◇◇◇激戦~亡国の神獣~◇◇◇
ー/ー突然、ノーリの足元から黒い蛇がずるりと滑り出し、砂塵を巻き上げながら巨木ほどの大きさに膨れ上がった。
それは一瞬でノーリを丸飲みし、ドオッと地中に戻る。
「ノーリ!!」
低く続いていた地鳴りに加えて、大蛇が地中深くを動く振動が、響き渡っていく。
「くそ、逃げられたか?! 負傷者以外は持ち場へ戻れ! 羽根蛇共々、反撃に備えろ!」
聖者バルドの号令に、遠巻きに見守っていた魔女探し達があわてて動き始めた。
「今の黒蛇は……!? ノーリが、の、呑まれて……」
「あ~。ペットまでは気付かなかったな。あいつは大丈夫だよ」
「ソーマ! ノーリが魔女の手下って、いつから……!!」
あまりのことに、アルヴァはおもわず声を荒げてしまっていた。が、ソーマは当然のように、余裕の笑みをうかべている。
「ん? はは、これ俺が捕まるやつ? あいつが魔女の手下なのは最初から気付いてたぜ。奇襲してきたから返り討ちにして、魔女との力の繋がりを少しずつ解いてたんだ。あいつは、自分を魔女の奴隷だって言ってた。……この国で奴隷は、解放しないと、だろ?」
ソーマの言葉に、嘘は感じない。
だけど――。
「アルヴァ、黒蛇は砂地のほうに向かったっぽい、追いかけるよ! ソーマさんも! あのゼロファを返り討ちにしたなら、戦力になってよね!」
ハーディスが、背中を叩く。
「いいぜ、黙ってたお詫びにひと働きしよう」
面識の薄い筈の二人だが、息の合った会話と共にサッと駆け出していった。
「ちょっ……!」
……確かにここで揉めてる場合ではない。アルヴァは小さく息をついて、ふたりのあとに続いた。
聖者バルドの号令で動ける人間がまたこの場所に出てきたが、魔女探し達には隊列もなにもない。
「うーん、黒蛇はディールの丘側のかなり離れた場所へ移動したみたいだ。多分、魔女の傍へ行ったんだろう」
「えぇ、早! じゃあ捕まえるにしても、まずはさっきの羽根蛇かぁ」
東側へ拓けた夜の草原を眺める、いつものソーマの横顔。その足元には、羽根蛇にやられた死体。その背中には、大量に流れた血の跡。――その立ち姿が、なぜか、似合う。
「……ソーマ、もしかして、戦争の経験が――」
瞬間。
突然ドッと地面を突き上げ、砂場のど真ん中から、巨大な魔女の羽根蛇が出現した。
「……っ!!」
その紫色の体躯を、咄嗟に回避する。
ザアッと巻き上がる砂煙で視界が消え、片目を瞑って口元を覆う。
『光よ 我が意に従え!』
アルヴァは周囲への警告も込め、羽根蛇の頭上へ光魔法を撃ちだした。次いで[[rb:口風琴 > ハーモニカ]]の高音とともに、炎の矢が蛇の頭へ炸裂する。
「アルヴァ、羽根を狙うよ!」
どこからか響いたハーディスの声。即応したアルヴァは、不意に視界を奪われた羽根蛇の背へとりつき、まだ砂を纏っている黒い羽根の根本に双剣の斬撃を叩きつけた。
風魔法で同じ動きをしたハーディスと、蛇の背で背中合わせに合流する。
「羽根、硬っ!! 岩より硬いんじゃない?!」
「って言ってたな。聖女様の力でも消滅しなかったし、魔物ではないのかも――」
ふたりで喋った一瞬後、羽根の根本を攻撃された蛇が怒ったように身をよじった。蛇がぐるんと頭を向けて突っ込んできたのを、ハーディスと同時に反対側へ飛び退いて避ける。
ワッと集まってきた魔女探し達が、羽根蛇に群がるように攻撃をはじめた。
「――普通に突っ立って攻撃するな! 蛇に間合いは通じないぞ!!」
ここに集った魔女探し達は《ホライズン》に集まってきた人間ばかりではない。最初に大量にでた死体と同じ犠牲が増えるのを、黙ってみている訳にもいかない。しかし、喧噪の中でアルヴァが張り上げた声に、何人が従うだろうか。
蛇の巨体に対して、魔女探し達の攻撃力は、あまりに些細だ。国防軍の用意した攻城機の矢ほどの攻撃力があれば話は別だが――。
全方位からの細かい攻撃に苛立った羽根蛇が大きく蝙蝠の翼を羽ばたかせ、群がる魔女探し達のほとんどが風圧で吹き飛ばされる。
