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56.存在理由、その代償は

ー/ー



 風呂に入る前からボサボサだった髪は、乾かしても変わらないらしい。

「イーリカの方が髪質はいいな」
「えっ?!姉貴の頭、触ったんすか?!」
「んな驚くことか?」
「……なんかちょっと男性不信だって零してたんすけど、なんか大丈夫になったんすかね?よかったっす」
「ああ、悪かったな」
「?」

 着替えまで済ませ、ゼンは腕輪を外してイエルに渡した。

「……最近、使ったすか?」

 慣れた手つきで起動し、カタールの刃を観察してすぐ、ゼンに問うイエル。

「そんなすぐわかんのか」
「少し刃こぼれしてるんす、ここ。亀裂の劣化が新しいので」

 指を刺された場所を見てもすぐには分からない程の、小さな亀裂だった。

「相当硬い物でも貫いたんすか?ふっふ!いやいや、でもこのくらいで済んでいるのは?!僕の仕事がいいから……見たかったなぁ」
「目の前で交尾し始めるような奴らを見たいのかお前、変わってんな?」
「こう……びっ?!そこを見たいんじゃ無くてこのカタールの性能っすよ!!」

 あたふたするイエルを見て笑うゼン、初々しい反応が面白いらしい。

「はっ!宝の持ち腐れには関係なかったな?で、まぁ、使う予定はないんだが、アダルヘルムが見てもらえってんでな、直してくれ」
「ほんとさっきから失礼っすね……わかりました、この程度ならすぐ終わるっすよ」

 材料が入っている木箱からアダマンタイトの小さな欠片と、近しい色の鉱石を選びカタールの横に並べたイエル。

「修繕開始」

 と、ひとこと言うと、大小様々な大きさの魔法陣がカタールを中心に展開されていった。

「粉砕、溶解、溶接、融合……定着、修正……修正……――」

 壁にもたれかかり、技術魔法を使って直すイエルを見つめていた。イエルの言った通り、数分でカタールの修復が終わった。

「いや〜〜〜やっぱりこの輝きは素晴らしい……僕達職人に、こんな素晴らしい素材を提供していただきありがとうございます!」
「全部お前の親父のおかげだ」
「それもあるっすけど……実際、現地で働いてくれたのはゼンさんっすからね〜!」
「はっ!そうかよ」

 手渡されたカタール。収納と展開も問題なく機能し、ゼンの腕に戻る。

「微振動を追加したっす!どんなに硬いもんでもスパーっといけるはずっすよ!」
「超音波カッターみたいなもんか?なんだかんだ、進化させる技術はにかよるもんなんだな」
「なんすかそれ?!詳しく聞きたいっすけど!!」
「うるせぇ、聞かなくてもお前が勝手に作るんだから言う必要はねぇだろ」

 職人とは奇異なるものだと、知らない技術の単語に興奮しだすイエルを見て思うゼン。

「イエル」
「はい?はっ!教えてくれるんすかぁ〜〜〜っ?!」
「好きなものに執着するのもいいが、家族のことも忘れんなよ?」
「……っす」

 イーリカにしたように、髪を乾かすときと同じ様に、ゼンはイエルの頭を撫で回した。ゼンの言い方も、触り方も……この戦いがそういう事なのだと教えているようだった。

「忘れてた、ほら」

 ズシッと思い、食べ物が入った袋をイエルに投げて渡す。中を開けると、果物に、ハムとチーズのサンドウィッチ、不格好な焼き菓子が何点か……その全てが手軽に片手で食べられるもの。パンパンに詰められていた。

「お、多いっすね……姉貴、僕が少食なの忘れんすかね……」
「全部優しさだろ、受け取れ。おっと、これは俺が貰う」
「それ絶対、失敗作の処分じゃないっすか?いつもそーなんすよね……」

 木の実が練り込まれた半分以上焦げているゴツゴツした硬いクッキーのような物。袋には『イエル専用』とまで書いてある。雑に開け、バキッと音を立ててほおばるゼン。

「絶対不味いっすよ?」
「この苦さがいいんだろ」
「変な人っすねぇ……」
「はっ!食ったら休めよ」

奏鉄堂(そうてつどう)】後にし、近くの高台で焼き菓子を食べながら、魔界のある方角をジッと見つめていた。

「仕事は済んだか?ゼン・セクズ」
「大仕事だったがな?報酬も貰って終わらせてやったぜ?」
「それは……はは!そうか……あまり弄ぶなよ」
「そんなんじゃねぇよ、睨むな」

