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SCENE158 もうめちゃくちゃだよう

ー/ー



 僕の目の前には、衣織お姉さんが連れてきた女の子が座り込んでいる。なんともいえない恥ずかしい格好をしているけれど、これでもラティナさんの友人らしい。
 衣織お姉さんが慎重に鎖骨の間にあるくぼみに宝石をはめ込んでいる。

「……えっと、あたくし……」

 すごい、目を覚ましたよ。

「アルカナ様!」

「ら、ラティナ様?! ということは、あたくしは無事にダンジョンの呪縛から解放されましたのね」

 ラティナさんが抱きつくと、女性はものすごく驚いているようだった。それにしても、ラティナさんの体でそんな風に勢いよくぶつかっては、宝石に傷がつかないかな。僕はそんな心配をしてしまった。

「やれやれ、まさかリッチモンド侯爵様のご令嬢まで巻き込まれておりますとは……。本当に今回は、若い方が多く巻き込まれておりますな」

「バトラー、このダンジョンというのは一体どういうことなの?」

 バトラーの反応を受けて、僕はつい尋ねてしまう。
 だけど、バトラーは首を横に振っていた。

「申し訳ございませんが、詳しく我から申し上げるわけにはいきませんな。ラティナ様であれ、アルカナ様であれ、プリンセスであってもです」

 バトラーはどうやらごまかしたいらしい。
 僕はそれを汲んで追及しようとはしないけれど、さすがに衣織お姉さんには通じなかった。

「バトラー。悪いが知っていることは吐いてもらうぞ。こっちの世界はこのダンジョンのせいで大きな被害を受けているんだ。一体このダンジョンというのはどういう意図で出現させられているんだよ。今回のアルカナのダンジョンだって、一体何人が死んだと思っているんだ」

「ええっ?!」

 ものすごい剣幕でバトラーに迫る衣織お姉さんの言葉に、僕たちは驚いてしまう。
 そのままの勢いでアルカナさんを見ると、アルカナさんは腕を強く握って顔を背けていた。

「アルカナ様、多くの人を殺したのですか?」

 ラティナさんも信じられない様子だった。
 だけど、アルカナさんは顔を背けたままではあるものの、ラティナさんの問い掛けにこくりと頷いていた。
 そういえば、樹海ダンジョンって言ってたもんね。あそこはダンジョンになる前から人が迷いやすい場所だったと聞いている。
 そもそもが迷路のようなものだったところがダンジョン化したんだ。アルカナさんが何もしなくても、それなりに人は死んでいただろう。とはいえ、ラティナさんはショックを隠し切れないようだった。

「仕方ありませんわ。あたくしが頑張らなければ、リッチモンド侯爵家の迷惑になるだけですもの。でも、あたくし自らは手を下しておりませんわ。縁の人たちはただ脅かしていただけですし、近付いてきて来た方々には申し訳はありませんでしたけれど、あたくしは他者の魂を食らうリッチという種族なのですから……」

 アルカナさんが本当に申し訳なさそうに話していると、衣織お姉さんは大きなため息をついていた。

「分かった分かった。ダンジョンマスターっていうのは面倒な立場だもんな。一応ダンジョンのシステムは聞いているから、事情は察せれる」

 衣織お姉さんは前髪をかき上げながら、少し不満そうに話している。
 やはり、多くの探検者が亡くなっているのは不本意のようだ。

「でも、あたくし、ダンジョンの構造には自信があったのですけれど、どうしてあたくしのところまで到達できましたの」

 ダンジョンを攻略されてしまったことに、アルカナさんはショックみたいだ。衣織お姉さんに尋ねている。

「ああ、これのおかげさ」

「ラミア族のうろこ……。はっ!」

 衣織お姉さんが取り出したうろこを見て、アルカナさんは僕の方へと視線を向けてくる。

「わわっ、ぼ、僕?!」

 あまりにも急だったから、僕はつい慌てふためいてしまう。

「なるほど、この方のうろこでしたのね。そのうろこで、あたくしの妨害がかき消されたというわけですのね。ああ、ラティナ様とお知り合いでなければ襲い掛かりましたのに!」

