雨の日に一度だけの逢瀬
ー/ー 小雨がポツリポツリと僕の頭上に降り注ぐ。雨は嫌いだ。お日様が出ていないから、気分が暗くなってしまう。それだけじゃない。あの時も……この話はやめておこう。思い出したくない。気分が重くなってしまうから。ため息を吐いて心を沈めて、傘も差さずに鳥居を潜って境内の中に入る。
今日は舞と出会えて丁度六年目の日。舞はとてもかわいい女の子だ。ちょっと、強気な言動で意識させただけで顔を真っ赤にするウブな反応をしてくれる。それなのに僕にべったりとくっついて離れないこともある。
ただ普段はしっかりもので、僕を色んな所から見守ってくれていて、よく助けてくれていたなあ。宿題を忘れた時とか、何してるのよおバカって呆れた顔しながら教えてくれたっけなあ。懐かしい話だ。
元々目鼻立ちははっきりしていたけど、最近は大人っぽい細さが出てきてスッキリとした印象を受ける。けれど幼さからくるかわいさもある。髪も長くて綺麗なロングの黒髪。くるりと回るとCMのようにブワッと髪が舞うくらいに整っている。顔から髪型まで本当に僕の好みをそのまま映し出した女の子。それが舞だ。
この話をすると、みんなはすぐにロリコンだのペドだの色々言ってくるけど断じて違う。舞だから好きなだけで、他の同じ年齢くらいの女の子にそんな感情を持つ事はない。それは出会った頃から今も変わらない恋の感情だ。少し長い石の参道を歩くと右手にお手水が見えた。
熱くなった心と熱い体温を冷やすのを兼ねて、お手水で手を洗う。雨が降り出しているのに暑いから、この水がとても冷たく感じる。神社の作法では口も濯ぐらしいし、暑いからそう言うのをしたくなるけど昨今の事情を考えてしないことする。柄杓をそっと元に戻して手をハンカチで吹いた。それからお手水の近くにある大きな桜の木に向かう。雨は音だけを残して落ちてこなくなっていた。
舞と出会ったのはこの桜の木の下だった。今は夏だから葉っぱだけど、その時は桜が満開だった。舞が引っ越してきて初めて来たのがここで、その時に僕に初めて出会ったはずだ。本人がそう語ってたんだからきっと間違いない。
そこで僕は一目惚れしたんだ。それで何を思ったか、そこで付き合ってください! なんて言ってしまったんだよね。普通なら絶対断られる。僕だって同じようなことがあったら舞以外確実に断る。でも、舞は笑顔でいいよ、と言ってくれて僕と舞は付き合うことになった。
舞とは色んなとこに行ったのを思い出せる。小学生だからこの街が中心だけど図書館とかプールとか。本当に色んな所に行った。どれもいい思い出だ。
「おーい、雄太くん!」
思い出に耽っていた僕を呼ぶ声が聞こえる。幼くて少し高い舞の声。僕はそれに導かれるように、そこへ歩いて行った。
「舞! 久しぶり!」
そう言って僕は少し屈んで舞を抱きしめる。舞は少し笑いながら、僕の背中を摩った。
「またデカくなったね、雄太くん。これじゃあ私がすっぽり隠れちゃうよ」
「まあ、六センチ伸びたからね。それくらい伸びれば、そりゃあ差が出ちゃうよ」
そんなことを言い合って僕と舞は笑い合う。この時間が本当に楽しみで仕方なかった。一年に一回。この日、この場所でしか会えないから大事にしたい。笑って終わりたいから、自然と笑顔が出るんだ。
「雄太くん、そろそろ受験だけどどこ行くか決めてるの?」
舞が首を傾げて聞いてくる。
「E大。あそこなら引っ越さずに実家から通えるから」
僕が堂々と宣言すると、舞はくすくすと笑い出した。
「E大って、簡単な大学だから行かないって去年ドヤ顔で言ってたじゃん! もしかして成績落ちたの?」
図星だ。舞の言う通り成績が落ちている。勉強はしているけど、中々伸びずに周りから置いていかれている。そこから担任の先生や塾の先生からランクを下げようと言われ、E大志望になっている。ただ、舞の前では少しでも格好つけたい。だから、それは隠しておこう決めた。
