第27話 星寂のスカイライン
ー/ー ────高度50,000フィート上空。
頭上には雲一つなく、突き抜けるような漆黒の宇宙と星々があり、風もなく静寂に満ちた極寒の世界。
機体を下降させれば、下界に雨を降らせる雲海が視界一面に広がることは想像に容易い。
そこに辿り着いた戦闘機4機は機体スレスレで、滑らかな銀色の絨毯の上を編隊飛行していた。
その静謐な成層圏の闇を、巨大な影が沸き立つ雲の地面を割って現れる。
雲海から這い出てきたのは、1機の4発エンジン輸送機。
戦闘機より左斜め後方──8時の方向、距離3マイル。
先導していた戦闘機パイロットはそれを視認し、コックピットから輸送機に向け閃光にて合図を送る。
こちらの合図に輸送機側も応えるように、ライトを点滅させモールス信号を返してきた。
その後編隊の先頭に立っていた戦闘機が旋回を開始。
これに追従する形で残りの3機も、緩やかな旋回を描き、吸い寄せられるように輸送機の右翼側へと距離を詰めていく。
3マイル、1マイル、半マイル。
そして数フィート。巨大な輸送機の主翼の両隣に、4機の鉄塊は雨を降らす雲の頂をかすめながらぴたりと張り付いた。
一糸乱れぬ隊列を空中で組みながら、両者無事に合流地点に到着した。
──────────────────
「──まさか、C-130輸送機に擬態してくるとはな」
輸送機と落ち合い、隊列を組み終わり早々にそんなことを口にする1人のパイロット。
「いや、内装リフォームだろどう見ても。見た目を変えずに機内をイジってるだけだ」
「乗ったことあんのか……?」
「……機内を見せて、もらったことはある」
「なら分かんなくて当然だろうがッ!! ブレッド──ッ!!」
戦闘機サイドでこんな会話が繰り広げられている一方、輸送機サイドでは────
機内コックピットから中心部分に設置される幹部専用VIPルームにて、ヴァレンタインは優雅に紅茶を味わっていた。
「無事に合流できて何より。……何よりではある、が…………」
反対の手で持ち上げるソーサーと、利き手の持ち手にそっと中指を添えたティーカップを、それぞれ順番にローテーブルの上に置いた。
「些か、たるんでいるじゃないか? おしゃべりが過ぎる──」
通信機越しから全部筒抜けに漏れ出た、彼らの会話を盗み聞く戰爭経験者の口から自然にそう言葉がこぼれる。
信頼厚きヴァレンタインの焼け肌護衛2人も賛同するように静かに頷く。
「これでもそれなりに経験はしてきたつもりだ。戰爭の。だからか、戰爭未経験の若人には、どうしても危機管理能力が乏しいと言わざるを得ない。口出ししたいことがちらほらと見受けられる。我々のような機関は、政府公認ではあるものの『信用』は置けても『信頼』には値しない。非公認ならいざ知らず、公的に認められ裏で何を仕出かすか……いや、仕出かしている組織は特にな。軍の教えはどうなっているんだか、曲がりなりにも兵士だろうに────」
ラウンド型サングラスを自身の頭に置き、機内で足を組んだヴァレンタインはポツリと呟く。
「この状態で敵から奇襲を受けでもしてみろ。彼らは一溜まりもないだろうさ。無論、友軍機だけが被害を被ることになるだろう」
足を組み直し彼女は独り言を続ける。
「輸送機は分厚い装甲で守られらている。裏切りによる内部からの破壊工作でない限り、戦闘機諸共空中でおさらば──なんてことにはならんさ。……んっ?」
機体後方で微かに騒がしい音を感じ、ヴァレンタインは席を立ち上がった。
「──お前たち、付いて来い」
護衛である2人の男たちは彼女の言葉に素直に追従する。
ヴァレンタインが一歩、また一歩と、歩みを進めて行くにつれ、音は大きくなり──それはピタリと止んだ。
声を発さず、ハンドサインでヴァレンタインは後ろ2人に合図を送る──警戒しろと。
そして全員ホルスターから素早くハンドガンを引き抜き、弾薬を込め、いつでも撃てるよう体制を整える。
準備が整うと、3人は顔を見合わせ頷く──。
長年共に時間を共有してきたからこそ、少ない動作だけで意思疎通を可能としていた。
ヴァレンタインは唇の動きだけで2人に指示を送ると、意を決して後部と中央を隔てる扉の取っ手を捻り、それを前方に押し出すのだった。
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