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第29話 ドゥーム・ノア・リバース

ー/ー




「……ドゥーム……ノア────リバース ……っ!!」

 その言葉の直後、いつもなら命中しているはずの麻酔弾が、今回初めて跳弾した。

「……ドゥーム・ノア・リバース……」

 今起きた出来事に冷静さを保つため、少女の放った言葉を繰り返すヴァレンタイン。

「……何を言っている?」

 頭を働かせて思考する彼女だったが、麻酔弾が跳弾した理由も少女の意図も分からず、そう聞き返した。

「………………」
 
 しかし、もはや言うことはないと言わんばかりの様子で、少女はだんまりを続ける。
 彼女たちを見つめたまま、時間だけが流れていく。
 時は常に一定の間隔で進み、1秒、また1秒と刻まれる。
「……………………」
「……………………」
 その沈黙の時間が普段より異常に長く感じたヴァレンタイン。
 遂に彼女は痺れを切らし、少女の呟いた言葉が何であったのか。
 再度尋ねようと口を開いたところで、後部ハッチの両端に取り付けられる複数の爆弾に目が行った。
 ────次の瞬間。

 ドゴオオオオオーーンッ!!

 仕掛けられた爆弾が一斉に起爆され、機内に爆発が生じ煙が舞った。
 後部ハッチが吹き飛んだことで、瞬く間に冷たい空気がなだれ込む。

「逃がすと思うか……?」
 
 寒さのあまり自身の左腕で口を覆う。
 そして鋭利な眼光で言葉を投げかけた途端──視界から少女は消失した。

「────ッ!?」

 脳が許容する理解処理スピードを越え、一瞬だけヴァレンタインの反応が遅れる。
 内心慌てて辺りを見渡すと、まだ深く眠っているクルクスの近くに少女はいた。

(今、何が起きた……?)

 そんなことを考えている間にも、少女はクルクスを担ぎ出そうとしていた。

 ガンッ!

「──好き勝手に暴れるのは構わない。……だが、これ以上は謹んでもらおうか。失った兵の穴埋めも、案外楽ではないんでね。次は当てる……っ!! こちらも出来れば手荒な真似はしたくない」
 少女の近くの床に麻酔弾ではなく、鉛玉を発砲し警告する。
 ハンドガンの銃口を向け、こちらに引き返すよう促す。

 ──それが賢明な判断だということを。

 声が届いたのか、首をヴァレンタインの方へとねじり、少女は一瞥する────

「トリガーハピィでドクペ脳なクセあるお子様には、ここでいい知らせと悪い知らせだ。悪い知らせは、最初からいい知らせなんてありはしないってこと。いい知らせは、その頭でもよーく理解できるよう、今から同じ言葉を繰り返すことだ。……時間(チャンス)は与えた。もう一度言うぞ、耳の穴かっぽじって聞きなっ──次は当てる……ッ!!」
 知能レベル5歳児の頭では彼女の話す内容が到底理解に及ばないこと、銃弾の効果があまり得られないことも本人は承知していた。
 どれも精々気を逸らす程度だがそれで十分。
 相手が隙を見せるまで、辛抱強く確保の機会を伺う……そのつもりだった。

「────ッ!?!?」

 溢れ出る怒気とも取れる殺気の圧を敏感に察知し、ヴァレンタインたちは一歩後退る。
 それは首筋を冷たい汗が伝う程度には、凄まじいものであり、瞬時に場の空気を一変させるには申し分ないものであった。
 少女は額に青筋を浮かばせながらも、失言を咎めるようなこともなく、静かに激怒し彼女たちの出方を伺っている。

「……ッ!! よせっ! やめろっ!」

 少女の取った素早い行動──クルクスを背負うと警告を無視し、機体の外へ早々と飛び降りて行った。
「チッ……! 身を投げ出して、無理にでも止めるべきだったか──」
 重力に従い落下する彼女たちにヴァレンタインは舌打ちする。

