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9.アンタップしているカードをタップしてから、アンタップする

ー/ー




「いや、だからなんで……ぷくっ……」

 一枚のカードを見るなり、海風は自分の席でうずくまって、必死に笑いを堪えはじめた。
 教室の窓側後列だけを照らし出すのっぺりとした蛍光灯の光が、塩素で色素が抜けた彼女のはねっ毛をぷるぷると輝かせている。

「な、なんだよ。」
「なんで……くすッ……全身タイツのままなの……っ」

 彼女がもの申したいことは分かる。
 宣言通り、俺は白陣営に寝返った“死滅の悪魔”改め、“創世の悪魔”を第2弾でリリースしたわけだが……衣装デザインそのものは、彼の衣装を黒から白にすげ替えただけだった。

「うん、でも」
「か、顔が微妙にイケメンに寄せてて、筋肉だけちょっとリアルになってるのが……味わい深くてもう……ごめ、あははっ!」

 俺が言葉を挟む暇もないまま、彼女はお腹を抱え、上半身を大きく反り上げながら笑い始めた。

「ひでーよ、がんばって描いたのに……」
「ご、ごめんごめん。そうだよね、がんばって描いたんだよねっ」

「そうだよ、2時間かかったんだぞ」
「……」

 海風は目じりに溜まった涙を拭きながら、きっと想像をしている。
 俺がデスクに向かい、真剣な様子で――この筋骨隆々として、顎の尖ったデッサン狂いのイケメン悪魔を、黙々と丹精込めて描き出すさまを。

「……ブフッ!あっはははっ!」

 海風はふたたび吹き出し、今度は足をばたつかせ、上半身を前後に揺らしている。

「ごめ、ほんっ、むりっ!あははっ!」
「ふん!あーもうキレたっ、いつかイラストで泣かす!」

「あははっ、残念でした!もう泣いてますよーだっ」
「そ、そうだったわ……くそぉ!」


 海風は「ごめん、ごめん」としきりに口ずさみながら、スーハーと息を整え始めた。

 あの2時間が、彼女の笑顔に変わったんだ……それでいいじゃないか。
 いや、よくない。


「……説明に移らせてもらってよろしいか?」
「うん、おねがいします」

 落ち着きを取り戻した海風は、ときどき思い出したように震えながら、俺の方を見た。
 本当に大丈夫かオイ?


「ルールだけど……おおよその察しの通り、だいたいドラクロがベースになってます」
「うん、やっぱりそうだよね。それは見ただけで分かったよ」

 大本となった“創世ドラゴンズクロニクル”のルールは、数多あるカードゲームの中でもとりわけシンプルな部類に入った。

 ①30枚のデッキを使い、自分の場に3枚の壁となるカードを置く。
 ②各ターン、マナを溜めたりクリーチャーを召喚したり、イベントカードを使ったりする。
 ③クリーチャーで相手の壁を攻撃して破壊する(破壊された壁は持ち主の手札になる)、または相手のクリーチャーを攻撃する(パワーの低い方が破壊される)。
 ④相手の壁をゼロにしてから、相手プレイヤーを攻撃すれば勝ち。

 だいたい、この①~④を押えていればよかったので、デビューが小学生だった俺でもスッと入り込むことができた。

「ただ、ここで俺はひとつ差別化を図ったんだ」
「ほほう」

「まず“ドラクロ”だと、壁はどんなクリーチャーが攻撃しても1回の攻撃で1枚割れたんだけど……俺の“エタデモ”では、壁1枚ごとに10000の耐久値を設定してるんだ」
 「耐久値?」

「そう。攻撃したクリーチャーのパワー分の耐久値を減らしていって、10000を超えた時点で一枚破壊される」
「ふむふむ」

「そして、元のパワーが10000を超えるクリーチャーが攻撃した場合はボーナスが発生する。壁を1枚破壊したあと、2枚目の壁に対しても元パワーから10000を差し引いた数字分のダメージを、貫通して与えられるんだ」
「えっと……パワー15000の子が壁に攻撃したら、壁を1枚破壊してから2枚目の壁に5000のダメージってこと?」

