歌姫
ー/ー「ヒュウマネー、お疲れ様です」
孔明が地下鉄四番出口から現れると、和真が心配そうに声をかけてきた。
どこから聞いたのか、和真は佐藤忠のプレゼンを知っていたようだ。
精根尽き果てた孔明を見た和真の方が、泣きそうな顔だ。
「御園生マネージャー、お疲れ様です」
孔明の後ろから、都がひょっこり顔を出す。
悪戯っ子が、してやったりと得意顔で悪戯を名乗り出たような顔だ。
「この人を誰だと思ってるんですか。ただのくたびれたオッサンじゃないですよ」
と、満面の笑みを浮かべる。
くたびれたオッサンでわるーござんした、と孔明が舌を出し横の都を睨む。
それにアッカンベーで応戦した都の顔の晴れやかなこと。
「へ?」
虚を突かれた和真が、間の抜けた顔になる。
「圧勝だったと思います」
と都が和真に向かってガッツポーズを決める。
「ボク、頑張ったよね。オッサンにしては良くやったよね」
ヨレヨレの孔明が、都に同意を求めた。
「ええ、世界一カッコよかったですよ」
それは嘘ではなかった。
都は得意げに、今朝の孔明の雄姿を和真に語り始める。
まぁ、今は見る影もなくなってますけど、朝はカッコよかったんですと。
「ハイこれ、写真。グループLineに送っときますね」
と都はスマホを見せた。
少し煽り気味の構図で、ステージ中央に孔明が立っていた。
右手を突き出し、何かを指し示している。
この写真だけを見たら、どこかのライブパフォーマンスと勘違いしそうだ。
「ヒュウマネ、これカッコよすぎっス」
先を歩く孔明に声をかけ、スマホを都へ返した。
彼女の語りによると、ステージに登場したその瞬間、会場に居合わせた全員が孔明を注視したという。
きっかけは主催側の佐藤忠の席だった。
曲に釣られ舞台を見上げた代表が、孔明と目が合ってしまったのだ。
それを見逃す孔明ではない。
すかさずにっこり微笑み挨拶を投げ、それに代表が合わせて答え場の笑いを誘ったのだ。
そのお陰で、賑やかしの外資に主催が巻き込まれてしまったのだ。
その後はもう、孔明の独壇場だ。会場を巻き込んで、彼のショーが始まった。
姿勢の正しさは元より、手の動きにステージを歩く様まですべてが計算されたかのように無駄がない。
プレゼンの内容は当然だが、目を引いたのは孔明の声と立ち居振る舞いだった。
人を魅了するとは、都はその姿を仲間に伝えるため、必死で写真に収めた。
孔明が会場入りしたとき纏っていた攻撃的なオーラは姿を消し、ステージでは役者顔負けの豊かな表現力と声色で、会場の注目を一身に集めていた。
昨今のプレゼンは、海外のそれに押されエンターテイメント性が求められるようになってきた。
例えるなら、ゲームショウなどで一般客へ披露されるものに近い。
併せて技術部が開発した追尾するライトの演出が、際立っていた。
舞台演出だって負けてない。
それは、世界のOUTECHの最新技術を見せつける絶好の機会だからだ。
そして孔明はその技術に対抗しうる存在感があった。
彼のプレゼンは、本場仕込みのライブパフォーマンスそのものだったのだ。
その孔明に負けないのが、当然ながらプレゼンの内容になる。
小池怜子の所属するEMCのリサーチチームは、業界でもその実力は恐れられていた。
怜子はその集められた情報を元に、ライバル各社が提示するであろう案件を徹底的に分析し、潰しにかかるのだからとても攻撃的な内容になる。
レイコパスの所以である。
それを幾重にもオブラートに包み、持ち上げ、最後に叩き落すのが孔明の仕事だ。
その後四社のプレゼンが始まるも、もう誰も聞いちゃいなかった。
と言ったら失礼か。
でも、そこかしこで日本OUTECHのプレゼンの話で盛り上がっていたのだから。
「トリのMTTデータは、それでも迫力ありましたよ」
という都の発言は、勝利を確信した余裕かもしれない。
「僕、一度でいいからヒュウマネのプレゼン生で見てみたいです」
「圧倒されますよ。ヒュウマネが佐藤忠幹部に頭を下げた時、CEOは思わず立ち上がって拍手したくらいですから。もう、感動しちゃって私、泣きそうでした」
「オープニングから飛ばしちゃったんですか」
と和真が目をキラキラさせて聞いて来た。
「やったよ」
「何流したんですか」
毎回孔明はテーマに合わせ、曲を選ぶ。
「シドの『歌姫』」
「めっちゃクールでエッジの利いた曲でしたよ」
「そーなんだ。絶対聞きたい」
「ビートが利いていて、サイコー。イントロをうたちゃんにリミックスしてもらって使った」
聞くならあげるよと言う孔明に、和真が二つ返事で返す。
早速、通知音が鳴り和真の音楽アプリに曲が届いた。
「うっす。じゃ、お礼はターリーの珈琲で」
いらないよと、笑顔の孔明が頭の横で手を振った。
