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50.破壊の衝動、果ての果てまで

ー/ー



 遅れて【女神の泉】の場所に入ったミウとファインは、ゼンの雰囲気がいつもと違うことに気付き、笑顔が消えた。

「そうだよなぁ?俺がなにをしてるかなんてのは、勇者と行動を一緒にした時くらいだからなぁ?」
「私たち以外は見られている、そのおかげで……また新たなバカげた考えを、神に与えてしまったようですね」
「これが変化だというのか……?たとえ、信仰心があったとしても、そんな事をされれば勇者でさえ不審さを感じる事になるのではないか?」

『破壊』の力を使う時、なにも感じることはないとゼンは言った。
『破壊』をされる側も、なにが起きたのか、なにをされたのかを理解する事もできない。その意識さえ『破壊』されているようなものだからだ。

「クッ……ククッ……」

 だが、今……ゼンを中心として、なんらかのエネルギーが動いているのを、その場にいる全員が肌に感じとっていた。

「いけませんね……ファイン、空へ」
「アダルくん、おチビも……乗って」

 敏感に感じ取ったのはクロエとファイン。
【女神の泉】にゼンひとりを残し、はるか上空へ……ゼンから、できる限り離れる。

「ふたりともファインから離れないように」
「わかった、けど……クロ、ゼンは……どうしたの?」
「少々癪に障ってしまっただけですよ、ミウ……今こうしているのは、念のため……いいわね?」

 ドラゴンの形をとったファインに、言われた通りしがみつくミウとアダルヘルム。

「『ゼンから放たれる『破壊』の衝動と効果を完全に無効化し、通さない』小規模の領域のキューブをファインを中心として『作り』ました」
「そんな事、可能なのかクロエ嬢……」

 豆粒にしか見えなくなってはっきりと視認できないはずなのに、しっかりと存在を示しているゼンを見下ろしながらため息をつき、クロエは言った。

「私とゼンの力は例えるなら最強の矛と最強の盾の様なもの。どちらが強いか弱いかは正確には把握する事は不可能。ぶつかり合ったとして、打ち消し合うだけでしょう……ですが、今の状態のゼンになら少しばかり有利に働くはず」
「確かに相反する力ではあるとは理解しているが……ふむ……」

 アダルヘルムも、地上に残したゼンを見下ろし様子を確認する。今までゼンがしてきた『破壊』とは違うことに気付く。

「わざわざ目に、肌に、世界に分かるような、雑なやり方……なるほど、念のためというのはそういう意味か」
『ねぇクロエちゃん、ボクの中に作るのはいいけど後でとりのぞいてよ?そんなモノ付けたままじゃゼンにボク自身を『破壊』してもらえなくなるんだから!』
「ふふ、残したままでも……正気のゼンならそれすらも綺麗に『破壊』してくれるはずよファイン」

 大気が揺れている。膨大な力が波紋になって地を這っているのが分かるほどに。

「ゼン、怒ってる?……ん、違う……泣いてる?悲しい?くやしい?」
「あら……ミウ、そんな風に感じ取れるのね?さすがエルフといったところかしら」
「クロエ嬢、ここを切り抜けられたら……聞かせてくれ」

 クロエを見つめるアダルヘルムの目つきは、珍しく鋭く、光っていた。

「なにを、かしら?」
「ゼンの、心の内に秘めたものを、だ」
「あら?ふふ……世界の果てだけでは、満足できなかったの?アダル」
「あぁ、出来ない……その果てが、出来なくさせたのだからな」
「……ふふ」

 良い返事は、貰えはしなかった。それは、クロエが話す気がない訳ではなく、地上のゼンに、動きがあったからだった。

「ゼン……どこ?」

 ゼンはそこに居る。だが、ミウは、居ないと言った。だがそれは、まばたきひとつの間のだった。

「あれ、いる……なん、で?」

 今度は、居ると。

「ミウ?どうした?」
「ミウはエルフ……エルフは、世界との繫がりがとても深い存在。ただでさえ、ミウにとってゼンは近しい存在ですもの……ここに居るか居ないかなんてことも、簡単に感じ取れるのよ?アダル、思い出して?」

