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ヴァイの小話

ー/ー



 ——カランコロン



 エリシアとヴァイは、いつものように喫茶店で駄弁っていた。



「——もう、うちの新人が……私の椅子でずっと飯食っててマジムカつきましたの。」



「ハハッ! もうそいつが家の主人でいいダロォ?」



「なに言ってますの! 全く!」



 ——ガチャァ……



 ヴァイがコーヒーのカップを机に置いた拍子に、腕につけていたブレスレットがジャラリと音を立てる。

 エリシアがチラリとそれを見て、顔をしかめた。



「てかなんですの!? その悪趣味な……なんか……腕のやつ!」

「あん? これかぁ?」



「そうですわよ。 いちいちガチャガチャうるせえですわね! なにそれ? ライオン?」

「ちげえよ、パンサーだろ!」



 ヴァイはニヤッと笑い、自慢げに腕を突き出す。



 そこには、二匹のパンサーが輪っかを咥えているようなデザインのシルバー製のブレスレットが巻かれていた。



「いいダロォ!? しかもロングネック仕様ダゼェ!」

「……。」



 エリシアは、ジト目でそれを見つめる。



 ヴァイが徐に話し始めた。



「まあ、本当はバイクチェーンブレス……のほうがいいんだがなぁ。」

「……。」



 エリシアは無言でヴァイの手元を見つめる。



「俺のツレがヨォ、これつけてるからよぉ……」



「『ペアルックだなおい!』って()()()()のにつけてんだよ、ゲヘヘヘヘ〜!」



「きめえですわね。」

「いいだろぉ!?」



 ヴァイは腕をひらひらと振りながら、さらに続ける。



「いや、そいつがよ、元々これつけてたんだけどヨォ……無くしたんだよ。」

「……」



「で、俺が買ってやったわけ。」

「ふーん」



「だから俺もわざと同じやつ付けてんだよ……。」

「……。」



 エリシアはじっとヴァイを見つめる。



「……どんな()()()()方ですの……。」



 ヴァイはニヤッと笑いながら、ブレスレットを指で弾いた。



「意外と気に入ってんだけどなぁ……ゲヘヘ。」

「やっぱりきめえですわね。」



 喫茶店のマスターは、そっと二人のテーブルに「サービスのミルク」を置いていった——。



 ヴァイはブレスレットを軽く指で弾きながら、ぼそりと呟いた。



「ま、俺もあいつも『同じ仕事』してっからよ。」

「……。」



 エリシアは黙ってヴァイを見つめる。



「いつ死ぬかわからねえしなぁ……。」

「……。」



「バラバラにされてもヨォ……」



 ヴァイはブレスレットをゆっくり回しながら続ける。



「『これ』があれば、そいつだってわかんだろ?」



 エリシアの眉がわずかに動く。



「……ドッグタグ的な?」

「ま、そんな感じだなぁ。」



 ヴァイはニヤリと笑いながら、カップのコーヒーをひと口飲んだ。

 エリシアはふっと息をついて、自分のカップを手に取る。



「……やっぱりきめえですわね。」

「ゲヘヘヘ! だろぉ?」



 喫茶店の窓の外には、午後の陽が静かに差し込んでいた。



 ——それからしばらく月日が経ったある日。



 ——カランコロン。



 喫茶店のドアが開く音が響く。

 エリシアは一人で席に座り、スマホを取り出した。



 ——ピロリン。



 送信:もう着きましたわよ〜

 返信:おお、駅前だからもう少しで着くわ



 ——カランコロン。



 少しして、ヴァイが無言でエリシアの前に座った。



「……あれ?」



 エリシアがふと、チラッとヴァイの手元を見る。



「なんだぁ?」



 なぜか不機嫌そうに返事をするヴァイ。



「そういえば……ライオン? ブルドッグ? のやつ付けてませんわね。」



 ヴァイがふと腕をさすった。

「あぁ……。」



 エリシアは、以前の会話を思い出す。





 ——バラバラにされてもヨォ、「これ」があればそいつってわかんだろ?