「くっ……! アルヴァ、大丈夫?!」
ハーディスの風魔法に守られ、砂埃に目を擦る。
「ああ、助かった。対策を考えないと埒があかないな」
羽ばたきで人間を蹴散らした羽根蛇の次の行動はおそらく、空への離脱。そうすると地上の魔女探し達の攻撃は届かなくなるが、現状一番攻撃力のある国防軍の攻城機が、使える。
蛇は想定通り頭を上げ、大きく羽根をひろげた。
「――まぁ、落ち着けよ《ティユポーン》。ちょっと俺と、お喋りでもしようぜ」
蛇の鼻先にトッと立ったのは、ソーマだ。――その身のこなしは、魔女に似ている。
「な、なにしてるんだ、あいつ……?!」
「蛇と喋って……まさか奴も、魔女の手下なのか……?」
風圧に耐えて立ち止まった魔女探し達が、一斉に不審の目をあげる。
『軽々しく我が名を呼ぶな。痴れ者が』
突如、地響きのような声が鳴り響いた。夜空に舞い昇った紫の羽根蛇の体躯が、ぐにゃりと溶けるように、変化していく。
――蒼い肌の人間の上半身には、黒い蝙蝠の羽根。
滑らかな紅い長髪は毛先で数匹の赤蛇が牙をむき、下半身は、暗い斑色の二匹の蛇になっている。
羽根蛇だったものが人型に変化を遂げ、場の空気が、ズンと重圧に満ちた。
『我は大蛇神ティユポーン。魔物ごときと同一視するとは、不敬な奴らよ』
低く厳格な男の声。
――人型の魔物といえば、吸血鬼が最上位の存在だと思っていた。だがこれは、人型の、神獣――というべきなのだろうか。
まさか、魔女を倒しにきて神獣と戦うことになるなんて、誰が想像しただろう。
『……不敬な部外者よ。折角手加減してやっておったのに、何故我が真実の姿を暴いた?』
「ふふ、縁浅からぬ神獣同士、遊んで貰おうかなってな!」
『――その傲慢。人間としては珍獣にあたろうな!』
ゴッと巨大な蒼い手がソーマに掴みかかる。
しかし、するりと抜け出したソーマはそのまま巨大な手にむけて、何かを小さく呟いた。
次の瞬間、蒼い手がジュッと霧のように焼き切れる。
『………………!』
「…………??!!」
あまりのことに、テュポーンも固唾をのんで見守っていた魔女探し達も、言葉を失った。
空中でくるりと姿勢をととのえ、ザンと綺麗に着地したソーマに、畏怖に近い視線があつまる。
「あはは! 皆、これは確かに神獣だ。だけど所詮は『亡国の神獣』! 今を生きる人間達の営みのほうが遥かに尊い! 主役は君達だ。正しく恐れ、正しく立ち向かえ!!」
ソーマの華麗な演説が響き渡ると同時に、国防軍の攻城機がドドッと金属の矢を放った。
それは見事にティユポーンの不意を突いた形で、半数ほどが蒼と斑の蛇の身体に突き刺さり、猛烈な爆発音をあげる。
『ぐうっ……うるさい、機械が!!』
巨大な神獣がゴオッと頭上を駆け、森の際に並べられた攻城機を巨大な尾で一気に薙ぎ払った。国防軍は神獣の一方的な攻撃に逃げ出し、森の中に退避していく。
轟音に耳を塞ぎながら駆け戻ってきたソーマは、満面の笑顔だ。
「どーよ? 俺って結構凄いだろ!」
「いや、あれは厄介……」
「あ~人型が一番嫌なんだよ~!」
ハーディスの叫びが、皆の心の叫びだろう。
しかし突然ティユポーンの右半身に、ガガガッと無数の亀裂が走る。
かまいたちのような剣技で敵の目をひきつけたのは、クレイ=ファーガスだ。森を足場に、その巨大な人型の肩へとりついた。
「おい、こんな狭い場所に押し寄せるな! 図体がデカいなら、広い場所に行けよ!」
『人間ごときが、我に命令するか――』
「人間ごときの魔女に従ってんのは、何なんだよっ!」
歴戦の剣士クレイ=ファーガスの瞬速剣が、余裕をみせていたティユポーンの髪の赤蛇に猛攻撃を加える。
――神獣と口論するクレイの本領発揮に、砂場でポカンとしていた魔女探し達も気を引き締めて剣を握り直した。
「――地面に潜らせるな! 足を断ち羽根を破れ!!」「武器を持たせるなよ、手に気を付けろ!!」