「いやあ、そうじゃなくて。調べてみたらE大って最近は人工知能ってやつの研究が盛んで、その道のプロみたいな教授がいっぱいいるって知って。だから、その方面に進みたくてそっちにしたんだ」
これも堂々と答えてみせる。まあ嘘は言ってない。E大はAI研究盛んな大学だから。ただし実際は二番手以下の集団ではあるから誇張はしている。それは舞にはわからないはずだから、きっと怒られない。僕はそう決めつけた。
「ふーん。そう言う事なんだ。じゃあE大なら来年もまた会えるね」
ごまかせたようで、舞は嬉しそうにニコニコしていた。舞の笑顔も見れるのなら、嘘も方便。吐いていい嘘だ。僕自身で僕を肯定した。
それから僕と舞は色んな事を話した。同級生の事とか、この1年での出来事。楽しいことからくだらないこと。本当に色んな事を話した。楽しくて、楽しくてたのしくて嬉しくてしょうがない時間。この時間だけが永遠に続けばいいのに。時間よ、このまま止まってしまえ。内心で何度も唱え続けてしまう。だが、それは許して貰えなかったようだ。舞の足先が少しずつ薄くなってきた。
舞と出会ったのはこの桜の木の下だった。今は夏だから葉っぱだけど、その時は桜が満開だった。舞が引っ越してきて初めて来たのがここで、その時に僕に初めて出会ったはずだ。本人がそう語ってたんだからきっと間違いない。
そこで僕は一目惚れしたんだ。それで何を思ったか、そこで付き合ってください! なんて言ってしまったんだよね。普通なら絶対断られる。僕だって同じようなことがあったら舞以外確実に断る。でも、舞は笑顔でいいよ、と言ってくれて僕と舞は付き合うことになった。
舞とは色んなとこに行ったのを思い出せる。小学生だからこの街が中心だけど図書館とかプールとか。本当に色んな所に行った。どれもいい思い出だ。
「おーい、雄太くん!」
思い出に耽っていた僕を呼ぶ声が聞こえる。幼くて少し高い舞の声。僕はそれに導かれるように、そこへ歩いて行った。
「舞! 久しぶり!」
そう言って僕は少し屈んで舞を抱きしめる。舞は少し笑いながら、僕の背中を摩った。
「またデカくなったね、雄太くん。これじゃあ私がすっぽり隠れちゃうよ」
「まあ、六センチ伸びたからね。それくらい伸びれば、そりゃあ差が出ちゃうよ」
そんなことを言い合って僕と舞は笑い合う。この時間が本当に楽しみで仕方なかった。一年に一回。この日、この場所でしか会えないから大事にしたい。笑って終わりたいから、自然と笑顔が出るんだ。
「雄太くん、そろそろ受験だけどどこ行くか決めてるの?」
舞が首を傾げて聞いてくる。
「E大。あそこなら引っ越さずに実家から通えるから」
僕が堂々と宣言すると、舞はくすくすと笑い出した。
「E大って、簡単な大学だから行かないって去年ドヤ顔で言ってたじゃん! もしかして成績落ちたの?」
図星だ。舞の言う通り成績が落ちている。勉強はしているけど、中々伸びずに周りから置いていかれている。そこから担任の先生や塾の先生からランクを下げようと言われ、E大志望になっている。ただ、舞の前では少しでも格好つけたい。だから、それは隠しておこう決めた。
「いやあ、そうじゃなくて。調べてみたらE大って最近は人工知能ってやつの研究が盛んで、その道のプロみたいな教授がいっぱいいるって知って。だから、その方面に進みたくてそっちにしたんだ」
これも堂々と答えてみせる。まあ嘘は言ってない。E大はAI研究盛んな大学だから。ただし実際は二番手以下の集団ではあるから誇張はしている。それは舞にはわからないはずだから、きっと怒られない。僕はそう決めつけた。
