第212話 未来を視る女

ー/ー



「爆ぜろ! 閃光迸る一撃の雷鳴(オーバーボルテージ)ッ!!」

 眩い雷撃が線を描き、天井に向かって放たれる。
 それは崩落する壁の破片を貫き、ものの見事に粉砕した。
 砕かれたことにより三人の頭上から降ることはなく、どうにか避けていく。

「おお、お見事です! パエニアくん!」
「言ってる場合か! 襲撃されてんだぞ! とっとと逃げるぞ!」

 研究棟の天井付近の壁に大きな穴が空いており、そこから外の光が差し込む。
 仮にも軍事国家レッドアイズの城敷地内だというのに、こんなにあっさりと攻撃を許していいのかという疑問は、外から聞こえてくる騒音で解消された。

 今の今まで気付かなかったのか、それとも圧倒的な早さで攻め込まれていたのか。いずれにせよ、壁の向こうからは爆撃音や炸裂音がけたたましいほどに響いてくる。
 つい今さっきまでのんきに研究に入り浸っていたのが馬鹿らしくなるほど。

「王子、ご友人の方、こちらです!」

 研究員の一人が誘導する。ここはもう安全な場所ではない。それだけは明瞭に理解できた。急いでここから離れなくては。

 ズゴゴゴゴォォーーンッ!

 そう思った矢先にもまた追撃がくる。
 どんな攻撃をされているのかは分からない。
 大砲を撃ち込まれているのか、それとも何か巨大な魔法をぶつけられているのか。

 悠長に考える間もなく、また崩落した壁が迫ってくる。

「あ、危ないっ! ミモザさん!」

 コリウスが叫ぶ。大きな瓦礫の落下地点にはミモザがいた。
 もう、間に合わない。その位置からでは魔法を放ってももう遅い。

「――貪欲なる美食家共(ビストローヴァー)!!」

 突如として、巨大な口が天を目掛けてあんぐりと開く。それは落下してくる瓦礫をバクンと飲み込み、欠片一つも残さず何事もなかったかのように消失する。

 今しがたまで、その場所に立っていたのはミモザのはずだった。
 だが、どういうわけか、そこには違う人物が立っていた。

 太陽に照らされる小麦の如く眩い金色の髪に、何処までも澄み渡る空の如く透き通った蒼色の瞳を持つ、長身のエルフがそこにいた。

「え……? み、ミモザさん、ですか?」
 確信が持てず、コリウスは思わず尋ねる。

「そうですよ、コリウスくん」
 いつものようなにっこり笑みを浮かべる。
 純朴なその顔は見間違いようもない。ミモザのものだ。

「どうして突然そんな姿に?」
 混乱のあまり疑問が相次ぐ。

 その横で、ふとパエニアの方は目を見開き、愕然としていた。
 いつか何処かで見たことがあるような気がする。
 記憶の奔流に脳内が刺激される。誰かの言葉が脳髄から掘り起こされる。

『これは瞬間的人違い(スルーポーズ)といって、身につけたものの姿を変えることができるのだ。背を伸ばすことも髪の色を変えることも服を着替えることさえ自由自在の変身アイテムなのだぞ』

 誰だっただろうか。分かることは確かに誰かがパエニアに言った言葉だ。
 顔はおぼろげだったが、今、目の前にいるミモザと一致しているような気がした。

瞬間的人違い(スルーポーズ)、だな。身につけたら姿を変えられる魔具……」
「あれ? パエニアくんにこの魔具紹介しましたっけ? ええ、その通りです。これは私の作った瞬間的人違い(スルーポーズ)の改良版なのです」

 そう言ってミモザはその指に付けた指輪を見せる。
 何か、違和感を覚える。姿形がいつものミモザではないからだろうか。

「見た目だけでなく、魔力を増幅させる効果もあるんです。潜在魔力の少ない私でも魔力の蓄積石(パワージェム)に頼らずに強力な魔法を放てます」

 えへへ、とまた笑って見せた。

「あっれ~~? なんでこんなとこに王子様がいるの~~~~?」

 突然、気の抜けるような女の子が頭上から聞こえてくる。
 その場にいた全員が壁に空いた大穴を見上げる。
 すると、そこには勝負師のような服装に身を包む女が宙に浮かんでいた。

