#2 始まりの日 その2
ー/ー ハラリハラリと舞う桜の花弁が、僕の肩にそっと乗る。
校門とその道中に植えられた桜の木々は、既に見頃を迎えていた。
立派に満開に咲き誇り──と言いたい所だが、まだ開花一歩手前のものがほんの少しあるから、惜しくも「九分咲き」といった所だろうか。
「みんな、もうちょっと寄ってね~」
「だってさ。オリオン、もっと真ん中に寄ってよ。僕が見切れちゃう」
「やめろ伯雅、そんなに強く押すな……」
「ほらほら七香も。もうちょっとオリオンの方に詰めなさいって」
「ちょ、ちょっと晴蘭……!」
「フフッ、良い感じよ。じゃあ撮るわね~」
とは言え、新たな門出を祝う日に相応しい光景であることに変わりは無く、新入生たちとその父兄が、『星皇学院高等部入学式』と書かれた看板と桜を背景に、カシャカシャというシャッター音を拍手のように鳴らしていた。
母さんは用があって遅れて来るので、僕の記念撮影はその時だ。
撮影の邪魔にならないように通り抜けて校門を潜ろうとすると、同じく新入生と思しき女子生徒が目に入った。
背丈は僕より少し低いくらいで、髪は長く、眼鏡を掛けている。
外見的には特に目を引く要素は無いのだが、校門手前に立ったまま、何故かそこを動こうとしない。
例えるなら、閉ざされた門を前に呆然と立ち尽くす遅刻者といった所だが、しかし見ての通り、校門は全開になっており、時間的にも勿論遅刻などではない。
何故、そんな場所に立ったまま中へ進まないのか。
不自然に思った僕は、通りがかったついでに声を掛けてみた。
「入らないの?」
すると、ビクン、と跳ねるように彼女の身が震えた。
驚かせてしまっただろうか。
顔に見覚えが無いから、違う中学から入学してきたのだろう。
写真撮影や待ち合わせの最中という風には見えず、近くに父兄や友人らしき人も見当たらない。
「えっ、あ、あの……」
「通る人の迷惑になるといけないから、中に入っていたらどう? ほら、クラス分けの表も出てるよ。確認してきたら?」
「だ、大丈夫、です……」
促してみたものの、彼女はオドオドとした態度で拒絶した。
「余計なお世話だったかな。ごめんね」
何か事情があるのだろうと思い、それ以上の干渉はせず、僕は中へ進んだ。
それからは特に何事も無く、迎えた入学式。
「次、新入生代表、豊原伯雅」
「はい」
先程、校門前で記念写真を撮っていた生徒の一人だ。
「次、在校生代表。生徒会長、豊原宮子」
「はい」
姿勢良く座ったまま、校長や新入生代表、在校生代表らの挨拶をぼんやりと聞き流して、場所は教室へ移る。
担任の挨拶を終え、次はクラスメイトたちの自己紹介。
「織辺利恩です。宜しく」
中等部の頃から彼の名は聞いている。
文武共に抜群に優秀ながら、やたら問題を起こす生徒だと。
別に不良という訳ではないらしいが、何にせよこれまで通り、あまり関わらない方が良さそうだ。
僕の番が来た。
「染井春一です。これから一年、宜しくお願いします」
無難な挨拶。
気の利いた挨拶など僕の頭では思い付かない。
「徳永晴蘭です。まあ、仲良くして貰えると嬉しいかな」
「徳永七香です。そちらの晴蘭とは従姉妹同士なので、下の名で呼び分けて貰えると助かります」
あの二人も中等部からの内部進学で、その頃から従姉妹で同じクラスだった。
どちらも整った容姿だが、性格や見た目の雰囲気は結構違う。
「豊原伯雅です。先程の新入生代表の挨拶ですが、実は全部AIに書いて貰ったものです。──というのは嘘です。ちゃんと自分の頭で考えたからね?」
教室全体に小さな驚きが広がり、しかし直後に軽い笑いが起きる。
「豊原」の名は、この天園市に暮らす者なら一度は耳にするだろう。
地元を牛耳る有名大企業のトップを祖父に持ち、おまけに成績も常に学年トップ、テニスでは全国大会三連覇、更に生徒会長を務める姉と同じく、顔も性格もスタイルも文句無しで冗談も上手い。
神様は本当に不平等だ。
そして、最後に自己紹介の順番が回ってきた生徒は──
「……吉野仁香、です。宜しくお願いします」
先程、校門前で立っていた眼鏡の女子生徒だった。
チラリとこちらを向いた彼女と一瞬眼が合ったが、互いに会釈をすることも無く、自己紹介の時間はこれにて終了。
帰り際に母とも記念撮影を済ませ、入学式、4月1日は終わりを迎えた。