視界を邪魔されて不満の声をあげたティユポーンが、ドドッと自らの蛇の胴を砂場に叩きつける。冷静を取り戻した魔女探し達は素早く戦略をたて、魔法の詠唱と剣技の連携で攻勢をはじめた。
――300年間にわたる魔女との戦いの、最終決戦――。
メルド湖沼地帯を消滅させた先に出現した、大地の[[rb:神獣 > 大蛇神ティユポーン]]。この巨大な敵を倒した先に、300年の沈黙を破って姿を現した、仮面の魔女が待っている。
――そう誰もが、勝利への確信を抱いた瞬間だった。
ドドドドドドドドドッと強烈な蛇の猛攻が全方位を薙ぎ払った。一瞬で砂埃と血飛沫が空を覆い、暗闇があたりを包む。
咄嗟に身をかわして助かったのは、クレイだけだ。
「――っ……!! くそ、こんなの……どんだけ規格外なんだ……!!」
『――憎悪の念はその身に返る。試されておるのも、分からぬか』
「試し……? っ……動ける奴は逃げろ! 『魔女探し』にはこいつは倒せない! アルヴァ、ハーディス! ……誰か、無事な奴はいないのか……?!」
土埃の中、返事はない。
――まさか、全滅したのか?
クレイが暗がりの中を駆けまわっているうちに、ティユポーンは悠々と平原へ戻って羽根をひろげた。
『これで、仕舞いだ』
ひらけた草原からの、極寒の強風。風のなかに混じる雪が氷になり、砂場と森を雹の嵐が襲う。
――まるで、災害だ。
クレイは急いで砂場におかれた飛行機械の後ろに身を隠した。激しい雹をうけた木々のむこうでは、国防軍が慌てて撤退しているだろう。
ユリウスと聖女は無事だろうか?
アルヴァとハーディスは?
あれだけ派手に立ち回っていたソーマはどうした?
隠れた飛行機械が凄い音をたててガタガタ揺れる。――駄目だ。これじゃ、動けない。
「……くそっ……どうすりゃいいんだ…………ここまでして、何が望みだっていうんだよ……!!」
◇◇◇味方~黒翼の魔術師~◇◇◇
「――行け、アルヴァ。俺を信じろ」
暖かく頼もしいソーマの声が鼓膜を叩いた。
避けようのないティユポーンの苛烈な攻撃に晒された。だがやられたと思った直後、まるで天使のような黒い翼を生やしたソーマに抱えられて上空を飛んでいたのには、驚いた。
――飛行機械で空を飛ぶのには慣れたが、生身で空中に放り出されたのは、はじめてだ。
しかし、怖くはない。
ソーマの《真名を掌握》する言葉のせいだろうか。
落下するアルヴァを追い抜くように、ハーディスの魔法がゴオッと巨大な炎をティユポーンへむけて放たれた。
強烈な熱風が駆け抜け、足元を覆っていた雹が一気に消滅して道がひらかれる。一緒に抱えられていた状態から、この威力の魔法が撃てるハーディスはやはり凄い。
光魔法を付与した双剣をグッと握り、巨大な標的が眼下に迫る距離感に、集中する。
――どんな存在だろうが、弱点はきまっている。
ティユポーンがはっと目をあげたのを見逃さず、落下の速度をそのまま攻撃力に活用して、正確に、ドッと双剣を両目に突き刺した。
『グアアアアァァァ!!!!』
瞬時に双剣を引き抜いて離脱すると、巨大な蒼い手が掠めてきた。ティユポーンの巨体が大きく姿勢を崩し、激痛にもがく間に、素早く駆け降りる。
『ぐぅぅっ……目に……光魔法だと……?!』
雹が蒸発した白煙の中、宙を掻くテュポーンの動きは鈍い。羽根から発生していた雹がバラバラと止みはじめる。
アルヴァは濡れた草原の茂みの中にザアッと音を立てて隠れ、離脱した。
――剣戟が通用するのは、おそらく、目だけだろう。
無理に剣で攻撃を続けても無駄だ。出来るだけ距離を取ってハーディスが追撃しやすくしなくては――。
見上げると、ハーディスを抱えたソーマが巨大な翼を大きく羽ばたかせた。
満天の星を映した、滑らかに黒い翼。
――素性について詮索しないなんて言ったのは、まずかったな。
ハーディスの[[rb:手風琴 > アコーディオン]]と[[rb:口風琴 > ハーモニカ]]の音色が高らかに響き、ゴオッと立ち登った暗雲がゴロゴロと不穏な轟音を含む。
――バァン! ドオォォォォン……!