「あ、あなたは、カルミアさん!?」
「よっす。おひさ~、王子様ぁ~♪」

 緊迫した状況だというのにあまりにも軽すぎる態度で返事する。

「知り合いですか?」
「ええ、あの方は未来を視る力を持つ高名な占い師です。父上の頃からレッドアイズに貢献してきた凄い人ですよ」
「やぁ~ん♪ 王子様に褒められるとテレちゃうなぁ~」

 この場にいるということは、襲撃者か救出部隊かのどちらかだが、彼女の態度を見る限りでは敵か味方かも区別し辛い。

「ま、ちょうど良かったわ~。探す手間も省けたしぃ~」
 カルミアが不穏な構えをする。高ぶった魔力が体から放出されているのを感じた。

「じゃ、再会ついでに暗殺させてもらっちゃお~っと♪」

 その手からカードのようなものが放たれる。一見すると、高低差はあるとはいえ、そんなペラッペラな紙切れが届くようには思えなかった。
 だが、カードは真っ直ぐにコリウスに向かって飛んでくる。

閃光迸る一撃の雷鳴(オーバーボルテージ)ッ!!」

 咄嗟に、パエニアが電撃を放ち、カードを迎え撃つ。
 電撃とカードが接触した、その直後。
 火薬に着火された爆弾の如く、ソレが空中で弾ける。

 思いの外、威力は高く、その爆風で体がよろめいてしまうほど。
 もし、直接触れていたら木っ端みじんに吹き飛んでいたかもしれない。

「ちょっと~、ボウヤ? 邪魔しないでくれるぅ~?」
「うるせえ! いきなり殺しにかかってくんなよ、この殺人鬼!」

 あまりに狂気だった。まるで羽虫を潰すくらい無関心に、コリウスを、そしてその周りにいる人間もついでくらいの気持ちで殺すつもりでいた。
 抵抗していなかったら。一瞬でも油断していたら死んでいたと思うと、パエニアの足は震えそうになる。歯を食いしばり、どうにか堪える。

「あなたの目的は何ですか? どうして城を攻撃するんですか? どうしてコリウスくんを狙うんですか?」
「あ~もう~、うっさいうっさい。質問は一つにまとめてくれるかな。つか、なんでエルフがいるわけ? ぶっちゃけ、きしょいんだけど」

 ミモザに気付くなり、態度をコロっと変える。
 ミモザに、というよりも他種族に対して嫌悪感を抱いているようだった。

「どうしてあなたはレッドアイズを攻撃するんですか? 私はあなたのことをよく知りませんが、今までこの国に貢献してきたんじゃないんですか?」

 あえて律儀に質問を一つに絞って言い直す。

「ハンっ、貢献だなんて。あ~しはね、ただ刺激が欲しかっただけなの。軍事国家。戦争して国中が目まぐるしく動きまわっていってぐちゃぐちゃになっていくの、予測不能でサイッコーに楽しいと思ってたけど……飽きちゃったのよねん」

 何の悪びれもせず、言ってのける。

「だからアイツに乗ったの。軍事国家レッドアイズをぶっ壊しちゃうなんてこれこそサイッコーにエキサイティングじゃなぁい♪ レッドアイズ国を敵視してる国だっていっぱいあるし、レッドアイズ国に頼り切ってる国もある。そ~ゆ~のがぜぇんぶ、まとめてぐっちゃぐちゃになるんだよ? んっふ♪ 予測できなくて興奮しちゃう」

 カルミアの言葉に、さすがのミモザも怒りの表情を露わにする。
 珍しく歯噛みし、宙に浮かんだカルミアを睨みつける。

「色んな人が死ぬんですよ。どうしてそんなヘラヘラと笑っていられるんですか?」
「おーこわっ。やっぱエルフって考え方が偏屈なのねん♪ どうしてそんな重苦しく考えるのか理解できないっちゅ~の。刺激のない未来ほど退屈なものはないんだから平和ボケしたおバカちゃんたちはいなくなった方がいいに決まってるでしょ?」

