ep136 かの男

ー/ー



「で、なんでいきなりこうなるんだ?」

「あたしに聞くな」

「しかもこれから朝になるんだぞ?」

「だからあたしに聞くな」

 俺は今、明け方の酒場にいる。もう閉まっていた店を、かの男が強引に開けさせたのだ。
 テーブルを挟んで向かいにどっかと座る男は、さも当たり前のようにグラスに口をつけている。

「オラどうした? テメーも飲め」

 飲めるわけがない。それは時刻の問題じゃない。状況の問題だ。
 
「……早く話を済ませてシヒロを解放してもらう。こっちはわざわざあんたのことを待っていたんだ」

 俺は酒のグラスに触れもせずに言った。

「いいから飲めっつったろ? 大の男が焦ってんじゃねえ」

 男はこちらを見もせずに鷹揚に酒を飲み続ける。

「……」

 やにわに俺が無言で立ち上がろうとすると、隣のアイに制止された。

「クロー。待て」

「なんでだ?」

「まずはボスと話せと言っただろう」

「俺は話そうとしているだろ。なのにそっちのボスが…」

「おいおいオレは朝帰りで疲れてんだ。ゆっくり飲ませろよ。いいからテメーらも飲みやがれ」

 男は拍子抜けするぐらいの気楽な振る舞いだった。出会い方が違えば悪くない印象を持ったかもしれない、と思ってしまうぐらいだ。ただそれでも底知れぬ迫力はぬぐえない。
 
「早く飲めよ。魔剣使い」

 男の方針と態度はこの世の理よりも変わりそうになかった。仕方なく俺はグラスを口に運んだ。そのままゴクゴクと一気に飲み干してやった。

「これでいいか。さっさと話とやらをするぞ」

 空になったグラスをどんとテーブルに置いた。

「なかなかイイ飲みっぷりじゃねえか」

 男は面白そうにニヤける。

「これぐらいはたいしたことない」

 強がりじゃない。事実だ。俺はこの世界にやってきて半年間の淫蕩生活を経て、かなりの量を飲めるようになっていた。くわえて〔魔導剣〕を手にし〔魔導剣士〕となってからは、さらに酒が強くなっていた。
 ひょっとしたら何かしらの耐性を備えたのかもしれない。今ではおそらく、かなりの酒豪と呼べるレベルにまで達していると思われる。

「いいねぇ。んじゃオレも」

 男もグラスの酒をググッと一気に飲み干した。この男も酒豪なのか?

「オイ! オレとそいつの酒を十杯ずつ追加で持ってこい!」

 男が店主に向かって注文する。なにか面白がっているように見える。

「ちょっと待て。話をするんじゃないのか」

 俺はすかさず言った。当たり前だ。そのためにここに座っているんだから。

「話は飲んでからだ」
 男はヤンチャな眼を浮かべる。
「男同士、そういうもんだろ?」

「なら、飲めばいいってことだな?」

「そういうことだ」

「ここはどいつもこいつも酒飲みばっかなのは、ボスがそうだからなのか」

「ああ? うちの連中と飲んだのか?」

「まあな」

「ハッハッハ!」
 急に男が笑い出した。
「おもしれーなテメー!」

「は?」

「敵地に乗り込んできてそこの連中と飲んだってこったろ? ハッハッハ!」

「メインは俺というよりツレだがな」

「ツレも中々おろしれーじゃねえか」

「たぶんあんたの知り合いもいるぞ」

「ああ? 誰だ?」

「カレンだ。魔法剣士カレン」

「あのカレン嬢が来てんのか?」

 男はアイの顔を見た。彼女はそうだと頷いた。

「ますますおろしれーなテメーは。よくあのカタイお嬢を口説いたもんだ」

「別に彼女とは仲間ってわけじゃない。ただ色んな事情が重なってそうなっただけだ」

 やがて大量の酒がどかんと運ばれてくると、俺と男は競うように飲み始めた。
 どんどん空になるグラス。じゃんじゃん運ばれてくる酒。
 店の者たちは呆気にとられたように俺たちを眺めていた。俺も男もお構いなしにガンガン飲んでいく。

「キラースのヤローまで来てやがんのか!」

「俺もカレンもヤツをぶちのめしたくてたまらないけどな!」

「アイ! お前も飲め!」

「あたしはいい」

 アイはひとり冷静だった。というより呆れているのかもしれない。

「魔剣使い! いや、クロー! つくづく予想通りテメーはおろしれえ!」

「狂戦士、いや、ジェイズ。正直あんたのことはよくわからない!」

「ハッハッハァ!」

 そうして数時間後。
 俺たちは二人だけで、店にあった残りの酒をすべて飲み干してしまった。
 いったい俺はこんな時に敵と何をやっているんだ? 馬鹿なのか?

「酒がなくなっちまったんならしょーがねえ。おひらきだ」

 ジェイズが仕方なさそうに試合終了を告げた。キチンとした話はまだ何もできていない。

「結局ハナシってのはなんだったんだ」

「わからねえ」

「はぁ?」

「ふぁ〜、さすがにねみいな。おいオヤジ! 上で寝かせろ!」

 ジェイズが店主に向かって声を張り上げた。俺もだが、さすがに彼も酔っていた。

「しかしボス、あなたにはもっと良い寝床があるでしょうに」

 店主のオヤジは当惑する。

「戻んのがめんどくせえ!」

 ジェイズはダルそうに立ち上がると、問答無用にズカズカと店の奥に進んでいった。
 俺はヤツの背中をボンヤリと目で追っていたが、無意識の内にぐでっとテーブルに覆いかぶさった。そのまま気を失うように眠りに落ちてしまった。


