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第75話 蝕む魔宝石

ー/ー



「まあまあ、奥様。その宝石はどちらで?」

「最近オープンしました宝石店ですわよ、奥様」

「まあ、おきれいですね。私も欲しいですわ」

 社交の場では、貴族のご婦人たちがいろいろと話をしている。
 今、社交界で最もホットな話題といえば、ご婦人方が話している宝石である。
 赤、白、青、黄色など、色とりどりで素晴らしい輝きを持つ宝石が、貴族の女性をきれいに引き立てているのである。
 ご婦人方は最近オープンした宝石店と話しているが、具体的な店名は出てこない。なんとも不可解な話である。

 この日、また一人の貴族の女性が噂の宝石店へと連れてこられた。

「いらっしゃいませ、こんにちは。これはとても美しいレディたちですね。ささっ、どうぞごゆるりとご覧になって下さい」

 宝石店に入ると、とてもにこやかな表情の男性が出迎えている。

「まあ、素敵な殿方ですこと。では、お言葉に甘えて拝見させて頂きますわ」

 対応に出てきた男性の姿を見て、ご婦人はすっかり魅了されてしまっている。どうやら、好みにドンピシャだったようである。旦那は泣いていい。
 ご婦人は、友人と遺書に店内を見て回っている。

(ヒャーッヒャッヒャッヒャッ! じーつににーんげんはー愚かでーすねー。ミーの宝石にわーざわざ魅了さーれにやーってくるとーはねー)

 店員の男性は、にこにことしながらも心の中ではそのようにほくそ笑んでいた。
 そう、この店員の正体は魔族であるクラウンなのだ。道化師風の姿をしているクラウンは、このような変装もお手の物なのである。
 しかし、魔族でありながら、よくもこう堂々と王都の中でお店など開いていられるものだ。普通の魔族であれば、こううまくいくわけがない。

 魔族が潜入でうまくいかない理由は、だいたい次の二つだ。
 ひとつは、古来より張り巡らされた、代々の聖女による結界だ。これがあれば、大抵の魔族はその中に入ることができなくなる。
 ところが、今ある結界は、クロナが張り直してからずいぶんと時間が経っている。その上、その結界を張り直せる唯一の存在であるクロナが、邪神の介入により王都から不在となっている。このような状況から、魔族の侵入や活動ができてしまうというわけだ。
 もうひとつが、教会の力の弱まりといえるだろう。
 大聖女にも引けを取らない大司教でもいれば話は変わったはずだ。だが、今のイクセンの王都にいるのは、その下位にある司祭まで。彼ではそこまでの力を持っていないので、実質的に完全にすり抜けてしまっているというわけだ。
 これはすべて、邪神による介入のせいである。
 邪神の介入がなく、クロナが聖女として王都に滞在していれば、間違いなく防げた事態なのだ。つまり、最悪が最悪を呼ぶ結果となっているのである。

 今日もまた、クラウンが作り出した魔宝石がひとつ売れた。

「ありがとうございました。またのご来店を」

 クラウンはにこやかにご婦人たちを送り出す。
 だが、店の扉が閉まるや否や、邪悪な笑みを浮かべていた。

「じーつにー、やーりやすーいですねー」

 くるりと体を翻すと、店の奥へと姿を消していく。
 厳重な扉によって閉ざされたそこでは、大量の骸たちが働いていた。クラウンが作り出した魔宝石を使い、アクセサリーへと加工をしているのである。
 クラウンの魔力があれば、自身の知識によって、多少は複雑でもある程度の作業までは行えるようにできるのだ。その能力によって、骸たちはコツコツとアクセサリーを作っているのである。

「こーれだけーのことをすればー、人間どもに目ーをつけられるかーと思いまーしたがー、おーろかすーぎて、笑いが止ーまりませーんよー」

 クラウンは本当におかしそうに、お腹を買明けながら笑っている。

「さーあ、ミーの可愛いお人形さーんたちー。もーっとアクセサリーを作ーるのでーす。にーんげんをまーすますー、骨抜きにしちゃいましょうねー」

 クラウンが呼び掛けると、骸たちの作業スピードが上がっていっている。クラウンが魔力を注ぎ込んだために、その活動が活発になったのである。
 普通ならば、ここまでしていれば発覚しそうなものである。だが、今の王都にはそれだけの力を持った者がいないのである。なんとも皮肉な結果というものだった。
 黙々とアクセサリーを作る骸たちを見て、クラウンはとても満足そうである。

「おやおやー。まーたミーの作る魔宝石に魅ー入られにきたー愚かもーのがいるようですねー」

 クラウンは入口の方へと振り向くと、ゆっくりと作業場を後にしていく。
 他者から見えない状況下では、ずっとほくそ笑むクラウン。
 ところが、売り場に出るとその不気味な笑みは影を潜め、好印象の青年へとその容貌は変化する。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお求めでしょうか」

 クラウンは、お店にやってきたご婦人へと、実に柔らかい物腰で対応している。

「このお店で、最もきれいで大きな宝石のアクセサリーをいただきたいですわ」

「承知致しました。では、こちらへどうぞ」

 にこやかな笑顔の下に残虐で狡猾な本性を隠しながら、クラウンは今日も、王都のご婦人方を次々ととりこにしていっている。
 王都がクラウンの魔の手に落ちるのも、実に時間の問題なのであった。
 状況は間違いなく、深刻なものへとその姿を変えつつあるのだった。


