酒呑みって奴は
ー/ー カドクラは光ファイバなど通信システムを手掛ける企業だ。
小売りをしていないため世間ではあまり知られていないが、日本でも有数の規模を誇る。
そのシステムが先月ダウンし、孔明と和真は文字通り窮地に立たされた。
今日は社長不在のためとは言え、常務がわざわざ受付まで出迎えるという歓迎ぶりにさすがの孔明も恐縮気味だ。
システム復旧に貢献した和真の株は、今カドクラ内では爆上がり、ということらしい。
「河野常務、いつも御園生がお世話になっております」
孔明のあいさつに合わせ、後ろの二人が頭を下げる。
「何をおっしゃいますやら。いつもご迷惑かけてるのはこちらですよ」
あははは、と豪快に笑う河野常務に促され、三人はエレベーターホールへ向かった。
常務は今年50歳になったばかりで、取締役兼執行役員の中では若手になる。
次期社長候補と言われているが、本人はまだまだ現場で指揮をとりたいと思っている営業出身のタタキ上げだった。
そして河野常務は、カドクラの全システムを日本OUTECHへ移行するプロジェクトの責任者でもあった。
来週にはカドクラのワンフロアを借り、プロジェクトが始動する。
「わが社としても約10年ぶりの刷新ですから、新システムにワクワクしてますよ」
今日はその責任者との顔合わせになる。
また、来週から使用することになる開発フロアの見学会をこの機会に常務が率先してやってくれたのだった。
ーーーーー数時間後の池袋
「せんぱーい、こっち、こっち」
都が座敷から立ち上がり、入り口でキョロキョロしていた怜子に向かって大声で叫んだ。
すでに、大方仕上がっているな。
ここは池袋東口に近い、ビルの地下にある居酒屋だ。
「都ちゃん、ごっきげーん」
と、怜子もご機嫌笑顔でやって来た。
「はーい! もう先輩聞いてくださいよ」
早くコッチ座って、と自分の隣に招く。
堀こたつ式の座卓に、孔明と和真が並んで座っていた。
孔明は、今来たらしいホッケに箸を伸ばしている。
怜子が簡単に手荷物をまとめ都の隣に腰掛けた。
「レモンチューハイ、ジョッキで」
と、おしぼりを受け取りながらオーダーする。
都は座卓下で脚をぶらぶらさせ、最高の気分のようだ。
「せんぱーい」
と、顔をあげ怜子を見た目が何故か潤んでいる。
驚いて、怜子が声をかけようと思う前に都が突然泣き出した。
「あんた、うちの都に何したの!」
胸に泣きじゃくる都を抱きしめ、今度は怜子が孔明に向かって叫んだ。
言われた孔明は、ちょうどホッケを口に入れたところだ。
間が悪いぞ、さっさと食っちまえ。
と思うが、迫力に押され固まっている。
「ちがうんですぅー。先輩の顔見たら安心したんですぅ」
都は、佐藤忠のプレゼン会場の異常な雰囲気が、恐ろしかったと話しだした。
初めて体験する大規模なプレゼン会場の雰囲気に、都は完全に飲まれていたのだった。
「ヒュウマネも分かっていて、朝から全然プレゼンのこと言わなかったでつよ。ただの商談だからって」
私は同行するだけでいいからって。
「老舗ってなんであんなに怖いんでつか。本社ビルってデカいし、受付のお姉さん美人だったし」
もう支離滅裂だ。鼻も詰まってきた。ろれつも怪しいぞ。大丈夫か、都。
「あそこまで歓迎されてないプレゼンって、初めてだったんでつお~」
まぁ、基本ウチみたいな新規参入は冷遇されるもんだからね、と怜子がなだめる。
「宇多村がいたでしょ」
「暗くて何処に居るか分からなかったんれす……」
「ああ、機材に埋もれてたか」
「ヒュウマネ独りで、戦ってたから……みんな20人くらい連れれ来れれ。十倍以上の人が集まって、知らない人ばかりれ、あたひもっ仕事しないとっ。うわぁ~んっ」
全然泣き止まない。もう意味もわからない。
「分かった。怖かったね。そんな中で写真と動画、良く取れてたよ。ごめんね、人割けなくて、人員コスパ最高なのよウチ」
