第208話 田舎エルフ、突入

ー/ー



 線路に沿いカーブし、車窓の外の景色に雄大な存在感を放つソレが映る。
 軍事国家レッドアイズの中心である王家の城だ。

「さて、そろそろ城に到着するみたいだな。荷物とか忘れないようにな」
 引率教師気分でリンドーが促す。

「城に着くのはいいけどよ。肝心の資料とか残ってんのか? さっきの話だと図書館や書庫がクーデターでどうとか言ってたが」
「まあ、元々はボクの書いた手紙の返信がないかを探しに来ただけですし」

 へらへらと笑いながらコリウスが答える。
 あまりそれほど状況を把握しているような気はしない。

 当初の予定では、あくまでカシア・アレフヘイムとの手紙のやり取りがなかったかを確認するために遠路はるばるレッドアイズ国まで足を運ぶことになっていた。
 レッドアイズ国との関連性など考えもしなかったから本命はそちらだったのだが、今となっては手紙よりも歴史的資料の方が重要になりつつある。

「ん? コリウス王子宛ての手紙ならなかったぞ」
 急にここにきて本末転倒な回答に、冷水を浴びせられたかのような衝撃が走る。

 手紙の内容を把握していると言ったばかりだ。コリウスが送ったものだけでなく、返ってくる手紙ももちろん把握していて当然といえた。
 リンドーが言うのだから間違いはないだろう。

「ちょっと待てよ。じゃあ俺たちは何のためにここに来たんだよ」
「リンドーしぇんせい、せめてレッドアイズの歴史の本は何か残ってないれすか?」
「ないこともないんだろうが、ちょっとなぁ。俺の聞いた報告じゃあ、まるで歴史を残した施設を集中的に狙われたみたいらしいしな」

 矢継ぎ早に寄られるも、ついぞ先日までパエデロスの方に滞在していたリンドーとしてはそれほど知っている情報も多くはない。

「そもそもロベリアしゃんって人は何で図書館とかお城の書庫を狙ったんでふか?」
「アイツは昔っから古いものは掃き捨てて新しいもので埋め尽くすタイプの思想だったしな。歴史なんて下らない過去の遺物だと思っていたのかもな」

 リンドーが思い返すように言う。
 その口ぶりだと、かなり近しい位置にいたことが伺える。

「つーかよ、なんでクーデターを許してるんだよ。仮にも軍事国家だろ」
 当初の目的を失いバツが悪そうな顔でパエニアがぼやく。

「あんま言ってくれるな。ただでさえ記憶が改変されて国も混乱している最中のことだったんだ。それに、ロベリアの率いるメンツはレッドアイズの中枢を担う集団。その気になりゃ魔導機兵(オートマタ)もちゃちゃっと造れるし、国の何処が弱いのかも全部知り尽くしている。まとめて反旗を翻した時点で対処しようがなかったというかな」

 そこまで言われるとどうしてそんな連中の脱獄が許されてしまったのか、ますます疑問が深まるばかりだ。それこそ厳重に幽閉すべきはずだろう。

 話も盛り上がりつつあったが、列車は次第に減速し始め、気付いたころには城の内部へと入り込んでいった。トンネルを潜るように辺りは薄暗くなり、狭い通路を列車がゆっくりと走っていく。

 ややもすれば、広い空間へと出て、列車の終点へと辿り着く。
 軍事国家レッドアイズの名に相応しい、まるで武器庫のような物々しい雰囲気をまとった専用の駅舎だ。

 何本にも分岐した線路の先は、車庫になっているらしく、今まで乗っていた車両とは異なる武装したような列車がずらりと並んで停まっていた。

 おそらく有事の際にはここに兵隊が集い、出動していくのだろう。今は何処と戦争するわけでもないため、王族の親衛隊たちが赤絨毯を敷いて待っていた。

 列車の扉が開き、リンドーを先頭にしてコリウスが続く。

「「「コリウス王子、おかえりなさいませっ!!!! ご卒業、おめでとうございました!!!!!!」」」

 大音声で響き渡る声に、丁度その後ろにいたミモザがビックリして後ろ向きに倒れそうになる。その背中をパエニアが抑え、どうにか体勢を持ち直した。

 手荷物の大体は兵士たちが手厚く運び出し、城内へと持っていかれる。
 何を言うまでもなく、大勢の召使いたちも現れ、目にも止まらぬ早さで着替えや化粧までをサッと済まされていた。
 この丁重な扱われ方はまさに王族に相応しい。
 今更のようにパエニアも「本当に王子だったんだな」と再認識する。

