49.水を湛え、枯れた泉は待ち望む
ー/ー 夜明けまで、酒場でじっくり、語り合う。
「接近禁止区域にわざわざ出向き、例の魔物と対峙し……片割れを間引きその遺体を置いてきた、と」
「デートだよアダルくん!」
「はぁ、まぁ……そのデートは好きにしていただいて構わないが、問題は――」
少しうとうとし始めたゼンに詰め寄るアダルヘルム。
「なぜ遺体を残すなんてことをしたのだ」
「……ラスボスが必要だろ……お前……グリゼルダを殺せるのか」
「そ、れは……」
ファインからも、無言で見つめられ、はっきりとした答えを言えないでいるアダルヘルム。
ふたりきりの時間を過ごしている時、もちろんお互い離れ難さを感じていた。それでも、ふたりが出した答えは、それぞれお互いの道を全うすること。
種族が違うというだけではなく、世界の果てを見たことでも無く……自然とお互いに納得して出した答え。
ただ、アダルヘルムは、人であった。
「黒ブタでもいいが?」
「それは……それも、また違う理由が……」
「アレだよネ、アダルくんって……真っ当な人らしさはあるのに女の人が絡むと、乱れてるよねぇ?」
「なっ……!ぐ、ぐうの音も出ない……」
「だから世の中、浮気だ不倫だとか絶えないんだネ〜?ま、アダルくんは淫紋が〜って言い訳ができるケド」
魔族のファインに言われたこともあり、ダメージがかなり深かったらしく、グラスに酒をなみなみ注ぎ、一気に飲み干すアダルヘルム。
「そうやって酒に逃げちゃダメだとおもうよ〜?」
「それくらいにしてやれ、ファイン。今までに作ったガキ共の母親は全員漏れなく死んでんだから」
「え、そうなの?なんでネェ様は生きてるの?!」
「さぁな?魔族だからじゃね?アデルも母親に似ず、父親に似たのもなんかあんだろ」
今まで出会ってきたアダルヘルムの子供は、懐いていれど、容姿は全くと言っていいほど彼に似てはいなかった。
「……そっか。だからクロエちゃんのことも、ネェ様のことも大切なんだ?」
「長く私の隣を埋めてくれる存在はいないと思っていたからな……まぁ、なんだ……好きなものは好き、なのだ」
「わ、恥ずかしいってこんな感じなんだぁ」
「ファイン殿……これ以上からかわないでもらえるだろうか……?」
そういった淫紋の呪いだと言うことに、怒られる覚悟はしていたゼンだったが、酒のおかげかファインのおかげか……それとも、どこか吹っ切れたアダルヘルムが変わっただけかは分からない。
ふっと気が抜けたことで、一気にまぶたが重くなるゼン。
「まだ時間はある……決めるのは……その日その時で……――」
「寝ちゃった」
「こういう時は本当に子供のようだな……外も明るい、我々も宿に行こう」
「ボクが運ぶネ!」
朝帰りをしたことに、少し呆れた顔をしたクロエとミウだったが、残りわずかの時間を、最後の辿る旅に無事向かえるよう準備をしたゼンを、優しく受け入れベッドへと運んだ。
「……数日、ほとんど眠れていませんでしたね、ゼン」
そっと薄手の毛布をかけながら、囁くクロエ。
「安心して眠りなさい……忘れることのない、悪夢を見ながら……ふふ……ふふふ」
その声を、ドアの向こうで聞かれていたことは知らないまま、傍らに寄り添い、ゼンの髪を撫でる。
「(悪夢……クロエ嬢……私たちが知らないなにかを、やはり知っているのか……)」
アダルヘルムは、モヤつく心を抑え込み、自分の部屋へと戻り、同じ様に眠りについた。
昼夜逆転していたが、その眠りは深く、翌日の朝まで目覚めることはなかった。
「……だる」
ぼーっとしながら、渡された飲み物を口にするゼン。
「睡眠不足に深酒……加えてほぼ1日眠っていればそうなるだろう。新鮮な乳を温めたものだ、胃も落ち着き目も覚めるだろう」
「乳……」
右手でカップを、左手でクロエのカップ……乳房を揉み出すゼン。
「なあっ?!」
「あら……ふふ……」
ぼーっとしたまま、片手に収まらない大きな果実を慣れた手つきで揉み続ける。