そう言って、怜子が都の頭をなでてやる。
「知ってますぅ。だから、ヒュウマネ、宇多村さん先に帰るし……」
あの野郎、残って写真くらい撮りやがれ、と怜子が天井を睨んで悪態をつく。
「都は偉かった。いっぱい写真撮ってくれて。会場の雰囲気も良く伝わってきたし、一眼レフ、ちゃんと使いこなせてたよ。偉い偉い。都が、一番頑張った」
「あ゛りがとうごじゃいます。わたし、がんばりました。一眼レフ、最高で~つ」
にまーと笑い、怜子にしがみついてようやく泣き止んだ。
怜子が自分のハンカチで、都の涙を拭いている。
「ケアが足らんぞ、バカ孔明」
「いや、全然気が付かなかった」
そこでようやく、ホッケを飲みこんだ孔明であった。
都の気丈さに、孔明も和真も呆れていた。
今までそれを隠していたとは。
緊張が取れたのか、都はようやくいつもの屈託のない笑顔に戻り、皆の顔も穏やかになる。
「ごめんね。そんな思いさせてて。でも、ボク一人でなんか戦えないよぉ。都ちゃんが後ろに居たから頑張れたんだよ」
孔明は都のグラスに自分のグラスを軽くあてる。
「次は、都ちゃんが泣かなくて済むようにしっかりするから。今日はありがとう」
都の瞳にまた涙がにじんできた。が、上を向きぐっと我慢したようだ。
「しかし、ヒュウマネってよくそんなに女の子が喜ぶセリフ、ポンポン出ますね」
こちらも仕上がりつつある和真である。思ったことが口から出てますよ。
「気にしない気にしない。こいつの軽口は脊髄反射みたいなもんだから。ま、気持ちが籠もっているだけ昔よりマシだけど」
と、怜子が残りのレモンチューハイを空け店員に向けジョッキを掲げる。
「レモンチューハイ、ジョッキ頂きましたぁ! ありがとうございます!」
「本命には、なーんも言えないタイプなんだよ、こう見えて孔明ちゃんは」
ふん、とそっぽを向いて孔明がハイボールのグラスに口を付ける。
「どーゆーことれすか」
その話題に食いついたのは都だった。
「怜子さんじゃないんですか、ヒュウマネフッた相手は」
そこに、和真も参戦だ。
「あ゛ぁ~あ゛」
「はぁ~??」
が、的を外したようだ。
孔明と怜子の不協和音が凄まじい。
「ボクフラれてないし、レイちゃんとお風呂入っても起たない自信あるし!」
と身を乗り出して講義する。
「なっ! こっちだって願い下げよ、こんなひょろ男」
「レイちゃんのご主人誰か知ってるかい、和真」
と手の平でテーブルを叩きつけ聞く孔明に、和真が圧倒され思わず首を竦めて左右に振る。
「格闘家の小池徹でつよ」
そう答えたのは都だった。
彼はゴリゴリのマッチョ系レスラーとして、超有名だ。
「タイプじゃないの、わかるよね」
「このみじゃないの、わかるよね」
孔明と怜子が今度はきれいなハーモニーで和真に迫る。
ココでようやく失態に気付いた和真だった。
「はい、失礼しました」
「ところでこうくん、あのアプリ上手く活用してる?」
聞くタイミングを計っていたように、怜子が聞いてきた。
「うん。LINE交換するって子とはしたし、メッセージ交換もしたよ」
それがどうしたと、孔明はホッケの続きを食べ始める。
「ずーっと初恋拗らせてて、昔はそのせいで女とっかえひっかえしてたじゃん」
何ですって? と都がその話題に噛みついた。
「ヒュウマネってさいてーでつ」
都が突然スイッチが入ったかのように、そこら辺にあるおしぼりやら食べ残しやらを孔明にポンポン投げつけだした。
飛んでくるおしぼりやゴミをキャッチしながら孔明が喚く。
「そんなに女にモテるわきゃないでしょ。仕事柄そう見えてただけだよ」
と笑いながら、都ちゃん、ボクがモテないの知ってるでしょうと応酬を続けている。
「仕事って、何してたんですかぁ~」
と、今度は好奇心からか隣の和真が嬉しそうに聞いてきた。
「ボク、ホストだったんだよ」
知らなかったのかい、とこともなげに答える孔明に、都と和真が固まってしまう。
