表示設定
表示設定
目次 目次




第213話 最も怒らせてはいけない女

ー/ー



 カルミアの手から数十枚をゆうに超えるカードの束が放たれる。その一枚一枚には魔力が込められているのは先ほどの爆発を見れば容易に想像できた。

 安易に避けても爆発は免れない。かといって、全てのカードを一度に魔法で弾こうとすれば爆発は連鎖し極大の爆風に全員巻き込まれてしまうだろう。
 加えて、当のカルミア本人は魔法で宙に浮いているため、その爆破範囲外へと簡単に逃げられる。上から一方的にカードを投げつけ放題な状態だった。

 雨のように降り注ぐカードを前に、ミモザは手を翳す。

終焔の舞踊・大団円(インボルクアッパー)

 その手の先から放たれていくのは、手のひらよりも大きい火炎球。一つ、また一つと増えていき、ミモザを中心として渦を巻くように高速で回り始めていく。

「きゃは♪ 何? そんなちっこい火の玉ちゃんで私のタロットを燃やそうっての? オ・バ・カ・ちゃん♪ そのまま爆発に巻き込まれて燃えカスになっちゃえ~っ」

 次の瞬間、カルミアのカードは火炎球に着弾し、次々に爆発が連鎖する。
 爆炎がミモザの立っていた位置から立ち上り、そこはまさに火の海。

「あ~らら、ホントあっけなっ! エルフってもうちっとは賢いと思ってたけど、拍子抜けね。まいっか♪ 王子も火葬できちゃったし、一石二鳥……?」

 爆炎が渦を巻いている。その光景を見て、カルミアは一筋の冷や汗をかいた。
 回転していく炎は、極大の火炎球へと変貌し、カルミアのいる天井に目掛けて舞い上がっていく。

「ちょ、ちょ、まっ……っ!」

 炎でできた巨塊が竜巻となり、カルミアの全身を飲み込んでいった。
 そして竜の如き炎は研究棟の外へと飛び出していき、遥か上空で燃え尽きる。

 その一方で、火の海の中にいたはずのミモザとその一行は、驚くべきことに火傷一つなく、ピンピンしていた。

「な、何をしたんだ、今?」
 パエニアが目の前で起きたことを理解できず訪ねる。

「炎で爆風ごと巻き取って返しただけですよ」
 ミモザは簡単に言ってのけた。

 何十枚もあったカードの連鎖的爆発の威力を、丸々絡めとって自分の炎にしてしまうという芸当がどれほどの力業か。想像も及ばない超絶技巧だ。
 それでいて自分には火の粉一つ降りかからないなんて、その技量も計り知れない。

「……うっぜぇ。チョーマジうっぜぇ」

 ゆらゆらと、あちこちに焼け焦げを残した女が宙を漂う。
 幾分か回避したのか、あるいは魔法でバリアでも張っていたのか。
 大事にこそ至っていなかった様子だが、無傷では済まされなかったらしい。

「ぷっつんしたわ。ガチおこ。エルフの分際で何様のつもりよ」
 怒りをあらわに声のトーンを下げてくる。

「あなたは未来を視ることができる占い師さんなんですよね? どうして私の魔法も予測できなかったんですか?」

 割と素直に思った疑問を口にする。
 すると横からコリウスがちょんちょんと肩を叩く。

「カリミアさんが未来を視るには制約があるんですよ。相手のことを観察してよく理解していないといけなくて、一秒しか視えないとか」
「へぇー、そうなんですね」
「うぉいコラっ! クソ王子! 勝手にオトメの秘密をバラすんじゃないわよ!」
「ひっ!」
 あまりに声を荒げるものだから、コリウスも委縮してミモザの後ろへと隠れる。

「い~のよ、一秒だって。未来には変わりないし、それっぽいこと言っておけば大体の奴は勝手に納得してくれんだから。実際、当たっちゃえば問題ないでしょ」
「でも、制約が多いのは不便ですよね。だったら私が少し手助けしますよ」
「はァ? これだからホンット、エルフって嫌い。魔法ならナンデモデキチャイマスって面してエラそうなんだから。人間を見下してるっつーかさ」

