想いを後押ししてくれるチョコレート
ー/ー 放課後。帰り道では特に何事もなく玲華と別れ、無事家に帰り着いた。重い足取りで自室に向かい、入ると同時にベッドの上に乱暴に横たわった。朝からカーテンを閉めっぱなしだったせいで、ベッドが私の心のように冷え込んでしまっている。部屋の中も薄暗くて私の後悔をそのまま現しているようだった。
はー、と深いため息を吐いてしまう。今日も私は素直になれなかった。そのせいで、玲華に酷いこと言ったし、あんな顔までさせてしまった。七年間ずっと玲華に片想いしているのに、何も変われない。嬉しい、好きを素直に表現できなくて塩対応をしてしまう。だから、友達という関係から何も進展しない。いつになれば素直に好きを言えるのか。一ヶ月後? いや、半年……三年後! 今と即答できない時点で一生無理そうな気がする。悪い考えが脳に蔓延してきて、また大きなため息を吐いた。
「あやちゃーん、帰ってきてるの?」
お母さんの声が聞こえてきた。どうやら、仕事が終わって帰ってきたらしい。はーい、と返事をしてからドアを開いて、下の階の玄関へと向かった。
「どうしたのお母さん?」
「買い物してきたから、冷蔵庫に入れるの手伝ってぇ」
重そうな買い物袋が二つ。そしてお母さんの少し疲れた表情。これは手伝わないとダメだろう。片方ずつ冷蔵庫の前に運んだ。
「あやちゃーん、帰ってきてるの?」
お母さんの声が聞こえてきた。どうやら、仕事が終わって帰ってきたらしい。はーい、と返事をしてからドアを開いて、下の階の玄関へと向かった。
「どうしたのお母さん?」
「買い物してきたから、冷蔵庫に入れるの手伝ってぇ」
重そうな買い物袋が二つ。そしてお母さんの少し疲れた表情。これは手伝わないとダメだろう。片方ずつ冷蔵庫の前に運んだ。
運び終えたら冷蔵庫に入れるだけ。場所は決まっているからそんなに大変じゃない。肉類は一番上に、野菜は一番下にとテンポよく入れていく。パンパンだった二つのレジ袋はあっという間にぺたんこになった。
「ありがとうあやちゃん」
「ありがとうあやちゃん」
「このくらいしないとね。私は若いんだし、いずれ一人暮らしとかもするからこのくらいの家事はちゃんとできないとね」
「あら。頼もしいわねえ。だけど、下に降りてきた時の表情がすこーし暗かったけど。また玲華ちゃん関係で何かあった?」
痛いところを突かれた。
「えっ、えっと……」
正直に言っていいかわからず答えに困っていると、お母さんから答えを切り出して来た。
「どーせ素直になれなくてまたやってしまったー! って落ち込んでた? 違う?」
一発で答えられなかった理由と内容を当てられた。私は黙って首を縦に頷いた。
「お父さんに似て洗濯、掃除、書類とかの手続き、機械の操作はすっごく頼もしいのよね。けど、料理と恋は苦手。これもお父さん似なのかしらね」
お母さんは呆れ顔でため息をついた。お母さんは私が玲華を好きなことを知っていて応援もしてくれる。それだけに、私がいまだに想いを伝えられないことにヤキモキしてるみたいだ。
「だ、だってぇ。なんでかわからないけど、思ってることと違う言葉が出ちゃうんだもん。それに、お母さんみたいにみんながみんな早くできるわけじゃないし」
「そんなこと言ってたら、玲華ちゃん誰かに取られちゃうわよ」
グサリと刺さる言葉を言われ、シュンとするしかなかった。お母さんがつけていたテレビの笑い声が、ヘタレな私を嘲笑っているようだった。
「玲華ちゃんは美人さんだよねー。町でもけっこうかわいい人がいるって話は大体玲華ちゃん絡みだし。あやちゃん前にファンクラブみたいなチャットが学校にあるって言ってたじゃない? 狙っている人多いと思うけど、どうなの?」
「そ、それは……」
反論ができない。玲華は本当に美人だし、ファンクラブもどきがあるのも事実。告白されたって話は聞かないし男の子の影を感じない。けど実は……と言われても不思議じゃない。黙りこくる私に、ソファーに座ったお母さんはやれやれと言った表情をしている。
「あやちゃんの告白が上手くいくかはわからないわ。けど、このままじゃ何もしなかったら、多分初恋は告白できずに終わりましたーってなる。それでいいの?」
一言一句お母さんの言う通りだ。これは何もお母さんだけじゃなくて、春や恵からもチャットとか玲華が居ない時に散々言われている。このままじゃ私は何もしないまま終わってしまう。けれど、私には想いを告げる方法が思いつかない。悩みを解決する策が見つからなかった。
一言一句お母さんの言う通りだ。これは何もお母さんだけじゃなくて、春や恵からもチャットとか玲華が居ない時に散々言われている。このままじゃ私は何もしないまま終わってしまう。けれど、私には想いを告げる方法が思いつかない。悩みを解決する策が見つからなかった。
