53.離れぬ思い、後悔を残さぬ為に
ー/ー 翌朝、ギルド支部に集まることになったゼン達。
室内には、入念に説明を受ける冒険者達でごった返していた。
ひと組ずつ兵器の説明が書かれた紙を持ち、指示された町や村に出発していく。
「……アダルくん、お話できた?」
「おかげさまで……」
「良かった良かった……あとは〜」
「ミウか……」
ごった返し、周りが騒がしいおかげでファインとアダルヘルムはゼンに悟られない様に話が出来ていた。
「アダルくん、なにか知ってる?」
「……少し前に様子のおかしいゼンが深く眠るミウを連れてきたことがある……」
「今も十分様子はおかしいケド、それよりもってことネ……ほっとく?」
眉間にシワを寄せるアダルヘルム。
「どうしたいかだけくらいは、聞いてもいいだろう」
「さすがおにぃちゃんだネ?まだかかりそうだし〜行ってきなよアダルくん」
人混みに紛れ、ギルド支部を出ていくアダルヘルム。
「あいつどこ行く気だ?」
「なんか鍛冶屋さんに取りに行くものがあるんだって〜」
「そうか」
気付いているのかいないのか……ゼンは無表情のまま腕を組み、冒険者達の様子を見続ける。
「ミウ、入るぞ」
ノックをして部屋に入ると、ベッドの上で布の塊がもぞもぞと動いていた。
「いつまでそうしてるつもりだ?」
「……」
「ここでこうしていても、なにも変わらないぞ」
すぽっと顔を出したミウ。
「変わらない、なら……ここにいても、いっしょ」
「そういうことじゃ……ミウ……ゼンの事が嫌いになったのか」
色んな表情になるミウ。ハッとしたり、眉をひそめたり、悲しそうにしたり。
「ミウ、わかんない……好きも、嫌いも」
「私もそうだったぞ」
「え?!」
「そこまで驚くことはないだろう……」
ミウから見てふたりはとても仲がよく見えていた。だからこそ、アダルヘルムの今の発言は衝撃だったようだ。
「ミウは故郷では愛されていたかも知れない、だが、ゼンは真逆の人生を歩み、絶望の中で生きているのだそうだ」
「絶望……」
「だから先日の行いを許せとは言わないのだが……私は、これ以上ゼンにそんな思いをさせたくはないと結論に至ってな、止めることは不可能だとしても……ゼンのそばを離れないことが一番だと考えた」
少し寂しそうにアダルヘルムは笑って言った。
「ミウ……お前は恐らく、ゼンに心のなにかを『破壊』されてしまっている」
「……うん、それね……なんとなく、わかるの」
ミウも、同じ様に寂しそうに笑っている。
「ゼンにとって、それは……いらないもの、で……ミウのために、したこと……だって、わかるの」
「ミウ……」
「たぶん、ね……ゼン、自分のせいだって……だから、仕方なく……したんだと、おもうの」
布団から出て、アダルヘルムの手を掴むミウ。
「あの日、ゼンの気持ちが流れてきて、びっくりしちゃっただけだったの、ごめんね、あにぃ」
「無理はしていないか?ゼンは、口が悪い……言い方こそ悪かったが、これ以上付き合う必要はないと伝えていたのだから」
「大丈夫、ミウ……貰った力、大事なのは変わらないから……ちょっとだけ、ここに隙間がある気がするけど……きっと、戻ってくる……一緒にいれば、きっと」
ニコッと笑って、出かける準備をし始めるミウ。
「また……『破壊』されてしまうかもしれないぞ」
「ん、その時は……その時、ゼンのせいじゃないよって……ちゃんと、言うもん」
「ふっ……そうか……じゃあ、行こうかミウ」
「うんっ」
外していた指輪をしっかりはめ、ギュッと両手でつつみ込む。部屋を出て、アダルヘルムと一緒にギルド支部へ向かって歩き出した。
ざわついているギルド支部に戻ってきたアダルヘルムとミウ。
しかし、そのざわつきは先ほどの活気のある前向きなものとは別。増えた人だかりは冒険者だけでなく、近くにいた町民も野次馬として参加していた。
