ep145 魔剣使いvs狂戦士⑥

ー/ー



「手応えはあったが……効いていないのか?」

「効いたさ。ここまでやられたのは久しぶりだな」

「お前はいったい……」

「オレに〔狂戦士〕と名付けたのは誰だかわかるか」

「は? いきなりなんの話だ」

「魔王だよ」

「!!」

「魔王の前で側近とシバキ合ってた時、あの人がオレに向かって言ったんだ。お前は〔狂戦士〕だと」

「……」

「そしてそれは、この能力によるものだろう」

 ジェイズが両拳を握り、魔力を練り始めた。
 俺がサッともう一歩退いて「なにをやるつもり…」と言いさした瞬間だった。
 辺りに飛び散ったジェイズの血が、まるでジェル状の生き物のようにズズズズ〜ッと奴に向かって集まり始める。

「な、なんだ?」

 血は奴の足元から這うように、奴自身にまみれた血も飲み込んで全身の傷口から染み込んでいく。
 それにともない奴の身体から、まるで血脈が剥き出しになるように、刺青のような筋が浮かび上がる。
 
「傷が塞がった……いや、傷がタトゥーになった!?」

 まもなくジェイズは脱力すると、ニヤッと危険な笑みを浮かべる。

「オレは流した自分の血を、己の肉体を強化する物質に変換することができる。錬金魔法でな。魔王をして〔狂戦士〕と言わしめた所以だ。これがオレの特殊技能(スペシャリティ)戦闘人形(マスター・オブ・パペット)〕」

「自分自身を死ぬまで戦う戦闘人形にするってわけか……」

「それは少しちげえな」

「?」

「敵が全員死ぬまでだ」

 大地が蠢く。
 空気が震える。
 ジェイズの圧力が何段階も上昇した。
 たださえ凄まじかったものが、さらに凄まじいものに。
 マグニチュードは、数字がひとつ上がるとそのエネルギーは三十二倍になるという。よって二つ上がれば一〇〇〇倍。
 ジェイズのそれは何倍上がったのか。全身がヒリヒリする。まるで目の前に地獄の業火が燃え盛っているようだ。

「……ここからが本番ってわけか」

「もうめんどくせえ小細工は抜きだ。こっからはブッ斃れるまでシバキ合いだぜ。せっかく久しぶりにアツくなってんだ。まだまだ楽しませてくれよなぁ? 魔剣使い!」

 ジェイズは不気味にぬらりとしたかと思うと、終末世界の悪魔のように襲いかかってきた。
 漆黒の長髪を振り乱し襲いくるは暴虐の獣神か。押し潰されそうな圧迫感。巨大な怪物のような迫力。
 俺はすぐに悟った。退がったら負ける!

「ハァッ!」

 俺も一足飛びで斬りかかった。
 ガギィィィィィン!!
 剣と拳が交錯する。
 奴はそこから鋼鉄の拳をガンガンガンと連打してくる。
 俺の剣もザンザンザンザンと旋風の如く奴を斬りつける。

 ズバァァァァッ!!
 
 俺の剣が奴の肩あたりを深く刻んだ。鮮血が迸る。

「!」

 次の瞬間、ゴォォンと奴の拳が俺の側頭部を撃ちつけた。
 頭蓋が揺れる。足元がふらつく。意識が飛びそうになる。
 だが、奴だって効いているはず。
 
「倒れるには早いぜぇ! クロー!」

 奴の次撃が飛んでくる。今度は蹴りだ。おそらくインパクトの瞬間に錬金魔法で強化するんだろう。連続で喰らうのはマズい。
 ならば……!
 フラついた俺はそのまま体勢を崩したと見せかけて、その動きを利用してクルッと回転すると、前方にグッと体重をかけて剣を思いきり振り抜いた。

 ズパァァァァッ!!

 ジェイズの体を斜めに斬り抜いた。予想外の動きに奴はモロに被弾した。ましてや攻撃から攻撃に移るタイミングでのカウンターでの被弾。先撃と合わせて相当に効いたはず。
 ここで一気に畳みかける!

「!?」

 俺の体が浮いた。視線を下げると、奴の蹴りが俺の腹へ突き刺さっていた。

「ぐっ…!」

 でも体重は乗っていない。それでもザザザザーッと数メートル退がらされる。
 俺は歯を食いしばって足を踏ん張った。相変わらずキツイ威力…だが、まだ大丈夫だ。

「魔剣使い…いや、クロー。お前はやっぱりおもしれえ」

 ジェイズは血を拭いながら笑みを浮かべた。 血は相変わらず、ズズズズ〜ッと奴の体へ集まる。ジェイズは被弾しながらも絶えず己の身体を強化させている。こうなると、あらゆる魔法を斬り裂く〔魔導剣〕の効果もあるのかないのか判然としない。

「俺は別におもしろくもないけどな」

 実際、このまま続けても分が悪いだろう。奴はいくら斬りつけても血で己を強化できるし、あまりにもタフすぎる。無論、限界はあるだろうが……おそらくその限界まで俺がもたない。
 俺も奴のように自分で自分を強化できれば……いや、できるかも?