「そうそう。ちなみにパワー10000に満たないクリーチャーには、貫通ボーナスはナシ。あと、残り3000しかない耐久値の壁を15000のクリーチャーが攻撃しても、2枚目は破壊できるけど、3枚目にダメージは与えられない」
「なるほど……大きいパワーが無駄にならないってことなんだ。いいじゃん、それ面白いじゃん!」

「……っ!」


 ほ、褒められた。

 俺は昔から、でかくて派手なかっこいいクリーチャーが「パワーでかくても無駄じゃん」って言われて、上級者にあまり使われないのが不憫でならなかったんだ。
 そんな彼らが活躍できるにはどうすればいいか、考えて、考えた結果がこれだった。

 まさか、そんな密かな積み重ねがこうして誰かに褒めてもらえるなんて。

 なんだか――とても胸が心地いいや。


「でも、壁の蓄積ダメージは、見た目でどうやって分かるようにするの?」
「……えっと」


 しまった、そこまでは考えてなかった……!


 ◆


「あははっ、かわい~!」
「……」


 この『腐滅を(もたら)す亡者アンデッドアサシン』の上にいくつか置かれた、キャラものの“ぷくぷくシール”。
 曰く、「これ1枚で1000ダメージのカウンターにしよ!」ということらしい。


「先輩がリレメン選抜のお祝いにくれたの!地元じゃすごく値上がりして全然買えなかったから、嬉しかったなぁ……あぁ……」
「そ、それはよかった」


 海風がすごく恍惚としている……シール貰えて本当に嬉しかったんだろうな。
 まぁ、実際のところ壁は裏向きにしてプレイするから、本番ではさほど悲惨な絵にはならないはずだけど……。


「ふふん。なので、大切に使うように」
「はい……次回までにカウンターを用意します……」


 ……けど。
 もっと、カードで喜んで欲しいなぁと思うのは……流石にぜいたくな話なのかなぁ。


「……じゃ、さっそくやろうよ」
「え」

「二人でデッキ組んで――対戦しよ!」
「……うんっ」


 ……ふふっ、海風のせっかちさんめ。

 第2弾で超進化(エヴォリューション)したエタデモに驚くのは、まだまだこれからだぜ!