 露骨なまでにカルミアはやれやれ、といった表情と仕草を見せる。

高速突き抜ける加速(ジェット・ワールド)

 そう唱えると、ミモザの体は上方向へと飛び出し、加速していく。
 瞬く間もなくカルミアの眼前にまで迫り、空中で静止すると少し、ニコリと笑って見せる。

「未来はいつだって予測ができないものです。未来が視えるあなたが一番よく分かっているはずじゃないんですか?」
「ぁー、ぁー、説教なんて聞きたくもない。そーゆー態度がイヤって言ってんのに」

 カルミアはうんざりするようにカードを投げ放つ。
 ミモザはそれを軽く手で受け止める。手の中で爆発も起きない。
 何か魔法で防御しているのだろう。

「あなたはほんの一握りの未来が視えるから全てを知った気になっているだけです。そんな思い込みで多くの人の未来を決めるなんて許せません」

 無言でカードを燃やし、捨てる。

「予測できない未来にワクワクするなら、ワクワクする未来を視せてあげますよ」
「占い師にケンカ売るなんて上等じゃなぁい。キレてるっつってんだろ、劣等人種。あ~しをプツらせてタダじゃ済まないっつんだよ」

 刹那、ミモザの姿が忽然と消失する。
 否、それは視界の外へと移動しただけに過ぎない。
 気配を感知する暇もなく、気付いた時にはカルミアの背後にいた。

「んぐっ!?」

 ミモザの掌がカルミアの口元に押し当てられる。
 振り払おうと腕を回すが、既に遅く、距離を取られていた。

「おえっ、何を飲ませた?」

 何かが喉奥を通っていくのを感じた。
 吐き出そうとするが、飲み込んでしまった後ではもう遅い。
 急速的に、体が変質していくようだった。

『毒じゃありませんよ。ちょっとした能力強化薬です』
「能力強化薬? なんだそれ」
「そうです。能力強化薬です。あなた用に改良を加えました」

 そのとき、カルミアは奇妙な感覚に苛まれた。
 今、目の前にいるミモザが喋る前に、喋る内容を知っていた気がした。
 まるで未来を視ているときのあの感覚にも似ている。

「私は気まぐれですから、気を付けてくださいね」
「ッ!?」

 ミモザが何をするまでもなく、カルミアは後ろに退く。
 そのあとにミモザはゆっくりと手を振り上げる。
 その動作を予測していたというよりも、既に分かっていたというのが正しい。

 ミモザの手は開かれ、その指先に魔力が集中する。

「熱っ!? ちょ、え?」

 ミモザの指先には火が灯っていた。
 だが、決してそれはカルミアには触れてすらいない。

「ヒッ! 冷たっ!?」

 違う指には氷の塊が浮いている。
 もちろん、ミモザとは距離を置いているのだから触れようもない。

「ぎゃっ!? ど、どうして痺れが……」

 ミモザは依然として何もしていない。
 その指先にいくつかの魔法を放出しているだけ。
 傍から見てもカルミアが勝手に痛がっているようにしか見えなかった。

「痛っ! イタイイタイ! ちょ、熱っ、寒っ!? ヒィィ、ヒイイィィっ!!?」

 ミモザの開かれた両手の指先に炎や氷、雷や風などのあらゆる魔法が発動されているだけだというのに、カルミアはあたかも、その全てを食らっているかのように悶えるばかり。

 次第にカルミアの皮膚に火傷の痕や、打撲の痕、切り傷などが浮き上がってくる。
 慌ててミモザから距離を離して逃げ出そうとするが、どれだけ逃げ出そうとしても謎の痛みは止まらない。カルミアは理解不能な攻撃を受け続けている。

 そう、カルミアは未来の攻撃を予知し、それを体感していた。それほどまでの能力へと無理やり昇華されていたのだ。現実には、まだとしても、それもまた

 全てはであり、無数に分岐した全ての攻撃を予知してしまうカルミアには回避しようもない。
 時間の経過とともに可能性の分岐は広がっていき、無数の――ミモザの怒りをその身に受けるしかなかった。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第214話 喋らせてはいけない女