小売りをしていないため世間ではあまり知られていないが、日本でも有数の規模を誇る。
そのシステムが先月ダウンし、孔明と和真は文字通り窮地に立たされた。
今日は社長不在のためとは言え、常務がわざわざ受付まで出迎えるという歓迎ぶりにさすがの孔明も恐縮気味だ。
システム復旧に貢献した和真の株は、今カドクラ内では爆上がり、ということらしい。
「河野常務、いつも御園生がお世話になっております」
孔明のあいさつに合わせ、後ろの二人が頭を下げる。
「何をおっしゃいますやら。いつもご迷惑かけてるのはこちらですよ」
あははは、と豪快に笑う河野常務に促され、三人はエレベーターホールへ向かった。
常務は今年50歳になったばかりで、取締役兼執行役員の中では若手になる。
次期社長候補と言われているが、本人はまだまだ現場で指揮をとりたいと思っている営業出身のタタキ上げだった。
そして河野常務は、カドクラの全システムを日本OUTECHへ移行するプロジェクトの責任者でもあった。
来週にはカドクラのワンフロアを借り、プロジェクトが始動する。
「わが社としても約10年ぶりの刷新ですから、新システムにワクワクしてますよ」
今日はその責任者との顔合わせになる。
また、来週から使用することになる開発フロアの見学会をこの機会に常務が率先してやってくれたのだった。
ーーーーー数時間後の池袋
「せんぱーい、こっち、こっち」
都が座敷から立ち上がり、入り口でキョロキョロしていた怜子に向かって大声で叫んだ。
すでに、大方仕上がっているな。
ここは池袋東口に近い、ビルの地下にある居酒屋だ。
「都ちゃん、ごっきげーん」
と、怜子もご機嫌笑顔でやって来た。
「はーい! もう先輩聞いてくださいよ」
早くコッチ座って、と自分の隣に招く。
堀こたつ式の座卓に、孔明と和真が並んで座っていた。
孔明は、今来たらしいホッケに箸を伸ばしている。
怜子が簡単に手荷物をまとめ都の隣に腰掛けた。
「レモンチューハイ、ジョッキで」
と、おしぼりを受け取りながらオーダーする。
都は座卓下で脚をぶらぶらさせ、最高の気分のようだ。
「せんぱーい」
と、顔をあげ怜子を見た目が何故か潤んでいる。
驚いて、怜子が声をかけようと思う前に都が突然泣き出した。
「あんた、うちの都に何したの!」
胸に泣きじゃくる都を抱きしめ、今度は怜子が孔明に向かって叫んだ。
言われた孔明は、ちょうどホッケを口に入れたところだ。
間が悪いぞ、さっさと食っちまえ。
と思うが、迫力に押され固まっている。
「ちがうんですぅー。先輩の顔見たら安心したんですぅ」
都は、佐藤忠のプレゼン会場の異常な雰囲気が、恐ろしかったと話しだした。
初めて体験する大規模なプレゼン会場の雰囲気に、都は完全に飲まれていたのだった。
「ヒュウマネも分かっていて、朝から全然プレゼンのこと言わなかったでつよ。ただの商談だからって」
私は同行するだけでいいからって。
「老舗ってなんであんなに怖いんでつか。本社ビルってデカいし、受付のお姉さん美人だったし」
もう支離滅裂だ。鼻も詰まってきた。ろれつも怪しいぞ。大丈夫か、都。
「あそこまで歓迎されてないプレゼンって、初めてだったんでつお~」
まぁ、基本ウチみたいな新規参入は冷遇されるもんだからね、と怜子がなだめる。
「宇多村がいたでしょ」
「暗くて何処に居るか分からなかったんれす……」
「ああ、機材に埋もれてたか」
「ヒュウマネ独りで、戦ってたから……みんな20人くらい連れれ来れれ。十倍以上の人が集まって、知らない人ばかりれ、あたひもっ仕事しないとっ。うわぁ~んっ」
全然泣き止まない。もう意味もわからない。
「分かった。怖かったね。そんな中で写真と動画、良く取れてたよ。ごめんね、人割けなくて、人員コスパ最高なのよウチ」
そう言って、怜子が都の頭をなでてやる。
「知ってますぅ。だから、ヒュウマネ、宇多村さん先に帰るし……」
