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まちがえた!?

ー/ー



 黒髪をカールし、ツインテールヘアーのユナが、じーっと書籍に見入っている。部屋着だってロリータファッション、少女趣味のユナ。ピンクに白い襟付きのネグリジェ姿。大きなソファーでゴロゴロしている。
 一人暮らしの部屋でリラックスしているが、今、書籍にくぎ付けだ。

 書籍のタイトルは『らぶっ子・おまじない』
 豆本と呼ばれるミニサイズの書籍だが、けっこう分厚い。

 『○○っ子』というほどお子ちゃまでもないユナは、もうじき30回目のバースデイを迎える。

「ン~と、片想いの彼と両想いになるおまじないはぁ……ひょえ――――」

 その書籍の3分の2以上がユナのためにおまじないが書かれているではないか?

拓海(たくみ)君と絶対に恋人同士になりたいの!)

 ユナが恋をしているのは、同じ広告会社に勤める同僚の男性、拓海・31才だ。
 拓海はとてもモテる。メッシュヘアーで、シルバーのアクセが良く似合い、色香漂う華やかな雰囲気。
 けれど浮いた噂が1つも無いので、皆不思議がる。
 彼は見た目とは裏腹に不器用な性格だ。
 女性たちはそのギャップにやられてしまう。ライバルは多い。

  ――――今ユナが見ている本に載っているおまじないの種類は豊富。そして、その1つ1つのやり方が非常に興味深い。
『料理酒とお湯でりんごを煮込み、一晩冷蔵庫で冷やし、翌朝蜂蜜を掛けて食べる』とか『満月の夜に”マイン、マイン、マイン”と月に向かって唱えた後、自分の名前と好きな人の名前を言い、最後に”キュン”と言う』……一瞬目が点になり、本を持ったまま笑い出すユナ。

「可愛いけど、可笑しい! アッハハハ! おなか痛いっ、ぐふふ」

 でも……? 『らぶっ子・おまじない』を読み進めて行く内に「あ」とユナはつい声を出した。もう彼女は笑っていない。真剣な表情。
 なにやらユナはピンと来た。

「これ、試す」

 そのおまじないは、とても勇気の要るものだ。
『バッサリと髪を切り、こっそり彼の背中に向かい十字架を(くう)に描いた後、彼に近寄ってから、彼に気づかれるように落とし物をする』と言った内容。

「あたし、髪を……自慢のロングヘアーを切るわ!」



 休日明け、皆が驚いた。

「ユナちゃん、どしたのー?! 切っちゃったの髪の毛。でも凄くかわゆい!」
 女性の同僚たちがユナのショートボブを褒め称える。

(結構イケてるかも?)
 イメチェン成功かなと、嬉しいユナ。

(ン、これはおまじないなのよ。泣く泣く髪を切ったのだから、全うしてみせるわよ。必ずや拓海君と両想いになるわ!)

 デスクの向こうからなぜか今日は時々、ユナを見る拓海。目が合いユナは(え!? おまじない、まだよ?)と焦るようなおかしな気分になる。へんてこりんなユナだ。
 いいじゃあないか。素直に喜べば。



 ユナは、自分がドジだとわかっているので、簡単なやり方であっても手順を間違わぬよう『らぶっ子・おまじない』をカーディガンのポッケに入れている。

 おまじないの手順に従い『わざと彼に気づかれるように落とす』物としてユナが選んだのは、ハンカチだ。
 古典的な恋の始まりを想わせるね。

 ――――昼休憩になった。
 春の陽気。桜は満開。今日はポカポカだ。
 レジ袋を持ったスーツ姿の拓海が、1人で中庭へ向かっている。彼を追うユナ。
 まるでストーカーか探偵だ。
 しかし健気な情熱家を許してやってほしい。悪さをする訳では無いので。

 拓海がパンにかじりつく様子をうっとりと、しかし密やかに見守るユナ。
 ユナはサササッとお弁当をかき込んだ。

(今だわ!)

 ベンチを立ち上がった拓海に近づき「あれ! えーと十字を切って」
 自分よりも足の速い拓海が行ってしまう。おまじないの仕方を忘れ、慌てるユナ。
(本を出して確認している暇は無いわ!)

