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ねぼすけさんを起こしに行って

ー/ー



 冬の朝は寒い。そして日が昇り切っていないから微妙に薄暗い。それは今日も同じ。薄暗さはともかく、少なくとも気温は暖かいと天気予報で言っていたのに。と意味のない文句を呟きながら、幼馴染の玲華(れいか)の家に向かう。玲華は黒髪ロングヘアーで背も高く、胸もスタイルもいい美少女。大和撫子は玲華を指す言葉だと思う。性格は天然でおっとりで、男子のウケもいい。そんな玲華の家に着き、インターホンを鳴らす。数秒後に出てきたのは、玲華のお母さんだった。

「ごめんねぇ彩乃(あやの)ちゃん。まだ起きなくて」

 玲華のお母さんが申し訳なさそうに謝る。いつものことながら、なぜか私の胸が痛くなってしまう。

「いいですよ。私、起こしてきますね」

「いつもごめんねぇ」

 家に入り、二階にある玲華の部屋に向かった。玲華の寝坊癖は高校生になっても治らない。だから私が迎えに来て、起こしてあげる。私がいなかったら、遅刻常習犯待ったなし。そんなことを考えながら部屋に入る。窓際のベッドで玲華はスヤスヤと穏やかな寝息を立てている。いつもだけど呆れてしまう。少しため息をつきながら、玲華を起こしに行った。

 この部屋は、私をおかしくしてしまう。入ると気分が高揚してしまうと同時に優しさに包まれて安らいでしまう。だから、怒る気が一切起こらない。きっと玲華のせいだろう。ベッドのそばで、玲華に見惚れていた。

「そんな寝顔を見ちゃダメじゃない……」

 顔を熱くしながらそっと呟いた。本当は起こさないでいたい。ベッドに忍び込んで一緒に寝たい。間近で寝顔を堪能したい。でも、時間と立場がそれを許してくれない。渋々玲華の右の肩を少しだけ強く揺さぶる。

「玲華、朝よ。起きないと遅刻するわよ」

「んんー……。彩乃ちゃん?」

 今日は珍しく素直に目を覚ましてくれた。

「そうよ。もう朝だから起きるわよっ」

 玲華が少し身体を起こしながら、私の方に手を伸ばしてきた。これはサッカーで倒れた人を起こすみたいな感じでやればいいの? 私はその要領で玲華の右手を掴む。すると玲華は、イタズラを成功させた子どものような不敵な笑みを浮かべた。まさかっ⁉︎ 玲華の目的に気付いたが、時すでに遅し。吸い込まれるようにベッドに引き寄せられた。

「あやのちゃーん。一緒にねちゃお?」

 息の漏れた甘い声と少し眠たげな表情で私を誘ってきた。これが休日なら、この美しすぎる悪魔の囁きに簡単に乗せらちゃう。だけど今日は平日。その囁きを振り払わないといけない。

「だ、ダメっ。今日は学校よっ」

 必死になって断る。すると今度は私を優しく抱きしめてきた。布団で温まった玲華の身体は、冷えきっていた私を芯から暖める。抱き心地の良さも眠りに誘う。

「お布団暖かいよ? 一緒にねよ? 彩乃ちゃんと一緒ならもーっとよく眠れそうだしぽかぽかしそうだし」

 確信した。玲華は私にとっての唯一の天使だ。天使の誘いなら仕方ないよね。このまま堕ちちゃおう。どこまでも。思考が完全に崩壊し、私の目が閉じかける。その時だった。ガチャッと扉が開く音とともに、二人を包む掛け布団が剥がされた。

「こらっ、玲華! いい加減起きなさいっ! それに彩乃ちゃんを巻き込んじゃダメでしょっ」

「むー」

 流石の玲華も渋々起きるしかなかった。

「急いで準備させるからちょっと待っててね」

 そう言うと、玲華を連れて足早に部屋を出て行った。取り残された私は、布団の上の僅かに残った玲華の温度を確かめるように、手を当てて摩った。

「止めてくれなかったら、あのままずっと……」

 安堵と残念な気持ちが複雑に混ざり合った。

 

 学校にはなんとか間に合って、授業も無事に午前中の分が終わった。そして今はお昼休み。友人の(けい)(はる)を含めた四人でお昼ご飯を食べている。朝は寒かったけど、昼くらいには日差しが出て予報通りある程度温かい感じになっていた。

「でぇ。今日も玲華をお迎えにいってぇ、遅刻ギリギリになったってことなのねぇ」

 恵がからかってくる。いつものようにダウナー感溢れる声と気怠げでとろーんとした垂れ目をしながら。

「そうよ。中々起きないから大変だったわよ」

 私の答えを聞いて恵はあごに手をついて、頬をニヤニヤさせながら私を見ている。

「それはまるで、玲華さんの通い妻のようですわ」

 春は唇を少し緩ませ、恵と同じ様に私を見ていた。恵とは対照的にキリッとした表情をして、お嬢様かと思うくらい綺麗な姿勢で座っている。

「だっ、誰が通い妻よっ! ただの幼馴染っ!」

 私は必死になって反論する。しかし、それが面白かったのか二人は声を出し笑い始めた。

「なにがおかしいのっ?!」

「だってぇ。あやのんの反応がまんざらそうじゃないもーん」

 恵が不適な笑みを浮かべる。その通りでしかない指摘で、顔が熱くなってしまった。

「そうですよ。顔を赤らめながら否定するなんて、ツンデレのそれじゃないですの」

 春の追い討ちで、もっと体温が上がってしまう。これじゃ玲華に好きってバレちゃう。ドキドキしながら右隣を見てみると、玲華はパンを食べることに集中しているようだ。少しして、私の視線に気がつくと、