 その傍ら、ミモザに至っては田舎者丸出しで、列車から降りた先にある赤絨毯に乗るのを躊躇っている。ここにくるまでの道中、散々はしゃいだり、慣れ親しんだ調子で会話していたはずなのに、急激な温度差に委縮した様子だ。

「色々と話も積もるに積もっちゃいましたけど、そういうのは全部後にして、今日はボクの城をご案内しますよ」

 パエニアやミモザと違い、何の態度も変わらないのはコリウスだけだ。
 ここが彼にとっての実家なのだからそれも当然なのだが、それまでは微塵も感じなかった大物感のオーラをまとっているように見えた。

「お、おじゃましまふ……」

 震える足で、ちょこんと赤絨毯に乗り、やっと言えたのはその言葉だった。

 ※ ※ ※

 ぞろぞろと兵隊に囲まれながらレッドアイズ城を案内されていき、ミモザやパエニアが率直に思ったことは、想像に反して意外にも質素だったという点だろうか。
 見栄っ張りな貴族とは違い、続く廊下に絵画や美術品が飾ってあるわけでもなく、赤絨毯が敷いていなければ収容所か監獄を彷彿とさせていたかもしれない。

 訓練施設の多さや広さが尋常ではなく、筋肉隆々の兵士たちと何度すれ違ったかも分からない。軍事国家というだけあって、一秒後にも戦争が始められそうなほど軍備が整っている様子が伺えた。

 見たことのない兵器や装備を開発している研究所などもあり、その技術力の高さは噂通り、数十年は先を見据えているかのようなレベル。

 そんな部屋に辿り着くと、ミモザも緊張が解けてきたのか、また興味津々に口を開く度、新開発された魔具についての質問ばかりが飛び出した。

「こんなの国の機密事項じゃねえのか? 部外者を入れていいのかよ」
「そんな。パエニアくんを部外者だと思ってないですよ。もちろんミモザさんも」
 にっこりとした笑顔で言うものだからそれ以上は言葉も返せない。

「武器や兵器のアピールも立派な国交になる。今はそれの予行演習みたいなもんさ。ま、ぶっちゃけ材料や設計図なしに見様見真似で造れるほど単純でもないしな」
 代わりに、リンドーの方が横から言葉を付け足す。

「ここの魔力転換はこっちに流した方が効率いいでふよ?」
「そんな馬鹿な。理論上、最高効率なはずなのに……って、うわぁっ!?」

 何やら向こうのテーブルの方で、ミモザが弄り倒した魔具らしきものに、飛び上がるほど驚く白衣の研究員の姿があった。

「これも暴発したら怖いれすし、このストッパーだと数百発も打つと脆くなると思いまふので、材質をこっちに換えたら制御に掛かる負担も――」
「す、すごいっ!? こんな方法があったなんて!?」

 最新鋭の兵器を改良していく様に、他の研究員たちもやいのやいのと集まりだす。
 自慢のものを紹介するつもりが、逆にミモザが紹介している始末だ。

「なんかあっちで見様見真似で造ってる奴がいんだが」
「……あの子は特別だな。さすがはうちの優等生だ」
 乾いた笑いでリンドーは誤魔化す。

 気付いたときには、研究員に取り囲まれたミモザが城内工場の奥の方まで案内されかけてしまい、それには思わずリンドーも他の兵士とともに引き留めに走った。
 心の底から落胆するミモザをよそに、パエニアは冷や汗かきながらも苦笑した。


スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 線路に沿いカーブし、車窓の外の景色に雄大な存在感を放つソレが映る。
 軍事国家レッドアイズの中心である王家の城だ。
「さて、そろそろ城に到着するみたいだな。荷物とか忘れないようにな」
 引率教師気分でリンドーが促す。
「城に着くのはいいけどよ。肝心の資料とか残ってんのか? さっきの話だと図書館や書庫がクーデターでどうとか言ってたが」
「まあ、元々はボクの書いた手紙の返信がないかを探しに来ただけですし」
 へらへらと笑いながらコリウスが答える。
 あまりそれほど状況を把握しているような気はしない。
 当初の予定では、あくまでカシア・アレフヘイムとの手紙のやり取りがなかったかを確認するために遠路はるばるレッドアイズ国まで足を運ぶことになっていた。
 レッドアイズ国との関連性など考えもしなかったから本命はそちらだったのだが、今となっては手紙よりも歴史的資料の方が重要になりつつある。
「ん? コリウス王子宛ての手紙ならなかったぞ」
 急にここにきて本末転倒な回答に、冷水を浴びせられたかのような衝撃が走る。
 手紙の内容を把握していると言ったばかりだ。コリウスが送ったものだけでなく、返ってくる手紙ももちろん把握していて当然といえた。
 リンドーが言うのだから間違いはないだろう。
「ちょっと待てよ。じゃあ俺たちは何のためにここに来たんだよ」
「リンドーしぇんせい、せめてレッドアイズの歴史の本は何か残ってないれすか?」
「ないこともないんだろうが、ちょっとなぁ。俺の聞いた報告じゃあ、まるで歴史を残した施設を集中的に狙われたみたいらしいしな」
 矢継ぎ早に寄られるも、ついぞ先日までパエデロスの方に滞在していたリンドーとしてはそれほど知っている情報も多くはない。
「そもそもロベリアしゃんって人は何で図書館とかお城の書庫を狙ったんでふか?」
「アイツは昔っから古いものは掃き捨てて新しいもので埋め尽くすタイプの思想だったしな。歴史なんて下らない過去の遺物だと思っていたのかもな」
 リンドーが思い返すように言う。
 その口ぶりだと、かなり近しい位置にいたことが伺える。
「つーかよ、なんでクーデターを許してるんだよ。仮にも軍事国家だろ」
 当初の目的を失いバツが悪そうな顔でパエニアがぼやく。
「あんま言ってくれるな。ただでさえ記憶が改変されて国も混乱している最中のことだったんだ。それに、ロベリアの率いるメンツはレッドアイズの中枢を担う集団。その気になりゃ|魔導機兵《オートマタ》もちゃちゃっと造れるし、国の何処が弱いのかも全部知り尽くしている。まとめて反旗を翻した時点で対処しようがなかったというかな」
 そこまで言われるとどうしてそんな連中の脱獄が許されてしまったのか、ますます疑問が深まるばかりだ。それこそ厳重に幽閉すべきはずだろう。
 話も盛り上がりつつあったが、列車は次第に減速し始め、気付いたころには城の内部へと入り込んでいった。トンネルを潜るように辺りは薄暗くなり、狭い通路を列車がゆっくりと走っていく。
 ややもすれば、広い空間へと出て、列車の終点へと辿り着く。
 軍事国家レッドアイズの名に相応しい、まるで武器庫のような物々しい雰囲気をまとった専用の駅舎だ。
 何本にも分岐した線路の先は、車庫になっているらしく、今まで乗っていた車両とは異なる武装したような列車がずらりと並んで停まっていた。
 おそらく有事の際にはここに兵隊が集い、出動していくのだろう。今は何処と戦争するわけでもないため、王族の親衛隊たちが赤絨毯を敷いて待っていた。
 列車の扉が開き、リンドーを先頭にしてコリウスが続く。