あの野郎、残って写真くらい撮りやがれ、と怜子が天井を睨んで悪態をつく。
「都は偉かった。いっぱい写真撮ってくれて。会場の雰囲気も良く伝わってきたし、一眼レフ、ちゃんと使いこなせてたよ。偉い偉い。都が、一番頑張った」
「あ゛りがとうごじゃいます。わたし、がんばりました。一眼レフ、最高で~つ」
にまーと笑い、怜子にしがみついてようやく泣き止んだ。
怜子が自分のハンカチで、都の涙を拭いている。
「ケアが足らんぞ、バカ孔明」
「いや、全然気が付かなかった」
そこでようやく、ホッケを飲みこんだ孔明であった。
都の気丈さに、孔明も和真も呆れていた。
今までそれを隠していたとは。
緊張が取れたのか、都はようやくいつもの屈託のない笑顔に戻り、皆の顔も穏やかになる。
「ごめんね。そんな思いさせてて。でも、ボク一人でなんか戦えないよぉ。都ちゃんが後ろに居たから頑張れたんだよ」
孔明は都のグラスに自分のグラスを軽くあてる。
「次は、都ちゃんが泣かなくて済むようにしっかりするから。今日はありがとう」
都の瞳にまた涙がにじんできた。が、上を向きぐっと我慢したようだ。
「しかし、ヒュウマネってよくそんなに女の子が喜ぶセリフ、ポンポン出ますね」
こちらも仕上がりつつある和真である。思ったことが口から出てますよ。
「気にしない気にしない。こいつの軽口は脊髄反射みたいなもんだから。ま、気持ちが籠もっているだけ昔よりマシだけど」
と、怜子が残りのレモンチューハイを空け店員に向けジョッキを掲げる。
「レモンチューハイ、ジョッキ頂きましたぁ! ありがとうございます!」
「本命には、なーんも言えないタイプなんだよ、こう見えて孔明ちゃんは」
ふん、とそっぽを向いて孔明がハイボールのグラスに口を付ける。
「どーゆーことれすか」
その話題に食いついたのは都だった。
「怜子さんじゃないんですか、ヒュウマネフッた相手は」
そこに、和真も参戦だ。
「あ゛ぁ~あ゛」
「はぁ~??」
が、的を外したようだ。
孔明と怜子の不協和音が凄まじい。
「ボクフラれてないし、レイちゃんとお風呂入っても起たない自信あるし!」
と身を乗り出して講義する。
「なっ! こっちだって願い下げよ、こんなひょろ男」
「レイちゃんのご主人誰か知ってるかい、和真」
と手の平でテーブルを叩きつけ聞く孔明に、和真が圧倒され思わず首を竦めて左右に振る。
「格闘家の小池徹でつよ」
そう答えたのは都だった。
彼はゴリゴリのマッチョ系レスラーとして、超有名だ。
「タイプじゃないの、わかるよね」
「このみじゃないの、わかるよね」
孔明と怜子が今度はきれいなハーモニーで和真に迫る。
ココでようやく失態に気付いた和真だった。
「はい、失礼しました」
「ところでこうくん、あのアプリ上手く活用してる?」
聞くタイミングを計っていたように、怜子が聞いてきた。
「うん。LINE交換するって子とはしたし、メッセージ交換もしたよ」
それがどうしたと、孔明はホッケの続きを食べ始める。
「ずーっと初恋拗らせてて、昔はそのせいで女とっかえひっかえしてたじゃん」
何ですって? と都がその話題に噛みついた。
「ヒュウマネってさいてーでつ」
都が突然スイッチが入ったかのように、そこら辺にあるおしぼりやら食べ残しやらを孔明にポンポン投げつけだした。
飛んでくるおしぼりやゴミをキャッチしながら孔明が喚く。
「そんなに女にモテるわきゃないでしょ。仕事柄そう見えてただけだよ」
と笑いながら、都ちゃん、ボクがモテないの知ってるでしょうと応酬を続けている。
「仕事って、何してたんですかぁ~」
と、今度は好奇心からか隣の和真が嬉しそうに聞いてきた。
「ボク、ホストだったんだよ」
知らなかったのかい、とこともなげに答える孔明に、都と和真が固まってしまう。
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