「ふえ?」と首を少し傾けながら私を見てきた。どうやらこの話を聞いていなかったらしい。よかった。これならバレない。

「ねえねえ。なんの話をしてたの?」

 玲華が興味を持ってしまった。適当に誤魔化せばいいか。そう考えていた矢先、

「あやのんが毎日玲華を起こしに行ってるのってぇ、通い妻っぽいよねって話だよぉ」

 恵が先に答えてしまった。

「ち、ちがっ」

「ええ。そういう話でしたわ」

否定の声が春の声にかき消されてしまった

「ちょっと恵! 春!」

 誤魔化す私が面白いのかニヤニヤしている。

「嘘おしえるのはねぇ」

「ですよね恵さん」

 こいつら私のこと弄んでっ。私はオモチャで遊んで愉快そうな二人を睨んだ。

「彩乃ちゃんがわたしのお嫁さん? それだったらいいなぁ」

 私が睨みつけてるそばで、玲華はとんでもないことを言い出した。

「れ、玲華っ。あなた何言ってるの?!」

「だって、優しいししっかりしてる。わたしは彩乃ちゃん大好きだからそうだったらいいなあって」

 玲華は無邪気な笑顔をしている。なんて恐ろしい子なんだろう。普段はおっとりしすぎてるのに、こんな言葉をさらっと言ってのける。今だけじゃなく、ずっと昔からだ。それでいて反則的にかわいいんだもん。好きにならないわけがない。玲華はずるい子だ。