「やってみるか……」

 謎の声がやったように、できるかもしれない。
 いや、できる。なぜか確信がある。

「どうした? なにをすんだ?」

 ジェイズがワクワクしたような目をする。まさに狂戦士という名に相応しい面持ちだ。そんな狂戦士を、俺は見据える。見据えながら……おもむろに自分の胸に自分の剣を突き立てた。
 大丈夫。アイツは自分を信じろと言った。俺ならできる。いくぞ!

「うぅっ!!」

 自らの胸にぶっすりと剣を突き刺した。

「血迷ったか!? いや……」

 俺の突然の自傷行為にさすがのジェイズも一驚した。

「なっ! クロー!?」
「魔剣使い!?」

 カレンとアイも驚いている。それはそうだろうな。どう見ても異様な光景だ。

「!!」

 ……きたぞ!
 俺の中で……力が漲ってくる!

「ああぁぁぁぁ!!」

 数秒後。
 ずぷっと剣を抜いた。
 血は出ていない。痛みも残っていない。
 うまくいったようだ。
 これならば……まだまだ戦える!

「じゃあ、続きをやるか」

 俺は剣を持ち直し、相手を睨んだ。
 ジェイズはなぜかうつむいてクスクスと震えだすと、
「クククク……ハッハッハァ!!」
 大声で笑いだした。

「なんだ?」

「クロー! テメーはマジでイカれてやがるなぁ!」

「あんたも大概だと思うが」

「ハッハッハァ! オマエ最高だぜ!」

 ジェイズはしばらく陽気に笑い続けた。
 やがて笑いがおさまると、その眼が生き生きと輝きを増した。

「クロー。死ぬまで闘ろうぜ」

「それは勘弁だな。だが、お前を倒すまで斬り続ける!」

「上等だ!」

「行くぞ!」

 互いに向かって互いに飛び込んだ。
 ガギィィィン!!
 再び剣と拳が激しく交錯する。
 この時、ギャングたちから逃れてこの場にたどり着いたエレサが、
「クロー!!」
 と叫んだらしかったが、耳には届かなかった。
 俺の体も心も、闘いのマグマに完全に呑み込まれていた。目の前の〔狂戦士〕と同様に……!


