スピーダマン
ー/ー ——カッチ、カッチ、カッチ……。
延々と続くウィンカー音。
エリシアはため息を吐きながら、タバコに火をつけた。
——スゥ……フー……。
車内にわずかに煙が広がる。
カーステレオを交通情報ラジオに切り替えると、アナウンサーが淡々と状況を読み上げている。
「第二神明大久保ICから明石西ICまで、トラックの横転事故により渋滞が発生しています。姫路方面へ向かう方は、玉津から迂回を——」
(へぇ……。)
エリシアの目の前には、まさにその"横転したトラック"が道を塞いでいた。
運転手らしき男が、道路脇で必死にどこかへ電話をかけている。
(まぁ……これはしばらく動きませんわね。)
時刻は昼。車は大渋滞。
クラクションと罵声が、どこからともなく響いてくる。
——だが、そんなものはただの雑音だ。
この"目の前の状況"に比べれば——。
——ビチビチ……ビッチビッチ!
エリシアは思わずサングラスをずらし、目の前の光景をまじまじと見た。
鮭。
鮭鮭鮭。
鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭。
道路一面、鮭。
まだ生きている。
「……。」
エリシアは無言でタバコを消した。
(……これ、何の罰ゲームですの?)
空は快晴、日差しは眩しい。
しかし地面では無数の鮭がビチビチと跳ね続け、高速道路のアスファルトを埋め尽くしている。
(事故の影響で積荷が……? いや、そもそも何トン分の鮭が流れ出たらこんなことになりますの……?)
遠くでは、警察と高速道路の作業員たちが途方に暮れたように立ち尽くしていた。
エリシアは静かにスマホを取り出し、ニュース速報を開いた。
——高速道路 鮭まみれで通行止め。
そして——
——ドドドドドドドド!!!
暴徒と化した運転手たちが、ビニール袋を手に一斉に駆け寄ってきた。
「うおおおおお!拾え拾ええええ!」
「魚だああああああぁ!」
「晩飯じゃあああああ!!!」
「……。」
エリシアはタバコを咥えたまま、目の前の"サケ乱獲祭り"を静かに見つめた。
道路上では、大人たちがスーツの袖をまくり、必死にピチピチ跳ねる鮭をビニール袋へ詰め込んでいる。
「ちょっとあんた!それ私が目ぇつけとったやつやん!」
「うっせえ!ダボ!これはわしの戦利品じゃアホンダラ!!」
——バシッ!バシッ!
鮭をめぐって、軽い殴り合いが勃発。
その中で、必死に叫ぶ警察と作業員たち。
「落ち着いてください!落ち着いてください!」
「危険ですので車から出ないでください!!!」
——しかし、誰も聞いていない。
(……これ……私がどうこうする問題じゃありませんわね……。)
エリシアは窓を閉め、静かに車内でコーヒーをすする。
「……はぁ。」
高速道路は、"人類vs大量の鮭"という未曾有の戦場と化していた——。
カオスな状況の中、渋滞をぬって颯爽と到着する一台のバイク!
そのシルエットは……まさか……!
——スピーダマンッ!!
「おおお!!」
エリシアは思わず目を見開く。
(この混乱の状況を鎮めるためにやってきたのか!?)
人々が鮭を巡って争う地獄絵図。
そんな中、スピーダマンは堂々とその場に降り立った!
全身タイツのコスチュームに身を包んだ彼は、混乱のど真ん中に入り——
——ガサゴソ……ガサゴソ……
「……。」
エリシアの目がじわじわと細くなっていく。
「詰めてる……。」
——ガサゴソ、ガサゴソ、ガサゴソ……
「めっちゃ……鮭……詰めてる……。」
スピーダマンは素早い動きで、持参したエコバッグに鮭を次々とぶち込んでいた。
堂々と鮭を拾い続けるスピーダマン。
彼の使命は"困っている人々を助けること"ではなく、"無料の鮭を確保すること"だった。
エリシアはタバコを消しながら、ぼそっと呟く。
「えぇ……。」
¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥
エリシアは街を歩いていた。
だが——。
「うわああああぁ!モンスターだああぁあ!!」
——ドドドドドドド!!
悲鳴と共に、人々が一斉に逃げ惑う。
椅子やテーブルが無惨に散乱するカフェ。
パニックに陥った運転手たちが、信号無視で交差点を駆け抜ける。
街は一体のモンスターにより、大混乱に陥っていた。
——グオオオオオォ!!
「助けてくれえええ!!」
「警察だ!早く警察に!」
「逃げろおおおおお!!」
大混乱に陥る街角。
だが、その時——
——スピーダマアアァン!!