 とりあえず『近づくこと』だけ憶えていたユナ。

 凄く拓海に近づいた時、不意に拓海が振り返った。
 ハッと、とてもびっくりしたユナが飛び上がった。と同時に『らぶっ子・おまじない』の本が拓海の皮靴にコツンと当たり、地面に落っこちた。

「ご、ごめんなさい! 拓海君」
 切りたてのフレッシュなボブヘアーを下げるユナ。

「ううん、大丈夫だよ。ユナちゃん、ハイ!」とその時、拓海は落ちた物を拾い、ユナに渡そうとした。

 拓海の瞳はとても優しい。
 そして、視線を本に落とした時から、なにか動揺し始めた。本のタイトルを見、内容がわかったせいで、神秘的すぎる乙女を恐れたのだろうか?

「ユ、ユナちゃん……好きな人が、いるの?」

「あ、あああ」
 (うつむ)くユナ。
(落とすのハンカチだったのに[思い出したんだね、ユナ。いや、でもユナ、なにを落とすか指定は無かった筈だぞ?]あたしのバカ!)
 泣き出しそうになり、なにも言えないユナ。

「オレ、この本でおまじないを使ったらユナちゃんと両想いになれるかなあ……。あ、ごめん。オレ、変なこと言って」

「え!」

 なんと、ユナと拓海は最初っから両想いだったのじゃないかっ。

 驚きと喜びで涙を零すユナ。

「あ、あっ! オレって変態? そんなに嫌がらないで。ごめんね! ユナちゃん」
 平謝りの拓海だ。

「違うの! 違います。 あたしは拓海君と両想いになるおまじないをかけたかったのっ」

「え!」
 驚愕した拓海の顔は一瞬固まり、すぐにほどけ若葉のように微笑んだ。

 ギュ! とし合いたい二人だろうが、ここはオフィス。そうも行かない。

 花吹雪の中、見つめ合い、愛で合い、愛おしみ合うユナと拓海。
 ユナは『らぶっ子・おまじない』をそっとポケットにしまった。

「オレね、ユナちゃんの長い髪、大好きだったの」

「あ、そうだったの……」
 ちょっぴりしょんぼりするユナ。

「でも、すっごく……恥ずかしいけど言うよ。ユナちゃん、凄くセクシーになったなあと思って、今朝何度も見ちゃってた」

「あ……」

 コロコロ転がる木漏れ日の中、二人はデスクへ急ぐ。

 おまじない、効いたね♡





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 黒髪をカールし、ツインテールヘアーのユナが、じーっと書籍に見入っている。部屋着だってロリータファッション、少女趣味のユナ。ピンクに白い襟付きのネグリジェ姿。大きなソファーでゴロゴロしている。
 一人暮らしの部屋でリラックスしているが、今、書籍にくぎ付けだ。
 書籍のタイトルは『らぶっ子・おまじない』
 豆本と呼ばれるミニサイズの書籍だが、けっこう分厚い。
 『○○っ子』というほどお子ちゃまでもないユナは、もうじき30回目のバースデイを迎える。
「ン~と、片想いの彼と両想いになるおまじないはぁ……ひょえ――――」
 その書籍の3分の2以上がユナのためにおまじないが書かれているではないか?
(|拓海《たくみ》君と絶対に恋人同士になりたいの!)
 ユナが恋をしているのは、同じ広告会社に勤める同僚の男性、拓海・31才だ。
 拓海はとてもモテる。メッシュヘアーで、シルバーのアクセが良く似合い、色香漂う華やかな雰囲気。
 けれど浮いた噂が1つも無いので、皆不思議がる。
 彼は見た目とは裏腹に不器用な性格だ。
 女性たちはそのギャップにやられてしまう。ライバルは多い。
  ――――今ユナが見ている本に載っているおまじないの種類は豊富。そして、その1つ1つのやり方が非常に興味深い。
『料理酒とお湯でりんごを煮込み、一晩冷蔵庫で冷やし、翌朝蜂蜜を掛けて食べる』とか『満月の夜に”マイン、マイン、マイン”と月に向かって唱えた後、自分の名前と好きな人の名前を言い、最後に”キュン”と言う』……一瞬目が点になり、本を持ったまま笑い出すユナ。
「可愛いけど、可笑しい! アッハハハ! おなか痛いっ、ぐふふ」
 でも……? 『らぶっ子・おまじない』を読み進めて行く内に「あ」とユナはつい声を出した。もう彼女は笑っていない。真剣な表情。
 なにやらユナはピンと来た。