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「で、なんでいきなりこうなるんだ?」
「あたしに聞くな」
「しかもこれから朝になるんだぞ?」
「だからあたしに聞くな」
 俺は今、明け方の酒場にいる。もう閉まっていた店を、かの男が強引に開けさせたのだ。
 テーブルを挟んで向かいにどっかと座る男は、さも当たり前のようにグラスに口をつけている。
「オラどうした? テメーも飲め」
 飲めるわけがない。それは時刻の問題じゃない。状況の問題だ。
「……早く話を済ませてシヒロを解放してもらう。こっちはわざわざあんたのことを待っていたんだ」
 俺は酒のグラスに触れもせずに言った。
「いいから飲めっつったろ? 大の男が焦ってんじゃねえ」
 男はこちらを見もせずに鷹揚に酒を飲み続ける。
「……」
 やにわに俺が無言で立ち上がろうとすると、隣のアイに制止された。
「クロー。待て」
「なんでだ?」
「まずはボスと話せと言っただろう」
「俺は話そうとしているだろ。なのにそっちのボスが…」
「おいおいオレは朝帰りで疲れてんだ。ゆっくり飲ませろよ。いいからテメーらも飲みやがれ」
 男は拍子抜けするぐらいの気楽な振る舞いだった。出会い方が違えば悪くない印象を持ったかもしれない、と思ってしまうぐらいだ。ただそれでも底知れぬ迫力はぬぐえない。
「早く飲めよ。魔剣使い」
 男の方針と態度はこの世の理よりも変わりそうになかった。仕方なく俺はグラスを口に運んだ。そのままゴクゴクと一気に飲み干してやった。
「これでいいか。さっさと話とやらをするぞ」
 空になったグラスをどんとテーブルに置いた。
「なかなかイイ飲みっぷりじゃねえか」
 男は面白そうにニヤける。
「これぐらいはたいしたことない」
 強がりじゃない。事実だ。俺はこの世界にやってきて半年間の淫蕩生活を経て、かなりの量を飲めるようになっていた。くわえて〔魔導剣〕を手にし〔魔導剣士〕となってからは、さらに酒が強くなっていた。
 ひょっとしたら何かしらの耐性を備えたのかもしれない。今ではおそらく、かなりの酒豪と呼べるレベルにまで達していると思われる。
「いいねぇ。んじゃオレも」
 男もグラスの酒をググッと一気に飲み干した。この男も酒豪なのか?
「オイ! オレとそいつの酒を十杯ずつ追加で持ってこい!」
 男が店主に向かって注文する。なにか面白がっているように見える。
「ちょっと待て。話をするんじゃないのか」
 俺はすかさず言った。当たり前だ。そのためにここに座っているんだから。
「話は飲んでからだ」
 男はヤンチャな眼を浮かべる。
「男同士、そういうもんだろ?」
「なら、飲めばいいってことだな?」
「そういうことだ」
「ここはどいつもこいつも酒飲みばっかなのは、ボスがそうだからなのか」
「ああ? うちの連中と飲んだのか?」
「まあな」
「ハッハッハ!」
 急に男が笑い出した。
「おもしれーなテメー!」
「は?」
「敵地に乗り込んできてそこの連中と飲んだってこったろ? ハッハッハ!」
「メインは俺というよりツレだがな」
「ツレも中々おろしれーじゃねえか」
「たぶんあんたの知り合いもいるぞ」
「ああ? 誰だ?」
「カレンだ。魔法剣士カレン」
「あのカレン嬢が来てんのか?」
 男はアイの顔を見た。彼女はそうだと頷いた。
「ますますおろしれーなテメーは。よくあのカタイお嬢を口説いたもんだ」
「別に彼女とは仲間ってわけじゃない。ただ色んな事情が重なってそうなっただけだ」
 やがて大量の酒がどかんと運ばれてくると、俺と男は競うように飲み始めた。
 どんどん空になるグラス。じゃんじゃん運ばれてくる酒。
 店の者たちは呆気にとられたように俺たちを眺めていた。俺も男もお構いなしにガンガン飲んでいく。
「キラースのヤローまで来てやがんのか!」
「俺もカレンもヤツをぶちのめしたくてたまらないけどな!」
「アイ! お前も飲め!」
「あたしはいい」
 アイはひとり冷静だった。というより呆れているのかもしれない。
「魔剣使い! いや、クロー! つくづく予想通りテメーはおろしれえ!」
「狂戦士、いや、ジェイズ。正直あんたのことはよくわからない!」
「ハッハッハァ!」
 そうして数時間後。
 俺たちは二人だけで、店にあった残りの酒をすべて飲み干してしまった。
 いったい俺はこんな時に敵と何をやっているんだ? 馬鹿なのか?
「酒がなくなっちまったんならしょーがねえ。おひらきだ」
 ジェイズが仕方なさそうに試合終了を告げた。キチンとした話はまだ何もできていない。
「結局ハナシってのはなんだったんだ」
「わからねえ」
「はぁ?」
「ふぁ〜、さすがにねみいな。おいオヤジ! 上で寝かせろ!」
 ジェイズが店主に向かって声を張り上げた。俺もだが、さすがに彼も酔っていた。
「しかしボス、あなたにはもっと良い寝床があるでしょうに」
 店主のオヤジは当惑する。
「戻んのがめんどくせえ!」
 ジェイズはダルそうに立ち上がると、問答無用にズカズカと店の奥に進んでいった。
 俺はヤツの背中をボンヤリと目で追っていたが、無意識の内にぐでっとテーブルに覆いかぶさった。そのまま気を失うように眠りに落ちてしまった。