりに立ち上がったが、目の前の光景にその端正な顔を驚愕に歪ませた。
「少女たちが、なぜこんな場所で……?」
「おいアレス、お前幹部だろ!自分の城の地下で何が行われてるか知らねえのかよ!」
「知るわけがない!僕は……僕はただ、強き者と剣を交えることこそが魔王軍の使命だと信じて……!」
​二人が困惑していると、一人の少女がスコーンを頬張りながら、事も無げに口を開いた。
「あら、新しいお姉さん?勇者様かしら。意外とガサツそうなのね」
「本当。もっとキラキラしたドレスで来るかと思ってた。ねえ、紅茶飲む?ここのダージリン、政府の官邸で出されるやつより高級なんですって」
「……おい、お前ら。さらわれて怖くねえのかよ。魔王に食われそうになったりとか……」
「食われる?冗談。魔王様は滅多にここに来ないわよ」
「お姉さんたちも〝政府〟の人?心配しなくても、ちゃんと約束は守ってるわよ」
「政府……?ネプチューンの奴らか?約束ってのは、一体なんのことだ?」
「だって、私たちは政府の人に言われたんだもの。〝勇者が魔王を倒すその日まで、ここから一歩も出てはいけない。その代わり、誰にも邪魔されない不自由のない生活を保証する〟って」
「おかげで勉強もしなくていいし、毎日最高のお菓子が食べられるのよ」
「……魔王を倒すまで出られない……?それでは、まるで……」
「……まるで、最初から〝魔王にさらわれた〟って既成事実を作るために、ここに放り込まれたみたいじゃねぇか。魔王を倒す〝劇〟を盛り上げるための小道具としてよぉ!」
​アレスの剣が、カタカタと震える。魔王軍とは、世界の悪意の象徴ではなかったのか。自分たちが戦ってきた〝正義〟とは、仕組まれたマッチポンプだったのか。
「お父様とお母様には、政府からたっぷり協力金が出てるから、むしろ親孝行よ」
「協力金……?それじゃ、誘拐じゃなくて……」
「そう、お仕事よ。〝悲劇のヒロイン〟っていうお仕事」
「私たちがここで豪華な生活をすればするほど、地上の人たちは〝魔王はなんて贅沢をしてるんだ!〟って怒って、政府への支持率が上がるんだって」
「……ケッ、反吐が出るぜ。お前ら、外の奴らがどんな顔して魔王軍を恨んでるか知らねえのか」
「知ってるわよ。でも、それが〝正しい世界の回し方〟なんでしょ?」
「私たちが帰ったら、また政府の厳しい管理と税金生活に戻るだけ。だったら、魔王様が倒されるまで、ここで永遠にティータイムしてた方がマシだわ」
「……ねえ、勇者様。お願いだから、まだ魔王様を倒さないでね?私、まだ新作のタルト食べてないんだから」
​魔王は、政府の失政への不満をそらすための〝仮想敵〟であり、その権威を守るための〝必要悪〟として、政府によって管理・運営されていた存在に過ぎなかった。
『……嫌な予感はしてたけど、これじゃ私たちの愛のぶつかり合いも、ただの営業スマイルと変わらないじゃない……』
『おいおい、笑えない冗談だ……。私たちが命削って火花散らしてたのは、ただの見世物だったってのか?』
​その時、鍾乳洞の空間全体が、震えるような重低音に包まれた。
『――ようやく、舞台の裏側に辿り着いたか』
​重厚で、どこか悲哀を感じさせる声。地下宮殿の床に、巨大な魔法陣が不気味な紫の光で浮かび上がる。
「……魔王か。そこにいんのか!」
『ここを見たなら話が早い。勇者テラ、そして我が騎士アレスよ。お前たちが握るその剣が、誰の手のひらで踊らされていたのか……直接教えてやろう』
​魔法陣の光が爆発的に膨れ上がり、テラとアレスの視界を真っ白に染め上げた。
「待って魔王様、まだ話は終わって――」
「……ケッ、上等だ。シナリオの書き手ごと、そのツラぶん殴ってやるよ!!」
​二人の体が粒子となって消える直前、少女たちは相変わらず優雅に紅茶を啜りながら、去りゆく勇者に手を振っていた。
その光景は、どんな魔物よりも不気味で、世界の歪みを象徴していた。