 ひときわ大きな波紋が、ゼンを中心にして世界の果てに向かって走り出した。地上だけでなく、その波紋は空高くまで届いた。

「グッ……!!ミウ!」
「あにぃ、こわい……これが、ゼン……?」
『くっ……なにこれ、ひどい、な……っ!』
「あぁ……なんて醜く、美しいのかしら」

 衝撃は確かにあったものの、危惧していた『破壊』はクロエのおかげか、無効化されていた。
 刺さる波動が、目を開かせない……アダルヘルムはミウに覆いかぶさり、背中から落ちないよう強い力で押さえ、クロエは立ち上がったまま、ゼンの『破壊』の波紋を、衝動の衝撃を、全身で感じ取っていた。

 大気が凪、静けさが戻る。
 目を開き、眼下を見ると……【女神の泉】ごと、森は消失していた。

「やはり、効果はありましたね」
「あ、あぁ……だが……これはひどいな」

 王都に手を付ける一歩手前までの景色が、わずかな時間目を閉じていただけで、希望を持たせるための豊かな自然から、絶望を彷彿とさせる、荒廃した大地へと変貌していた。

「ふふ……丸ごときり抜かれて、虚無にされなかっただけましよ?ゼンはまだ、この世界の事を気にかけてくれているのだから」
『はぁ……久々に恐怖ってのを感じたネ……クロエちゃん、もう降りてもよさそう?』
「そうね、いきましょう」

 風を切って、地上に降りていく。

「そんなに『破壊』されんのが、怖かったのか?」

 足を広げて座っているゼン。頭を大きく後ろに傾げ、嬉しそうに笑って話しかけた。
 姿を戻したファイン含め、皆が無言で……釣られて笑うことなく、地上に足をつけた。

「なんだよ」

 はぁっと。今度はため息をつくゼン。

「質問が来る前に答えてやる」

 ヒョイッと軽快に体を飛び起こし、立ち上がる。そして、誇らしげに言った。

「わざわざ俺がここにいることをわかりやすく……お前が俺に与えた力は、お前を『破壊』するためのもんだってことを、教えてやったんだ」

 その笑顔に、息を呑む。

「転生者も、転移者ももう必要ねぇ、邪魔だ。ただでさえまだやることがあるっつーのにやってられねぇよなぁ?ま?情報源を失ったのはちっとばかり惜しかったかもしれねぇが、それよりも価値はあるだろ?なぁ……クロエ」
「……そうね、ゼン」

 静かに返事をするクロエ。口元は、わずかにほほ笑んでいるように見える。

「ん〜?どゆこと?」
「いつか話したでしょう?『己の歩みの上にのみ、通ずる力』のこと」
「転移、転生…………ゼン・セクズ、あなたはその力を使って赴き、『破壊』を行ったのか……?」

 ミウはそっとアダルヘルムの外套を掴み、悲しそうな顔をしてゼンを見ている。

「どうせ消すつもりだった、クソみたいな場所だ。そんな顔すんなミウ、俺は悲しいとか辛いとか、虚しいとか、後悔とか、そんな感情は持っていねぇ。むしろ、せいせいしてんだぜ?」
「ゼン……おチビにそれは、酷だと思う」
「黙れ。魔族が人を語るな、何度言わせるつもりだファイン」
「……ごめん」

 故郷が無くなる事の、言いようのない損失感は……今は、ミウにしかわからない。

「ここに比べれば争いはほとんどありませんが、現代は現代で、退屈でつまらない世界ですから」
「はっ!そうなんだよなぁ?もっと早く『破壊』してやりゃ良かったわ」
「……そうしたら、勇者ソウゴも、聖女セリハも……ここに来ることはなく、なにも知らないままあなたの手で存在を『破壊』され、幸せだったとでも言うのか……」

 苦しそうに笑い、怒りに満ちた目でゼンを睨むアダルヘルム。

「幸せ?俺がそんなものを願って生きて(ヤッて)いると思ってるのか?」
「少なくとも……あなたは……私やミウに、いずれファイン殿にも……そうであるようにと、願い……思っているはずだろう」

 アダルヘルムに近づき、顔を突きつけるゼン。

「はっ!能天気な考えしてたんだなぁ?お前らはよ?俺の所有物だからな?ある程度の褒美は必要だろ?勘違いすんなよ?それに不満があんなら、俺の前から、消えろ」
「ゼン……ッ!」