 流石に準備中の為、酒は用意していなかったが、冷えた水の入った瓶を、後ろからゼンに渡すアダルヘルム。

「甘えるのはこれで終わりにする」

 ゴクゴクと渡された水を飲み込むゼン。

「勝手な話だが、これも、全部、触れたがった俺の甘えだ」
「私はそれでもいいと思うがな」
「ダメだろ、これから世界も、お前らの命も、全部『破壊』するってぇのに」

 最後のひとかけを口に入れ、ゆっくりと味わってから、改めて口を開くゼン。

「それが許されるのは、勇者みたいに、世界の平和を願って、救おうとする心を持った人間だけだ」
「あなたも……やり方こそすれ、同じ人間なはずだ……間違ったことだと思うんじゃない」
「正しいからこそ、俺は人間じゃないだよアダルヘルム」

 伸びをしながら立ち上がり、息を吐き、振り返る。

「始まってしまえば、俺はただのバケモノで、すべてを壊す、『破壊神』となる」
「……っ!口にするなそんなことっ!」

 憤りの声を上げ、ゼンに訴えかけるアダルヘルム。

「そんな顔すんなよ、お前らは人間のままにしといてやるからよ?じゃあな?残りの仕事も頑張れよ、ギルド長さん」
「……っ!ゼンっ!!」

 ひらひらと手を振り、高台から降りていくゼンの背中を見つめるアダルヘルム。

「分かっていた……あなたが、言ってしまうのは……くっ!それが、あなたの覚悟なのか……?」

『神』という言葉……それを、自身がその存在だとして伝えたゼン。

 すべてを『破壊』する覚悟、己が忌み嫌う『神』の名を冠し、己の存在がこの世界に刻むものは暗闇で、絶望で、失望で……残される命も世界も無い事も知らしめる。命が潰えるのは、ゼンの手であることを知る事があるかは、分からない。
 だが、その瞬間に気付いた者がいるとすれば……彼の姿を目にする事になったとすれば……その目に映るのは、英雄の姿ではない事を知るだろう。

「浮かない顔」
「クロエ嬢……」

 搬送作業も無事に終え、ふらふらのファインを宿に運び、部屋を出たところでクロエに声をかけられたアダルヘルム。クロエは自分の部屋に誘った。

「毎日毎日……色んな表情を見せるのねアダル」
「自分では思わないのだが……そんなに顔に出ているだろうか?」
「ふふ……とてもわかりやすくてよ?」

 そっと腕を首に回し、キスをねだるクロエ。
 アダルヘルムの下腹部の淫紋が反応し、断るつもりだった意識が塗り替えられた。
 だが、無意識に……アダルヘルムはクロエの唇に傷をつけていた。

「……あなたも、噛みつくなんて」
「そんな……あぁ……すまない、すぐに拭わせてくれ」
「ふふ……しっかり舐め取ってちょうだい?」

 ゆっくりと時間をかけてお互いの唇を舐り合う。

「この先、この時を楽しむ時間はないかもしれないわね、アダル」
「……この身が滅んだとて、私はあなたを忘れない……覚えていよう、この感触も、恋い慕うこの心も……」

 少しずつ裸になりながら、ベッドに沈む。
 ツクツクと熱が襲う体に抗うことができず、本心と強要の合間にありながら、クロエの体に自分の体を強く重ねていくアダルヘルム。

「泣いているの?アダル」
「貴女をこうして抱けることに喜びを感じている……なのに、これが夢であれば良かったなどと思ってしまう……くっ」

 汗と共に、温かい涙が滴り落ちる。肌に触れたその熱を感じたクロエはほほ笑んだ。

「愛しい者との営みも、愛し愛される家族を持てたことも……夢であればいいなんて……贅沢よ、アダル……悪夢でしか保てなくなって、自分の心を『破壊』してしまったゼンが悲しむわ」
「こんな時に……ほかの男の名を出すとは……クロエ……嬢……嫉妬させるつもりなのか?……意地悪な人だ」

刺激により、淫紋の効果が高まり、感情が支配されていく……どんな言葉も、本心には届かない。

「ふふ……そうした方が楽しめるもの……っ」

 艷やかな声を上げ、体をよじらせ……感情を揺さぶり昂らせ、重なり溶け合っていく。

 慰めのつもりだったのかは分からない。いつもなら、アダルヘルムに自分の身を預けるのはゼンの指示でしか行わないもの……だが、この日の行為は、クロエ自身の判断での、初めての、秘め事だった。