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「まあまあ、奥様。その宝石はどちらで?」
「最近オープンしました宝石店ですわよ、奥様」
「まあ、おきれいですね。私も欲しいですわ」
 社交の場では、貴族のご婦人たちがいろいろと話をしている。
 今、社交界で最もホットな話題といえば、ご婦人方が話している宝石である。
 赤、白、青、黄色など、色とりどりで素晴らしい輝きを持つ宝石が、貴族の女性をきれいに引き立てているのである。
 ご婦人方は最近オープンした宝石店と話しているが、具体的な店名は出てこない。なんとも不可解な話である。
 この日、また一人の貴族の女性が噂の宝石店へと連れてこられた。
「いらっしゃいませ、こんにちは。これはとても美しいレディたちですね。ささっ、どうぞごゆるりとご覧になって下さい」
 宝石店に入ると、とてもにこやかな表情の男性が出迎えている。
「まあ、素敵な殿方ですこと。では、お言葉に甘えて拝見させて頂きますわ」
 対応に出てきた男性の姿を見て、ご婦人はすっかり魅了されてしまっている。どうやら、好みにドンピシャだったようである。旦那は泣いていい。
 ご婦人は、友人と遺書に店内を見て回っている。
(ヒャーッヒャッヒャッヒャッ! じーつににーんげんはー愚かでーすねー。ミーの宝石にわーざわざ魅了さーれにやーってくるとーはねー)
 店員の男性は、にこにことしながらも心の中ではそのようにほくそ笑んでいた。
 そう、この店員の正体は魔族であるクラウンなのだ。道化師風の姿をしているクラウンは、このような変装もお手の物なのである。
 しかし、魔族でありながら、よくもこう堂々と王都の中でお店など開いていられるものだ。普通の魔族であれば、こううまくいくわけがない。
 魔族が潜入でうまくいかない理由は、だいたい次の二つだ。
 ひとつは、古来より張り巡らされた、代々の聖女による結界だ。これがあれば、大抵の魔族はその中に入ることができなくなる。
 ところが、今ある結界は、クロナが張り直してからずいぶんと時間が経っている。その上、その結界を張り直せる唯一の存在であるクロナが、邪神の介入により王都から不在となっている。このような状況から、魔族の侵入や活動ができてしまうというわけだ。
 もうひとつが、教会の力の弱まりといえるだろう。
 大聖女にも引けを取らない大司教でもいれば話は変わったはずだ。だが、今のイクセンの王都にいるのは、その下位にある司祭まで。彼ではそこまでの力を持っていないので、実質的に完全にすり抜けてしまっているというわけだ。
 これはすべて、邪神による介入のせいである。
 邪神の介入がなく、クロナが聖女として王都に滞在していれば、間違いなく防げた事態なのだ。つまり、最悪が最悪を呼ぶ結果となっているのである。
 今日もまた、クラウンが作り出した魔宝石がひとつ売れた。
「ありがとうございました。またのご来店を」
 クラウンはにこやかにご婦人たちを送り出す。
 だが、店の扉が閉まるや否や、邪悪な笑みを浮かべていた。
「じーつにー、やーりやすーいですねー」
 くるりと体を翻すと、店の奥へと姿を消していく。
 厳重な扉によって閉ざされたそこでは、大量の骸たちが働いていた。クラウンが作り出した魔宝石を使い、アクセサリーへと加工をしているのである。
 クラウンの魔力があれば、自身の知識によって、多少は複雑でもある程度の作業までは行えるようにできるのだ。その能力によって、骸たちはコツコツとアクセサリーを作っているのである。
「こーれだけーのことをすればー、人間どもに目ーをつけられるかーと思いまーしたがー、おーろかすーぎて、笑いが止ーまりませーんよー」
 クラウンは本当におかしそうに、お腹を買明けながら笑っている。
「さーあ、ミーの可愛いお人形さーんたちー。もーっとアクセサリーを作ーるのでーす。にーんげんをまーすますー、骨抜きにしちゃいましょうねー」
 クラウンが呼び掛けると、骸たちの作業スピードが上がっていっている。クラウンが魔力を注ぎ込んだために、その活動が活発になったのである。
 普通ならば、ここまでしていれば発覚しそうなものである。だが、今の王都にはそれだけの力を持った者がいないのである。なんとも皮肉な結果というものだった。
 黙々とアクセサリーを作る骸たちを見て、クラウンはとても満足そうである。
「おやおやー。まーたミーの作る魔宝石に魅ー入られにきたー愚かもーのがいるようですねー」
 クラウンは入口の方へと振り向くと、ゆっくりと作業場を後にしていく。
 他者から見えない状況下では、ずっとほくそ笑むクラウン。
 ところが、売り場に出るとその不気味な笑みは影を潜め、好印象の青年へとその容貌は変化する。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお求めでしょうか」
 クラウンは、お店にやってきたご婦人へと、実に柔らかい物腰で対応している。
「このお店で、最もきれいで大きな宝石のアクセサリーをいただきたいですわ」
「承知致しました。では、こちらへどうぞ」
 にこやかな笑顔の下に残虐で狡猾な本性を隠しながら、クラウンは今日も、王都のご婦人方を次々ととりこにしていっている。
 王都がクラウンの魔の手に落ちるのも、実に時間の問題なのであった。
 状況は間違いなく、深刻なものへとその姿を変えつつあるのだった。