孔明が地下鉄四番出口から現れると、和真が心配そうに声をかけてきた。
どこから聞いたのか、和真は佐藤忠のプレゼンを知っていたようだ。
精根尽き果てた孔明を見た和真の方が、泣きそうな顔だ。
「御園生マネージャー、お疲れ様です」
孔明の後ろから、都がひょっこり顔を出す。
悪戯っ子が、してやったりと得意顔で悪戯を名乗り出たような顔だ。
「この人を誰だと思ってるんですか。ただのくたびれたオッサンじゃないですよ」
と、満面の笑みを浮かべる。
くたびれたオッサンでわるーござんした、と孔明が舌を出し横の都を睨む。
それにアッカンベーで応戦した都の顔の晴れやかなこと。
「へ?」
虚を突かれた和真が、間の抜けた顔になる。
「圧勝だったと思います」
と都が和真に向かってガッツポーズを決める。
「ボク、頑張ったよね。オッサンにしては良くやったよね」
ヨレヨレの孔明が、都に同意を求めた。
「ええ、世界一カッコよかったですよ」
それは嘘ではなかった。
都は得意げに、今朝の孔明の雄姿を和真に語り始める。
まぁ、今は見る影もなくなってますけど、朝はカッコよかったんですと。
「ハイこれ、写真。グループLineに送っときますね」
と都はスマホを見せた。
少し煽り気味の構図で、ステージ中央に孔明が立っていた。
右手を突き出し、何かを指し示している。
この写真だけを見たら、どこかのライブパフォーマンスと勘違いしそうだ。
「ヒュウマネ、これカッコよすぎっス」
先を歩く孔明に声をかけ、スマホを都へ返した。
彼女の語りによると、ステージに登場したその瞬間、会場に居合わせた全員が孔明を注視したという。
きっかけは主催側の佐藤忠の席だった。
曲に釣られ舞台を見上げた代表が、孔明と目が合ってしまったのだ。
それを見逃す孔明ではない。
すかさずにっこり微笑み挨拶を投げ、それに代表が合わせて答え場の笑いを誘ったのだ。
そのお陰で、賑やかしの外資に主催が巻き込まれてしまったのだ。
その後はもう、孔明の独壇場だ。会場を巻き込んで、彼のショーが始まった。
姿勢の正しさは元より、手の動きにステージを歩く様まですべてが計算されたかのように無駄がない。
プレゼンの内容は当然だが、目を引いたのは孔明の声と立ち居振る舞いだった。
人を魅了するとは、都はその姿を仲間に伝えるため、必死で写真に収めた。
孔明が会場入りしたとき纏っていた攻撃的なオーラは姿を消し、ステージでは役者顔負けの豊かな表現力と声色で、会場の注目を一身に集めていた。
昨今のプレゼンは、海外のそれに押されエンターテイメント性が求められるようになってきた。
例えるなら、ゲームショウなどで一般客へ披露されるものに近い。
併せて技術部が開発した追尾するライトの演出が、際立っていた。
舞台演出だって負けてない。
それは、世界のOUTECHの最新技術を見せつける絶好の機会だからだ。
そして孔明はその技術に対抗しうる存在感があった。
彼のプレゼンは、本場仕込みのライブパフォーマンスそのものだったのだ。
その孔明に負けないのが、当然ながらプレゼンの内容になる。
小池怜子の所属するEMCのリサーチチームは、業界でもその実力は恐れられていた。
怜子はその集められた情報を元に、ライバル各社が提示するであろう案件を徹底的に分析し、潰しにかかるのだからとても攻撃的な内容になる。
レイコパスの所以である。
それを幾重にもオブラートに包み、持ち上げ、最後に叩き落すのが孔明の仕事だ。
その後四社のプレゼンが始まるも、もう誰も聞いちゃいなかった。
と言ったら失礼か。
でも、そこかしこで日本OUTECHのプレゼンの話で盛り上がっていたのだから。
「トリのMTTデータは、それでも迫力ありましたよ」
という都の発言は、勝利を確信した余裕かもしれない。
「僕、一度でいいからヒュウマネのプレゼン生で見てみたいです」
「圧倒されますよ。ヒュウマネが佐藤忠幹部に頭を下げた時、CEOは思わず立ち上がって拍手したくらいですから。もう、感動しちゃって私、泣きそうでした」
「オープニングから飛ばしちゃったんですか」
と和真が目をキラキラさせて聞いて来た。
「やったよ」
「何流したんですか」
毎回孔明はテーマに合わせ、曲を選ぶ。
「シドの『歌姫』」
「めっちゃクールでエッジの利いた曲でしたよ」
「そーなんだ。絶対聞きたい」
「ビートが利いていて、サイコー。イントロをうたちゃんにリミックスしてもらって使った」
聞くならあげるよと言う孔明に、和真が二つ返事で返す。
早速、通知音が鳴り和真の音楽アプリに曲が届いた。
「うっす。じゃ、お礼はターリーの珈琲で」
いらないよと、笑顔の孔明が頭の横で手を振った。
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