「ふふ……アダル、かわいい人……」

 笑うクロエの表情は、氷のように冷たい。


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「イーリカの方が髪質はいいな」
「えっ?!姉貴の頭、触ったんすか?!」
「んな驚くことか?」
「……なんかちょっと男性不信だって零してたんすけど、なんか大丈夫になったんすかね?よかったっす」
「ああ、悪かったな」
「?」
 着替えまで済ませ、ゼンは腕輪を外してイエルに渡した。
「……最近、使ったすか?」
 慣れた手つきで起動し、カタールの刃を観察してすぐ、ゼンに問うイエル。
「そんなすぐわかんのか」
「少し刃こぼれしてるんす、ここ。亀裂の劣化が新しいので」
 指を刺された場所を見てもすぐには分からない程の、小さな亀裂だった。
「相当硬い物でも貫いたんすか?ふっふ!いやいや、でもこのくらいで済んでいるのは?!僕の仕事がいいから……見たかったなぁ」
「目の前で交尾し始めるような奴らを見たいのかお前、変わってんな?」
「こう……びっ?!そこを見たいんじゃ無くてこのカタールの性能っすよ!!」
 あたふたするイエルを見て笑うゼン、初々しい反応が面白いらしい。
「はっ!宝の持ち腐れには関係なかったな?で、まぁ、使う予定はないんだが、アダルヘルムが見てもらえってんでな、直してくれ」
「ほんとさっきから失礼っすね……わかりました、この程度ならすぐ終わるっすよ」
 材料が入っている木箱からアダマンタイトの小さな欠片と、近しい色の鉱石を選びカタールの横に並べたイエル。
「修繕開始」
 と、ひとこと言うと、大小様々な大きさの魔法陣がカタールを中心に展開されていった。
「粉砕、溶解、溶接、融合……定着、修正……修正……――」
 壁にもたれかかり、技術魔法を使って直すイエルを見つめていた。イエルの言った通り、数分でカタールの修復が終わった。
「いや〜〜〜やっぱりこの輝きは素晴らしい……僕達職人に、こんな素晴らしい素材を提供していただきありがとうございます!」
「全部お前の親父のおかげだ」
「それもあるっすけど……実際、現地で働いてくれたのはゼンさんっすからね〜!」
「はっ!そうかよ」
 手渡されたカタール。収納と展開も問題なく機能し、ゼンの腕に戻る。
「微振動を追加したっす!どんなに硬いもんでもスパーっといけるはずっすよ!」
「超音波カッターみたいなもんか?なんだかんだ、進化させる技術はにかよるもんなんだな」
「なんすかそれ?!詳しく聞きたいっすけど!!」
「うるせぇ、聞かなくてもお前が勝手に作るんだから言う必要はねぇだろ」
 職人とは奇異なるものだと、知らない技術の単語に興奮しだすイエルを見て思うゼン。
「イエル」
「はい?はっ!教えてくれるんすかぁ〜〜〜っ?!」
「好きなものに執着するのもいいが、家族のことも忘れんなよ?」
「……っす」
 イーリカにしたように、髪を乾かすときと同じ様に、ゼンはイエルの頭を撫で回した。ゼンの言い方も、触り方も……この戦いがそういう事なのだと教えているようだった。
「忘れてた、ほら」
 ズシッと思い、食べ物が入った袋をイエルに投げて渡す。中を開けると、果物に、ハムとチーズのサンドウィッチ、不格好な焼き菓子が何点か……その全てが手軽に片手で食べられるもの。パンパンに詰められていた。
「お、多いっすね……姉貴、僕が少食なの忘れんすかね……」
「全部優しさだろ、受け取れ。おっと、これは俺が貰う」
「それ絶対、失敗作の処分じゃないっすか?いつもそーなんすよね……」
 木の実が練り込まれた半分以上焦げているゴツゴツした硬いクッキーのような物。袋には『イエル専用』とまで書いてある。雑に開け、バキッと音を立ててほおばるゼン。
「絶対不味いっすよ?」
「この苦さがいいんだろ」
「変な人っすねぇ……」
「はっ!食ったら休めよ」
【|奏鉄堂《そうてつどう》】後にし、近くの高台で焼き菓子を食べながら、魔界のある方角をジッと見つめていた。
「仕事は済んだか?ゼン・セクズ」
「大仕事だったがな?報酬も貰って終わらせてやったぜ?」
「それは……はは!そうか……あまり弄ぶなよ」
「そんなんじゃねぇよ、睨むな」
