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第30話 赦されざる記憶

ー/ー



 
 あれは丁度、今から4年前の出来事──。

 あの日のことは、今でもよく覚えてる。
 あたしが、あの子の両親を殺した日。
 それは同時に、あの子の狂うきっかけを──あたしが与えた日。
 まるで折り返しのある刃のように。
 今日(こんにち)に至るまで、胸の奥へ深々と突き刺さっている。
 
『組織から持ち出した例の──あれはどこへ隠した?』

 ウェーブがかった金髪を揺らし、組織特注の幹部専用コートに身を包んだ1人の女性が現れると、開口一番にある人物に向けてそう言葉が放たれる。
 彼女は組織の命を受けたあたしの同行者──ミス・ヴァレンタインだ。
 今あたし達は草原地帯にひっそりと佇む、小さな家屋(かおく)へと足を踏み入れていた。
 幹部である彼女が、自らの足で任務に赴くことは異例中の異例だったため、鮮明に脳に記憶している。
 それほど重要な任務だったからなのか、己の手で始末したかったのか──。
 そんな思考を巡らしていると、あたしが床に押し付け拘束する男の前でミス・ヴァレンタインは足を止め、丸型サングラスを取り彼女は前屈みになりながら言った。
『悪いことは言わない。ブツの在り処を教えさえすれば、元夫婦のよしみで死に方は選ばせてやる』
『妻は……っ! 妻はどうなる……?!』
 彼の横で意識を失って倒れる女性に彼女の目が行く。釣られるように、あたしもそちらに目を向ける。
『背後から気絶させた──心配は無用だ。お前を始末した後、鷹凪(たかな)椎立(しいたち)も迅速に処理する。ただし……こちらに協力を惜しまないのであれば、その限りではない』 
 すると男はふっと苦笑いを浮かべる。
『それは悪役が言うセリフだ、ヴァレンタイン。結果が見え透いているな』
『ならアーサー。お前はその悪役に殺される、脇役だな』
 ミスター・アーサーの言葉にミス・ヴァレンタインはそう言葉を返した。
『……脇役──ハハッ、間違いねぇ』
 この後に待ち受ける自身の行く末を悟り諦めたのか。
 反抗の意思を宿した瞳は消え失せ、あたしに対する抵抗力も弱まった。
『……変わったな、ヴァレンタイン。躊躇うことを忘れて、迷いがなくなった』
『──変わらなければ、大事な何かを失うことになる。現状維持こそが、己を破滅へと導く片道切符。それは身をもって痛感したことだ』
 あたしはミス・ヴァレンタインの表情を横目で盗み見る。
 その横顔はどこか……寂しげに見えた。
『俺から見れば変わったことで、お前の中にある「正義」が崩れたように感じるよ』
『そう……かもしれないな』
 彼女は穏やかな口調で肯定した。
『お前は、強いな。俺なんかよりも……遥かに』
『………………』
『ヴァレンタイン……「正義」とは何だ?』
『言葉遊びか……?』
 彼女の言葉を彼は即座に否定する。
『そうじゃない。純粋に俺が知りたいんだ。元夫の最期の頼みを……聞いて欲しい──』
『……「正義」、か。そうだな……』
 数秒考える仕草したかと思うと、ミス・ヴァレンタインはすぐに口を開きこう言った。

『──だ』

『……なるほど。俺の心配は杞憂だったようだな。これなら──安心して死ねる』
 ミス・ヴァレンタインの回答に満足したのか。
 ミスター・アーサーは、踏ん切りのついた表情を浮かべる。
『ヴァレンタイン……お前は俺を、脇役と言ったな。だが、それは少し違う。これだけは覚えていてくれ。死んだのは──ただの脇役じゃない。預かった最高の女(おまえ)の人生ほんの一欠片。その一瞬を輝かせた、1人の脇役(おとこ)だ──ッ!! アレは地下室にある持ってけっ!』
『ふっ、世辞上手の浮気者が……っ!』
 あまりの清々しさに、彼女は思わず笑みを溢していた。
『最期の一瞬くらい、さっぱりした(おとこ)でいたい。それと──あの子を頼んだぞっ』
 彼の顔に後悔の念は一切なかった。
『あぁっ……実に残念だったよ、アーサー。本当に……やれ』
『はっ──』
 命令に従い、あたしは苦しまないよう彼の首をへし折った。
『そっちもだ』
『……コピー』
 続いて横の女性も絶命させる。

『さて……仕上げだ』

 ミス・ヴァレンタインが懐から拳銃を取り出し、2体の死体に向けて発砲。
 その発砲音は家屋中に鋭く響く。
 頭に2発と胴体に7発。計9発の弾丸を──彼女は撃ち込んだ。
 死亡を確認後、2人は手慣れた動作で空中に小さな十字を左から右に描く。