「ジーザス……ッ」

 彼女は頭を抱え、ポツリとそう呟いた。
 やがて2人は雨雲の中に消え、姿が見えなくなった。




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「……ドゥーム……ノア────リバース ……っ!!」
 その言葉の直後、いつもなら命中しているはずの麻酔弾が、今回初めて跳弾した。
「……ドゥーム・ノア・リバース……」
 今起きた出来事に冷静さを保つため、少女の放った言葉を繰り返すヴァレンタイン。
「……何を言っている?」
 頭を働かせて思考する彼女だったが、麻酔弾が跳弾した理由も少女の意図も分からず、そう聞き返した。
「………………」
 しかし、もはや言うことはないと言わんばかりの様子で、少女はだんまりを続ける。
 彼女たちを見つめたまま、時間だけが流れていく。
 時は常に一定の間隔で進み、1秒、また1秒と刻まれる。
「……………………」
「……………………」
 その沈黙の時間が普段より異常に長く感じたヴァレンタイン。
 遂に彼女は痺れを切らし、少女の呟いた言葉が何であったのか。
 再度尋ねようと口を開いたところで、後部ハッチの両端に取り付けられる複数の爆弾に目が行った。
 ────次の瞬間。
 ドゴオオオオオーーンッ!!
 仕掛けられた爆弾が一斉に起爆され、機内に爆発が生じ煙が舞った。
 後部ハッチが吹き飛んだことで、瞬く間に冷たい空気がなだれ込む。
「逃がすと思うか……?」
 寒さのあまり自身の左腕で口を覆う。
 そして鋭利な眼光で言葉を投げかけた途端──視界から少女は消失した。
「────ッ!?」
 脳が許容する理解処理スピードを越え、一瞬だけヴァレンタインの反応が遅れる。
 内心慌てて辺りを見渡すと、まだ深く眠っているクルクスの近くに少女はいた。
(今、何が起きた……?)
 そんなことを考えている間にも、少女はクルクスを担ぎ出そうとしていた。
 ガンッ!
「──好き勝手に暴れるのは構わない。……だが、これ以上は謹んでもらおうか。失った兵の穴埋めも、案外楽ではないんでね。次は当てる……っ!! こちらも出来れば手荒な真似はしたくない」
 少女の近くの床に麻酔弾ではなく、鉛玉を発砲し警告する。
 ハンドガンの銃口を向け、こちらに引き返すよう促す。
 ──それが賢明な判断だということを。
 声が届いたのか、首をヴァレンタインの方へとねじり、少女は一瞥する────
「トリガーハピィでドクペ脳なクセあるお子様には、ここでいい知らせと悪い知らせだ。悪い知らせは、最初からいい知らせなんてありはしないってこと。いい知らせは、その頭でもよーく理解できるよう、今から同じ言葉を繰り返すことだ。……時間《チャンス》は与えた。もう一度言うぞ、耳の穴かっぽじって聞きなっ──次は当てる……ッ!!」
 知能レベル5歳児の頭では彼女の話す内容が到底理解に及ばないこと、銃弾の効果があまり得られないことも本人は承知していた。
 どれも精々気を逸らす程度だがそれで十分。
 相手が隙を見せるまで、辛抱強く確保の機会を伺う……そのつもりだった。
「────ッ!?!?」
 溢れ出る怒気とも取れる殺気の圧を敏感に察知し、ヴァレンタインたちは一歩後退る。
 それは首筋を冷たい汗が伝う程度には、凄まじいものであり、瞬時に場の空気を一変させるには申し分ないものであった。
 少女は額に青筋を浮かばせながらも、失言を咎めるようなこともなく、静かに激怒し彼女たちの出方を伺っている。
「……ッ!! よせっ! やめろっ!」
 少女の取った素早い行動──クルクスを背負うと警告を無視し、機体の外へ早々と飛び降りて行った。
「チッ……! 身を投げ出して、無理にでも止めるべきだったか──」
 重力に従い落下する彼女たちにヴァレンタインは舌打ちする。
「ジーザス……ッ」
 彼女は頭を抱え、ポツリとそう呟いた。
 やがて2人は雨雲の中に消え、姿が見えなくなった。