「彩乃ちゃん?」

 玲華の心配そうな声で我に返った。言葉と笑顔の衝撃でトリップしていたようだ。

「あっ、ゴメン。玲華がお嫁さんだなんて、とんでもないこと言うからびっくりしちゃって」

 高鳴る心を抑え、表情を引き締める。

「とんでもないこと?」

 玲華はキョトンとしている。

「私達同性よ。結婚はできない。それに恋愛感情を持つ事もありえない。あくまで友達までの関係。それ以外にはなれないわ」

 私は淡々と平静を装って答えた。

「そう、だよね。彩乃ちゃんはわたしの友達だもんね」

 玲華は少し申し訳なさそうにしていた。恵と春はやれやれと呆れ返って首を横に振っていた。日差しはあるのに、教室が冷たく感じた。


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「ごめんねぇ|彩乃《あやの》ちゃん。まだ起きなくて」
 玲華のお母さんが申し訳なさそうに謝る。いつものことながら、なぜか私の胸が痛くなってしまう。
「いいですよ。私、起こしてきますね」
「いつもごめんねぇ」
 家に入り、二階にある玲華の部屋に向かった。玲華の寝坊癖は高校生になっても治らない。だから私が迎えに来て、起こしてあげる。私がいなかったら、遅刻常習犯待ったなし。そんなことを考えながら部屋に入る。窓際のベッドで玲華はスヤスヤと穏やかな寝息を立てている。いつもだけど呆れてしまう。少しため息をつきながら、玲華を起こしに行った。
 この部屋は、私をおかしくしてしまう。入ると気分が高揚してしまうと同時に優しさに包まれて安らいでしまう。だから、怒る気が一切起こらない。きっと玲華のせいだろう。ベッドのそばで、玲華に見惚れていた。
「そんな寝顔を見ちゃダメじゃない……」
 顔を熱くしながらそっと呟いた。本当は起こさないでいたい。ベッドに忍び込んで一緒に寝たい。間近で寝顔を堪能したい。でも、時間と立場がそれを許してくれない。渋々玲華の右の肩を少しだけ強く揺さぶる。
「玲華、朝よ。起きないと遅刻するわよ」
「んんー……。彩乃ちゃん?」
 今日は珍しく素直に目を覚ましてくれた。
「そうよ。もう朝だから起きるわよっ」
 玲華が少し身体を起こしながら、私の方に手を伸ばしてきた。これはサッカーで倒れた人を起こすみたいな感じでやればいいの? 私はその要領で玲華の右手を掴む。すると玲華は、イタズラを成功させた子どものような不敵な笑みを浮かべた。まさかっ⁉︎ 玲華の目的に気付いたが、時すでに遅し。吸い込まれるようにベッドに引き寄せられた。
「あやのちゃーん。一緒にねちゃお?」
 息の漏れた甘い声と少し眠たげな表情で私を誘ってきた。これが休日なら、この美しすぎる悪魔の囁きに簡単に乗せらちゃう。だけど今日は平日。その囁きを振り払わないといけない。
「だ、ダメっ。今日は学校よっ」
 必死になって断る。すると今度は私を優しく抱きしめてきた。布団で温まった玲華の身体は、冷えきっていた私を芯から暖める。抱き心地の良さも眠りに誘う。
「お布団暖かいよ? 一緒にねよ? 彩乃ちゃんと一緒ならもーっとよく眠れそうだしぽかぽかしそうだし」
 確信した。玲華は私にとっての唯一の天使だ。天使の誘いなら仕方ないよね。このまま堕ちちゃおう。どこまでも。思考が完全に崩壊し、私の目が閉じかける。その時だった。ガチャッと扉が開く音とともに、二人を包む掛け布団が剥がされた。
「こらっ、玲華! いい加減起きなさいっ! それに彩乃ちゃんを巻き込んじゃダメでしょっ」
「むー」
 流石の玲華も渋々起きるしかなかった。
「急いで準備させるからちょっと待っててね」
 そう言うと、玲華を連れて足早に部屋を出て行った。取り残された私は、布団の上の僅かに残った玲華の温度を確かめるように、手を当てて摩った。
「止めてくれなかったら、あのままずっと……」
 安堵と残念な気持ちが複雑に混ざり合った。
 学校にはなんとか間に合って、授業も無事に午前中の分が終わった。そして今はお昼休み。友人の|恵《けい》と|春《はる》を含めた四人でお昼ご飯を食べている。朝は寒かったけど、昼くらいには日差しが出て予報通りある程度温かい感じになっていた。
「でぇ。今日も玲華をお迎えにいってぇ、遅刻ギリギリになったってことなのねぇ」
 恵がからかってくる。いつものようにダウナー感溢れる声と気怠げでとろーんとした垂れ目をしながら。
「そうよ。中々起きないから大変だったわよ」
 私の答えを聞いて恵はあごに手をついて、頬をニヤニヤさせながら私を見ている。
「それはまるで、玲華さんの通い妻のようですわ」
 春は唇を少し緩ませ、恵と同じ様に私を見ていた。恵とは対照的にキリッとした表情をして、お嬢様かと思うくらい綺麗な姿勢で座っている。
「だっ、誰が通い妻よっ! ただの幼馴染っ!」
 私は必死になって反論する。しかし、それが面白かったのか二人は声を出し笑い始めた。
「なにがおかしいのっ?!」
「だってぇ。あやのんの反応がまんざらそうじゃないもーん」
 恵が不適な笑みを浮かべる。その通りでしかない指摘で、顔が熱くなってしまった。
「そうですよ。顔を赤らめながら否定するなんて、ツンデレのそれじゃないですの」
 春の追い討ちで、もっと体温が上がってしまう。これじゃ玲華に好きってバレちゃう。ドキドキしながら右隣を見てみると、玲華はパンを食べることに集中しているようだ。少しして、私の視線に気がつくと、
「ふえ?」と首を少し傾けながら私を見てきた。どうやらこの話を聞いていなかったらしい。よかった。これならバレない。
「ねえねえ。なんの話をしてたの?」
 玲華が興味を持ってしまった。適当に誤魔化せばいいか。そう考えていた矢先、
「あやのんが毎日玲華を起こしに行ってるのってぇ、通い妻っぽいよねって話だよぉ」
 恵が先に答えてしまった。
「ち、ちがっ」
「ええ。そういう話でしたわ」
否定の声が春の声にかき消されてしまった
「ちょっと恵! 春!」
 誤魔化す私が面白いのかニヤニヤしている。
「嘘おしえるのはねぇ」
「ですよね恵さん」
 こいつら私のこと弄んでっ。私はオモチャで遊んで愉快そうな二人を睨んだ。
「彩乃ちゃんがわたしのお嫁さん? それだったらいいなぁ」
 私が睨みつけてるそばで、玲華はとんでもないことを言い出した。
「れ、玲華っ。あなた何言ってるの?!」
「だって、優しいししっかりしてる。わたしは彩乃ちゃん大好きだからそうだったらいいなあって」
 玲華は無邪気な笑顔をしている。なんて恐ろしい子なんだろう。普段はおっとりしすぎてるのに、こんな言葉をさらっと言ってのける。今だけじゃなく、ずっと昔からだ。それでいて反則的にかわいいんだもん。好きにならないわけがない。玲華はずるい子だ。
「彩乃ちゃん?」
 玲華の心配そうな声で我に返った。言葉と笑顔の衝撃でトリップしていたようだ。
「あっ、ゴメン。玲華がお嫁さんだなんて、とんでもないこと言うからびっくりしちゃって」
 高鳴る心を抑え、表情を引き締める。
「とんでもないこと?」
 玲華はキョトンとしている。
「私達同性よ。結婚はできない。それに恋愛感情を持つ事もありえない。あくまで友達までの関係。それ以外にはなれないわ」
 私は淡々と平静を装って答えた。
「そう、だよね。彩乃ちゃんはわたしの友達だもんね」
 玲華は少し申し訳なさそうにしていた。恵と春はやれやれと呆れ返って首を横に振っていた。日差しはあるのに、教室が冷たく感じた。