伝説的なアメコミのコスチュームに身を包む彼が、颯爽と登場!
彼はこのモンスターと対決するために、この街に舞い降り——
「……。」
エリシアは目を細めた。
敵を待ち受ける低い姿勢で構える彼は——
雑居ビルの建物の隙間に潜んでいた。
「……。」
(戦えよ……。)
エリシアは深く息を吐いた。
¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥
エリシアがスーパーに向かうと、店の前にはものすごい人だかりができていた。
「——どう責任とってくれんだよ!」
「金返せよ!」
「ふざけんな!」
「お客様!どうか!どうか落ち着いてください!!」
店員たちは顔面蒼白で対応に追われ、店内はすでにカオスと化していた。
(……なにこれ。)
エリシアは呆れたように群衆を見つめる。
このスーパーでは、牛肉の産地偽装問題が明るみに出て、購入者への返金対応で混乱の極みに陥っていた。
しかも——
プレス発表で「レシートがなくても返金する」とか意味不明なことを言ってしまった結果、こんなことに。
「……。」
——チラ。
明らかにこのスーパーで買ったものではなさそうな、精肉店のパックを手に並ぶ老人。
明らかに今日買ったわけではなさそうな、茶色く変色した牛肉を手に叫ぶ主婦。
明らかに牛肉ですらない、パック詰めの焼き鳥を持って返金を求める若者。
「……。」
そんな混乱の中、一台の原付が現れる。
——ブロロロロロ……キキィッ……
原付が静かにスーパーの駐車場に停まる。
原付から降りたのは——
——スピイイィダマアアァン!!
伝説的なアメコミヒーローのコスチュームに身を包む彼が、堂々と登場!
「……。」
彼は止まることなく、まっすぐ群衆の方へと歩いていく。
(まさか……この混乱を収めようと!?)
エリシアは一瞬だけ期待する。
スピーダマンは騒ぐ群衆のど真ん中で立ち止まり——
——ヒラッ
静かに、頭上に掲げた。
レシート。
ちゃんと牛肉のパック200gが記載されていた。
「……。」
「えぇ……。」
エリシアは困惑した。
スピーダマンは無言で、レシートを持ったままサービスカウンターへ案内されていった。
「こ、こちらで返金いたしますね……。」
「……。」
丁寧に対応され、スムーズに返金を受けるスピーダマン。
終わり
延々と続くウィンカー音。
エリシアはため息を吐きながら、タバコに火をつけた。
——スゥ……フー……。
車内にわずかに煙が広がる。
カーステレオを交通情報ラジオに切り替えると、アナウンサーが淡々と状況を読み上げている。
「第二神明大久保ICから明石西ICまで、トラックの横転事故により渋滞が発生しています。姫路方面へ向かう方は、玉津から迂回を——」
(へぇ……。)
エリシアの目の前には、まさにその"横転したトラック"が道を塞いでいた。
運転手らしき男が、道路脇で必死にどこかへ電話をかけている。
(まぁ……これはしばらく動きませんわね。)
時刻は昼。車は大渋滞。
クラクションと罵声が、どこからともなく響いてくる。
——だが、そんなものはただの雑音だ。
この"目の前の状況"に比べれば——。
——ビチビチ……ビッチビッチ!
エリシアは思わずサングラスをずらし、目の前の光景をまじまじと見た。
鮭。
鮭鮭鮭。
鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭。
道路一面、鮭。
まだ生きている。
「……。」
エリシアは無言でタバコを消した。
(……これ、何の罰ゲームですの?)
空は快晴、日差しは眩しい。
しかし地面では無数の鮭がビチビチと跳ね続け、高速道路のアスファルトを埋め尽くしている。
(事故の影響で積荷が……? いや、そもそも何トン分の鮭が流れ出たらこんなことになりますの……?)
遠くでは、警察と高速道路の作業員たちが途方に暮れたように立ち尽くしていた。
エリシアは静かにスマホを取り出し、ニュース速報を開いた。
——高速道路 鮭まみれで通行止め。
そして——
——ドドドドドドドド!!!
暴徒と化した運転手たちが、ビニール袋を手に一斉に駆け寄ってきた。
「うおおおおお!拾え拾ええええ!」
「魚だああああああぁ!」
「晩飯じゃあああああ!!!」
「……。」
エリシアはタバコを咥えたまま、目の前の"サケ乱獲祭り"を静かに見つめた。
道路上では、大人たちがスーツの袖をまくり、必死にピチピチ跳ねる鮭をビニール袋へ詰め込んでいる。
「ちょっとあんた!それ私が目ぇつけとったやつやん!」
「うっせえ!ダボ!これはわしの戦利品じゃアホンダラ!!」
——バシッ!バシッ!
