ep133 間が悪い

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 宿屋に戻った。もう夜だった。自分の部屋に上がって明かりをつける。

「……ん? なんだ?」

 ベッドに目をやると、布団がもこっと盛り上がっていた。俺はやや警戒しつつ近づき、そ〜っと布団の生地を掴むと……バッと一気に引っぺがした。

「お帰りなさい、クロー」

 その中身は、艶やかな下着姿のエレサだった。彼女は眠そうな瞼をこすりながらむくりと上体を起こす。

「クロー、おそい」

「ここ、俺の部屋なんだけど……」

「クローの部屋じゃない。宿屋の部屋」

「そんな屁理屈はいいから。自分の部屋へ戻ろうか」

「イヤ」

「なんで」

「ねえクロー。女に恥をかかせる気なの……?」

「お前かなり酔ってるだろ? あれだけ飲んだんだ。いくら生命力の強いダークエルフだからって今日はちゃんと休んだほうがいいぞ」

「クローはどーてーなの?」

「オイなんでいきなりそうなる」

「慣れてないからできないのかなって」

「そういうハナシはいいから、早く戻ろうか」

「女を抱いたことはあるの?」 

 うん。つい数ヶ月前までヤリまくってたよ、とは口が裂けても言えない。

「だからそういうハナシはいいから……」

「それともシヒロ?」

「は?」

「恋人ではないと言っていたけど……やっぱりシヒロはクローにとって特別なの? だからわたしを拒むの?」

「そういうハナシでもない」

「はっ! まさかカレン……」

「だから違うっての! それとカレンはそのへんの冗談がまったく通じないから今後は本人の前では絶対に言うなよ?」

 これは切実な要求だ。カレンと余計に揉めたくない。ところがエレサから返ってきた反応は斜め上のものだった。

「カレンには本気なの!?」

「おい!!」

 ダメだ。酔ったエレサはかなり厄介だ。こうなれば仕方ない。俺が移動してしまうか……。

「あっ、クロー! 待って……」

 逃げるように部屋を出た。
 これからどこに向かうか? エレサの部屋だ。俺がそっちへ行って一人で寝たほうが手っ取り早い。

「あっ、でも、エレサもこっちへ来ちゃったら堂々めぐりだな」

 エレサの部屋のドアの取っ手を握って気づいた。我ながら気づくのが遅い。いや、遅すぎた。

「おいクロー。なにをやっている?」

 ちょうどそのタイミングでカレンがこちらへ向かって歩いてきた。

「あっ、いや」

 ワケを説明しようと思ったが、事情が事情なだけに思わず口をつぐんでしまった。それが不幸にも絶妙ないかがわしさを醸し出してしまったらしい。

「そこは、エレサの部屋だよな。まさか……夜這いをするつもりだったのか!?」

 ああ、最悪パターンだ。なんでよりによって今このタイミングでカレンに出くわしてしまったんだ。俺はもはや芸術的とも言える自分の間の悪さを呪った。

「この変態がぁー!」

 うがーっと叫ぶカレン。しかもなぜかエレサは出てきてくれない。いや、出てきてくれても解決するのか? より拗れる?
 ああもう考えるのがメンドクサイ! こうなれば……

「ちょっと散歩してくる!」

 脱兎の如くピューッと逃げだした。
 
「オイ待てぇ!」

 ウサギを追いかける猛獣のようにカレンが追ってきた。ヤバい、狩られる!

(なんだこのわけのわからない鬼ごっこは!?)

 このあと。
 カレンに事情を理解してもらうのに一時間あまりを要した。一方、エレサはそのまま俺のベッドで爆睡していたらしい。


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 宿屋に戻った。もう夜だった。自分の部屋に上がって明かりをつける。
「……ん? なんだ?」
 ベッドに目をやると、布団がもこっと盛り上がっていた。俺はやや警戒しつつ近づき、そ〜っと布団の生地を掴むと……バッと一気に引っぺがした。
「お帰りなさい、クロー」
 その中身は、艶やかな下着姿のエレサだった。彼女は眠そうな瞼をこすりながらむくりと上体を起こす。
「クロー、おそい」
「ここ、俺の部屋なんだけど……」
「クローの部屋じゃない。宿屋の部屋」
「そんな屁理屈はいいから。自分の部屋へ戻ろうか」
「イヤ」
「なんで」
「ねえクロー。女に恥をかかせる気なの……?」
「お前かなり酔ってるだろ? あれだけ飲んだんだ。いくら生命力の強いダークエルフだからって今日はちゃんと休んだほうがいいぞ」
「クローはどーてーなの?」
「オイなんでいきなりそうなる」
「慣れてないからできないのかなって」
「そういうハナシはいいから、早く戻ろうか」
「女を抱いたことはあるの?」 
 うん。つい数ヶ月前までヤリまくってたよ、とは口が裂けても言えない。
「だからそういうハナシはいいから……」
「それともシヒロ?」
「は?」
「恋人ではないと言っていたけど……やっぱりシヒロはクローにとって特別なの? だからわたしを拒むの?」
「そういうハナシでもない」
「はっ! まさかカレン……」
「だから違うっての! それとカレンはそのへんの冗談がまったく通じないから今後は本人の前では絶対に言うなよ?」
 これは切実な要求だ。カレンと余計に揉めたくない。ところがエレサから返ってきた反応は斜め上のものだった。
「カレンには本気なの!?」
「おい!!」
 ダメだ。酔ったエレサはかなり厄介だ。こうなれば仕方ない。俺が移動してしまうか……。
「あっ、クロー! 待って……」
 逃げるように部屋を出た。
 これからどこに向かうか? エレサの部屋だ。俺がそっちへ行って一人で寝たほうが手っ取り早い。
「あっ、でも、エレサもこっちへ来ちゃったら堂々めぐりだな」
 エレサの部屋のドアの取っ手を握って気づいた。我ながら気づくのが遅い。いや、遅すぎた。
「おいクロー。なにをやっている?」
 ちょうどそのタイミングでカレンがこちらへ向かって歩いてきた。
「あっ、いや」
 ワケを説明しようと思ったが、事情が事情なだけに思わず口をつぐんでしまった。それが不幸にも絶妙ないかがわしさを醸し出してしまったらしい。
「そこは、エレサの部屋だよな。まさか……夜這いをするつもりだったのか!?」
 ああ、最悪パターンだ。なんでよりによって今このタイミングでカレンに出くわしてしまったんだ。俺はもはや芸術的とも言える自分の間の悪さを呪った。
「この変態がぁー!」
 うがーっと叫ぶカレン。しかもなぜかエレサは出てきてくれない。いや、出てきてくれても解決するのか? より拗れる?
 ああもう考えるのがメンドクサイ! こうなれば……
「ちょっと散歩してくる!」
 脱兎の如くピューッと逃げだした。
「オイ待てぇ!」
 ウサギを追いかける猛獣のようにカレンが追ってきた。ヤバい、狩られる!
(なんだこのわけのわからない鬼ごっこは!?)
 このあと。
 カレンに事情を理解してもらうのに一時間あまりを要した。一方、エレサはそのまま俺のベッドで爆睡していたらしい。