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第29話【対決編】おしとやかにお掃除(粉砕)して差し上げますわ!聖乙女の祈り・ザ・ロイヤル

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第29話【対決編】おしとやかにお掃除(粉砕)して差し上げますわ!聖乙女の祈り・ザ・ロイヤル


「テラ様!決めました。次のお守りは〝気品〟で勝負します!」

​あの呪いのブローチ事件以来、セレネは重度の〝お守りノイローゼ〟に陥っていた。

「……はあ?お守りっつったろ。なんでこんな宝飾店に入んだよ」

〝テラ様を傷つけない、かつ騙されないお守り〟という矛盾した答えを求め、彼女は魔王領国境付近の宿場町ヘリオポーズの高級魔導宝飾店へとテラを連行した。

「可愛さとは、内面を矯正するトータルコーディネートです!店主さん、一番〝お淑やかで、近づきがたい高貴な令嬢〟の魔力が宿る逸品を!」

​店主が持ってきたのは、シルクのリボンが何層にも重なり、中央に〝女神の涙〟と呼ばれる巨大な真珠を配した〝聖乙女の祈り・ザ・ロイヤル〟。
嫌がるテラを、セレネは「テラ様の安全のためなんですぅ!」という涙の物理攻撃で押し切り、強引にその胸元へと装着させた。

「……おい。これ、なんか変な波動が出てねえか?体中がムズムズするんだけど」

「いいんです!その違和感こそが、淑女への階段です!さあテラ様、いつものようにガサツに笑ってみてください!」

「ケッ、やってられるかよ。あーはっはっ……は?……ほほほ、少々お下品な笑い声を失礼いたしましたわ?……へ?」

​テラは自分の喉を押さえて絶句した。お守りに内蔵された〝マナー矯正魔法〟が起動し、彼女の思考と発声を強引にエレガントな令嬢へと変換し始めたのだ。

「な、なんだこれ!?外せセレネ!腕が、足が勝手に……!」

「テラ様、背筋がピンと伸びて素敵です!さあ、その優雅なステップで宿まで戻りましょう!」

テラは悲鳴を上げたかったが、口から出るのは「あら、優雅な足取りですこと」という澄んだ声だけ。
さらに最悪なことに、この呪い(お守り)は移動手段まで制限した。
普段なら宿屋まで数秒で爆走するテラが、膝を揃え、内股で、一歩数センチの「お上品な牛歩」でしか進めなくなったのだ。

「……この……っ、遅すぎる……歩幅……ですわ……!」

結局、目と鼻の先にある宿屋に辿り着くまでに、日が暮れかかるほどの時間を要した。
ようやく宿泊先の宿屋の門をくぐり、テラが「やっと部屋で休めますわ……」と膝をつきかけた、その時である。

​――ズドォォォォォォン!!

その直後、宿屋のきらびやかな天井を粉砕して、漆黒の騎士服を新調したアレスが降臨した。

「見つけたぞテラ!今日こそ引導を……って、なんだその胸元のフリフリアクセは!勇者の次はコスプレ趣味に目覚めたのか!?」

「うるせえバカ!これはお前を殴るための……ための……、勝負服でしてよ?おーほっほっほ!!」

「……は?……ついに頭まで闇に染まったか?」

「失礼しちゃうわ。そんなカレー臭のオーラを振り回して、お里が知れますこと。……ガイア、行きますわよ。覚悟あそばせ?」

『ちょ、テラ!?お前の魔力が急速に〝おしとやか〟に変換されてるぞ!攻撃が全部〝社交ダンス〟のような軌道になっちま……いますわよ?』

『……あら?お上品な光る君……。それはそれで、厳格なご主人様に叱られているみたいで……ああ、アリだわ!』

「ふん、ふざけるな!喰らえ、深淵断罪(アビス・ブレイク)!!」

​闇の波動が迫る。本来なら「ぶっ飛ばす!」と叫んで聖剣を振り回すはずのテラだったが――。

「あらあら、はしたない。そんな真っ黒なものを振り回して、殿方としてどうかと思いますわ。テラ・おしとやか・クラァァァッシュ!!……ですわ!!」

​――ズドォォォォォォンッ!!

​言葉は丁寧だが、物理法則を無視した破壊力だけは据え置きだった。
白金色の衝撃波がアレスを直撃し、宿屋の二階が物理的に消失し、更地と化した。

「ぐふぉっ!?言葉は柔らかいのに、剣圧が……剣圧がこれまで以上に重いッ!!むしろ説教されてるみたいで心が折れるッ!!」

「まあ、これくらいで根を上げるなんて、お可愛いこと。さあ、次はどの部位をお掃除(粉砕)して差し上げましょうか?遠慮なさらず、おっしゃって?」

​テラは優雅な所作で聖剣を構え直すが、その額には血管が浮き、瞳には地獄のような業火が宿っている。
口から漏れる〝慈愛〟とは裏腹に、殺気だけがインフレを起こしていた。