アルヴァは地を裂くような轟音と衝撃に、おもわず身を竦めた。まさか雷を落とすとは……。ハーディスの才能は、一体どうなっているんだ?
一瞬、しんと静かな空気が流れる。
人型の蒼い巨体が大きく傾き、草原のなかに倒れ込んでいく。ズズン……と地響きをたてて巨大な敵が倒れるのと同時に、冷たい草の匂いが一気に吹き抜けていった。
「アルヴァ! どこだ?!」
草むらのなかに身を隠したつもりだったが、クレイがすぐ傍まで駆けつけていていた。
一瞬ティユポーンの追撃を心配したが、雷撃に倒れた巨体に、今すぐ反応は無いようだ。
「こっちです。クレイさん、ご無事で――」
ざっと立ち上がると、変な顔をしたクレイが凄い速さで駆け寄ってきた。なるほど、この代表の移動速度はこういう歩き方で――。
少し俯いたクレイが高速で駆けつけてきてドンと胸元を叩かれた。その息を詰めた様子に、アルヴァはかける言葉に迷った。
「……?」
「っ……心配かけさせやがって……! くそ、俺に仲間を死なせるのは……いい加減にしろってんだ……!!」
寒風のなかに熱すぎる声が胸に滲んだ。
――俺はまだ、この人に、仲間だと思って貰えていたのか。
あれだけ生意気な我が儘を言って、折れて受け入れて貰いながら、自分はまた、我が儘を押し通そうとしているのに。あれだけ注意喚起されていた魔女の手下を招き入れ、それを庇ってしまったのに。――俺に、心配して貰う資格なんて、無いのに。
「あの飛んでるソーマは何なんだ? まさか教会の祭壇にいるような天使だっていうのか?」
「……ソーマの能力は、する力です。あの翼もその応用でしょう。あんな軽い言動の天使がいたら、困ります」
「そりゃ違いないな。……しかし、今のでこの巨大な神獣を、倒せたのか……?」
草原に横倒しになったティユポーンに、反応はない。
だが、魔物のように砂になって消える様子もない。
「そう願いたいですが……この状態だと判断がつきませんね」
「こいつと魔女の命は繋がってるって言ってたよな。……魔女も一緒に倒さないと駄目だって事か……」
その言葉に、ぎゅ、とアルヴァは胸元を抑える。
――そうだった。
この巨大な相手が沈黙しているうちに、魔女と話をしなくては……。
「おーい、ティユポーンが痺れてるうちが、魔女を倒す好機だぜ!」
「ちょっとソーマさん、その魔女さんが近くに見当たらないよ?!」
「あれ? ティユポーン倒したら自分から出てくると思ったんだけどなぁ……」
ばさ、と大きな羽音と暖かい声が降りてくる。
ソーマとハーディスが草むらの中にザッと着地し、雷雲で濡れた水滴を払った。
「おい、ソーマ=ディユエッタ。する能力があると聞いたが……お前は一体、どういう奴なんだ? 俺たちの仲間になったのには、本当にこの戦いに協力したいからなのか? それとも何か別の目的があるのか?」
クレイがあらためてまっすぐソーマに向き合った。
ソーマは少し困ったような顔で、しかし、きちんとクレイに向き直った。
「……故郷での肩書を捨ててきた、放浪の旅人だよ。だけどちょっと縁があって、君達を勝利に導く手助けをしたいんだ」
「ほう……じゃあゼロファを庇ったのは何故だ?」
「え? それは勿論、愛だぜ!」
「…………」
変な空気で、一瞬、時間が停まった。
「――クレイさん。とにかくソーマが敵じゃない事は、確かです。たった今、その翼で俺とハーディスを助けてくれた訳ですから」
アルヴァはいそいで二人の間に割って入った。
いままでのソーマの言動を考えると、さっきの一言は、ソーマにとってはごく自然な発言だろう。だけど今、真剣なクレイには通用しないだろう。
「……わかった。最後にひとつだけ聞く。故郷に置いてきた肩書は、天使ってやつなのか」