「……。」

 静かな沈黙が落ちる。



 エリシアは無言でタバコに火をつけた。

 紫煙がゆるく立ち昇る。



「そういう世界で生きてるんでしたわね。」



 ヴァイが顔を上げた。

 ただエリシアのタバコの煙が、ゆっくりと座席の上を横切っていった——。





 「なに言ってんだお前?」





「え?」



 エリシアはキョトンとした表情で返した。



「いや、いつものやつ腕に巻いてないから……ツレ? 死んだんじゃ——」



「死んでねえよ。」



 ヴァイは半笑いで答えた。



「えぇ!? ()()()()のにペアルックとか言ってませんでしたの!? いや、死んだから外したのかなって。」



「ちげえよ!」



 ヴァイは半笑いとも苦笑いともつかない、微妙な顔をした。



「いや、この間よ……あいつに会ったんだよ。 そしたら着けてねえからさ、『お前、あれは?』って聞いたらよ……」



「……。」





「金回りが悪くなって売った、とか言ってんの!」





「え……。」



「まじふざけんなって話だよなぁ! せっかく人が買ってやったのにヨォ……。」



 ヴァイは肩をすくめながら、呆れたようにコーヒーをすする。



「もうやめだぜ! ったくヨォ〜! からかって遊べるかなと思ったのによぉ〜台無しだぜ!」



「……えええええぇ。」



 エリシアは思わず困惑の声を漏らした。



 ——なんだったんだ、この重くなりそうで全然重くならなかった話は。




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 ——カランコロン
 エリシアとヴァイは、いつものように喫茶店で駄弁っていた。
「——もう、うちの新人が……私の椅子でずっと飯食っててマジムカつきましたの。」
「ハハッ! もうそいつが家の主人でいいダロォ?」
「なに言ってますの! 全く!」
 ——ガチャァ……
 ヴァイがコーヒーのカップを机に置いた拍子に、腕につけていたブレスレットがジャラリと音を立てる。
 エリシアがチラリとそれを見て、顔をしかめた。
「てかなんですの!? その悪趣味な……なんか……腕のやつ!」
「あん? これかぁ?」
「そうですわよ。 いちいちガチャガチャうるせえですわね! なにそれ? ライオン?」
「ちげえよ、パンサーだろ!」
 ヴァイはニヤッと笑い、自慢げに腕を突き出す。
 そこには、二匹のパンサーが輪っかを咥えているようなデザインのシルバー製のブレスレットが巻かれていた。
「いいダロォ!? しかもロングネック仕様ダゼェ!」
「……。」
 エリシアは、ジト目でそれを見つめる。
 ヴァイが徐に話し始めた。
「まあ、本当はバイクチェーンブレス……のほうがいいんだがなぁ。」
「……。」
 エリシアは無言でヴァイの手元を見つめる。
「俺のツレがヨォ、これつけてるからよぉ……」
「『ペアルックだなおい!』って|か《・》|ら《・》|か《・》|う《・》のにつけてんだよ、ゲヘヘヘヘ〜!」
「きめえですわね。」
「いいだろぉ!?」
 ヴァイは腕をひらひらと振りながら、さらに続ける。
「いや、そいつがよ、元々これつけてたんだけどヨォ……無くしたんだよ。」
「……」
「で、俺が買ってやったわけ。」
「ふーん」
「だから俺もわざと同じやつ付けてんだよ……。」
「……。」
 エリシアはじっとヴァイを見つめる。
「……どんな|か《・》|ら《・》|か《・》|い《・》方ですの……。」
 ヴァイはニヤッと笑いながら、ブレスレットを指で弾いた。
「意外と気に入ってんだけどなぁ……ゲヘヘ。」
「やっぱりきめえですわね。」
 喫茶店のマスターは、そっと二人のテーブルに「サービスのミルク」を置いていった——。
 ヴァイはブレスレットを軽く指で弾きながら、ぼそりと呟いた。
「ま、俺もあいつも『同じ仕事』してっからよ。」
「……。」
 エリシアは黙ってヴァイを見つめる。
「いつ死ぬかわからねえしなぁ……。」
「……。」
「バラバラにされてもヨォ……」
 ヴァイはブレスレットをゆっくり回しながら続ける。
「『これ』があれば、そいつだってわかんだろ?」
 エリシアの眉がわずかに動く。
「……ドッグタグ的な?」
「ま、そんな感じだなぁ。」
 ヴァイはニヤリと笑いながら、カップのコーヒーをひと口飲んだ。
 エリシアはふっと息をついて、自分のカップを手に取る。
「……やっぱりきめえですわね。」
「ゲヘヘヘ! だろぉ?」
 喫茶店の窓の外には、午後の陽が静かに差し込んでいた。
 ——それからしばらく月日が経ったある日。
 ——カランコロン。
 喫茶店のドアが開く音が響く。
 エリシアは一人で席に座り、スマホを取り出した。
 ——ピロリン。
 送信:もう着きましたわよ〜
 返信:おお、駅前だからもう少しで着くわ
 ——カランコロン。
 少しして、ヴァイが無言でエリシアの前に座った。
「……あれ?」
 エリシアがふと、チラッとヴァイの手元を見る。
「なんだぁ?」
 なぜか不機嫌そうに返事をするヴァイ。
「そういえば……ライオン? ブルドッグ? のやつ付けてませんわね。」
 ヴァイがふと腕をさすった。
「あぁ……。」
 エリシアは、以前の会話を思い出す。
 ——バラバラにされてもヨォ、「これ」があればそいつってわかんだろ?
「……。」
 静かな沈黙が落ちる。
 エリシアは無言でタバコに火をつけた。
 紫煙がゆるく立ち昇る。
「そういう世界で生きてるんでしたわね。」
 ヴァイが顔を上げた。
 ただエリシアのタバコの煙が、ゆっくりと座席の上を横切っていった——。
 「なに言ってんだお前?」
「え?」
 エリシアはキョトンとした表情で返した。
「いや、いつものやつ腕に巻いてないから……ツレ? 死んだんじゃ——」
「死んでねえよ。」
 ヴァイは半笑いで答えた。
「えぇ!? |か《・》|ら《・》|か《・》|う《・》のにペアルックとか言ってませんでしたの!? いや、死んだから外したのかなって。」
「ちげえよ!」
 ヴァイは半笑いとも苦笑いともつかない、微妙な顔をした。
「いや、この間よ……あいつに会ったんだよ。 そしたら着けてねえからさ、『お前、あれは?』って聞いたらよ……」
「……。」
「金回りが悪くなって売った、とか言ってんの!」
「え……。」
「まじふざけんなって話だよなぁ! せっかく人が買ってやったのにヨォ……。」
 ヴァイは肩をすくめながら、呆れたようにコーヒーをすする。
「もうやめだぜ! ったくヨォ〜! からかって遊べるかなと思ったのによぉ〜台無しだぜ!」
「……えええええぇ。」
 エリシアは思わず困惑の声を漏らした。
 ——なんだったんだ、この重くなりそうで全然重くならなかった話は。