 流石に準備中の為、酒は用意していなかったが、冷えた水の入った瓶を、後ろからゼンに渡すアダルヘルム。
「甘えるのはこれで終わりにする」
 ゴクゴクと渡された水を飲み込むゼン。
「勝手な話だが、これも、全部、触れたがった俺の甘えだ」
「私はそれでもいいと思うがな」
「ダメだろ、これから世界も、お前らの命も、全部『破壊』するってぇのに」
 最後のひとかけを口に入れ、ゆっくりと味わってから、改めて口を開くゼン。
「それが許されるのは、勇者みたいに、世界の平和を願って、救おうとする心を持った人間だけだ」
「あなたも……やり方こそすれ、同じ人間なはずだ……間違ったことだと思うんじゃない」
「正しいからこそ、俺は人間じゃないだよアダルヘルム」
 伸びをしながら立ち上がり、息を吐き、振り返る。
「始まってしまえば、俺はただのバケモノで、すべてを壊す、『破壊神』となる」
「……っ!口にするなそんなことっ!」
 憤りの声を上げ、ゼンに訴えかけるアダルヘルム。
「そんな顔すんなよ、お前らは人間のままにしといてやるからよ?じゃあな?残りの仕事も頑張れよ、ギルド長さん」
「……っ!ゼンっ!!」
 ひらひらと手を振り、高台から降りていくゼンの背中を見つめるアダルヘルム。
「分かっていた……あなたが、言ってしまうのは……くっ!それが、あなたの覚悟なのか……?」
『神』という言葉……それを、自身がその存在だとして伝えたゼン。
 すべてを『破壊』する覚悟、己が忌み嫌う『神』の名を冠し、己の存在がこの世界に刻むものは暗闇で、絶望で、失望で……残される命も世界も無い事も知らしめる。命が潰えるのは、ゼンの手であることを知る事があるかは、分からない。
 だが、その瞬間に気付いた者がいるとすれば……彼の姿を目にする事になったとすれば……その目に映るのは、英雄の姿ではない事を知るだろう。
「浮かない顔」
「クロエ嬢……」
 搬送作業も無事に終え、ふらふらのファインを宿に運び、部屋を出たところでクロエに声をかけられたアダルヘルム。クロエは自分の部屋に誘った。
「毎日毎日……色んな表情を見せるのねアダル」
「自分では思わないのだが……そんなに顔に出ているだろうか?」
「ふふ……とてもわかりやすくてよ?」
 そっと腕を首に回し、キスをねだるクロエ。
 アダルヘルムの下腹部の淫紋が反応し、断るつもりだった意識が塗り替えられた。
 だが、無意識に……アダルヘルムはクロエの唇に傷をつけていた。
「……あなたも、噛みつくなんて」
「そんな……あぁ……すまない、すぐに拭わせてくれ」
「ふふ……しっかり舐め取ってちょうだい?」
 ゆっくりと時間をかけてお互いの唇を舐り合う。
「この先、この時を楽しむ時間はないかもしれないわね、アダル」
「……この身が滅んだとて、私はあなたを忘れない……覚えていよう、この感触も、恋い慕うこの心も……」
 少しずつ裸になりながら、ベッドに沈む。
 ツクツクと熱が襲う体に抗うことができず、本心と強要の合間にありながら、クロエの体に自分の体を強く重ねていくアダルヘルム。
「泣いているの?アダル」
「貴女をこうして抱けることに喜びを感じている……なのに、これが夢であれば良かったなどと思ってしまう……くっ」
 汗と共に、温かい涙が滴り落ちる。肌に触れたその熱を感じたクロエはほほ笑んだ。
「愛しい者との営みも、愛し愛される家族を持てたことも……夢であればいいなんて……贅沢よ、アダル……悪夢でしか保てなくなって、自分の心を『破壊』してしまったゼンが悲しむわ」
「こんな時に……ほかの男の名を出すとは……クロエ……嬢……嫉妬させるつもりなのか?……意地悪な人だ」
刺激により、淫紋の効果が高まり、感情が支配されていく……どんな言葉も、本心には届かない。
「ふふ……そうした方が楽しめるもの……っ」
 艷やかな声を上げ、体をよじらせ……感情を揺さぶり昂らせ、重なり溶け合っていく。
 慰めのつもりだったのかは分からない。いつもなら、アダルヘルムに自分の身を預けるのはゼンの指示でしか行わないもの……だが、この日の行為は、クロエ自身の判断での、初めての、秘め事だった。
「ふふ……アダル、かわいい人……」
 笑うクロエの表情は、氷のように冷たい。