54.その悪夢は、誰が為か
ー/ー 森から出た後、出会った戦士の冒険者。
ゼンに言われた通りに装備品を変え、戦闘スタイルも変化し、予想以上の速さで成果が出たらしい。
変化があったのは、それだけではない。
「あの時の女性たちは全員身重になり冒険者を休業してる?……あらあら……幸せになっているのね」
「節操ないだけじゃナイ?」
「私はなにも言うまい……」
「あにぃは、言えないだけ」
「よかったじゃねぇかハゲ丸」
褒められているのかなのか分からない状況に、苦笑いをしていたが、笑うゼンを見てホッとし、感謝を告げる。
「実力も上がり、ランクも上がり……そこそこ名を挙げられるようになりました。すべては、ゼン様のおかげです、ありがとうございます」
「お前の実力だろ、礼を言われるようなことはしてねぇよ」
「謙遜なさらずとも……まぁその、自分が勝手に思っていたのかもしれませんが、きっかけはゼン様てますから」
ゼンに視線が集まる。不穏な気まずさではない、恥ずかしさを彷彿とさせる気まずさを感じさせていた。
「お待たせしましたー!」
タイミングよく、カウンターから声がかかり、一礼をして彼はゼン達から離れていった。
「分かる人に分かればいい、そうだろう?ゼン?」
「勝手に言ってろ」
「照れてる」
「照れてますね」
「照れてる〜」
久々に、ファインの体が弾け飛んだ。
ギルド支部受付作業が終わった。
荒れたままだった室内の片付けをしながら、今後の動向を確認する。
「基本、我々は自由行動だからそこまで細かく言うことはないのだが……明日、ファイン殿には大型の設置兵器の運搬をお願いしたい」
「うわ、出たぁ~……了解〜……」
フワフワと飛びながら手伝っていたファインだったが、花瓶ひとつを戻し、座って見ているゼンの後ろに戻っていった。
「移動式の小型兵器の配布作業は、イーリカと……クロエ嬢とミウにも頼みたいのだがいいだろうか?」
「ん、任せて……お手伝い、がんばる」
「構いませんよ」
「おふたりとも、よろしくお願いします」
設けた期限まで後3日。
「ゼン・セクズ、あなたはイエルの所に行ってそのカタールの調整をしてくるといい」
「あ?なんでんなことするんだ?俺は別にこれを使う気はねぇぞ」
「貸し出しのつもりが気に入って使っているのだろう?念の為もある、行ってこい」
「チッ」
ふっと笑うアダルヘルムは満足そうだった。自分は町にある鍛冶屋を回り、装填用の刃の在庫の確認をした後、まだ残っている冒険者に配布、先に出発してしまった冒険者に行き届かなかった分を大型兵器の輸送をするファインと共に運ぶ手伝いに回ると伝えた。
「とうとう始まるんですね」
「不安そうだなイーリカ……大丈夫、私がそばにいる」
「お父さん……うん、わかった」
笑顔を見せるのは父にだけ。ふと視界に入ったゼンを、イーリカは睨みつけた。
「お父さんを死なせるようなことをしたら、許しませんから」
「んなこと知るかよ、生きるか死ぬかなんててめぇ次第だ」
「なっ!それでも……それでも父の友人なのですか!!」
娘の異常な反応に驚くアダルヘルム。
「友人じゃねぇ」
「なっ!」
「親友だ」
「は……?私にあんなことをしてよくもそんな……!」
涙目で駆け出し、外へ出ていってしまったイーリカ。
「あんなこと……?」
「あ〜……少し、イタズラしたな」
「殴るぞ」
「ああ」
剛腕のアダルヘルムの一撃は、ゼンの体を壁にめり込ませる程の一撃だった。壁に後頭部を打ち付けた衝撃で意識が飛びかけているゼンをそのまま放置し、娘を追いかけギルド支部を出ていく。
「結局、自分でバラすなんて……親友だから、ですか?ゼン」
「これも、貸し借りみたいなもんだろ……たがら殴られてやった」
「バカな人……さすがに『作り』治しますよ?骨も砕けているようですので」
驚きなからも、首を傾げているミウ。ファインの裾を引っ張り、質問をした。
「イタズラって、なに?」
「う……う〜ん……たぶん未遂だと思うけど……ゴニョゴニョ」
「ん……それは、あにぃ怒る……ゼン、めっ!だよ」
ペチンっと……ミウにもデコピンをされてしまったゼン。