「テ、テラ様!顔が魔王より怖いです!……でも言葉遣いは最高です!」

「セレネさん、後でじっくり〝お話し〟しましょうね。……覚悟しておきなさい。……ですわよ!!」

「くっ、この精神的プレッシャー……耐えられん!今日のところは、この新作の〝闇(あん)まん〟を置いて撤退してやる!覚えていろ、お上品勇者めーーーッ!!」

『ああー!光る君ー!もっとお叱りになって……!!』

『ああ、お待ちになって紫の上!まだ私たちの語らいは終わっておりませんわ!私の鞘に収まりあそばせーー!!』

​アレスは混乱と恐怖に顔を歪め、星となって消えていった。



静まり返った更地で、テラはプルプルと震えながらお守りの裏側を弄り、小さなポッチを見つけた。

「……あ、ありましたわ。この……忌々しい……スイッチ……が!」

​――カチッ

「……ぶはっ!やっと喋れた!死ぬかと思った!なんだよ〝お掃除〟って!粉砕するって意味だよ!」

『……はぁ……もう勘弁してくれ……』

「えっ、オフにできちゃうんですか!?せっかくテラ様が聖女様みたいだったのに!」

「二度とつけるか!セレネ、次にお守り買うときは〝ON/OFFスイッチ〟が付いてないやつは禁止だ!あと酒だ!酒を持ってこい!喉が慣れない言葉使いすぎてカラカラだ!!」