 どこか違うゼンの様子に困惑し、ただ名を呼び、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。


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 遅れて【女神の泉】の場所に入ったミウとファインは、ゼンの雰囲気がいつもと違うことに気付き、笑顔が消えた。
「そうだよなぁ?俺がなにをしてるかなんてのは、勇者と行動を一緒にした時くらいだからなぁ?」
「私たち以外は見られている、そのおかげで……また新たなバカげた考えを、神に与えてしまったようですね」
「これが変化だというのか……?たとえ、信仰心があったとしても、そんな事をされれば勇者でさえ不審さを感じる事になるのではないか?」
『破壊』の力を使う時、なにも感じることはないとゼンは言った。
『破壊』をされる側も、なにが起きたのか、なにをされたのかを理解する事もできない。その意識さえ『破壊』されているようなものだからだ。
「クッ……ククッ……」
 だが、今……ゼンを中心として、なんらかのエネルギーが動いているのを、その場にいる全員が肌に感じとっていた。
「いけませんね……ファイン、空へ」
「アダルくん、おチビも……乗って」
 敏感に感じ取ったのはクロエとファイン。
【女神の泉】にゼンひとりを残し、はるか上空へ……ゼンから、できる限り離れる。
「ふたりともファインから離れないように」
「わかった、けど……クロ、ゼンは……どうしたの?」
「少々癪に障ってしまっただけですよ、ミウ……今こうしているのは、念のため……いいわね?」
 ドラゴンの形をとったファインに、言われた通りしがみつくミウとアダルヘルム。
「『ゼンから放たれる『破壊』の衝動と効果を完全に無効化し、通さない』小規模の領域のキューブをファインを中心として『作り』ました」
「そんな事、可能なのかクロエ嬢……」
 豆粒にしか見えなくなってはっきりと視認できないはずなのに、しっかりと存在を示しているゼンを見下ろしながらため息をつき、クロエは言った。
「私とゼンの力は例えるなら最強の矛と最強の盾の様なもの。どちらが強いか弱いかは正確には把握する事は不可能。ぶつかり合ったとして、打ち消し合うだけでしょう……ですが、今の状態のゼンになら少しばかり有利に働くはず」
「確かに相反する力ではあるとは理解しているが……ふむ……」
 アダルヘルムも、地上に残したゼンを見下ろし様子を確認する。今までゼンがしてきた『破壊』とは違うことに気付く。
「わざわざ目に、肌に、世界に分かるような、雑なやり方……なるほど、念のためというのはそういう意味か」
『ねぇクロエちゃん、ボクの中に作るのはいいけど後でとりのぞいてよ?そんなモノ付けたままじゃゼンにボク自身を『破壊』してもらえなくなるんだから!』
「ふふ、残したままでも……正気のゼンならそれすらも綺麗に『破壊』してくれるはずよファイン」
 大気が揺れている。膨大な力が波紋になって地を這っているのが分かるほどに。
「ゼン、怒ってる?……ん、違う……泣いてる?悲しい?くやしい?」
「あら……ミウ、そんな風に感じ取れるのね?さすがエルフといったところかしら」
「クロエ嬢、ここを切り抜けられたら……聞かせてくれ」
 クロエを見つめるアダルヘルムの目つきは、珍しく鋭く、光っていた。
「なにを、かしら?」
「ゼンの、心の内に秘めたものを、だ」
「あら?ふふ……世界の果てだけでは、満足できなかったの?アダル」
「あぁ、出来ない……その果てが、出来なくさせたのだからな」
「……ふふ」
 良い返事は、貰えはしなかった。それは、クロエが話す気がない訳ではなく、地上のゼンに、動きがあったからだった。
「ゼン……どこ?」
 ゼンはそこに居る。だが、ミウは、居ないと言った。だがそれは、まばたきひとつの間のだった。
「あれ、いる……なん、で?」
 今度は、居ると。
「ミウ?どうした?」
「ミウはエルフ……エルフは、世界との繫がりがとても深い存在。ただでさえ、ミウにとってゼンは近しい存在ですもの……ここに居るか居ないかなんてことも、簡単に感じ取れるのよ?アダル、思い出して?」