クレイの真剣な問いに、ソーマは小さく笑って大きな黒翼をスルリと消した。
「そいつは天使に迷惑だろ。ここでの俺は『世界を支配する魔女』を倒す勇者に力を与える、『黒翼の魔術師』。そう認識するといいさ」
ドドドッと馬を駆り、国防軍の一隊の篝火が、濡れた草むらを赤く照らした。
「クレイさん! ハーディス!アルヴァ! ――無事な人間はこれだけですか?」
「あ、ユリウス~! よかった、聖女様は大丈夫だった?」
ハーディスの声に、馬上の国防院総帥のうしろから、聖女ミラノが顔を出した。
「みんな……! 生きてる……よ、良かったあ……」
聖女ミラノの白い息が、緊迫した空気を和ませてくれる。
――駆け抜けてきた砂地には、斃れた魔女探し達がそこかしこに転がっていただろう。ハーディスでも精神的にきつかった場所を、よく通り抜けてきたものだ。
「クレイさん、魔女はこの草原の奥にある城塞のひとつに入っていったようです。もしかして報告にあった、蛇の門がある場所では?」
馬上から声をおとしたユリウスの視界には、夜目の効く鳥がいるらしい。
「……なるほど。ユリウス、案内できるか?」
「勿論です。でも、ティユポーンはどうしますか? 放置するには危険ですが……」
――この神獣が、いつ目を覚ますかわからない。が、下手に攻撃して目を覚まされるのも、危険だ。確実に眠らせておく方法があれば――……。
アルヴァはぐっとソーマの腕を引いた。
「ソーマ。吸血鬼の時みたいに、ティユポーンを眠らせてくれ」
「え~? こんなでっかいの、吸血鬼とはちがうぜ。俺に出来ると思うのか?」
「……やろうとしないだけで、本当は、何でも出来るだろう? この神獣の拳ひとつ、簡単に消し飛ばしたんだから」
軽い調子でかわそうとするソーマを、じっと覗き込んだ。
真実を言わないかわりに、嘘も言わない。まっすぐ向き合えば、そのぶんの回答を返してくれる。そして、言葉にした願い事は、断らない。たぶん彼は、そういう人間だ。
「ふふ……いいね、俺の扱いに慣れてきたんじゃないか。アルヴァ」
ニッと笑い、ソーマは濡れた草をかきわけて倒れた神獣の傍に立った。
「――よく眠れ。夜は、お休みの時間だ」
蛇の身体を優しく撫でたソーマに、特別な魔法を使ったような気配はない。だが、確実に眠らせた――という安心感が、満ちる。
それを見守ったミラノが、そっと息を吐いた。
「……これでしばらく、この蛇さんは眠っていてくれますね。今のうちに、先生に……魔女に、会いに行きましょう」
「おい、待て待て! 『光明の聖女』様も行くっていうのか?!」
「メルド湖沼地帯を消してあの蛇が出てきたのも、魔女探しの皆さんが斃れたのも、私のせいです。……これだけの犠牲を出して、黙って待ってる訳にはいきません。私も、みんなと一緒に行きます」
『光明の聖女』ミラノ=アートの、引け目も後悔も無い、真っ直ぐな姿勢。流石にクレイも、言葉が出なかった。
夜露に頭を振った馬をくるりと足踏みさせ、ユリウスは改めてクレイに笑いかける。
「ご心配なく、クレイさん。『光明の聖女』様は、我々国防軍が護ります。に責任は持たせませんよ」
「責任とかそういうんじゃ無くてだな……はぁ、俺に止める権利は無いか……。改めて言うまでも無いだろうが、魔女は、各国代表達に呪いをかけた『討伐対象』だ。知り合いだろうが何だろうが、絶対に、油断はするな」
「わかってますよ。最前線を生きてきた貴方がそんなに心配するなんて、歳ですかねぇ?」
「年季と言え。権力者が」
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