「……お酒は結構ですけど、テラ様。この、見事に更地になった宿屋はどうしましょう。弁償するとなると、私たちの路銀が……」

「……っ。そりゃ、あ、アレだ。主人が瓦礫の中から這い出してくる前に、今のうちにこそっと……」

「おーい!待ってくれぇーっ!!」

「げっ、見つかった!逃げるぞセレネ!」

「待ってくれぇー!……せ、聖女様ぁーっ!!」

全力で駆けだそうとしたテラの足が、主人の叫び声にピタリと止まった。

「……誰が聖女様だ!」

「見てくれ!あんたが床をぶち抜いたおかげで地下の古い岩盤が割れて、庭からとんでもねえ量の温泉が湧き出しやがった!」

そこには、更地のど真ん中で勢いよく噴き出す、湯煙を上げた琥珀色のお湯があった。

「保険金も下りるし、この温泉があれば、前より豪華な〝温泉宿〟が建てられる!あんたは疫病神かと思ったら、本物の聖女様だったんだな!」

『ははは!逃げずに済んでよかったじゃないか、聖女様』

「~~……ッ!」

「ふふ、さすがテラ様。破壊と創造は紙一重ですね。これで心置きなく出発できます」

「……けっ、勝手にしやがれ!完成したら一番風呂はアタシに空けとけよ!」

​夕暮れの中、黄金色に輝くビールを片手に、アレスが置いていった〝闇まん〟をつまみながら、二人と一振りの旅は続く。






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「テラ様!決めました。次のお守りは〝気品〟で勝負します!」
​あの呪いのブローチ事件以来、セレネは重度の〝お守りノイローゼ〟に陥っていた。
「……はあ?お守りっつったろ。なんでこんな宝飾店に入んだよ」
〝テラ様を傷つけない、かつ騙されないお守り〟という矛盾した答えを求め、彼女は魔王領国境付近の宿場町ヘリオポーズの高級魔導宝飾店へとテラを連行した。
「可愛さとは、内面を矯正するトータルコーディネートです!店主さん、一番〝お淑やかで、近づきがたい高貴な令嬢〟の魔力が宿る逸品を!」
​店主が持ってきたのは、シルクのリボンが何層にも重なり、中央に〝女神の涙〟と呼ばれる巨大な真珠を配した〝聖乙女の祈り・ザ・ロイヤル〟。
嫌がるテラを、セレネは「テラ様の安全のためなんですぅ!」という涙の物理攻撃で押し切り、強引にその胸元へと装着させた。
「……おい。これ、なんか変な波動が出てねえか?体中がムズムズするんだけど」
「いいんです!その違和感こそが、淑女への階段です!さあテラ様、いつものようにガサツに笑ってみてください!」
「ケッ、やってられるかよ。あーはっはっ……は?……ほほほ、少々お下品な笑い声を失礼いたしましたわ?……へ?」
​テラは自分の喉を押さえて絶句した。お守りに内蔵された〝マナー矯正魔法〟が起動し、彼女の思考と発声を強引にエレガントな令嬢へと変換し始めたのだ。
「な、なんだこれ!?外せセレネ!腕が、足が勝手に……!」
「テラ様、背筋がピンと伸びて素敵です!さあ、その優雅なステップで宿まで戻りましょう!」
テラは悲鳴を上げたかったが、口から出るのは「あら、優雅な足取りですこと」という澄んだ声だけ。
さらに最悪なことに、この呪い(お守り)は移動手段まで制限した。
普段なら宿屋まで数秒で爆走するテラが、膝を揃え、内股で、一歩数センチの「お上品な牛歩」でしか進めなくなったのだ。
「……この……っ、遅すぎる……歩幅……ですわ……!」
結局、目と鼻の先にある宿屋に辿り着くまでに、日が暮れかかるほどの時間を要した。
ようやく宿泊先の宿屋の門をくぐり、テラが「やっと部屋で休めますわ……」と膝をつきかけた、その時である。
​――ズドォォォォォォン!!
その直後、宿屋のきらびやかな天井を粉砕して、漆黒の騎士服を新調したアレスが降臨した。
「見つけたぞテラ!今日こそ引導を……って、なんだその胸元のフリフリアクセは!勇者の次はコスプレ趣味に目覚めたのか!?」
「うるせえバカ!これはお前を殴るための……ための……、勝負服でしてよ?おーほっほっほ!!」
「……は?……ついに頭まで闇に染まったか?」
「失礼しちゃうわ。そんなカレー臭のオーラを振り回して、お里が知れますこと。……ガイア、行きますわよ。覚悟あそばせ?」
『ちょ、テラ!?お前の魔力が急速に〝おしとやか〟に変換されてるぞ!攻撃が全部〝社交ダンス〟のような軌道になっちま……いますわよ?』
『……あら?お上品な光る君……。それはそれで、厳格なご主人様に叱られているみたいで……ああ、アリだわ!』
「ふん、ふざけるな!喰らえ、深淵断罪(アビス・ブレイク)!!」
​闇の波動が迫る。本来なら「ぶっ飛ばす!」と叫んで聖剣を振り回すはずのテラだったが――。
「あらあら、はしたない。そんな真っ黒なものを振り回して、殿方としてどうかと思いますわ。テラ・おしとやか・クラァァァッシュ!!……ですわ!!」
​――ズドォォォォォォンッ!!
​言葉は丁寧だが、物理法則を無視した破壊力だけは据え置きだった。
白金色の衝撃波がアレスを直撃し、宿屋の二階が物理的に消失し、更地と化した。
「ぐふぉっ!?言葉は柔らかいのに、剣圧が……剣圧がこれまで以上に重いッ!!むしろ説教されてるみたいで心が折れるッ!!」
「まあ、これくらいで根を上げるなんて、お可愛いこと。さあ、次はどの部位をお掃除(粉砕)して差し上げましょうか?遠慮なさらず、おっしゃって?」
​テラは優雅な所作で聖剣を構え直すが、その額には血管が浮き、瞳には地獄のような業火が宿っている。
口から漏れる〝慈愛〟とは裏腹に、殺気だけがインフレを起こしていた。
「テ、テラ様!顔が魔王より怖いです!……でも言葉遣いは最高です!」
「セレネさん、後でじっくり〝お話し〟しましょうね。……覚悟しておきなさい。……ですわよ!!」
「くっ、この精神的プレッシャー……耐えられん!今日のところは、この新作の〝闇(あん)まん〟を置いて撤退してやる!覚えていろ、お上品勇者めーーーッ!!」
『ああー!光る君ー!もっとお叱りになって……!!』
『ああ、お待ちになって紫の上!まだ私たちの語らいは終わっておりませんわ!私の鞘に収まりあそばせーー!!』
​アレスは混乱と恐怖に顔を歪め、星となって消えていった。
静まり返った更地で、テラはプルプルと震えながらお守りの裏側を弄り、小さなポッチを見つけた。
「……あ、ありましたわ。この……忌々しい……スイッチ……が!」
​――カチッ
「……ぶはっ!やっと喋れた!死ぬかと思った!なんだよ〝お掃除〟って!粉砕するって意味だよ!」
『……はぁ……もう勘弁してくれ……』
「えっ、オフにできちゃうんですか!?せっかくテラ様が聖女様みたいだったのに!」
「二度とつけるか!セレネ、次にお守り買うときは〝ON/OFFスイッチ〟が付いてないやつは禁止だ!あと酒だ!酒を持ってこい!喉が慣れない言葉使いすぎてカラカラだ!!」
「……お酒は結構ですけど、テラ様。この、見事に更地になった宿屋はどうしましょう。弁償するとなると、私たちの路銀が……」
「……っ。そりゃ、あ、アレだ。主人が瓦礫の中から這い出してくる前に、今のうちにこそっと……」
「おーい!待ってくれぇーっ!!」
「げっ、見つかった!逃げるぞセレネ!」
「待ってくれぇー!……せ、聖女様ぁーっ!!」
全力で駆けだそうとしたテラの足が、主人の叫び声にピタリと止まった。
「……誰が聖女様だ!」
「見てくれ!あんたが床をぶち抜いたおかげで地下の古い岩盤が割れて、庭からとんでもねえ量の温泉が湧き出しやがった!」
そこには、更地のど真ん中で勢いよく噴き出す、湯煙を上げた琥珀色のお湯があった。
「保険金も下りるし、この温泉があれば、前より豪華な〝温泉宿〟が建てられる!あんたは疫病神かと思ったら、本物の聖女様だったんだな!」
『ははは!逃げずに済んでよかったじゃないか、聖女様』
「~~……ッ!」
「ふふ、さすがテラ様。破壊と創造は紙一重ですね。これで心置きなく出発できます」
「……けっ、勝手にしやがれ!完成したら一番風呂はアタシに空けとけよ!」
​夕暮れの中、黄金色に輝くビールを片手に、アレスが置いていった〝闇まん〟をつまみながら、二人と一振りの旅は続く。