【???】敗北者の狂騒曲

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 軍事国家レッドアイズの中央都市に、謎の覆面をつけた集団が現れた。それは東西南北全てのエリアを同時に出現し、ものの一瞬のうちに混乱は広がっていった。
 おぞましい暴動としか言いようがなく、レッドアイズ城に向かって行進していくかのように襲撃していった。

 ただ暴れるだけでも厄介な大人数だというのに、彼らは魔具で武装しており、炎をまき散らしたり、水流で人波を押し流したりと、手が付けられない。

 一体いつの間にこんなにも大量の暴徒が湧いて出てきたのか。
 どうしてそんな強力な魔具を所持しているのか。
 そんな疑問を解消する余裕もなく、覆面集団は侵略を続けていくばかり。

 その実態は、闇の騎士団ナイト・シェードのリーダー、ロベリア・エリナスの差し金である。彼が指揮を執り、レッドアイズの影でくすぶっていた民衆を扇動し、武器を与え、この暴動を引き起こしたのだ。

 各所の集団は、旗を掲げる。それは黒く塗りつぶされたレッドアイズの国旗。
 上書きするように赤いインクで別な模様が描かれていた。

 それこそが闇の騎士団ナイト・シェードの紋様だ。
 レッドアイズを塗り替えるという強い意志の象徴でもある。

「「「レッドアイズよ、滅びよ。我らは、哀れな敗北者ではない!!」」」

 攻撃を繰り返しながらも、集団は大声で叫ぶ。

「「「我ら、闇の騎士団ナイト・シェードは、報復する!!」」」

 大量の兵器を手に取った民衆は、かつては国に虐げられるだけの平民でしかなかったが、今はまさに動く災害のようだった。

 ただ、だからといって、そのような暴動を何もせず見逃すような国が軍事国家を名乗るはずもなく――。

『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』

 ガシャンガシャンと金属を叩くような足音を響かせて現れたのは、この国の治安を守るために製造された魔導機兵(オートマタ)の集団だ。
 巨大な甲冑姿の兵隊が逆に押し寄せてくる。

「うわあぁぁっ!?」
「ひ、怯むなぁ!」
「攻めて攻めて押し切れぇ!」

 覆面集団は一斉に魔具で対抗するが、そんな攻撃をものともせず、はじき返す。
 焼かれようが、水流で押そうが、電撃を浴びせられたところで、傷一つつくはずもなく、頑強な兵隊は止まることもない。

『捕縛・スル』

 魔導機兵の腕から投網のようなものが発射され、集団は一気に拘束されていく。
 かなり丈夫な材質で作られていた網らしく、刃物でも切れず、炎でも燃やせない。

 たった一体の魔導機兵で十人単位が捕まり、見る見るうちに鎮圧されていく。
 ナイト・シェードを名乗る集団の数は圧倒的ではあったが、魔導機兵の戦力はさらにそれを上回り、後続からはレッドアイズの警備部隊も到着する。

「なんつー数だ。こんな連中が息をひそめていたとはな」

 兵士の一人が大通りを埋め尽くすほどの数にも及ぶ集団を眺めて言う。
 この数は、それだけレッドアイズの王政が憎まれていることを意味している。

 先代までの国王は、それだけのことをしてきたのだ。
 だが、今は違う。

 ソレノス王子が国王を継ぎ、レッドアイズの情勢を変えようと奮闘している最中。
 もちろん、すぐに全てを変えることなどできない。今もまだ国民の多くは長年積み重ねられてきた不平不満を抱えたまま生きている。

 これから変わろうとしている矢先に、これだけの憎悪を向けられてしまうと、国のために尽くしている兵隊としては良い気分ではない。
 先代の国王、はたまた先々代の国王の意向に従ってきた者も少なくはないからだ。

「一歩間違えば俺たちも向こう側にいたかもしれないな」
「感傷に浸っている暇はないぞ。国を守るのが俺たちの仕事だ」

 こうしている間にも、ナイト・シェードは攻め込んでくる。
 中には魔導機兵に恐れをなして逃げ出した者もいるが、それでもレッドアイズの歴史が積み上げてきた憎悪の塊は、けして簡単に消えてなくなるものではない。

 誰が何のために、何を勝ち取るべく戦っているのだろうか。
 この暴動を制圧しきったところで、後に何が残るというのだろう。
 そんな得体の知れない感情も心のうちに渦巻いていく。

 感情なく敵を駆逐していく魔導機兵を羨ましく思えてしまうほど。

 これは公にはされていない情報だが、レッドアイズ国を含む世界の国々では何者かによる記憶の改変が行われており、過去と今の記憶が書き換えられているという。
 無論、そんな大掛かりで目的も分からないことが実際に起こったのかは半信半疑ではあったが、事実、記録されていた情報と記憶の中の情報に齟齬が生じていた。

 何より重大なことは、レッドアイズ国の積み上げてきた歴史の多くが認識できないことにあった。どうやら大きな戦争を繰り返し、その中で技術や文化を発達させてきたらしい、というところまでは多くの兵士が記憶している。