「やめておけ。そうしたら、その前に私がお前の首をはねる」

「ひっ! じょ、冗談ですわよ……。アンデッド族ですけれど、命は惜しいですわ……」

 うわぁ、衣織お姉さんってば本気だよ。
 衣織お姉さんの持っている太刀が、アルカナさんの首筋に当てられている。ちょっとでも力を入れたら、惨劇の場と化しそうな勢いだよ。これは止めないとやばい。

「衣織お姉さん、やめてくれ。僕のダンジョンで死人を出さないでよ」

「ああ、悪い。だが、瞬を襲うという発言は見過ごせないな」

「分かりました。分かりましたわよ。しませんから、許して下さいませ!」

 アルカナさんは泣き出してしまった。
 幼いとはいってもアンデッドを泣かせるなんて、衣織お姉さんってばさすが鬼百合って言われるだけあるなぁ……。
 ほら、後ろじゃ衣織お姉さんの仲間が呆れちゃってるじゃないか。
 おかげで、ボス部屋の中の状況が収拾つかなくなったじゃないか。僕もどうしたらいいのかまったく分からないや。

「やれやれ、話題が逸れて助かりましたぞ」

 バトラーがぼそっとつぶやいた言葉を、僕はしっかりと拾っていた。けれど、この状況で衣織お姉さんたちに言うのはやめた方がいい気がした。

「バトラー、とりあえず何か飲み物を持ってきて」

「承知いたしました、プリンセス」

 ひとまず、みんなを落ち着かせることにしよう。そう思った僕は、バトラーに飲み物の用意を頼んだよ。
 ただ、ボス部屋の中にはアルカナさんの泣き声がしばらく響き続けていた。
 こんな状況で大丈夫なのかなぁ……。