「ふーん。そう言う事なんだ。じゃあE大なら来年もまた会えるね」
ごまかせたようで、舞は嬉しそうにニコニコしていた。舞の笑顔も見れるのなら、嘘も方便。吐いていい嘘だ。僕自身で僕を肯定した。
それから僕と舞は色んな事を話した。同級生の事とか、この1年での出来事。楽しいことからくだらないこと。本当に色んな事を話した。楽しくて、楽しくてたのしくて嬉しくてしょうがない時間。この時間だけが永遠に続けばいいのに。時間よ、このまま止まってしまえ。内心で何度も唱え続けてしまう。だが、それは許して貰えなかったようだ。舞の足先が少しずつ薄くなってきた。
「そろそろ、だね」
舞の表情が少し曇った。その曇った顔を笑顔に変えたい。いや、できるのであれば僕の元に連れ戻したい。ずっと一緒に隣にいて欲しい。でも、それは許されないことだから諦めないといけない。舞は現世に存在できないし、してはいけないから。
「あぁ。そうか。もうそんな時間か」
年一度の逢瀬を悲しい幕引きにしたくないから、表情を可能な限り緩める。ちゃんとできているかはわからないけど。
「うん。また、来年だね」
「そう……だな」
僕は自分の想いを押し殺して答えた。舞は少し笑顔を取り戻してくれた。完全に消える前に
「うん。また、来年だね」
「そう……だな」
僕は自分の想いを押し殺して答えた。舞は少し笑顔を取り戻してくれた。完全に消える前に
「じゃあまた来年会おうね」
と笑顔を見せてくれてここから去ろうとしていた。その刹那。ガバっと僕は舞を背後から抱きしめていた。熱く、強く、思うがままに。微かな甘く優しい香りが僕を包んでいた。
「雄太……くん?」
「最後に、もう一回抱きしめたくなった。ちょっとだけ、許して欲しい」
「雄太……くん?」
「最後に、もう一回抱きしめたくなった。ちょっとだけ、許して欲しい」
これ以上するとヤバいことになりそうだから、手を離した。
「うん。じゃあ私からもプレゼントね」
そう言って、僕の方を向いて口を出していた。迷わずキスを交わす。ファーストキスの味は少ししょっぱさの混じった綿菓子の味だった。
「ありがとう。絶対忘れないよ」
「絶対、来てね!」
涙と笑顔を混ぜて、舞は本殿に入る。それから間も無く、舞は微かな香りを残して天に消えていった。僕はその残り香を肺の中に取り込んだ。
また来年。僕が舞と会えるのは。ちょっと、遠く感じてしまう。人生って成長したら早く感じるって聞くけど僕はそう思えない。毎年毎年が長くてしょうがない。そしたら僕は滅茶苦茶長く生きた人生になるのかな。
「うん。じゃあ私からもプレゼントね」
そう言って、僕の方を向いて口を出していた。迷わずキスを交わす。ファーストキスの味は少ししょっぱさの混じった綿菓子の味だった。
「ありがとう。絶対忘れないよ」
「絶対、来てね!」
涙と笑顔を混ぜて、舞は本殿に入る。それから間も無く、舞は微かな香りを残して天に消えていった。僕はその残り香を肺の中に取り込んだ。
また来年。僕が舞と会えるのは。ちょっと、遠く感じてしまう。人生って成長したら早く感じるって聞くけど僕はそう思えない。毎年毎年が長くてしょうがない。そしたら僕は滅茶苦茶長く生きた人生になるのかな。
辛いなあ。早くずっとそばに居たいなあって思ってしまう。けどそれは辞めておこう。三、四年前にそんな事を言ったらしこたま怒ってたし、そんなことして会いに行くのも違うと思うから。とりあえず、来年会った時に胸を張って報告できるようにだけはしておこう。きついけど、頑張れば今度は手を離さないで済むから。
そんなことを考えながら、僕は少し大きな石碑の前で手を合わせて拝んだ。
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