「「「コリウス王子、おかえりなさいませっ!!!! ご卒業、おめでとうございました!!!!!!」」」
 大音声で響き渡る声に、丁度その後ろにいたミモザがビックリして後ろ向きに倒れそうになる。その背中をパエニアが抑え、どうにか体勢を持ち直した。
 手荷物の大体は兵士たちが手厚く運び出し、城内へと持っていかれる。
 何を言うまでもなく、大勢の召使いたちも現れ、目にも止まらぬ早さで着替えや化粧までをサッと済まされていた。
 この丁重な扱われ方はまさに王族に相応しい。
 今更のようにパエニアも「本当に王子だったんだな」と再認識する。
 その傍ら、ミモザに至っては田舎者丸出しで、列車から降りた先にある赤絨毯に乗るのを躊躇っている。ここにくるまでの道中、散々はしゃいだり、慣れ親しんだ調子で会話していたはずなのに、急激な温度差に委縮した様子だ。
「色々と話も積もるに積もっちゃいましたけど、そういうのは全部後にして、今日はボクの城をご案内しますよ」
 パエニアやミモザと違い、何の態度も変わらないのはコリウスだけだ。
 ここが彼にとっての実家なのだからそれも当然なのだが、それまでは微塵も感じなかった大物感のオーラをまとっているように見えた。
「お、おじゃましまふ……」
 震える足で、ちょこんと赤絨毯に乗り、やっと言えたのはその言葉だった。
 ※ ※ ※
 ぞろぞろと兵隊に囲まれながらレッドアイズ城を案内されていき、ミモザやパエニアが率直に思ったことは、想像に反して意外にも質素だったという点だろうか。
 見栄っ張りな貴族とは違い、続く廊下に絵画や美術品が飾ってあるわけでもなく、赤絨毯が敷いていなければ収容所か監獄を彷彿とさせていたかもしれない。
 訓練施設の多さや広さが尋常ではなく、筋肉隆々の兵士たちと何度すれ違ったかも分からない。軍事国家というだけあって、一秒後にも戦争が始められそうなほど軍備が整っている様子が伺えた。
 見たことのない兵器や装備を開発している研究所などもあり、その技術力の高さは噂通り、数十年は先を見据えているかのようなレベル。
 そんな部屋に辿り着くと、ミモザも緊張が解けてきたのか、また興味津々に口を開く度、新開発された魔具についての質問ばかりが飛び出した。
「こんなの国の機密事項じゃねえのか? 部外者を入れていいのかよ」
「そんな。パエニアくんを部外者だと思ってないですよ。もちろんミモザさんも」
 にっこりとした笑顔で言うものだからそれ以上は言葉も返せない。
「武器や兵器のアピールも立派な国交になる。今はそれの予行演習みたいなもんさ。ま、ぶっちゃけ材料や設計図なしに見様見真似で造れるほど単純でもないしな」
 代わりに、リンドーの方が横から言葉を付け足す。
「ここの魔力転換はこっちに流した方が効率いいでふよ?」
「そんな馬鹿な。理論上、最高効率なはずなのに……って、うわぁっ!?」
 何やら向こうのテーブルの方で、ミモザが弄り倒した魔具らしきものに、飛び上がるほど驚く白衣の研究員の姿があった。
「これも暴発したら怖いれすし、このストッパーだと数百発も打つと脆くなると思いまふので、材質をこっちに換えたら制御に掛かる負担も――」
「す、すごいっ!? こんな方法があったなんて!?」
 最新鋭の兵器を改良していく様に、他の研究員たちもやいのやいのと集まりだす。
 自慢のものを紹介するつもりが、逆にミモザが紹介している始末だ。
「なんかあっちで見様見真似で造ってる奴がいんだが」
「……あの子は特別だな。さすがはうちの優等生だ」
 乾いた笑いでリンドーは誤魔化す。
 気付いたときには、研究員に取り囲まれたミモザが城内工場の奥の方まで案内されかけてしまい、それには思わずリンドーも他の兵士とともに引き留めに走った。
 心の底から落胆するミモザをよそに、パエニアは冷や汗かきながらも苦笑した。