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次のエピソードへ進む SCENE159 安心と心配


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 僕の目の前には、衣織お姉さんが連れてきた女の子が座り込んでいる。なんともいえない恥ずかしい格好をしているけれど、これでもラティナさんの友人らしい。
 衣織お姉さんが慎重に鎖骨の間にあるくぼみに宝石をはめ込んでいる。
「……えっと、あたくし……」
 すごい、目を覚ましたよ。
「アルカナ様!」
「ら、ラティナ様?! ということは、あたくしは無事にダンジョンの呪縛から解放されましたのね」
 ラティナさんが抱きつくと、女性はものすごく驚いているようだった。それにしても、ラティナさんの体でそんな風に勢いよくぶつかっては、宝石に傷がつかないかな。僕はそんな心配をしてしまった。
「やれやれ、まさかリッチモンド侯爵様のご令嬢まで巻き込まれておりますとは……。本当に今回は、若い方が多く巻き込まれておりますな」
「バトラー、このダンジョンというのは一体どういうことなの?」
 バトラーの反応を受けて、僕はつい尋ねてしまう。
 だけど、バトラーは首を横に振っていた。
「申し訳ございませんが、詳しく我から申し上げるわけにはいきませんな。ラティナ様であれ、アルカナ様であれ、プリンセスであってもです」
 バトラーはどうやらごまかしたいらしい。
 僕はそれを汲んで追及しようとはしないけれど、さすがに衣織お姉さんには通じなかった。
「バトラー。悪いが知っていることは吐いてもらうぞ。こっちの世界はこのダンジョンのせいで大きな被害を受けているんだ。一体このダンジョンというのはどういう意図で出現させられているんだよ。今回のアルカナのダンジョンだって、一体何人が死んだと思っているんだ」
「ええっ?!」
 ものすごい剣幕でバトラーに迫る衣織お姉さんの言葉に、僕たちは驚いてしまう。
 そのままの勢いでアルカナさんを見ると、アルカナさんは腕を強く握って顔を背けていた。
「アルカナ様、多くの人を殺したのですか?」
 ラティナさんも信じられない様子だった。
 だけど、アルカナさんは顔を背けたままではあるものの、ラティナさんの問い掛けにこくりと頷いていた。
 そういえば、樹海ダンジョンって言ってたもんね。あそこはダンジョンになる前から人が迷いやすい場所だったと聞いている。
 そもそもが迷路のようなものだったところがダンジョン化したんだ。アルカナさんが何もしなくても、それなりに人は死んでいただろう。とはいえ、ラティナさんはショックを隠し切れないようだった。
「仕方ありませんわ。あたくしが頑張らなければ、リッチモンド侯爵家の迷惑になるだけですもの。でも、あたくし自らは手を下しておりませんわ。縁の人たちはただ脅かしていただけですし、近付いてきて来た方々には申し訳はありませんでしたけれど、あたくしは他者の魂を食らうリッチという種族なのですから……」
 アルカナさんが本当に申し訳なさそうに話していると、衣織お姉さんは大きなため息をついていた。
「分かった分かった。ダンジョンマスターっていうのは面倒な立場だもんな。一応ダンジョンのシステムは聞いているから、事情は察せれる」
 衣織お姉さんは前髪をかき上げながら、少し不満そうに話している。
 やはり、多くの探検者が亡くなっているのは不本意のようだ。
「でも、あたくし、ダンジョンの構造には自信があったのですけれど、どうしてあたくしのところまで到達できましたの」
 ダンジョンを攻略されてしまったことに、アルカナさんはショックみたいだ。衣織お姉さんに尋ねている。
「ああ、これのおかげさ」
「ラミア族のうろこ……。はっ!」
 衣織お姉さんが取り出したうろこを見て、アルカナさんは僕の方へと視線を向けてくる。
「わわっ、ぼ、僕?!」
 あまりにも急だったから、僕はつい慌てふためいてしまう。
「なるほど、この方のうろこでしたのね。そのうろこで、あたくしの妨害がかき消されたというわけですのね。ああ、ラティナ様とお知り合いでなければ襲い掛かりましたのに!」
「やめておけ。そうしたら、その前に私がお前の首をはねる」
「ひっ! じょ、冗談ですわよ……。アンデッド族ですけれど、命は惜しいですわ……」
 うわぁ、衣織お姉さんってば本気だよ。
 衣織お姉さんの持っている太刀が、アルカナさんの首筋に当てられている。ちょっとでも力を入れたら、惨劇の場と化しそうな勢いだよ。これは止めないとやばい。
「衣織お姉さん、やめてくれ。僕のダンジョンで死人を出さないでよ」
「ああ、悪い。だが、瞬を襲うという発言は見過ごせないな」
「分かりました。分かりましたわよ。しませんから、許して下さいませ!」
 アルカナさんは泣き出してしまった。
 幼いとはいってもアンデッドを泣かせるなんて、衣織お姉さんってばさすが鬼百合って言われるだけあるなぁ……。
 ほら、後ろじゃ衣織お姉さんの仲間が呆れちゃってるじゃないか。
 おかげで、ボス部屋の中の状況が収拾つかなくなったじゃないか。僕もどうしたらいいのかまったく分からないや。
「やれやれ、話題が逸れて助かりましたぞ」
 バトラーがぼそっとつぶやいた言葉を、僕はしっかりと拾っていた。けれど、この状況で衣織お姉さんたちに言うのはやめた方がいい気がした。
「バトラー、とりあえず何か飲み物を持ってきて」
「承知いたしました、プリンセス」
 ひとまず、みんなを落ち着かせることにしよう。そう思った僕は、バトラーに飲み物の用意を頼んだよ。
 ただ、ボス部屋の中にはアルカナさんの泣き声がしばらく響き続けていた。
 こんな状況で大丈夫なのかなぁ……。