「確かに落ちつ……っぃって!?」
「そりゃ落ち着くだろう!!私もそうおも……じゃない!寝ぼけすぎだゼン!」
ゼンの頭を引っ叩き、無理やり目を覚まさせるアダルヘルム。宿の寝室内で良かったと、ため息をつく。
「クロエ嬢も、甘やかさず少しは抵抗してほしいものだ……」
「妬くなよ、醜いぞ」
「…………目が覚めてなによりだっ!さっさと飲んで準備をしてくれ、出発するぞ!」
「わぁってるよ……ふぁぁ……熱くて飲めねぇ……」
「ふふ、仲が良くて羨ましいわね?」
ミウとファインが宿の外で騒ぐ声を聞きながら、着替えを済ませ合流するゼン。
「おはよう、ゼン……よく、寝てたね」
「おかげさまでな」
「寝顔にキスしても気付かないのはびっくりしたヨ〜……うそうそ、おチビそんな顔でボクのこと見ないで……」
「変態、処分……あくま、逃げるな」
追いかけっこを始めたミウとファインを呆れて見ながら、目的地の確認を始めるゼン。
「重要そうなところはあそこか?」
「確か始めの頃に立ち寄った、神が好きそうなところ、でしたね」
「私の同行はこの後からだが……一緒に行っても問題無いのか?」
「ミウもファインも構わず付いてきてるだろ?今更気にすんな」
「確かにそうか……ならば、神の悪戯をしっかりと目に納めに行くとしよう」
仲間として同行し始めた時期は、それぞれ違う。
確実に正しい道を辿っている訳ではない今回の旅、変化を確かめ、神の干渉は通じないということも確かめるため、向かう。
「【女神の泉】、そこら辺に、いくらでも転がってる様な、ありきたりな名称のありきたりな効能を持っていた、クソみてぇな場所だ」
町を出て進むのは、王都から程近く、西に少し進んだ小さな森。下級の魔物が穏やかに住み着く暖かい森。
俗に言う、初心者の為の訓練場……その森の終着点にあるのが【女神の泉】だ。
「随分訪れていなかったな……懐かしい」
「駆け出しが腕試しするにはちょうどいい、都合のいい場所だからな」
「ミウ、この森初めて……なんか、変」
「おチビも?ボクも感じてる〜」
「あくまと、一緒……不満」
また騒ぎ出すミウとファイン。騒いだところで危険な魔物はこの森にはいない、それを止めることも無く、スタスタと森の奥へ進む。
「ま、その原因はコレだろーな」
キラキラとした陽の光が降り注ぐ、女神像。そのたもとに、コンコンと清らかな水が湧き満ちる泉があった。
「本当に、水脈から湧き出る泉ではないのだな?ゼン・セクズ」
「女神像も元通り、湧き続ける泉も変わらない……はずねぇだろ、枯らしたんだ俺が」
当時、『破壊』の力を試していた物のひとつが【女神の泉】。神に喧嘩を売るついでと、癒しの効果を持ち、駆け出しの冒険者の喉と傷を癒し続けていた、神の祝福で満たされた泉を枯らす条件を出して『破壊』し、象徴の女神像も跡形もなく『破壊』した。
「こんな像なくても、この世界の住人の冒険者ならこんな森の攻略なんて簡単だろ?なのに、わざわざまたここに、神の加護も、女神も存在すると主張させてやがる」
「ゼン……?」
ギリッと、ゼンが歯を軋ませながら口角を上げる。
「これを見て喜ぶのはいったい誰だろうなぁ?」
最初に気づいたのは、クロエ。淑やかに笑ういつもの彼女とは違う、下品に、ゼンと一緒に、口角を上げている。
「ふふ……バカなこと……犠牲者をそんなに増やしたいのかしら?」
「ふたりとも、なにを言っているのだ?」
様子の変わったふたりを見て、ひとすじの汗を流し顔を強張らせるアダルヘルム。
「勇者ソウゴなら、さぞ喜んだことでしょうね?」
「ソウゴ……な……まさか」
「いつも察しがいいのになぁ、アダルヘルム?思ってるとおりだぜ?バカな神はな?またこの世界に呼ぼうとしてんだよ」
女神像の頭が砕け『破壊』された。
バラバラになった破片が泉に落ち、沈んでいく。
「転生者を、な」
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