 だが、一体誰と戦ってきたのかという根本的な記憶が欠落していた。

 そして、それを狙いすましたかのように、闇の騎士団ナイト・シェードを名乗る国家反逆の組織は、レッドアイズの歴史が眠る国立図書館や、城の書庫を襲撃し、その記録や文献を焼き払ってしまった。

 つまり、それが何を意味するのか。

 国のために命を賭している兵士たちでさえも、自分の国が何のために戦いの歴史を歩んできたのかを知る機会を失ってしまったということだ。
 歴史の積み上げの中でレッドアイズの騎士道精神は培われてきた。だが、その根本的な記憶が、記録が、抜け落ちている。

 確かにあったはずのそれが、どれだけ思い出そうとしても出てこない。
 自分の生きる意味、国を守る意味を、分からないまま、今を戦っている。

 ただ、軍事国家レッドアイズは何かを成し遂げたのかもしれない国である。そんな認識だけで、中身もなければ経験も覚えていない、空っぽの状態で剣を振るわなければならない。あたかも、亡霊のような気分だった。

 誰が何の目的で記憶を書き換えたのかは分からない。
 これもまた闇の騎士団ナイト・シェードの策略なのかもしれない。

 だが、そんなことを考えている猶予すらないのが現状だ。
 レッドアイズの――記憶にない――負の歴史の産物が、自分たちに牙を剥いているという現実から逃れることができない。

 一人、また一人と捕らえ、兵士たちは自己を正当化するので精一杯だ。
 レッドアイズに苦しめられた民と、そのレッドアイズを守る者。
 はたして本当に正しいのはどちらなのだろうか。

 胸の内にあったはずの正義の根元は、何処にもない。
 自分たちが正義であったであろう、ただの認識でしかない。

 レッドアイズの兵士は、自分の何を信じるべきなのか。
 暴動を起こす民たちと戦いながらも、その苦悩とも戦いを強いられていた。

 滑稽。あまりに滑稽だと嘲笑うかのように、レッドアイズの中央都市の高台からその暴動と、それが鎮圧されていく様を眺める男がいた。

 さも、傍観者のように俯瞰するその男こそ、闇の騎士団ナイト・シェードのリーダーであるロベリア・エリナスだった。

「誰も自分の正義など持ってはいない。虐げられた苦痛という感情と、虚ろな誇りという自尊心が対立しているだけの愚かな争いだ」

 彼にとってその光景とはどんな意味があったのか。
 少なくとも、下らない児戯を目の当たりにしているかのような無関心な眼は、そこにはない別な何かに対して感情を向けているようだった。


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次のエピソードへ進む 第213話 最も怒らせてはいけない女