『──行くぞ』

 彼女のその言葉にあたしも追従する。
『……イエッサー』
 そうしてあたし達は階段を使い、地下室へと降りて行った。




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次のエピソードへ進む 第31話 異物、地下室に眠る


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  あれは丁度、今から4年前の出来事──。
 あの日のことは、今でもよく覚えてる。
 あたしが、あの子の両親を殺した日。
 それは同時に、あの子の狂うきっかけを──あたしが与えた日。
 まるで折り返しのある刃のように。
 今日《こんにち》に至るまで、胸の奥へ深々と突き刺さっている。
『組織から持ち出した例の《《モノ》》──あれはどこへ隠した?』
 ウェーブがかった金髪を揺らし、組織特注の幹部専用コートに身を包んだ1人の女性が現れると、開口一番にある人物に向けてそう言葉が放たれる。
 彼女は組織の命を受けたあたしの同行者──ミス・ヴァレンタインだ。
 今あたし達は草原地帯にひっそりと佇む、小さな家屋《かおく》へと足を踏み入れていた。
 幹部である彼女が、自らの足で任務に赴くことは異例中の異例だったため、鮮明に脳に記憶している。
 それほど重要な任務だったからなのか、己の手で始末したかったのか──。
 そんな思考を巡らしていると、あたしが床に押し付け拘束する男の前でミス・ヴァレンタインは足を止め、丸型サングラスを取り彼女は前屈みになりながら言った。
『悪いことは言わない。ブツの在り処を教えさえすれば、元夫婦のよしみで死に方は選ばせてやる』
『妻は……っ! 妻はどうなる……?!』
 彼の横で意識を失って倒れる女性に彼女の目が行く。釣られるように、あたしもそちらに目を向ける。
『背後から気絶させた──心配は無用だ。お前を始末した後、鷹凪《たかな》椎立《しいたち》も迅速に処理する。ただし……こちらに協力を惜しまないのであれば、その限りではない』 
 すると男はふっと苦笑いを浮かべる。
『それは悪役が言うセリフだ、ヴァレンタイン。結果が見え透いているな』
『ならアーサー。お前はその悪役に殺される、脇役だな』
 ミスター・アーサーの言葉にミス・ヴァレンタインはそう言葉を返した。
『……脇役──ハハッ、間違いねぇ』
 この後に待ち受ける自身の行く末を悟り諦めたのか。
 反抗の意思を宿した瞳は消え失せ、あたしに対する抵抗力も弱まった。
『……変わったな、ヴァレンタイン。躊躇うことを忘れて、迷いがなくなった』
『──変わらなければ、大事な何かを失うことになる。現状維持こそが、己を破滅へと導く片道切符。それは身をもって痛感したことだ』
 あたしはミス・ヴァレンタインの表情を横目で盗み見る。
 その横顔はどこか……寂しげに見えた。
『俺から見れば変わったことで、お前の中にある「正義」が崩れたように感じるよ』
『そう……かもしれないな』
 彼女は穏やかな口調で肯定した。
『お前は、強いな。俺なんかよりも……遥かに』
『………………』
『ヴァレンタイン……「正義」とは何だ?』
『言葉遊びか……?』
 彼女の言葉を彼は即座に否定する。
『そうじゃない。純粋に俺が知りたいんだ。元夫の最期の頼みを……聞いて欲しい──』
『……「正義」、か。そうだな……』
 数秒考える仕草したかと思うと、ミス・ヴァレンタインはすぐに口を開きこう言った。
『──《《勝者》》だ』
『……なるほど。俺の心配は杞憂だったようだな。これなら──安心して死ねる』
 ミス・ヴァレンタインの回答に満足したのか。
 ミスター・アーサーは、踏ん切りのついた表情を浮かべる。
『ヴァレンタイン……お前は俺を、脇役と言ったな。だが、それは少し違う。これだけは覚えていてくれ。死んだのは──ただの脇役じゃない。預かった|最高の女《おまえ》の人生ほんの一欠片。その一瞬を輝かせた、1人の脇役《おとこ》だ──ッ!! アレは地下室にある持ってけっ!』
『ふっ、世辞上手の浮気者が……っ!』
 あまりの清々しさに、彼女は思わず笑みを溢していた。
『最期の一瞬くらい、さっぱりした漢《おとこ》でいたい。それと──あの子を頼んだぞっ』
 彼の顔に後悔の念は一切なかった。
『あぁっ……実に残念だったよ、アーサー。本当に……やれ』
『はっ──』
 命令に従い、あたしは苦しまないよう彼の首をへし折った。
『そっちもだ』
『……コピー』
 続いて横の女性も絶命させる。
『さて……仕上げだ』
 ミス・ヴァレンタインが懐から拳銃を取り出し、2体の死体に向けて発砲。
 その発砲音は家屋中に鋭く響く。
 頭に2発と胴体に7発。計9発の弾丸を──彼女は撃ち込んだ。
 死亡を確認後、2人は手慣れた動作で空中に小さな十字を左から右に描く。
『──行くぞ』
 彼女のその言葉にあたしも追従する。
『……イエッサー』
 そうしてあたし達は階段を使い、地下室へと降りて行った。