 これ以上の会話は無意味だと理解できた。
 それはカルミアにとっても同じだったようで、その手には扇のように広げた無数のカードが構えられていた。

「じゃあね♪」


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「爆ぜろ! |閃光迸る一撃の雷鳴《オーバーボルテージ》ッ!!」
 眩い雷撃が線を描き、天井に向かって放たれる。
 それは崩落する壁の破片を貫き、ものの見事に粉砕した。
 砕かれたことにより三人の頭上から降ることはなく、どうにか避けていく。
「おお、お見事です! パエニアくん!」
「言ってる場合か! 襲撃されてんだぞ! とっとと逃げるぞ!」
 研究棟の天井付近の壁に大きな穴が空いており、そこから外の光が差し込む。
 仮にも軍事国家レッドアイズの城敷地内だというのに、こんなにあっさりと攻撃を許していいのかという疑問は、外から聞こえてくる騒音で解消された。
 今の今まで気付かなかったのか、それとも圧倒的な早さで攻め込まれていたのか。いずれにせよ、壁の向こうからは爆撃音や炸裂音がけたたましいほどに響いてくる。
 つい今さっきまでのんきに研究に入り浸っていたのが馬鹿らしくなるほど。
「王子、ご友人の方、こちらです!」
 研究員の一人が誘導する。ここはもう安全な場所ではない。それだけは明瞭に理解できた。急いでここから離れなくては。
 ズゴゴゴゴォォーーンッ!
 そう思った矢先にもまた追撃がくる。
 どんな攻撃をされているのかは分からない。
 大砲を撃ち込まれているのか、それとも何か巨大な魔法をぶつけられているのか。
 悠長に考える間もなく、また崩落した壁が迫ってくる。
「あ、危ないっ! ミモザさん!」
 コリウスが叫ぶ。大きな瓦礫の落下地点にはミモザがいた。
 もう、間に合わない。その位置からでは魔法を放ってももう遅い。
「――|貪欲なる美食家共《ビストローヴァー》!!」
 突如として、巨大な口が天を目掛けてあんぐりと開く。それは落下してくる瓦礫をバクンと飲み込み、欠片一つも残さず何事もなかったかのように消失する。
 今しがたまで、その場所に立っていたのはミモザのはずだった。
 だが、どういうわけか、そこには違う人物が立っていた。
 太陽に照らされる小麦の如く眩い金色の髪に、何処までも澄み渡る空の如く透き通った蒼色の瞳を持つ、長身のエルフがそこにいた。
「え……? み、ミモザさん、ですか?」
 確信が持てず、コリウスは思わず尋ねる。
「そうですよ、コリウスくん」
 いつものようなにっこり笑みを浮かべる。
 純朴なその顔は見間違いようもない。ミモザのものだ。
「どうして突然そんな姿に?」
 混乱のあまり疑問が相次ぐ。
 その横で、ふとパエニアの方は目を見開き、愕然としていた。
 いつか何処かで見たことがあるような気がする。
 記憶の奔流に脳内が刺激される。誰かの言葉が脳髄から掘り起こされる。
『これは|瞬間的人違い《スルーポーズ》といって、身につけたものの姿を変えることができるのだ。背を伸ばすことも髪の色を変えることも服を着替えることさえ自由自在の変身アイテムなのだぞ』
 誰だっただろうか。分かることは確かに誰かがパエニアに言った言葉だ。
 顔はおぼろげだったが、今、目の前にいるミモザと一致しているような気がした。
「|瞬間的人違い《スルーポーズ》、だな。身につけたら姿を変えられる魔具……」
「あれ? パエニアくんにこの魔具紹介しましたっけ? ええ、その通りです。これは私の作った|瞬間的人違い《スルーポーズ》の改良版なのです」
 そう言ってミモザはその指に付けた指輪を見せる。
 何か、違和感を覚える。姿形がいつものミモザではないからだろうか。
「見た目だけでなく、魔力を増幅させる効果もあるんです。潜在魔力の少ない私でも|魔力の蓄積石《パワージェム》に頼らずに強力な魔法を放てます」
 えへへ、とまた笑って見せた。
「あっれ~~? なんでこんなとこに王子様がいるの~~~~?」
