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お遊戯の時間だよ〜

ー/ー



 エリシアは、自らが経営する「エリシア商事」を地域に根付いた愛される企業へと成長させるため、一計を案じた。



 保育園や幼稚園で無償のパフォーマンスを行い、企業のイメージアップを図るのだ。



 その第一弾として、エリシア自らが幼稚園に乗り込み、ささやかなショーを披露することにした。子どもたちに夢と希望を与え、同時にエリシア商事の名を知らしめるという算段だ。

 広場に集められた園児たちの前で、司会役の保育士が元気よく声を張り上げた。



「今日はみんなとお友達になりたがってるエリシアお姉さんが来てくれたよ〜!」



 しかし——。



「……」
「……」



 ——パチ、パチパチ……



 まばらな拍手と、戸惑いに満ちた子どもたちの視線。誰もが「エリシアお姉さん」とやらを知らないのは明白だった。



(ま、知ってるわけないですわね)

 エリシアはゆっくりと目を細め、ふふんと鼻で笑った。問題はない。今から思い知らせてやればいいのだ。



 エリシアは突然、何の前触れもなく歌い出した。



「グーチョキパーで〜♪ グーチョキパーで〜♪ 何作ろう〜♪ 何作ろう〜♪」



 リズムに乗って、楽しげに踊る。最初はぽかんと見ていた子どもたちも、少しずつ手を動かし、真似し始めた。



「右手はグーで〜♪ 左手もグーで〜♪」





 ——グーパンチ





 ——グ ー パ ン チ



「……」
「……」



 静まり返る園庭。キョトンとする子どもたち。

 先生たちも顔を引きつらせている。



 エリシアは軽く咳払いをし、何事もなかったかのように胸を張った。



「おっほん……もう一度行きますわよ〜!」



 しかし、子どもたちは完全に沈黙。さっきの「グーパンチ」の衝撃が大きかったのか、誰も反応しない。



「……」
「……」



 それでもエリシアは気にせず、もう一度歌い始めた。



「グーチョキパーで〜♪ グーチョキパーで〜♪ 何作ろう〜♪ 何作ろう〜♪」



「……」
「……」



 相変わらずの無反応。しかし、彼女は止まらない。



「右手はパーで〜♪ 左手もパーで〜♪」





 ——往復ビンタ





 ——往 復 ビ ン タ



「……」
「……」



 沈黙。

 そして、園の隅の方で——



 ——ヒソヒソ



 先生たちが不安そうに顔を寄せ合い、何かをヒソヒソ話し始めた。



 (ちょっとブラック過ぎましたかねぇ……)



 さすがのエリシアも一瞬だけ反省したが、ここで止まるわけにはいかない。もう引くに引けないのだ。



 ——ヒソヒソ



 今度は園児たちまでもが、互いに顔を見合わせてヒソヒソ話し始めていた。嫌な予感がする。



「さ、最後に!」



 空気を切り替えるべく、エリシアは声を張り上げた。しかし、子どもたちはただ静かに見つめている。



「……」
「……」



 それでも気にせず、歌い続ける。



「グーチョキパーで〜♪ グーチョキパーで〜♪ 何作ろう〜♪ 何作ろう〜♪」



「……」
「……」



 誰も歌に合わせようとしない。静寂が重くのしかかる。だが、エリシアは意に介さず、振り付けを続けた。



「右手はチョキで〜♪ 左手もチョ——」





「目潰しぃ!」
「目潰しぃ!」
「目潰しだああああぁ!」





(なんで知ってんねん……)



 叫ぶ園児たちに、エリシアは思わず絶句した。どうやら彼らは完全に戦闘モードに入ってしまったらしい。園庭に緊張が走る。



 ——あちゃぁ



 後ろの方で見守っていた先生たちは、言わんばかりの表情で一斉に頭を抱えた。



 ——後日。



 エリシア商事のオフィスに、電話の呼び出し音が響いた。

 営業担当が受話器を取り、いつものように明るい声で応答する。



「はい、エリシア商事でございます」



 電話の向こうから、少し苛立ったような女性の声が聞こえてきた。



「あのう、先日のお遊戯の件なんですけどぉ」



 営業担当は一瞬戸惑ったが、落ち着いた口調で対応する。



「はい、いかがされましたでしょうか?」





「子供達がねぇ! ちょっと真似し出して……保護者会でもだいぶ問題になってるんですよ! あのねぇ……ああいうのは本当にやめていただきたいんです!」





 ——ガチャッ



 電話が一方的に切られた。



「……」



 営業担当は呆然と受話器を見つめた。



(なんのこと?)



