もう未来に来ちゃったので腹をくくるしかないと思いつつかつ丼をほおばってみた
ー/ーとりあえず、これ以上ぼろが出ないうちに俺はその少女に別れを告げ、校庭に出た。改めて見ると校舎も真新しく校庭も塵一つ落ちていない。
校庭の向こうに見えるまるで未来基地のような建物がどうやら体育館らしい。
教室のモニターに表示されていた「2078」は恐らく年号か?だとしたら俺は80年以上先の未来にいることになる。そんなことってあるのか?またパニクりそうになったので呼吸を整え何とか自分を保った。
こういう時は喧嘩で鍛えたメンタルが役に立つ。しかしヤンキーだって人間だ、急に圧倒的な孤独感と不安感が襲ってきた。
いかん、仮に今俺が入れ替わったやつに家族がいるとしたらどうやって誤魔化す?
第一、自分の家の住所も分からない。
そうだ!携帯だ!そう思い俺はカバンを探ってみた。
俺の時代の物より一回り小さい携帯端末を手に取り適当に、あれ、ボタンがないぞ。
しかし、手が液晶に当たると目の前にホログラフが現れ指紋認証を要求してきた。
かっこいい!映画の中に出てきたやつにそっくりだ。
指定されたマークに自分の指をかざすと承認のマークが現れ、メニューが展開したが複雑すぎて全くわからん。
「ちくしょう!どうすればいいんだよ!」
するとホログラムから
「何かお困りですか?」
と返事が返ってきた。しめた、音声入力ってやつだな。
「俺の住所を出せるか?」
「声紋から本人確認が取れたので開示します。」
新しい画面がポップアップし、地図付きで住所が確認できた。
結局四苦八苦しながらAIの助けを借り、俺は何とか自分の家?と思われる玄関の前に立っていた。超高層マンションの96階、エレベーターは音も振動も一切させずにわずか数秒でこの階まで俺を運んでくれた。
しかし、問題はこいつが家族と同居していた場合だな。俺は勇気を出してドアの横にあるセンサーに指をかざしてみた。ガチャッと小さな音が聞こえた。ドアノブを回して扉を開けた。
「ごめんくださ~い。」
俺は小声でつぶやいたが、中には人の気配はしない。しめた!どうやら一人暮らしのようだな。
俺は靴を脱ぎ中に入っていった。
さて、俺が今最も必要とするものは情報だ。できればこいつの生い立ちやこの世界の状況なんかも出来るだけ多く入手しておきたい。
自分が遠い未来の世界へいきなり放り込まれたにも関わらず意外と冷静なのに我ながら驚いた。恐らく昔からSF小説や様々なジャンルの本を読んでいたおかげだろう。後はヤンキーとして一歩間違えたら死ぬような修羅場を何度か経験しているのも大きい。
まずは携帯端末から情報を引き出すのが早道だ。俺は端末に向かい様々な質問を繰り出した。まずは俺の身体の元の持ち主の情報、家族構成、生い立ち、特技や性格などなど。
どうやら家族は遠方に住んでいるらしく高校から一人暮らしを始めたらしい、いや待て、こいつの通ってる、いや俺の高校は超名門校らしいな。
まあだからわざわざこんな遠方の学校まで一人暮らししてでも通ってるんだろう。やばいな、この時代の勉強について行けるどころか名門校じゃ絶望的だぜ!