「酒でも持っていくか」
「それはいいですね、アダルも、あなたと飲みたいと言っていましたから」
頭を掻きながら、ゼンもギルド支部を後にした。
「急にしおらしくなってビックリだヨ……大丈夫?あれ」
「最悪、自分の心に戸惑い、支障を感じれば……自分で自分を『破壊』するでしょう」
「心……『破壊』……ゼン……」
「心配いらないわ、ミウ。そうなっても、ただ目的のために、楽しむだけなのだから」
イーリカに寄り添い泣き止ませ、この町の住宅として買い上げた町外れの小さな家まで送り届けたアダルヘルム。その後ろ静かに付けていたゼンは、支部に戻るアダルヘルムを呼び止め、場所を変えた。
【奏鉄堂】近くの高台。観光名所まではいかないが小さな広場があり、切り株が並び椅子のようになっている、町民の憩いの場。
間を空け座り、沈黙したまま沈む夕陽を眺めるふたり。ゼンは切り株に酒瓶を置き、表情は変えないままだったが、言葉を選んでいる様子で、なかなか声をかけられずにいた。
「……まったく」
「……」
「ここまで付いてきてやったのだ、話を聞くにはあるぞ?」
「ああ」
ふうっと息を吐き、ゼンは話し出す。
「なにを言っても言い訳に聞こえるだろうが……あの日の悪夢は、ここ最近でいちばん深くてな、感触を感じるほど胸糞悪いもんだった」
ゼンは悪夢を見る。
正確には、悪夢を見させられている……見させるようにしているというのが正しいだろう。もちろん、クロエに『作らせ』ているものだ。
「あの時の女の顔も態度も、男に媚び売り、俺たちを売って捨てたクソ女にそっくりだったせいもあんだろーな。温かく柔らかい小さな命が俺の腕の中で、冷え固まり、ただの肉塊に変わっていく、悪夢だ」
「クロエ嬢からも聞いてはいたが……その、あなたが大切にしていたと言うのは……」
「妹だ」
優しく笑って口にした。
「夢のクセに妙にリアルな感触を残しやがった……だから……だからっつうのも……ああ……なんだ、勝手に……人の温かさを求めちまった……と、おもう」
「……」
「……悪かった」
彼の、アダルヘルムの子であったことも理由にはあったのだろう。この世界で、この世界の人間と分かり合うつもりがなかったゼンに、屈託なく接し、いつの間にか心許せるような存在になった彼の血を分けた子に……欲情ではなく、愛情を求めてしまった。
「俺は、そういう、普通じゃない世界で生きちまったから、距離の縮め方が、たぶん、少し、ズレてんだ」
「まぁ、それは確かにそうだな?自分の女を私とまぐわせて面白がったり、瀕死の状態にも関わらず抱かせようとしたり……そもそも、淫紋などとわけののわからないものを私に付与しよって……」
「……悪かったよ」
はぁっと大きなため息をつき、アダルヘルムはゼンに言った。
「謝ったのか?」
「今、した」
「違う、本人に、だ。私に謝っても仕方がないだろう?だからイーリカも、あそこまで傷付いたし、隠したままでいた……殴られても気付かなかったのか?致命的だな」
酒瓶を手に取ると、口をつけることなく、ゼンに突き返した。
「私は一発殴らせてもらったからな、それ以上のことは不要だ……この酒は、イーリカにしっかり謝罪してからなら、酌み交わしてやってもいい」
「そうか」
素直に受け取り、立ち上がるゼン。
「この件と、これから先のことは別だぞ、ゼン」
「お前は強いな……お前みたいのが主人公なら、この世界は――」
「バカなことを言うな。ここは、お前の為の世界だと聞いた。なら、最後までお前のしたいようにするのが妹の為ではないのか?そんな事は絶対に言うな……お前に付き合っている私達を裏切る言葉だ」
「はっ!そうだな、お前の言う通りだアダルヘルム。俺らしくなかったな?」
背を向け歩きだすゼンを、背中で見送るアダルヘルム。
――ありがとうな。
「これで、心置きなく進めるか?……ゼン」
小さく、はっきりとは聞き取れないくらいの声だったが、初めての心からの感謝の言葉は、届いていた。
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