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 カルミアの手から数十枚をゆうに超えるカードの束が放たれる。その一枚一枚には魔力が込められているのは先ほどの爆発を見れば容易に想像できた。
 安易に避けても爆発は免れない。かといって、全てのカードを一度に魔法で弾こうとすれば爆発は連鎖し極大の爆風に全員巻き込まれてしまうだろう。
 加えて、当のカルミア本人は魔法で宙に浮いているため、その爆破範囲外へと簡単に逃げられる。上から一方的にカードを投げつけ放題な状態だった。
 雨のように降り注ぐカードを前に、ミモザは手を翳す。
「|終焔の舞踊・大団円《インボルクアッパー》」
 その手の先から放たれていくのは、手のひらよりも大きい火炎球。一つ、また一つと増えていき、ミモザを中心として渦を巻くように高速で回り始めていく。
「きゃは♪ 何? そんなちっこい火の玉ちゃんで私のタロットを燃やそうっての? オ・バ・カ・ちゃん♪ そのまま爆発に巻き込まれて燃えカスになっちゃえ~っ」
 次の瞬間、カルミアのカードは火炎球に着弾し、次々に爆発が連鎖する。
 爆炎がミモザの立っていた位置から立ち上り、そこはまさに火の海。
「あ~らら、ホントあっけなっ! エルフってもうちっとは賢いと思ってたけど、拍子抜けね。まいっか♪ 王子も火葬できちゃったし、一石二鳥……?」
 爆炎が渦を巻いている。その光景を見て、カルミアは一筋の冷や汗をかいた。
 回転していく炎は、極大の火炎球へと変貌し、カルミアのいる天井に目掛けて舞い上がっていく。
「ちょ、ちょ、まっ……っ!」
 炎でできた巨塊が竜巻となり、カルミアの全身を飲み込んでいった。
 そして竜の如き炎は研究棟の外へと飛び出していき、遥か上空で燃え尽きる。
 その一方で、火の海の中にいたはずのミモザとその一行は、驚くべきことに火傷一つなく、ピンピンしていた。
「な、何をしたんだ、今?」
 パエニアが目の前で起きたことを理解できず訪ねる。
「炎で爆風ごと巻き取って返しただけですよ」
 ミモザは簡単に言ってのけた。
 何十枚もあったカードの連鎖的爆発の威力を、丸々絡めとって自分の炎にしてしまうという芸当がどれほどの力業か。想像も及ばない超絶技巧だ。
 それでいて自分には火の粉一つ降りかからないなんて、その技量も計り知れない。
「……うっぜぇ。チョーマジうっぜぇ」
 ゆらゆらと、あちこちに焼け焦げを残した女が宙を漂う。
 幾分か回避したのか、あるいは魔法でバリアでも張っていたのか。
 大事にこそ至っていなかった様子だが、無傷では済まされなかったらしい。
「ぷっつんしたわ。ガチおこ。エルフの分際で何様のつもりよ」
 怒りをあらわに声のトーンを下げてくる。
「あなたは未来を視ることができる占い師さんなんですよね? どうして私の魔法も予測できなかったんですか?」
 割と素直に思った疑問を口にする。
 すると横からコリウスがちょんちょんと肩を叩く。
「カリミアさんが未来を視るには制約があるんですよ。相手のことを観察してよく理解していないといけなくて、一秒しか視えないとか」
「へぇー、そうなんですね」
「うぉいコラっ! クソ王子! 勝手にオトメの秘密をバラすんじゃないわよ!」
「ひっ!」
 あまりに声を荒げるものだから、コリウスも委縮してミモザの後ろへと隠れる。
「い~のよ、一秒だって。未来には変わりないし、それっぽいこと言っておけば大体の奴は勝手に納得してくれんだから。実際、当たっちゃえば問題ないでしょ」
「でも、制約が多いのは不便ですよね。だったら私が少し手助けしますよ」
「はァ? これだからホンット、エルフって嫌い。魔法ならナンデモデキチャイマスって面してエラそうなんだから。人間を見下してるっつーかさ」
 露骨なまでにカルミアはやれやれ、といった表情と仕草を見せる。