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「いや、だからなんで……ぷくっ……」
 一枚のカードを見るなり、海風は自分の席でうずくまって、必死に笑いを堪えはじめた。
 教室の窓側後列だけを照らし出すのっぺりとした蛍光灯の光が、塩素で色素が抜けた彼女のはねっ毛をぷるぷると輝かせている。
「な、なんだよ。」
「なんで……くすッ……全身タイツのままなの……っ」
 彼女がもの申したいことは分かる。
 宣言通り、俺は白陣営に寝返った“死滅の悪魔”改め、“創世の悪魔”を第2弾でリリースしたわけだが……衣装デザインそのものは、彼の衣装を黒から白にすげ替えただけだった。
「うん、でも」
「か、顔が微妙にイケメンに寄せてて、筋肉だけちょっとリアルになってるのが……味わい深くてもう……ごめ、あははっ!」
 俺が言葉を挟む暇もないまま、彼女はお腹を抱え、上半身を大きく反り上げながら笑い始めた。
「ひでーよ、がんばって描いたのに……」
「ご、ごめんごめん。そうだよね、がんばって描いたんだよねっ」
「そうだよ、2時間かかったんだぞ」
「……」
 海風は目じりに溜まった涙を拭きながら、きっと想像をしている。
 俺がデスクに向かい、真剣な様子で――この筋骨隆々として、顎の尖ったデッサン狂いのイケメン悪魔を、黙々と丹精込めて描き出すさまを。
「……ブフッ!あっはははっ!」
 海風はふたたび吹き出し、今度は足をばたつかせ、上半身を前後に揺らしている。
「ごめ、ほんっ、むりっ!あははっ!」
「ふん!あーもうキレたっ、いつかイラストで泣かす!」
「あははっ、残念でした!もう泣いてますよーだっ」
「そ、そうだったわ……くそぉ!」
 海風は「ごめん、ごめん」としきりに口ずさみながら、スーハーと息を整え始めた。
 あの2時間が、彼女の笑顔に変わったんだ……それでいいじゃないか。
 いや、よくない。
「……説明に移らせてもらってよろしいか?」
「うん、おねがいします」
 落ち着きを取り戻した海風は、ときどき思い出したように震えながら、俺の方を見た。
 本当に大丈夫かオイ?
「ルールだけど……おおよその察しの通り、だいたいドラクロがベースになってます」
「うん、やっぱりそうだよね。それは見ただけで分かったよ」
 大本となった“創世ドラゴンズクロニクル”のルールは、数多あるカードゲームの中でもとりわけシンプルな部類に入った。
 ①30枚のデッキを使い、自分の場に3枚の壁となるカードを置く。
 ②各ターン、マナを溜めたりクリーチャーを召喚したり、イベントカードを使ったりする。
 ③クリーチャーで相手の壁を攻撃して破壊する(破壊された壁は持ち主の手札になる)、または相手のクリーチャーを攻撃する(パワーの低い方が破壊される)。
 ④相手の壁をゼロにしてから、相手プレイヤーを攻撃すれば勝ち。
 だいたい、この①~④を押えていればよかったので、デビューが小学生だった俺でもスッと入り込むことができた。
「ただ、ここで俺はひとつ差別化を図ったんだ」
「ほほう」
「まず“ドラクロ”だと、壁はどんなクリーチャーが攻撃しても1回の攻撃で1枚割れたんだけど……俺の“エタデモ”では、壁1枚ごとに10000の耐久値を設定してるんだ」
 「耐久値?」
「そう。攻撃したクリーチャーのパワー分の耐久値を減らしていって、10000を超えた時点で一枚破壊される」
「ふむふむ」
「そして、元のパワーが10000を超えるクリーチャーが攻撃した場合はボーナスが発生する。壁を1枚破壊したあと、2枚目の壁に対しても元パワーから10000を差し引いた数字分のダメージを、貫通して与えられるんだ」
「えっと……パワー15000の子が壁に攻撃したら、壁を1枚破壊してから2枚目の壁に5000のダメージってこと?」
「そうそう。ちなみにパワー10000に満たないクリーチャーには、貫通ボーナスはナシ。あと、残り3000しかない耐久値の壁を15000のクリーチャーが攻撃しても、2枚目は破壊できるけど、3枚目にダメージは与えられない」
「なるほど……大きいパワーが無駄にならないってことなんだ。いいじゃん、それ面白いじゃん!」
「……っ!」
 ほ、褒められた。
 俺は昔から、でかくて派手なかっこいいクリーチャーが「パワーでかくても無駄じゃん」って言われて、上級者にあまり使われないのが不憫でならなかったんだ。
 そんな彼らが活躍できるにはどうすればいいか、考えて、考えた結果がこれだった。
 まさか、そんな密かな積み重ねがこうして誰かに褒めてもらえるなんて。
 なんだか――とても胸が心地いいや。
「でも、壁の蓄積ダメージは、見た目でどうやって分かるようにするの?」
「……えっと」
 しまった、そこまでは考えてなかった……!
 ◆
「あははっ、かわい~!」
「……」
 この『腐滅を齎《もたら》す亡者アンデッドアサシン』の上にいくつか置かれた、キャラものの“ぷくぷくシール”。
 曰く、「これ1枚で1000ダメージのカウンターにしよ!」ということらしい。
「先輩がリレメン選抜のお祝いにくれたの!地元じゃすごく値上がりして全然買えなかったから、嬉しかったなぁ……あぁ……」
「そ、それはよかった」
 海風がすごく恍惚としている……シール貰えて本当に嬉しかったんだろうな。
 まぁ、実際のところ壁は裏向きにしてプレイするから、本番ではさほど悲惨な絵にはならないはずだけど……。
「ふふん。なので、大切に使うように」
「はい……次回までにカウンターを用意します……」
 ……けど。
 もっと、カードで喜んで欲しいなぁと思うのは……流石にぜいたくな話なのかなぁ。
「……じゃ、さっそくやろうよ」
「え」
「二人でデッキ組んで――対戦しよ!」
「……うんっ」
 ……ふふっ、海風のせっかちさんめ。
 第2弾で超進化《エヴォリューション》したエタデモに驚くのは、まだまだこれからだぜ!