「あやちゃん。あと一週間後はなんの日だったっけ?」
お母さんは意味深に板チョコを取り出した。一週間後は……そうだ! バレンタインデー! チョコを渡すタイミングで勢いで告白するなら、私にも出来るかもしれない。
「それならできるかも!」
「次の日曜日にチョコを一緒に作りましょう。手作りならより一層想いも伝わるでしょうし」
お母さんの提案にうんと大きく首を縦に振った。チョコを手作りで作った経験はないから多少不安だ。けれど、より自分の決意も固くなるかもしれない。私は意思を固めた。
翌朝。いつものようにまだ薄暗い通学路を通って玲華を起こしに行く。今日は珍しく起きていたようで、インターホンを鳴らすと、おはようと元気よく笑顔でお出迎えしてくれた。
「彩乃ちゃんなんか機嫌がいいね」
玲華はいつも通りかわいい笑顔で私を覗き込む。
「そ、そうかしら?!」
声が上ずってしまい、身体も一瞬で暖まる。機嫌がいいのは正解。けれど、それは起きていてくれただけではない。昨日からチョコを渡して玲華に告白して成功する妄想が止まらないからだ。一週間後なのに気が早いと思う。それくらい前に進める事が一大事なんだ。
「何かあったの?」
玲華は頬を緩める。かわいすぎて仕方がない。
「ちっ、べ、別にっ。何もないわよ」
私は平静を装う。答えが一瞬口から出かけたけど、なんとか我慢することができた。こういうのはサプライズ感が大事。事前に渡すと言ったらそれだけで終っちゃう気がする。だから言わない方がいいと思う。多分。
「ふーん。彩乃ちゃんが機嫌いいならなんでもいいや」
玲華はこれ以上追求してこなかった。なぜだか不機嫌そうな顔にも見えた。
昼休みのことだった。
「あやのん、今日やたら機嫌がいいよね?」
恵が頬杖をついて、髪をくるくると指で回している。
「別に。何もないわよ」
軽くあしらうけど、二人は止まらない。
「えー、絶対なんかあったよ」
「こんな彩乃さん見た事ありませんもの」
恵と春は餌に食いついた魚のようにぐいぐいと迫ってきた。
「ちゃんと玲華が起きてただけのことよ」
ちょっと愛想よく答えてみる。恵と春はつまらなさそうにしていた。
「玲華が時間通りに起きてるって相当珍しいけどぉ、それだけじゃないでしょ?」
「本当に何もないからね? それだけよ」
恵はうーんと軽く考える人みたいになった後、軽く首を縦に振った。
「そう言うことにしとくよ」
とりあえずこれ以上詮索される事はなさそうだ。私はそっと胸を撫で下ろした。
「しっかしだねぇ。玲華はなんで今日は起きてたの?」
恵は少し微笑みながら玲華に尋ねた。確かにそれは私も気になっていた事だし、朝聞きそびれていた。私は恵に心の中で感謝した。玲華は、首を右に傾けていた。
「たまたまいつもより早い時間に起きちゃって。それで寝ようとしたけど、できなかったから起きてたの」
ほわほわとした天使のような声。ただ期待していた答えでは無い。今日は頑張って起きたと思っていたから少しガッカリした。
「じゃあ、明日からまたねぼすけさんだねぇ」
恵も私と同じ様な反応を見せる。玲華はなんで? と言ってるようにキョトンとしながら私達を見つめる。それを見て私と恵はヤレヤレと言った表情をしていた。それからしばらくは日常的な話をしていたが、
「そう言えば、もうすぐバレンタインデーですわ。玲華さんと彩乃さんは何かしますの?」昼休みが残り十分くらいのタイミングで春が思い出すように言った。
「わたしたちは何もしないかなあ……」
玲華が寂しげな表情で答えた。何もしていない理由はお互い料理が下手だからだ。小学校三年生の時に玲華と私でクッキーを作った。ただ、残念ながら食べられたものじゃない黒い何かが出来上がってしまった。それ以来バレンタインデーは何もしない普通の日。
「えーっ⁈ 勿体無いじゃないですの! こういうイベント事は楽しまないと!」
春が普段見せない激しい語気をしている。世俗的なイベントに興味があるのは意外だ。
「昔クッキー作って失敗したから、それがどうしてもトラウマでさ。春は何かするの?」
私が春に問いかけると、春は自信満々な表情をしていた。
「ふふーん。恵さんとお互い手作りのチョコを交換しますの」
「いつもだよねー。美味しいの期待してるよ」
チョコの交換。来年はチョコの交換というのもアリだと思う。
「いいなあ……」
玲華は羨ましそうに春を見つめていた。
「私達はやらないからね」
私が釘を刺す様に言うと、玲華は残念そうに呟いた。待っててね玲華。一週間後に私がとびっきり美味しいチョコを渡すからね。私は心に誓った。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。