酒場の君は届かぬ花に
ー/ー お気に入りの飲み屋は、通勤時の通り道にある小さな店。
一人客もふらりと入りやすく、気さくな店長が旨いもんを出してくれる店だ。
値段もそう高くないし、日本酒も充実している。
仕事帰りのささやかな癒しとして、時折足を運んでいた。
その店には、たまに一人でやって来る女性客がいる。
物怖じすることなく一人で来店し、キレイに飲み食いして去っていく人。
店長やバイトの店員にも丁寧に話し、立ち振る舞いが上品な女性だ。
同じひとり飲み同士、俺は彼女とお近づきになりたいと思うようになったが……話しかけるきっかけが見つからなかった。
そもそも、同じ日に来店するのが稀なこと。
同じ日に来ていたとしても、自然に話しかけられる距離の席にいるとは限らないし、来店する時間帯も被るかどうか……。
どうしたものかと考えあぐねるうちに辞令がおり、俺は遠方へ異動することとなった。
***
三年後、俺は移動先から再び本社勤務に戻った。
どうしたものかと考えあぐねるうちに辞令がおり、俺は遠方へ異動することとなった。
***
三年後、俺は移動先から再び本社勤務に戻った。
あの店は移転したり、バイト店員の顔ぶれが変わったりしていたが、前と同じ店主が温かく迎えてくれた。
相変わらず料理は旨いし、いい酒を出してくれる。
でも……。
俺が離れていた三年の間に店主は結婚して、似合いの伴侶を得ていた。
俺が声すらかけられずにいたあの女性は今、店主の隣で燗酒を作っている。
俺が頼んだ料理に合うものをとお願いしたら、彼女は銘柄と飲み方を提案してくれた。
「熱いので、お気をつけて」
そう言って俺を気遣ってくれる。
彼女とようやく言葉を交わす関係になれたが、それはお店と客とのやりとりで。
彼女に近づき、彼女のことを詳しく知る機会もないまま、彼女は俺にとって届かぬ存在となってしまった。
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