「コイツが『白金のゼン』?弱っちぃじゃねーか!よくも偉そうに言ってくれたな?!」
人の声と共に、室内のなにかが壊される音……明らかに、争っている音だ。
「まだこんなバカがいんのか、イーリカ、お前らギルドの管理人は節穴ばっかりか?」
「そ、そんなことはありません……!そこの人!手を離しなさい!」
「うるせー!!俺の力を無能とかほざきやがって!許せねぇ!!」
アダルヘルムは野次馬になにがあったのか聞き始めた。
どうやら組まされた冒険者の面子が気に入らないと騒ぎ出したらしい。ギルド側で能力とランクをしっかり審査している事を説明したにも関わらず、組まされた低ランクの冒険者を殴り飛ばしたらしい。
それを見ていたゼンが口を出し、この騒動……という訳だった。
「ゼン、お口悪い……知らないと、癇に障るね」
「まったくその通りだな……最悪なことになる前に、止めるとするか……」
ため息をつきながも、どこか懐かしさを感じてしまい、笑ってしまうアダルヘルム。ミウを連れ、人混みをかき分けギルド支部の中へ入る。
「……ひどい有様だな」
「おかえりアダルくん、おチビもおはよう」
「ん、おはよう……あくま、とめないの?」
「ん〜……大丈夫デショ」
クロエも、ファインと同じように止めようとしない。これもまた、懐かしい記憶。
ギルド長としての立場、自分の娘が見ている手前もあり、アダルヘルムは踏み出した。だが、そこに入ってきたひとりの冒険者が、歩みを止めさせた。
「自分がこいつを預かりますよ、ゼン様」
「お前は、ハゲ丸?」
「はははは……おかげさまで、頭皮も心持もスッキリして自分を鍛えられましたよ」
「くっそ!はなせ!」
力強く、暴れる冒険者の頭を掴み動きを止めていた。
「支部長殿、急な変更になるがうまく組み込んでもらえるだろうか?」
「は、はい……ではこちらへ……」
「は、なせよぉ!こいつにもう一発……ひっ!」
「素直に従え……そんな態度をさらけ出したお前の評価は、能力以前の問題……ゼン様が正しいことを見せつけているだけだ」
大人しくなり、連れて行かれ、騒動は収まっていく。
「立てるか、ゼン・セクズ」
「いい」
口の端から血を流し、差し出された手も握らず、ふらりと、壊されていないイスに座り口元を拭った。
「まさかの助け舟でしたね、ゼン」
「知り合いなの〜?」
「少しの間同行させていただいたことがあるだけですが……彼も冒険者でしたし、いずれ会うこともあるかと思ってはいましたがこんなところでとは……ふふ」
ゼンを見てニコリと笑うクロエ。釣られてゼンを見るファイン、殴られたことで不機嫌になっていると思っていたが、どうやらそうでもない様子だった。
「素直じゃないにも程がある」
「うっせ」
「どうせあの彼にも、態度も口も悪くして接していたのだろうが……彼も、ミウも……あなたを責めていない」
「だからなんだよ」
「ふぅ……自分でわざわざ気まずくしようとするな。お前にも覚悟があるように、私達も覚悟を持って……あなたの隣にいることを選んだのだから」
はぁっと大きなため息をつくゼン。
「はっ!バカばっかだな?」
「最高の仲間と褒めてくれるのか?」
「後悔すんなよ」
「それはどうだろうな」
緩んだ表情を壊すような返事をするアダルヘルム。弄ばれたと、ゼンはムッとした。
「目的を果たせず、あなたがいなくなってしまうような事があるのなら、それが私たちの後悔になるだろう」
「よくもまぁ、そんなこと、恥ずかしげもなく言えるもんだな」
「恥ずかしい事とは思っていないのでな?さ、ゼン。彼とも話をしてきたらどうだ?」
いつの間にか暴れていた冒険者は縛り上げられていた。ゼンを止めた懐かしい顔の冒険者は、笑顔でゼンに近づき、改めて挨拶をした。
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