 ひときわ大きな波紋が、ゼンを中心にして世界の果てに向かって走り出した。地上だけでなく、その波紋は空高くまで届いた。
「グッ……!!ミウ!」
「あにぃ、こわい……これが、ゼン……?」
『くっ……なにこれ、ひどい、な……っ!』
「あぁ……なんて醜く、美しいのかしら」
 衝撃は確かにあったものの、危惧していた『破壊』はクロエのおかげか、無効化されていた。
 刺さる波動が、目を開かせない……アダルヘルムはミウに覆いかぶさり、背中から落ちないよう強い力で押さえ、クロエは立ち上がったまま、ゼンの『破壊』の波紋を、衝動の衝撃を、全身で感じ取っていた。
 大気が凪、静けさが戻る。
 目を開き、眼下を見ると……【女神の泉】ごと、森は消失していた。
「やはり、効果はありましたね」
「あ、あぁ……だが……これはひどいな」
 王都に手を付ける一歩手前までの景色が、わずかな時間目を閉じていただけで、希望を持たせるための豊かな自然から、絶望を彷彿とさせる、荒廃した大地へと変貌していた。
「ふふ……丸ごときり抜かれて、虚無にされなかっただけましよ?ゼンはまだ、この世界の事を気にかけてくれているのだから」
『はぁ……久々に恐怖ってのを感じたネ……クロエちゃん、もう降りてもよさそう?』
「そうね、いきましょう」
 風を切って、地上に降りていく。
「そんなに『破壊』されんのが、怖かったのか?」
 足を広げて座っているゼン。頭を大きく後ろに傾げ、嬉しそうに笑って話しかけた。
 姿を戻したファイン含め、皆が無言で……釣られて笑うことなく、地上に足をつけた。
「なんだよ」
 はぁっと。今度はため息をつくゼン。
「質問が来る前に答えてやる」
 ヒョイッと軽快に体を飛び起こし、立ち上がる。そして、誇らしげに言った。
「わざわざ俺がここにいることをわかりやすく……お前が俺に与えた力は、お前を『破壊』するためのもんだってことを、教えてやったんだ」
 その笑顔に、息を呑む。
「転生者も、転移者ももう必要ねぇ、邪魔だ。ただでさえまだやることがあるっつーのにやってられねぇよなぁ?ま?情報源を失ったのはちっとばかり惜しかったかもしれねぇが、それよりも価値はあるだろ?なぁ……クロエ」
「……そうね、ゼン」
 静かに返事をするクロエ。口元は、わずかにほほ笑んでいるように見える。
「ん〜?どゆこと?」
「いつか話したでしょう?『己の歩みの上にのみ、通ずる力』のこと」
「転移、転生…………ゼン・セクズ、あなたはその力を使って赴き、『破壊』を行ったのか……?」
 ミウはそっとアダルヘルムの外套を掴み、悲しそうな顔をしてゼンを見ている。
「どうせ消すつもりだった、クソみたいな場所だ。そんな顔すんなミウ、俺は悲しいとか辛いとか、虚しいとか、後悔とか、そんな感情は持っていねぇ。むしろ、せいせいしてんだぜ?」
「ゼン……おチビにそれは、酷だと思う」
「黙れ。魔族が人を語るな、何度言わせるつもりだファイン」
「……ごめん」
 故郷が無くなる事の、言いようのない損失感は……今は、ミウにしかわからない。
「ここに比べれば争いはほとんどありませんが、現代は現代で、退屈でつまらない世界ですから」
「はっ!そうなんだよなぁ?もっと早く『破壊』してやりゃ良かったわ」
「……そうしたら、勇者ソウゴも、聖女セリハも……ここに来ることはなく、なにも知らないままあなたの手で存在を『破壊』され、幸せだったとでも言うのか……」
 苦しそうに笑い、怒りに満ちた目でゼンを睨むアダルヘルム。
「幸せ?俺がそんなものを願って|生きて《ヤッて》いると思ってるのか?」
「少なくとも……あなたは……私やミウに、いずれファイン殿にも……そうであるようにと、願い……思っているはずだろう」
 アダルヘルムに近づき、顔を突きつけるゼン。
「はっ!能天気な考えしてたんだなぁ?お前らはよ?俺の所有物だからな?ある程度の褒美は必要だろ?勘違いすんなよ?それに不満があんなら、俺の前から、消えろ」
「ゼン……ッ!」
 どこか違うゼンの様子に困惑し、ただ名を呼び、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。