「|高速突き抜ける加速《ジェット・ワールド》」
 そう唱えると、ミモザの体は上方向へと飛び出し、加速していく。
 瞬く間もなくカルミアの眼前にまで迫り、空中で静止すると少し、ニコリと笑って見せる。
「未来はいつだって予測ができないものです。未来が視えるあなたが一番よく分かっているはずじゃないんですか?」
「ぁー、ぁー、説教なんて聞きたくもない。そーゆー態度がイヤって言ってんのに」
 カルミアはうんざりするようにカードを投げ放つ。
 ミモザはそれを軽く手で受け止める。手の中で爆発も起きない。
 何か魔法で防御しているのだろう。
「あなたはほんの一握りの未来が視えるから全てを知った気になっているだけです。そんな思い込みで多くの人の未来を決めるなんて許せません」
 無言でカードを燃やし、捨てる。
「予測できない未来にワクワクするなら、ワクワクする未来を視せてあげますよ」
「占い師にケンカ売るなんて上等じゃなぁい。キレてるっつってんだろ、劣等人種。あ~しをプツらせてタダじゃ済まないっつんだよ」
 刹那、ミモザの姿が忽然と消失する。
 否、それは視界の外へと移動しただけに過ぎない。
 気配を感知する暇もなく、気付いた時にはカルミアの背後にいた。
「んぐっ!?」
 ミモザの掌がカルミアの口元に押し当てられる。
 振り払おうと腕を回すが、既に遅く、距離を取られていた。
「おえっ、何を飲ませた?」
 何かが喉奥を通っていくのを感じた。
 吐き出そうとするが、飲み込んでしまった後ではもう遅い。
 急速的に、体が変質していくようだった。
『毒じゃありませんよ。ちょっとした能力強化薬です』
「能力強化薬? なんだそれ」
「そうです。能力強化薬です。あなた用に改良を加えました」
 そのとき、カルミアは奇妙な感覚に苛まれた。
 今、目の前にいるミモザが喋る前に、喋る内容を知っていた気がした。
 まるで未来を視ているときのあの感覚にも似ている。
「私は気まぐれですから、気を付けてくださいね」
「ッ!?」
 ミモザが何をするまでもなく、カルミアは後ろに退く。
 そのあとにミモザはゆっくりと手を振り上げる。
 その動作を予測していたというよりも、既に分かっていたというのが正しい。
 ミモザの手は開かれ、その指先に魔力が集中する。
「熱っ!? ちょ、え?」
 ミモザの指先には火が灯っていた。
 だが、決してそれはカルミアには触れてすらいない。
「ヒッ! 冷たっ!?」
 違う指には氷の塊が浮いている。
 もちろん、ミモザとは距離を置いているのだから触れようもない。
「ぎゃっ!? ど、どうして痺れが……」
 ミモザは依然として何もしていない。
 その指先にいくつかの魔法を放出しているだけ。
 傍から見てもカルミアが勝手に痛がっているようにしか見えなかった。
「痛っ! イタイイタイ! ちょ、熱っ、寒っ!? ヒィィ、ヒイイィィっ!!?」
 ミモザの開かれた両手の指先に炎や氷、雷や風などのあらゆる魔法が発動されているだけだというのに、カルミアはあたかも、その全てを食らっているかのように悶えるばかり。
 次第にカルミアの皮膚に火傷の痕や、打撲の痕、切り傷などが浮き上がってくる。
 慌ててミモザから距離を離して逃げ出そうとするが、どれだけ逃げ出そうとしても謎の痛みは止まらない。カルミアは理解不能な攻撃を受け続けている。
 そう、カルミアは未来の攻撃を予知し、それを体感していた。それほどまでの能力へと無理やり昇華されていたのだ。現実には、まだ《《攻撃をしていない》》としても、それもまた《《未来の分岐に過ぎない》》。
 全ては《《ありうる可能性》》であり、無数に分岐した全ての攻撃を予知してしまうカルミアには回避しようもない。
 時間の経過とともに可能性の分岐は広がっていき、無数の――ミモザの怒りをその身に受けるしかなかった。