【1】②
ー/ー
貴也は『女』にちょっとトラウマ、的なものがある。
友人とか仕事仲間なら問題ないみたい。
口もきけない、手が触れるのも嫌、ましてや同じ空間に居るのも無理、ってレベルならまともな社会生活送れないもんね。
それはホントよかったとあたしも思うんだけど。
ただ、恋愛とか欲とか、そういうのが絡むともうダメ。
貴也のお母さんは、ちょっと困った人だった。
恋多き女、ってのかなぁ。だったらなんで結婚したんだよ、って今なら言ってやりたくなるけど。
旦那さん、……貴也のお父さんが出張とか短期の赴任? とか多くて留守がちだったから、お母さんはその間に浮気してたらしい。
家に男引っ張り込んで、──貴也の目も気にせずに。
貴也が小学校卒業する前くらいかな。そういうのが全部旦那さんにバレて、結局離婚したんだよね。
噂によると、男が出入りしてるのに気づいた誰かがお父さんの方に告げ口したらしいよ。
普通なら「よその家のことほっとけよ」になるのかもしれない。
でも、この件に関しては誰もそんな綺麗事言えないんじゃないかな。だって夫婦の問題じゃ済まないもん。
お母さんは、離婚はちょっと渋ったみたい。でも貴也には全然執着しなかったんだって。
だから離婚になった時は、お父さんが貴也を引き取ってそのまま同じ家で暮らして、お母さんだけが出てったんだ。
それをきっかけに、お父さんは仕事も出張とかない担当に変えてもらったんだそう。
この辺は、うちのお母さんが近所のママ友と話してるの聞いちゃったんだよね。
本当になんで結婚したの!? 何の責任も果たさずに、夫と息子を苦しめて傷つけただけじゃん。
夫婦として、親子として、あのお母さんは関係を維持する努力なんてしてなかったってことよね。
他人のあたしが言うことじゃないのは承知で、──絶対に表には出さないから心の中だけで。
あたしは大人になった今でもあの人が大嫌い。
あんな『女』にだけはなりたくないし、……結婚して夫婦になったこと、何より親になったこと、すべてが侮蔑の対象でしかないわ。
あたしと貴也は、生まれた時から家が近くて幼稚園から中学までずっと一緒。
さすがに高校以降は別だけど、三十になる今でもどっちも実家住まいで、普通に付き合いも続いてる。
たぶんあたしは、貴也の一番仲のいい女友達だろうな。『女』友達の括りでさえないんじゃないかな~と思ってるくらい。
大学時代に二人で飲んだ時。
あたしも貴也もちょっと酔ってはいたけど、理性失くすほどじゃなかった。だからこそ、今もはっきり覚えてる。
彼はその日、同じ大学の女の子に告白されて、当然のごとく撥ねつけたらしい。それで無性に飲みたくなってあたしを誘ったんじゃないかな。
「……僕、『女』が──。『女の身体』が気持ち悪いんだ」
震えるくらい力入れて両手でグラスを握り締めながら、貴也が辛そうに言葉を吐いた。
「……貴也」
「ごめん、はるか。はるかも女の子だけど、──はるかだけは僕にとって『そういう存在』じゃないから。でも、こんなの聞きたくないよね、ごめん」
俯いたまま、あたしの顔も見られないような貴也に、こっちまで胸が苦しくなる。
それは、お母さんのせい? お母さんの、『女』の部分を見せられてた、から?
いくら気心の知れた関係でも、口が裂けても訊けない、訊いちゃいけない疑問。
「別にいいんじゃないの? あたしだって男には特に興味ないし」
これは事実。『男』と付き合いたい、結婚したいなんて思ったことない。
──あたしが欲しいのは、もうずーっと貴也だけ。
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友人とか仕事仲間なら問題ないみたい。
口もきけない、手が触れるのも嫌、ましてや同じ空間に居るのも無理、ってレベルならまともな社会生活送れないもんね。
それはホントよかったとあたしも思うんだけど。
ただ、恋愛とか欲とか、そういうのが絡むともうダメ。
貴也のお母さんは、ちょっと困った人だった。
恋多き女、ってのかなぁ。だったらなんで結婚したんだよ、って今なら言ってやりたくなるけど。
旦那さん、……貴也のお父さんが出張とか短期の赴任? とか多くて留守がちだったから、お母さんはその間に浮気してたらしい。
家に男引っ張り込んで、──貴也の目も気にせずに。
貴也が小学校卒業する前くらいかな。そういうのが全部旦那さんにバレて、結局離婚したんだよね。
噂によると、男が出入りしてるのに気づいた誰かがお父さんの方に告げ口したらしいよ。
普通なら「よその家のことほっとけよ」になるのかもしれない。
でも、この件に関しては誰もそんな綺麗事言えないんじゃないかな。だって夫婦の問題じゃ済まないもん。
お母さんは、離婚はちょっと渋ったみたい。でも貴也には全然執着しなかったんだって。
だから離婚になった時は、お父さんが貴也を引き取ってそのまま同じ|家《マンション》で暮らして、お母さんだけが出てったんだ。
それをきっかけに、お父さんは仕事も出張とかない担当に変えてもらったんだそう。
この辺は、うちのお母さんが近所のママ友と話してるの聞いちゃったんだよね。
本当になんで結婚したの!? 何の責任も果たさずに、夫と息子を苦しめて傷つけただけじゃん。
夫婦として、親子として、あのお母さんは関係を維持する努力なんてしてなかったってことよね。
他人のあたしが言うことじゃないのは承知で、──絶対に表には出さないから心の中だけで。
あたしは大人になった今でもあの人が大嫌い。
あんな『女』にだけはなりたくないし、……結婚して夫婦になったこと、何より親になったこと、すべてが侮蔑の対象でしかないわ。
あたしと貴也は、生まれた時から家が近くて幼稚園から中学までずっと一緒。
さすがに高校以降は別だけど、三十になる今でもどっちも実家住まいで、普通に付き合いも続いてる。
たぶんあたしは、貴也の一番仲のいい女友達だろうな。『女』友達の括りでさえないんじゃないかな~と思ってるくらい。
大学時代に二人で飲んだ時。
あたしも貴也もちょっと酔ってはいたけど、理性失くすほどじゃなかった。だからこそ、今もはっきり覚えてる。
彼はその日、同じ大学の女の子に告白されて、当然のごとく撥ねつけたらしい。それで無性に飲みたくなってあたしを誘ったんじゃないかな。
「……僕、『女』が──。『女の身体』が気持ち悪いんだ」
震えるくらい力入れて両手でグラスを握り締めながら、貴也が|辛《つら》そうに言葉を吐いた。
「……貴也」
「ごめん、はるか。はるかも女の子だけど、──はるかだけは僕にとって『そういう存在』じゃないから。でも、こんなの聞きたくないよね、ごめん」
俯いたまま、あたしの顔も見られないような貴也に、こっちまで胸が苦しくなる。
それは、お母さんのせい? お母さんの、『女』の部分を見せられてた、から?
いくら気心の知れた関係でも、口が裂けても訊けない、訊いちゃいけない疑問。
「別にいいんじゃないの? あたしだって男には特に興味ないし」
これは事実。『男』と付き合いたい、結婚したいなんて思ったことない。
──あたしが欲しいのは、もうずーっと貴也だけ。