 社内に妙な沈黙が流れたが、エリシア本人は何事もなかったかのようにYoutubeでダンス講座を見ていた。


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 エリシアは、自らが経営する「エリシア商事」を地域に根付いた愛される企業へと成長させるため、一計を案じた。
 保育園や幼稚園で無償のパフォーマンスを行い、企業のイメージアップを図るのだ。
 その第一弾として、エリシア自らが幼稚園に乗り込み、ささやかなショーを披露することにした。子どもたちに夢と希望を与え、同時にエリシア商事の名を知らしめるという算段だ。
 広場に集められた園児たちの前で、司会役の保育士が元気よく声を張り上げた。
「今日はみんなとお友達になりたがってるエリシアお姉さんが来てくれたよ〜!」
 しかし——。
「……」
「……」
 ——パチ、パチパチ……
 まばらな拍手と、戸惑いに満ちた子どもたちの視線。誰もが「エリシアお姉さん」とやらを知らないのは明白だった。
(ま、知ってるわけないですわね)
 エリシアはゆっくりと目を細め、ふふんと鼻で笑った。問題はない。今から思い知らせてやればいいのだ。
 エリシアは突然、何の前触れもなく歌い出した。
「グーチョキパーで〜♪ グーチョキパーで〜♪ 何作ろう〜♪ 何作ろう〜♪」
 リズムに乗って、楽しげに踊る。最初はぽかんと見ていた子どもたちも、少しずつ手を動かし、真似し始めた。
「右手はグーで〜♪ 左手もグーで〜♪」
 ——グーパンチ
 ——グ ー パ ン チ
「……」
「……」
 静まり返る園庭。キョトンとする子どもたち。
 先生たちも顔を引きつらせている。
 エリシアは軽く咳払いをし、何事もなかったかのように胸を張った。
「おっほん……もう一度行きますわよ〜!」
 しかし、子どもたちは完全に沈黙。さっきの「グーパンチ」の衝撃が大きかったのか、誰も反応しない。
「……」
「……」
 それでもエリシアは気にせず、もう一度歌い始めた。
「グーチョキパーで〜♪ グーチョキパーで〜♪ 何作ろう〜♪ 何作ろう〜♪」
「……」
「……」
 相変わらずの無反応。しかし、彼女は止まらない。
「右手はパーで〜♪ 左手もパーで〜♪」
 ——往復ビンタ
 ——往 復 ビ ン タ
「……」
「……」
 沈黙。
 そして、園の隅の方で——
 ——ヒソヒソ
 先生たちが不安そうに顔を寄せ合い、何かをヒソヒソ話し始めた。
 (ちょっとブラック過ぎましたかねぇ……)
 さすがのエリシアも一瞬だけ反省したが、ここで止まるわけにはいかない。もう引くに引けないのだ。
 ——ヒソヒソ
 今度は園児たちまでもが、互いに顔を見合わせてヒソヒソ話し始めていた。嫌な予感がする。
「さ、最後に!」
 空気を切り替えるべく、エリシアは声を張り上げた。しかし、子どもたちはただ静かに見つめている。
「……」
「……」
 それでも気にせず、歌い続ける。
「グーチョキパーで〜♪ グーチョキパーで〜♪ 何作ろう〜♪ 何作ろう〜♪」
「……」
「……」
 誰も歌に合わせようとしない。静寂が重くのしかかる。だが、エリシアは意に介さず、振り付けを続けた。
「右手はチョキで〜♪ 左手もチョ——」
「目潰しぃ!」
「目潰しぃ!」
「目潰しだああああぁ!」
(なんで知ってんねん……)
 叫ぶ園児たちに、エリシアは思わず絶句した。どうやら彼らは完全に戦闘モードに入ってしまったらしい。園庭に緊張が走る。
 ——あちゃぁ
 後ろの方で見守っていた先生たちは、言わんばかりの表情で一斉に頭を抱えた。
 ——後日。
 エリシア商事のオフィスに、電話の呼び出し音が響いた。
 営業担当が受話器を取り、いつものように明るい声で応答する。
「はい、エリシア商事でございます」
 電話の向こうから、少し苛立ったような女性の声が聞こえてきた。
「あのう、先日のお遊戯の件なんですけどぉ」
 営業担当は一瞬戸惑ったが、落ち着いた口調で対応する。
「はい、いかがされましたでしょうか?」
「子供達がねぇ! ちょっと真似し出して……保護者会でもだいぶ問題になってるんですよ! あのねぇ……ああいうのは本当にやめていただきたいんです!」
 ——ガチャッ
 電話が一方的に切られた。
「……」
 営業担当は呆然と受話器を見つめた。
(なんのこと?)
 社内に妙な沈黙が流れたが、エリシア本人は何事もなかったかのようにYoutubeでダンス講座を見ていた。