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む ep146 魔剣使いvs狂戦士⑦


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「手応えはあったが……効いていないのか?」
「効いたさ。ここまでやられたのは久しぶりだな」
「お前はいったい……」
「オレに〔狂戦士〕と名付けたのは誰だかわかるか」
「は? いきなりなんの話だ」
「魔王だよ」
「!!」
「魔王の前で側近とシバキ合ってた時、あの人がオレに向かって言ったんだ。お前は〔狂戦士〕だと」
「……」
「そしてそれは、この能力によるものだろう」
 ジェイズが両拳を握り、魔力を練り始めた。
 俺がサッともう一歩退いて「なにをやるつもり…」と言いさした瞬間だった。
 辺りに飛び散ったジェイズの血が、まるでジェル状の生き物のようにズズズズ〜ッと奴に向かって集まり始める。
「な、なんだ?」
 血は奴の足元から這うように、奴自身にまみれた血も飲み込んで全身の傷口から染み込んでいく。
 それにともない奴の身体から、まるで血脈が剥き出しになるように、刺青のような筋が浮かび上がる。
「傷が塞がった……いや、傷がタトゥーになった!?」
 まもなくジェイズは脱力すると、ニヤッと危険な笑みを浮かべる。
「オレは流した自分の血を、己の肉体を強化する物質に変換することができる。錬金魔法でな。魔王をして〔狂戦士〕と言わしめた所以だ。これがオレの|特殊技能《スペシャリティ》〔|戦闘人形《マスター・オブ・パペット》〕」
「自分自身を死ぬまで戦う戦闘人形にするってわけか……」
「それは少しちげえな」
「?」
「敵が全員死ぬまでだ」
 大地が蠢く。
 空気が震える。
 ジェイズの圧力が何段階も上昇した。
 たださえ凄まじかったものが、さらに凄まじいものに。
 マグニチュードは、数字がひとつ上がるとそのエネルギーは三十二倍になるという。よって二つ上がれば一〇〇〇倍。
 ジェイズのそれは何倍上がったのか。全身がヒリヒリする。まるで目の前に地獄の業火が燃え盛っているようだ。
「……ここからが本番ってわけか」
「もうめんどくせえ小細工は抜きだ。こっからはブッ斃れるまでシバキ合いだぜ。せっかく久しぶりにアツくなってんだ。まだまだ楽しませてくれよなぁ? 魔剣使い!」
 ジェイズは不気味にぬらりとしたかと思うと、終末世界の悪魔のように襲いかかってきた。
 漆黒の長髪を振り乱し襲いくるは暴虐の獣神か。押し潰されそうな圧迫感。巨大な怪物のような迫力。
 俺はすぐに悟った。退がったら負ける!
「ハァッ!」
 俺も一足飛びで斬りかかった。
 ガギィィィィィン!!
 剣と拳が交錯する。
 奴はそこから鋼鉄の拳をガンガンガンと連打してくる。
 俺の剣もザンザンザンザンと旋風の如く奴を斬りつける。
 ズバァァァァッ!!
 俺の剣が奴の肩あたりを深く刻んだ。鮮血が迸る。
「!」
 次の瞬間、ゴォォンと奴の拳が俺の側頭部を撃ちつけた。
 頭蓋が揺れる。足元がふらつく。意識が飛びそうになる。
 だが、奴だって効いているはず。
「倒れるには早いぜぇ! クロー!」
 奴の次撃が飛んでくる。今度は蹴りだ。おそらくインパクトの瞬間に錬金魔法で強化するんだろう。連続で喰らうのはマズい。
 ならば……!
 フラついた俺はそのまま体勢を崩したと見せかけて、その動きを利用してクルッと回転すると、前方にグッと体重をかけて剣を思いきり振り抜いた。
 ズパァァァァッ!!
 ジェイズの体を斜めに斬り抜いた。予想外の動きに奴はモロに被弾した。ましてや攻撃から攻撃に移るタイミングでのカウンターでの被弾。先撃と合わせて相当に効いたはず。
 ここで一気に畳みかける!
「!?」
 俺の体が浮いた。視線を下げると、奴の蹴りが俺の腹へ突き刺さっていた。
「ぐっ…!」
 でも体重は乗っていない。それでもザザザザーッと数メートル退がらされる。
 俺は歯を食いしばって足を踏ん張った。相変わらずキツイ威力…だが、まだ大丈夫だ。
「魔剣使い…いや、クロー。お前はやっぱりおもしれえ」
 ジェイズは血を拭いながら笑みを浮かべた。 血は相変わらず、ズズズズ〜ッと奴の体へ集まる。ジェイズは被弾しながらも絶えず己の身体を強化させている。こうなると、あらゆる魔法を斬り裂く〔魔導剣〕の効果もあるのかないのか判然としない。
「俺は別におもしろくもないけどな」
 実際、このまま続けても分が悪いだろう。奴はいくら斬りつけても血で己を強化できるし、あまりにもタフすぎる。無論、限界はあるだろうが……おそらくその限界まで俺がもたない。
 俺も奴のように自分で自分を強化できれば……いや、できるかも?
「やってみるか……」
 謎の声がやったように、できるかもしれない。
 いや、できる。なぜか確信がある。
「どうした? なにをすんだ?」
 ジェイズがワクワクしたような目をする。まさに狂戦士という名に相応しい面持ちだ。そんな狂戦士を、俺は見据える。見据えながら……おもむろに自分の胸に自分の剣を突き立てた。
 大丈夫。アイツは自分を信じろと言った。俺ならできる。いくぞ!
「うぅっ!!」
 自らの胸にぶっすりと剣を突き刺した。
「血迷ったか!? いや……」
 俺の突然の自傷行為にさすがのジェイズも一驚した。
「なっ! クロー!?」
「魔剣使い!?」
 カレンとアイも驚いている。それはそうだろうな。どう見ても異様な光景だ。
「!!」
 ……きたぞ!
 俺の中で……力が漲ってくる!
「ああぁぁぁぁ!!」
 数秒後。
 ずぷっと剣を抜いた。
 血は出ていない。痛みも残っていない。
 うまくいったようだ。
 これならば……まだまだ戦える!
「じゃあ、続きをやるか」
 俺は剣を持ち直し、相手を睨んだ。
 ジェイズはなぜかうつむいてクスクスと震えだすと、
「クククク……ハッハッハァ!!」
 大声で笑いだした。
「なんだ?」
「クロー! テメーはマジでイカれてやがるなぁ!」
「あんたも大概だと思うが」
「ハッハッハァ! オマエ最高だぜ!」
 ジェイズはしばらく陽気に笑い続けた。
 やがて笑いがおさまると、その眼が生き生きと輝きを増した。
「クロー。死ぬまで闘ろうぜ」
「それは勘弁だな。だが、お前を倒すまで斬り続ける!」
「上等だ!」
「行くぞ!」
 互いに向かって互いに飛び込んだ。
 ガギィィィン!!
 再び剣と拳が激しく交錯する。
 この時、ギャングたちから逃れてこの場にたどり着いたエレサが、
「クロー!!」
 と叫んだらしかったが、耳には届かなかった。
 俺の体も心も、闘いのマグマに完全に呑み込まれていた。目の前の〔狂戦士〕と同様に……!