「これ、試す」
 そのおまじないは、とても勇気の要るものだ。
『バッサリと髪を切り、こっそり彼の背中に向かい十字架を|空《くう》に描いた後、彼に近寄ってから、彼に気づかれるように落とし物をする』と言った内容。
「あたし、髪を……自慢のロングヘアーを切るわ!」
 休日明け、皆が驚いた。
「ユナちゃん、どしたのー?! 切っちゃったの髪の毛。でも凄くかわゆい!」
 女性の同僚たちがユナのショートボブを褒め称える。
(結構イケてるかも?)
 イメチェン成功かなと、嬉しいユナ。
(ン、これはおまじないなのよ。泣く泣く髪を切ったのだから、全うしてみせるわよ。必ずや拓海君と両想いになるわ!)
 デスクの向こうからなぜか今日は時々、ユナを見る拓海。目が合いユナは(え!? おまじない、まだよ?)と焦るようなおかしな気分になる。へんてこりんなユナだ。
 いいじゃあないか。素直に喜べば。
 ユナは、自分がドジだとわかっているので、簡単なやり方であっても手順を間違わぬよう『らぶっ子・おまじない』をカーディガンのポッケに入れている。
 おまじないの手順に従い『わざと彼に気づかれるように落とす』物としてユナが選んだのは、ハンカチだ。
 古典的な恋の始まりを想わせるね。
 ――――昼休憩になった。
 春の陽気。桜は満開。今日はポカポカだ。
 レジ袋を持ったスーツ姿の拓海が、1人で中庭へ向かっている。彼を追うユナ。
 まるでストーカーか探偵だ。
 しかし健気な情熱家を許してやってほしい。悪さをする訳では無いので。
 拓海がパンにかじりつく様子をうっとりと、しかし密やかに見守るユナ。
 ユナはサササッとお弁当をかき込んだ。
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 ベンチを立ち上がった拓海に近づき「あれ! えーと十字を切って」
 自分よりも足の速い拓海が行ってしまう。おまじないの仕方を忘れ、慌てるユナ。
(本を出して確認している暇は無いわ!)
 とりあえず『近づくこと』だけ憶えていたユナ。
 凄く拓海に近づいた時、不意に拓海が振り返った。
 ハッと、とてもびっくりしたユナが飛び上がった。と同時に『らぶっ子・おまじない』の本が拓海の皮靴にコツンと当たり、地面に落っこちた。
「ご、ごめんなさい! 拓海君」
 切りたてのフレッシュなボブヘアーを下げるユナ。
「ううん、大丈夫だよ。ユナちゃん、ハイ!」とその時、拓海は落ちた物を拾い、ユナに渡そうとした。
 拓海の瞳はとても優しい。
 そして、視線を本に落とした時から、なにか動揺し始めた。本のタイトルを見、内容がわかったせいで、神秘的すぎる乙女を恐れたのだろうか?
「ユ、ユナちゃん……好きな人が、いるの?」
「あ、あああ」
 |俯《うつむ》くユナ。
(落とすのハンカチだったのに[思い出したんだね、ユナ。いや、でもユナ、なにを落とすか指定は無かった筈だぞ?]あたしのバカ!)
 泣き出しそうになり、なにも言えないユナ。
「オレ、この本でおまじないを使ったらユナちゃんと両想いになれるかなあ……。あ、ごめん。オレ、変なこと言って」
「え!」
 なんと、ユナと拓海は最初っから両想いだったのじゃないかっ。
 驚きと喜びで涙を零すユナ。
「あ、あっ! オレって変態? そんなに嫌がらないで。ごめんね! ユナちゃん」
 平謝りの拓海だ。
「違うの! 違います。 あたしは拓海君と両想いになるおまじないをかけたかったのっ」
「え!」
 驚愕した拓海の顔は一瞬固まり、すぐにほどけ若葉のように微笑んだ。
 ギュ! とし合いたい二人だろうが、ここはオフィス。そうも行かない。
 花吹雪の中、見つめ合い、愛で合い、愛おしみ合うユナと拓海。
 ユナは『らぶっ子・おまじない』をそっとポケットにしまった。
「オレね、ユナちゃんの長い髪、大好きだったの」
「あ、そうだったの……」
 ちょっぴりしょんぼりするユナ。
「でも、すっごく……恥ずかしいけど言うよ。ユナちゃん、凄くセクシーになったなあと思って、今朝何度も見ちゃってた」
「あ……」
 コロコロ転がる木漏れ日の中、二人はデスクへ急ぐ。
 おまじない、効いたね♡