あ、でも今はこいつの脳みそ使ってんだから大丈夫かな?まあこれは後回しだ。
名前は園田ハジメ、誕生日は7月18日、2061年生まれ。家族構成は両親と姉一人と。おっと、何だこりゃ、すごい情報量だな。遺伝子特性?交友関係リスト、友達として適切な候補者?運動能力から学力まで全て細かく数値化されてやがる。なんかゲームキャラのパラメーターみたいだな。
一人称は「僕」、ゲッ「俺」って学校では言っちゃったから、学校ではこれで通して、家族の前では僕だな。とにかく家族との直接のやり取りはなるべく後回しにした方が良いな。
そんなこんなで端末とにらめっこしながら小一時間ほどたった。
「うーん、ちょっと腹がすいたな。冷蔵庫はどこかな。」
それっぽい物が台所らしき?一角にあったので近づくと
「今日は何を召し上がりますか?」
と爽やかな男性の声が言った。
「は、いや、そうだな、かつ丼一丁!」
俺は半分ふざけていってみた。すると目の前の箱型の機械の液晶が光り、高速で何かを作っている音が聞こえ間もなく中央の扉があき、ホカホカのかつ丼が出来上がっていた。
俺は恐る恐る手を伸ばすと、器は見慣れたものだったが全く熱くなかった。
「あ、そういえば箸が・・・」
「へい、箸一丁!」
また扉が開き割りばしが勢いよく飛び出してきて、俺の額にヒットした。こいつ、俺の真似してんのか?機械のくせに変なユーモア利かすなよ、コラ!
怪しい機械から出てきたかつ丼を恐る恐る一口食べてみると、あらまあ、これは今まで食べたかつ丼の中で一番うまいんじゃないかというくらいの出来栄えだった。しかし何か味が整いすぎているというか、一種の物足りなさのようなものも感じた。
後で知ったことだが、この時代にはフードリプリケーションという技術があり、大気中の物質からあらゆる食べ物を作ることが可能になっていた。もはや牧畜も農業も必要ないのだ。こんなピノコもびっくりのあっちょんぶりけなテクノロジーがあるなら、自分の思い通りになる美女も一瞬で創れるのでは、という邪な考えが一瞬脳裏をよぎった。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない、と何とか自分に言い聞かせ、情報集めを再開した。
数時間後には大分この世界の概要がつかめてきた。まずさっき目にした友達リストにもあるように、この世界では友達もAIが大量のデータを基にした相性の良い友人リストの中から選ぶのが普通のようだった。
もちろん恋人も同じだ。そしてそれが一番リスクのない、本人の幸せにつながる選択らしい。通貨に関しては全てがデジタル化しており、学生は学校からカードに毎月決まった額が振り込まれ、その予算内で過ごすことが推奨されている。
とはいえ、洋服もどうやら食事と同じように一瞬で好みの服を作ってくれるリプリケーターがあるらしいので、衣食住はほとんど保証されているようなものだろう。こうしてみるとこの時代もそう悪くないんじゃないかと思えてくる。しかしダチや恋人までAIにきめてもらうなんて、どう考えてもおかしいだろ? 俺の脳裏に一瞬監視カメラの赤いランプがよぎる、背中に悪寒が走った。
高木杏は、風呂につかりながら湯煙にかすむ風呂場の天井をぼんやりとながめていた。園田君、最初話したときと大分印象変わってたな。一人称も僕だったような気がするし。まあ初対面だから繕ってただけかな。ちょっと常識に欠ける人だけど、なんだか一緒にいると元気になるというか、楽しくなるというか、不思議だったな。まあ私も変人だけどね。
私は高木杏。
高校から一人暮らしを始めている高校二年生だ。中学は学校に通わずホームスクーリングだったので、一年生の時は学校生活に適応するのに本当に大変だった。もちろん今も心の中では納得いかないことがあまりにも多い。でも順応しない限りはこの社会では生きていけないのだ。
風呂から上がると、冷蔵庫を開け、食材を取り出し夕食の準備に取り掛かった。母も相当変わり者で、フードリプリケーターで作ったものは絶対に食べなかった。
家族にもいつも本物の食材を使った手料理を作ってくれていた。だから今も私に食材をわざわざ送ってくれ、自分で調理したものを食べるよう厳しく言われている。
フードリプリケーターで作った料理は味も栄養バランスも完璧だ。もちろん私もかなり食べているが、しかし味は美味しいものの、何か整いすぎていて逆に物足りなさを感じた。後は食べた後、何か魂が抜けるような、情熱とか色んな感情が薄くなるような気がして怖くなり、自分でもなるべく食べないように気を付けていた。
規則正しい生活、健全な学校生活。でも何か時々得体のしれない不安や恐怖を感じるときがある。それが何なのか?フードリプリケーターで作った食べ物の味に象徴されるような何か不自然なものを杏は子供のころから漠然と感じていた。
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