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 軍事国家レッドアイズの中央都市に、謎の覆面をつけた集団が現れた。それは東西南北全てのエリアを同時に出現し、ものの一瞬のうちに混乱は広がっていった。
 おぞましい暴動としか言いようがなく、レッドアイズ城に向かって行進していくかのように襲撃していった。
 ただ暴れるだけでも厄介な大人数だというのに、彼らは魔具で武装しており、炎をまき散らしたり、水流で人波を押し流したりと、手が付けられない。
 一体いつの間にこんなにも大量の暴徒が湧いて出てきたのか。
 どうしてそんな強力な魔具を所持しているのか。
 そんな疑問を解消する余裕もなく、覆面集団は侵略を続けていくばかり。
 その実態は、闇の騎士団ナイト・シェードのリーダー、ロベリア・エリナスの差し金である。彼が指揮を執り、レッドアイズの影でくすぶっていた民衆を扇動し、武器を与え、この暴動を引き起こしたのだ。
 各所の集団は、旗を掲げる。それは黒く塗りつぶされたレッドアイズの国旗。
 上書きするように赤いインクで別な模様が描かれていた。
 それこそが闇の騎士団ナイト・シェードの紋様だ。
 レッドアイズを塗り替えるという強い意志の象徴でもある。
「「「レッドアイズよ、滅びよ。我らは、哀れな敗北者ではない!!」」」
 攻撃を繰り返しながらも、集団は大声で叫ぶ。
「「「我ら、闇の騎士団ナイト・シェードは、報復する!!」」」
 大量の兵器を手に取った民衆は、かつては国に虐げられるだけの平民でしかなかったが、今はまさに動く災害のようだった。
 ただ、だからといって、そのような暴動を何もせず見逃すような国が軍事国家を名乗るはずもなく――。
『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』『危険・ハ・排除』
 ガシャンガシャンと金属を叩くような足音を響かせて現れたのは、この国の治安を守るために製造された|魔導機兵《オートマタ》の集団だ。
 巨大な甲冑姿の兵隊が逆に押し寄せてくる。
「うわあぁぁっ!?」
「ひ、怯むなぁ!」
「攻めて攻めて押し切れぇ!」
 覆面集団は一斉に魔具で対抗するが、そんな攻撃をものともせず、はじき返す。
 焼かれようが、水流で押そうが、電撃を浴びせられたところで、傷一つつくはずもなく、頑強な兵隊は止まることもない。
『捕縛・スル』
 魔導機兵の腕から投網のようなものが発射され、集団は一気に拘束されていく。
 かなり丈夫な材質で作られていた網らしく、刃物でも切れず、炎でも燃やせない。
 たった一体の魔導機兵で十人単位が捕まり、見る見るうちに鎮圧されていく。
 ナイト・シェードを名乗る集団の数は圧倒的ではあったが、魔導機兵の戦力はさらにそれを上回り、後続からはレッドアイズの警備部隊も到着する。
「なんつー数だ。こんな連中が息をひそめていたとはな」
 兵士の一人が大通りを埋め尽くすほどの数にも及ぶ集団を眺めて言う。
 この数は、それだけレッドアイズの王政が憎まれていることを意味している。
 先代までの国王は、それだけのことをしてきたのだ。
 だが、今は違う。
 ソレノス王子が国王を継ぎ、レッドアイズの情勢を変えようと奮闘している最中。
 もちろん、すぐに全てを変えることなどできない。今もまだ国民の多くは長年積み重ねられてきた不平不満を抱えたまま生きている。
 これから変わろうとしている矢先に、これだけの憎悪を向けられてしまうと、国のために尽くしている兵隊としては良い気分ではない。
 先代の国王、はたまた先々代の国王の意向に従ってきた者も少なくはないからだ。
「一歩間違えば俺たちも向こう側にいたかもしれないな」
「感傷に浸っている暇はないぞ。国を守るのが俺たちの仕事だ」
 こうしている間にも、ナイト・シェードは攻め込んでくる。
 中には魔導機兵に恐れをなして逃げ出した者もいるが、それでもレッドアイズの歴史が積み上げてきた憎悪の塊は、けして簡単に消えてなくなるものではない。
 誰が何のために、何を勝ち取るべく戦っているのだろうか。
 この暴動を制圧しきったところで、後に何が残るというのだろう。
 そんな得体の知れない感情も心のうちに渦巻いていく。
 感情なく敵を駆逐していく魔導機兵を羨ましく思えてしまうほど。
 これは公にはされていない情報だが、レッドアイズ国を含む世界の国々では何者かによる記憶の改変が行われており、過去と今の記憶が書き換えられているという。
 無論、そんな大掛かりで目的も分からないことが実際に起こったのかは半信半疑ではあったが、事実、記録されていた情報と記憶の中の情報に齟齬が生じていた。
 何より重大なことは、レッドアイズ国の積み上げてきた歴史の多くが認識できないことにあった。どうやら大きな戦争を繰り返し、その中で技術や文化を発達させてきたらしい、というところまでは多くの兵士が記憶している。
 だが、一体誰と戦ってきたのかという根本的な記憶が欠落していた。
 そして、それを狙いすましたかのように、闇の騎士団ナイト・シェードを名乗る国家反逆の組織は、レッドアイズの歴史が眠る国立図書館や、城の書庫を襲撃し、その記録や文献を焼き払ってしまった。
 つまり、それが何を意味するのか。
 国のために命を賭している兵士たちでさえも、自分の国が何のために戦いの歴史を歩んできたのかを知る機会を失ってしまったということだ。
 歴史の積み上げの中でレッドアイズの騎士道精神は培われてきた。だが、その根本的な記憶が、記録が、抜け落ちている。
 確かにあったはずのそれが、どれだけ思い出そうとしても出てこない。
 自分の生きる意味、国を守る意味を、分からないまま、今を戦っている。
 ただ、軍事国家レッドアイズは何かを成し遂げたのかもしれない国である。そんな認識だけで、中身もなければ経験も覚えていない、空っぽの状態で剣を振るわなければならない。あたかも、亡霊のような気分だった。
 誰が何の目的で記憶を書き換えたのかは分からない。
 これもまた闇の騎士団ナイト・シェードの策略なのかもしれない。
 だが、そんなことを考えている猶予すらないのが現状だ。
 レッドアイズの――記憶にない――負の歴史の産物が、自分たちに牙を剥いているという現実から逃れることができない。
 一人、また一人と捕らえ、兵士たちは自己を正当化するので精一杯だ。
 レッドアイズに苦しめられた民と、そのレッドアイズを守る者。
 はたして本当に正しいのはどちらなのだろうか。
 胸の内にあったはずの正義の根元は、何処にもない。
 自分たちが正義であったであろう、ただの認識でしかない。
 レッドアイズの兵士は、自分の何を信じるべきなのか。
 暴動を起こす民たちと戦いながらも、その苦悩とも戦いを強いられていた。
 滑稽。あまりに滑稽だと嘲笑うかのように、レッドアイズの中央都市の高台からその暴動と、それが鎮圧されていく様を眺める男がいた。
 さも、傍観者のように俯瞰するその男こそ、闇の騎士団ナイト・シェードのリーダーであるロベリア・エリナスだった。
「誰も自分の正義など持ってはいない。虐げられた苦痛という感情と、虚ろな誇りという自尊心が対立しているだけの愚かな争いだ」
 彼にとってその光景とはどんな意味があったのか。
 少なくとも、下らない児戯を目の当たりにしているかのような無関心な眼は、そこにはない別な何かに対して感情を向けているようだった。