 突然、気の抜けるような女の子が頭上から聞こえてくる。
 その場にいた全員が壁に空いた大穴を見上げる。
 すると、そこには勝負師のような服装に身を包む女が宙に浮かんでいた。
「あ、あなたは、カルミアさん!?」
「よっす。おひさ~、王子様ぁ~♪」
 緊迫した状況だというのにあまりにも軽すぎる態度で返事する。
「知り合いですか?」
「ええ、あの方は未来を視る力を持つ高名な占い師です。父上の頃からレッドアイズに貢献してきた凄い人ですよ」
「やぁ~ん♪ 王子様に褒められるとテレちゃうなぁ~」
 この場にいるということは、襲撃者か救出部隊かのどちらかだが、彼女の態度を見る限りでは敵か味方かも区別し辛い。
「ま、ちょうど良かったわ~。探す手間も省けたしぃ~」
 カルミアが不穏な構えをする。高ぶった魔力が体から放出されているのを感じた。
「じゃ、再会ついでに暗殺させてもらっちゃお~っと♪」
 その手からカードのようなものが放たれる。一見すると、高低差はあるとはいえ、そんなペラッペラな紙切れが届くようには思えなかった。
 だが、カードは真っ直ぐにコリウスに向かって飛んでくる。
「|閃光迸る一撃の雷鳴《オーバーボルテージ》ッ!!」
 咄嗟に、パエニアが電撃を放ち、カードを迎え撃つ。
 電撃とカードが接触した、その直後。
 火薬に着火された爆弾の如く、ソレが空中で弾ける。
 思いの外、威力は高く、その爆風で体がよろめいてしまうほど。
 もし、直接触れていたら木っ端みじんに吹き飛んでいたかもしれない。
「ちょっと~、ボウヤ? 邪魔しないでくれるぅ~?」
「うるせえ! いきなり殺しにかかってくんなよ、この殺人鬼!」
 あまりに狂気だった。まるで羽虫を潰すくらい無関心に、コリウスを、そしてその周りにいる人間もついでくらいの気持ちで殺すつもりでいた。
 抵抗していなかったら。一瞬でも油断していたら死んでいたと思うと、パエニアの足は震えそうになる。歯を食いしばり、どうにか堪える。
「あなたの目的は何ですか? どうして城を攻撃するんですか? どうしてコリウスくんを狙うんですか?」
「あ~もう~、うっさいうっさい。質問は一つにまとめてくれるかな。つか、なんでエルフがいるわけ? ぶっちゃけ、きしょいんだけど」
 ミモザに気付くなり、態度をコロっと変える。
 ミモザに、というよりも他種族に対して嫌悪感を抱いているようだった。
「どうしてあなたはレッドアイズを攻撃するんですか? 私はあなたのことをよく知りませんが、今までこの国に貢献してきたんじゃないんですか?」
 あえて律儀に質問を一つに絞って言い直す。
「ハンっ、貢献だなんて。あ~しはね、ただ刺激が欲しかっただけなの。軍事国家。戦争して国中が目まぐるしく動きまわっていってぐちゃぐちゃになっていくの、予測不能でサイッコーに楽しいと思ってたけど……飽きちゃったのよねん」
 何の悪びれもせず、言ってのける。
「だからアイツに乗ったの。軍事国家レッドアイズをぶっ壊しちゃうなんてこれこそサイッコーにエキサイティングじゃなぁい♪ レッドアイズ国を敵視してる国だっていっぱいあるし、レッドアイズ国に頼り切ってる国もある。そ~ゆ~のがぜぇんぶ、まとめてぐっちゃぐちゃになるんだよ? んっふ♪ 予測できなくて興奮しちゃう」
 カルミアの言葉に、さすがのミモザも怒りの表情を露わにする。
 珍しく歯噛みし、宙に浮かんだカルミアを睨みつける。
「色んな人が死ぬんですよ。どうしてそんなヘラヘラと笑っていられるんですか?」
「おーこわっ。やっぱエルフって考え方が偏屈なのねん♪ どうしてそんな重苦しく考えるのか理解できないっちゅ~の。刺激のない未来ほど退屈なものはないんだから平和ボケしたおバカちゃんたちはいなくなった方がいいに決まってるでしょ?」
 これ以上の会話は無意味だと理解できた。
 それはカルミアにとっても同じだったようで、その手には扇のように広げた無数のカードが構えられていた。
「じゃあね♪」