【1】①
ー/ー
「貴也、あたしと結婚しない?」
あたしの突然の求婚に、カフェのテーブルを挟んでコーヒーのカップを持ち上げようとしていた幼馴染みはピタッと動きを止めた。
「……はるか?」
「あたしも親のプレッシャーが鬱陶しくなって来てさぁ。この時代、下手にそんなこと訊くだけでヤバいじゃない? だから会社では快適でも、肝心の家が休まんないのよ。もう疲れちゃった。……あんたもそうじゃないの? 仕事中はともかく、職場離れたら同僚がなんか面倒って言ってたじゃん」
半分以上は本音だ。
くつろげる筈の家で、「結婚しないつもり!?」「彼氏は? 休みにデートもしないの!?」なんて責め立てられるのはもううんざり。
別にお母さんの人生を否定する気なんてないけど、もう「結婚して一人前」「女は結婚が幸せ」なんて価値観古いんだよ。
そりゃまあ、お母さんはお父さんと今も仲いいし、結婚して三十年以上経つのに夫婦で一緒に出掛けるよ。だからこそ、そういうのが当たり前なんだ、って信念があるんでしょ。
いや、自分はどう思っててもいいからあたしに押し付けんのだけはやめて欲しいわ。
でもそれで半世紀以上生きて来た人の考えなんて、そうそう変わんないんだよね……。
「もちろん形式だけでいいんだ。まあ式は挙げなくてもいいとして、届出して同居するの。部屋は別で、実質ルームメイトみたいなもんかな。どう?」
「……ちょっと、──考えさせてくれるかな?」
問答無用で却下されなかったことに、とりあえずホッとした。考える余地はあるってこと、だもんね。
「トーゼン! 即答できることじゃないでしょ」
そんなに軽い問題じゃないのは、持ち掛けたあたしもよくわかってる。
それに第一、貴也は独身主義だ。──そう、らしい。
◇ ◇ ◇
「はるか。この間の話だけど。……本気、なんだよね?」
会いたいと連絡が来て約束した同じカフェで、怖いくらい真剣な表情で貴也が切り出した。
「当たり前でしょ。あんな質の悪い冗談言うような人間だと思われてんの? あたし」
深刻な雰囲気を加速させないようにわざと軽い口調のあたしに、貴也が背筋に力を入れたのがわかる。
「まさか。これは最終確認、一応ね」
「ふーん。……で?」
あたしが精一杯平静を装って訊くのに、貴也は静かに話し出した。
「はるかとなら互いの状況もよくわかってるし。相手の家のこともさ。……だから、僕たち結婚しよう。してください」
「うん、わかった。これからもよろしくね」
笑顔でさらっと答えたあたしに、釣られたように貴也も笑みを浮かべる。
「じゃあ、まずははるかのお家に挨拶に行こうか。……反対、されないといいけど」
「するわけないじゃん。あたしが結婚するってだけで大喜びだよ、お母さん。貴也のことは昔っからいい子だってよく知ってるし、やらしい言い方だけど大学も会社もすごい『イイトコ』だしさ」
彼の不安を、あたしは一蹴した。
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「|貴也《たかや》、あたしと結婚しない?」
あたしの突然の|求婚《プロポーズ》に、カフェのテーブルを挟んでコーヒーのカップを持ち上げようとしていた幼馴染みはピタッと動きを止めた。
「……はるか?」
「あたしも親のプレッシャーが鬱陶しくなって来てさぁ。この時代、下手にそんなこと訊くだけでヤバいじゃない? だから会社では快適でも、肝心の家が休まんないのよ。もう疲れちゃった。……あんたもそうじゃないの? 仕事中はともかく、職場離れたら同僚がなんか面倒って言ってたじゃん」
半分以上は本音だ。
くつろげる筈の家で、「結婚しないつもり!?」「彼氏は? 休みにデートもしないの!?」なんて責め立てられるのはもううんざり。
別にお母さんの人生を否定する気なんてないけど、もう「結婚して一人前」「女は結婚が幸せ」なんて価値観古いんだよ。
そりゃまあ、お母さんはお父さんと今も仲いいし、結婚して三十年以上経つのに夫婦で一緒に出掛けるよ。だからこそ、そういうのが当たり前なんだ、って信念があるんでしょ。
いや、自分はどう思っててもいいからあたしに押し付けんのだけはやめて欲しいわ。
でもそれで半世紀以上生きて来た人の考えなんて、そうそう変わんないんだよね……。
「もちろん形式だけでいいんだ。まあ式は挙げなくてもいいとして、届出して同居するの。部屋は別で、実質ルームメイトみたいなもんかな。どう?」
「……ちょっと、──考えさせてくれるかな?」
問答無用で却下されなかったことに、とりあえずホッとした。考える余地はあるってこと、だもんね。
「トーゼン! 即答できることじゃないでしょ」
そんなに軽い問題じゃないのは、持ち掛けたあたしもよくわかってる。
それに第一、貴也は独身主義だ。──そう、らしい。
◇ ◇ ◇
「はるか。この間の話だけど。……本気、なんだよね?」
会いたいと連絡が来て約束した同じカフェで、怖いくらい真剣な表情で貴也が切り出した。
「当たり前でしょ。あんな|質《たち》の悪い冗談言うような人間だと思われてんの? あたし」
深刻な雰囲気を加速させないようにわざと軽い口調のあたしに、貴也が背筋に力を入れたのがわかる。
「まさか。これは最終確認、一応ね」
「ふーん。……で?」
あたしが精一杯平静を装って訊くのに、貴也は静かに話し出した。
「はるかとなら互いの状況もよくわかってるし。相手の家のこともさ。……だから、僕たち結婚しよう。してください」
「うん、わかった。これからもよろしくね」
笑顔でさらっと答えたあたしに、釣られたように貴也も笑みを浮かべる。
「じゃあ、まずははるかのお家に挨拶に行こうか。……反対、されないといいけど」
「するわけないじゃん。あたしが結婚するってだけで大喜びだよ、お母さん。貴也のことは昔っからいい子だってよく知ってるし、やらしい言い方だけど大学も会社もすごい『イイトコ』だしさ」
彼の不安を、あたしは一蹴した。