鮭をめぐって、軽い殴り合いが勃発。
その中で、必死に叫ぶ警察と作業員たち。
「落ち着いてください!落ち着いてください!」
「危険ですので車から出ないでください!!!」
——しかし、誰も聞いていない。
(……これ……私がどうこうする問題じゃありませんわね……。)
エリシアは窓を閉め、静かに車内でコーヒーをすする。
「……はぁ。」
高速道路は、"人類vs大量の鮭"という未曾有の戦場と化していた——。
カオスな状況の中、渋滞をぬって颯爽と到着する一台のバイク!
そのシルエットは……まさか……!
——スピーダマンッ!!
「おおお!!」
エリシアは思わず目を見開く。
(この混乱の状況を鎮めるためにやってきたのか!?)
人々が鮭を巡って争う地獄絵図。
そんな中、スピーダマンは堂々とその場に降り立った!
全身タイツのコスチュームに身を包んだ彼は、混乱のど真ん中に入り——
——ガサゴソ……ガサゴソ……
「……。」
エリシアの目がじわじわと細くなっていく。
「詰めてる……。」
——ガサゴソ、ガサゴソ、ガサゴソ……
「めっちゃ……鮭……詰めてる……。」
スピーダマンは素早い動きで、持参したエコバッグに鮭を次々とぶち込んでいた。
堂々と鮭を拾い続けるスピーダマン。
彼の使命は"困っている人々を助けること"ではなく、"無料の鮭を確保すること"だった。
エリシアはタバコを消しながら、ぼそっと呟く。
「えぇ……。」
¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥
エリシアは街を歩いていた。
だが——。
「うわああああぁ!モンスターだああぁあ!!」
——ドドドドドドド!!
悲鳴と共に、人々が一斉に逃げ惑う。
椅子やテーブルが無惨に散乱するカフェ。
パニックに陥った運転手たちが、信号無視で交差点を駆け抜ける。
街は一体のモンスターにより、大混乱に陥っていた。
——グオオオオオォ!!
「助けてくれえええ!!」
「警察だ!早く警察に!」
「逃げろおおおおお!!」
大混乱に陥る街角。
だが、その時——
——スピーダマアアァン!!
伝説的なアメコミのコスチュームに身を包む彼が、颯爽と登場!
彼はこのモンスターと対決するために、この街に舞い降り——
「……。」
エリシアは目を細めた。
敵を待ち受ける低い姿勢で構える彼は——
雑居ビルの建物の隙間に潜んでいた。
「……。」
(戦えよ……。)
エリシアは深く息を吐いた。
¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥
エリシアがスーパーに向かうと、店の前にはものすごい人だかりができていた。
「——どう責任とってくれんだよ!」
「金返せよ!」
「ふざけんな!」
「お客様!どうか!どうか落ち着いてください!!」
店員たちは顔面蒼白で対応に追われ、店内はすでにカオスと化していた。
(……なにこれ。)
エリシアは呆れたように群衆を見つめる。
このスーパーでは、牛肉の産地偽装問題が明るみに出て、購入者への返金対応で混乱の極みに陥っていた。
しかも——
プレス発表で「レシートがなくても返金する」とか意味不明なことを言ってしまった結果、こんなことに。
「……。」
——チラ。
明らかにこのスーパーで買ったものではなさそうな、精肉店のパックを手に並ぶ老人。
明らかに今日買ったわけではなさそうな、茶色く変色した牛肉を手に叫ぶ主婦。
明らかに牛肉ですらない、パック詰めの焼き鳥を持って返金を求める若者。
「……。」
そんな混乱の中、一台の原付が現れる。
——ブロロロロロ……キキィッ……
原付が静かにスーパーの駐車場に停まる。
原付から降りたのは——
——スピイイィダマアアァン!!
伝説的なアメコミヒーローのコスチュームに身を包む彼が、堂々と登場!
「……。」
彼は止まることなく、まっすぐ群衆の方へと歩いていく。
(まさか……この混乱を収めようと!?)
エリシアは一瞬だけ期待する。
スピーダマンは騒ぐ群衆のど真ん中で立ち止まり——
——ヒラッ
静かに、頭上に掲げた。
レシート。
ちゃんと牛肉のパック200gが記載されていた。
「……。」
「えぇ……。」
エリシアは困惑した。
スピーダマンは無言で、レシートを持ったままサービスカウンターへ案内されていった。
「こ、こちらで返金いたしますね……。」
「……。」
丁寧に対応され、スムーズに返金を受けるスピーダマン。
終わり
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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