校門とその道中に植えられた桜の木々は、既に見頃を迎えていた。
立派に満開に咲き誇り──と言いたい所だが、まだ開花一歩手前のものがほんの少しあるから、惜しくも「九分咲き」といった所だろうか。
「みんな、もうちょっと寄ってね~」
「だってさ。オリオン、もっと真ん中に寄ってよ。僕が見切れちゃう」
「やめろ伯雅、そんなに強く押すな……」
「ほらほら七香も。もうちょっとオリオンの方に詰めなさいって」
「ちょ、ちょっと晴蘭……!」
「フフッ、良い感じよ。じゃあ撮るわね~」
とは言え、新たな門出を祝う日に相応しい光景であることに変わりは無く、新入生たちとその父兄が、『星皇学院高等部入学式』と書かれた看板と桜を背景に、カシャカシャというシャッター音を拍手のように鳴らしていた。
母さんは用があって遅れて来るので、僕の記念撮影はその時だ。
撮影の邪魔にならないように通り抜けて校門を潜ろうとすると、同じく新入生と思しき女子生徒が目に入った。
背丈は僕より少し低いくらいで、髪は長く、眼鏡を掛けている。
外見的には特に目を引く要素は無いのだが、校門手前に立ったまま、何故かそこを動こうとしない。
例えるなら、閉ざされた門を前に呆然と立ち尽くす遅刻者といった所だが、しかし見ての通り、校門は全開になっており、時間的にも勿論遅刻などではない。
何故、そんな場所に立ったまま中へ進まないのか。
不自然に思った僕は、通りがかったついでに声を掛けてみた。
「入らないの?」
すると、ビクン、と跳ねるように彼女の身が震えた。
驚かせてしまっただろうか。
顔に見覚えが無いから、違う中学から入学してきたのだろう。
写真撮影や待ち合わせの最中という風には見えず、近くに父兄や友人らしき人も見当たらない。
「えっ、あ、あの……」
「通る人の迷惑になるといけないから、中に入っていたらどう? ほら、クラス分けの表も出てるよ。確認してきたら?」
「だ、大丈夫、です……」
促してみたものの、彼女はオドオドとした態度で拒絶した。
「余計なお世話だったかな。ごめんね」
何か事情があるのだろうと思い、それ以上の干渉はせず、僕は中へ進んだ。
それからは特に何事も無く、迎えた入学式。
「次、新入生代表、豊原伯雅」
「はい」
先程、校門前で記念写真を撮っていた生徒の一人だ。
「次、在校生代表。生徒会長、豊原宮子」
「はい」
姿勢良く座ったまま、校長や新入生代表、在校生代表らの挨拶をぼんやりと聞き流して、場所は教室へ移る。
担任の挨拶を終え、次はクラスメイトたちの自己紹介。
「織辺利恩です。宜しく」
中等部の頃から彼の名は聞いている。
文武共に抜群に優秀ながら、やたら問題を起こす生徒だと。
別に不良という訳ではないらしいが、何にせよこれまで通り、あまり関わらない方が良さそうだ。
僕の番が来た。
「染井春一です。これから一年、宜しくお願いします」
無難な挨拶。
気の利いた挨拶など僕の頭では思い付かない。
「徳永晴蘭です。まあ、仲良くして貰えると嬉しいかな」
「徳永七香です。そちらの晴蘭とは従姉妹同士なので、下の名で呼び分けて貰えると助かります」
あの二人も中等部からの内部進学で、その頃から従姉妹で同じクラスだった。
どちらも整った容姿だが、性格や見た目の雰囲気は結構違う。
「豊原伯雅です。先程の新入生代表の挨拶ですが、実は全部AIに書いて貰ったものです。──というのは嘘です。ちゃんと自分の頭で考えたからね?」
教室全体に小さな驚きが広がり、しかし直後に軽い笑いが起きる。
「豊原」の名は、この天園市に暮らす者なら一度は耳にするだろう。
地元を牛耳る有名大企業のトップを祖父に持ち、おまけに成績も常に学年トップ、テニスでは全国大会三連覇、更に生徒会長を務める姉と同じく、顔も性格もスタイルも文句無しで冗談も上手い。
神様は本当に不平等だ。
そして、最後に自己紹介の順番が回ってきた生徒は──
「……吉野仁香、です。宜しくお願いします」
先程、校門前で立っていた眼鏡の女子生徒だった。
チラリとこちらを向いた彼女と一瞬眼が合ったが、互いに会釈をすることも無く、自己紹介の時間はこれにて終了。
帰り際に母とも記念撮影を済ませ、入学式、4月1日は終わりを迎えた。
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